百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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第二十四話 相談

 

「詰んでない?」

「私もそう思う…」

「そう思うよなぁ……」

 

 百鬼夜行に帰還した鬼が百花繚乱組にエデン条約のことを相談すると、前向きな意見は出てこなかった。

 いつものように机を囲んでいるアヤメ達だけでなくユメやキキョウ達もいるが、そちらも頭を抱えている。

 

「整理させてもらうけど…エデン条約っていうのは、トリニティ総合学園とゲヘナ学園が結ぶ講和条約なんでしょ?なんで片側の上層部が既にボロボロなの」

「しかも、元からトリニティ総合学園に恨みがある学園とも繋がってる奴もいるんだろ?何がどうなったらそんな状況になるんだよ…」

「むむむ、身供も頭がこんがらがってきましたの…」

「トリニティ総合学園は元々腹黒いものを抱えているという噂を聞いておりますから、その延長線上に此度の事件が起きたといったところでしょうか。人死が出てる時点で足の引っ張り合いどころではありませんが」

「でもでも、鬼さんは何とかしようとしてるんだよね?何か方法があったりとか…」

「あるにはあるんだが、結局はごり押しになっちまうんだよな。現状で少なくとも三人の精神状態が死んでるから、無理矢理行動を起こしちまうと後に響いちまう。だからお前さんらに相談したかったんだが…」

「「「「キツくない?」」」」

 

 元から混乱しているユカリ以外の五人も頭を抱えてしまう。違う学園の話とはいえ、鬼が何とか手助けしたいと言っているのだから力にはなりたい。

 いつも世話になっている相手には少しでも恩を返したいと思ったからだ。

 

 しかし件のエデン条約の話となると頭が痛くなってくる。条約を結ぶほどに偉い立場になったことの無いアヤメ達でもかなりマズい状況なのはわかるし、趣味で兵法を嗜むほどに頭の回るキキョウに至っては条約どころじゃない状況にくらっとする気分になった。

 最も、鬼がいる限り最悪の状態にならないとは思いたいが……未来が見えるという少女の言っていたことも気がかりだ。

 

「鬼さんがいないってそんなことある?その子が言うには最悪な状況にしかならないんでしょ?」

「でもアヤメ、その子の言ってたことが本当なら見た未来は覆せないって…」

「だーもうっ!覆せないってどういうことだよ!?師匠がしっちゃかめっちゃかにしても同じ状況になるってことか!?」

「運命の修正力ってやつだな。確定した未来を辿れるように世界側が働きかけるんだが、オレはそういうのを見たことがない。つまり……」

「百合園セイアっていう子の力ってこと?あんたといい、なんでそんな力があるのよ…」

「あんまり自覚したことが無いかもだがな、神秘ってのは時々物理法則を捻じ曲げることがある。外じゃあ致命傷になる弾丸がただの喧嘩の道具になったりとかな」

「神秘ですか…鬼様が意識するようにとよく言いつけておりましたが、かような異能が存在するとは」

「ここまで顕著なのは極一部だぞ?神秘なんて関係なく異能を持ってるやつだっているし、そもそも異能だって手段の一つでしかない。あまり依存すんなよ」

「そっちは一旦置いといて、結局どうするの?聞いた私たちでも力業ぐらいしか浮かばない状況だけど」

 

 アヤメが脱線しかけた話を元に戻すも、結局案は浮かばない堂々巡り。調印式の地獄ではなくティーパーティー側をなんとかしたいと考えても、すでに事態は深刻になっている。

 

「桐藤ナギサちゃんだっけ、その子は誰も信用できない状態なんだよね。だったら鬼さんが会うのはリスキーか…」

「最悪の場合、鬼が襲撃犯だと決めつけられかねない。そうなると調印式をどうこうっていう話もパーになる」

「じゃあもう一人のティーパーティー?の聖園ミカさんを何とかしたくても…」

「鬼さんが言うには、その子がセイアさんを襲撃した犯人の首謀者…」

「鬼様、そのてぃーぱーてぃーのミカさん?にセイアさんが生きていることを伝えるのはどうでしょう?彼女がその、死んでしまったと思っていらっしゃるならそれを知ればなんとかなるのでは…」

「一応、それも一つの手段だ。だけどそうなると怖いのがセイアを襲撃した犯人、アリウスが気がかりだ。最悪の場合、今度はミカだけじゃなくてナギサも狙われそうでな。情報を提供していると思われるミカが裏切ったなら口封じを図る可能性があるんだよ」

「そして百合園セイアに関しては、未来が破局にしか向かわないという諦めが原因ですから現状で手を打つことができない…」

「せめてアリウスの子達をなんとか出来たらいいんだけどな……」

 

 長くなりそうだと感じたユメが用意したお茶を口に含み、一休み。そこでふと気づく。鬼がいないと言われたのは調印式だけのことなのだろうか?

 

「ねぇねぇ鬼さん、セイアって子が言ってた未来に鬼さんがいないってのは調印式の時だけ?それとも他の未来でもなのかな」

「…微妙だな。あぁいや、調印式だけかもしれないな。話しぶり的に調印式の時のことを見れているらしいが、他のことは断片的なものでしか見れないらしいし」

「そっか……てっきりトリニティ内に鬼さんが入れないものかと思ってさ。それだったらここまで話したことも無駄になるし」

「あー…確かにな。だがオレは影の世界にしかいなかったから実際にトリニティに入ったわけじゃない。アヤメの言うトリニティ内に入れないってのもありえなくはないな」

 

 しかしトリニティに向かうこと自体は出来ているため、トリニティに入れないというわけではないのだろう。かといって調印式で姿が見えなかったというのは変わらない。

 

「見えないってのを逆手に取って、誰にも分らないスピードで動きでもしようかね?」

「……鬼さんそれ、ありじゃない?ようはセイアちゃんでも見えない速度だったら鬼さんかどうかも分からなくない?」

「アヤメ委員長、それは少し無理があんじゃないか?ようは調印式にいる全員からもわからない速度で動けってことだろ?さすがの鬼さんでもそれは無理なんじゃ……」

「いや、ありだな。影を纏えばまず人なのかどうかもわからないし、セイアから見てもオレだと観測できなければオレが調印式にいたかどうかは関係ない…!」

「では鬼様、調印式はお一人で向かわれますか?ご要望があれば私も動きますが…」

「いや、ワカモは大和の指揮を取ってくれ。そろそろ()()()()()()()を始動させる」

「…!委細承知いたしました。では当日の指揮はお任せください」

「頼む」

 

 調印式に関わる話の区切りがつき、残った問題であるティーパーティーのメンタルに話題が戻る。

 

「やっぱり最初は聖園ミカちゃんじゃない?ようは百合園セイアちゃんが死んじゃったかもしれないって思ってるから謝ってるんでしょ?生きてるってなったらアリウスの子達とも手を切ったりとか…」

「委員長、そこが問題なの。なんで聖園ミカはアリウスと手を組んだのかがわかってない。だから百合園セイアが生きてるってなっても、自分で手を切ろうとするのかがわからない」

「でもキキョウ、アリウスと組んで友達が襲撃されてごめんなさいっておかしくないか?なんで後悔してんだろうな…」

「……わかりましたわ!本当はセイアさんにちょっかいをかけようとしたんですの!でもありうすの生徒さん方が間違って攻撃してしまって「そんなはずじゃなかった」と後悔してるんですの!」

「えぇ~……?そんなことあるか、ユカリ?いくらなんでもそれは……」

「気になる子にちょっかいを掛けたくなる子供みたいだね……」

「それで死人が出そうになってるから笑えないよ、ナグサ先輩」

「……無いとは言い切れない。少なくとも仲が悪いようには見えなかったからな、可能性の一つとして考えるべきだな」

 

 「お菓子も取ってくるね~」なんて言いながらその場を離れるユメと「私も手伝わせてくださいな」とユメを追いかけるワカモを目で追いつつ、論争が飛び交う机に視線を戻す。

 話題は聖園ミカから桐藤ナギサのメンタル問題に移っていた。

 

「ようは彼女の絶対的な味方がいればいいんだよな。でも鬼さんはなぁ……」

「あんたはちょっと、初対面じゃ怖いかもね…」

「…だ、大丈夫だよ鬼さん。鬼さんが良い人だってことは私達はわかってるから」

「身供達がいつ屋敷にやって来ても暖かく迎えてくれますもの!身供達はわかっています!」

「なんでオレがフォローされる話になってんだよ。とりあえず!セイアの一件を見るにミカは利用されている可能性がある。だからナギサには、ミカが裏切ってるけど利用されてる証拠を見せた上で協力してもらうように頼む。こっちが知ってる情報を出せばナギサも少しは信頼してくれるはずだ」

「それしかないもんな…あ、そういえばさ?補習授業部ってのが作られるんだっけ?こんなタイミングで作られるって怪しすぎないか?」

「もしかしたらだけど……桐藤ナギサの視点で怪しい生徒を入れて隔離するためのものかもしれない。一人一人確かめるよりも効率的で確実だから」

 

 補習授業部が作られる理由を考察していると、ユメとワカモがお菓子を持って戻ってきた。さすがに長い時間の議論は頭が疲れてきて、糖分を欲してきている。

 みんなでまたワイワイしながらチョコをパクついていると、ふとユメが付けている面に視線が釣られる。

 

 あれは確か、鬼がユメに付けるように言いつけていた面。後から聞いた話だが、鬼があの面を作った時に微量の鬼の力が流れたことで特殊な面になったらしい。

 鬼に曰く、「心身を一つに込めて作った時、生み出されたものは力を持つ。刀で言うなら妖刀みたいなもんだ」らしい。

 そしてあの面の効果は、「キヴォトスで生きてはいるが誰なのかは確定されない」という物だったはず…。

 そこまで考えたアヤメの脳が閃く。

 

「──ねぇ鬼さん。ユメさんが持ってるその面って複製できる?」

「あ?この面か。まぁ出来なくは無いが…」

「それ付けてたらさ、他の人から見ても付けた人が誰かわかんないんだよね?じゃあそれ付けたら私達も一緒に行けないかな」

「…なんでお前さんらまで付いてくるんだよ」

「だって、少なくとも三つの問題点があるんでしょ?桐藤ナギサちゃんと聖園ミカちゃん、それとアリウスの子達。一つずつやろうとするから悩んじゃうんだよ。三つ一気に解決したらいいじゃん!」

「三つ一気にって、じゃあなんだ。誰かがアリウスを見つけつつ足止めして、ナギサから信頼を得つつミカを叩きのめしてゲロさせるってか。それが出来たら確かに安心だし最短だが、誰がやるんだ?オレは分身をもう使ってるからこれ以上増やせないぞ」

「ゴメン分身のことは初耳だけど??…とりあえず、私は付いていきたいな。私なら実力はあるでしょ?」

「じゃあ、私も行きたいかな。この中で言ったら、アヤメの次には戦えるから…」

「委員長達が行くならアタシ達は留守番か。直近でイベントとかってあったっけ?」

「無いよ。いつもの鍛錬と巡回しかないから、委員長達が外してても大丈夫」

「えりーとの身供も付いていきたいのですの…でも、実力を持った方が優先ならば仕方なし。アヤメ先輩、ナグサ先輩!身供はここで応援していますの!」

 

 百花繚乱組がやる気を見せる中、鬼は頭を抱えてため息を吐いてしまう。誰かを連れて行くという案自体は鬼の中にもあった。しかし今回はただの面倒ごとじゃない。もしかすると、学園間の問題となる可能性があるのだ。

 そしてなによりもアリウスのことがある。あそこは対人に特化しているだけではなく、ヘイローを壊すことを率先して訓練している。

 例え生徒が相手だろうと関係はないだろう。そもそも親玉の精神が終わっているのだから、そこに期待したとて意味がない。

 

 しかもだが、元同僚の一人が鬼にある忠告をしてきたことがあった。どうも、彼の発明品の一つがいつの間にかアリウスに持っていかれたという。その発明品は……ヘイロー破壊爆弾。例え神秘を持った生徒だろうともろに喰らえば死にかねない爆弾。

 元同僚は鬼との信頼関係を壊したくなかったらしく、少し前に作って以降は手つかずのままおいていたらしい。それがアリウスに運び込まれた。

 

 つまり、付いてくる生徒に命の保証が出来ないのだ。

 

「あのな、今回ばっかりは気持ちだけで済まさせてくれ。お前さんらが死にかねないことに関わらせたくない」

「…死にかねないって、なんで?さっきの話ぶり的にアリウスが…?」

「そうだ。あそこはヘイローを壊すことを訓練しているんだよ。しかもヘイローを破壊するための爆弾だってある。だから……」

「じゃあ鬼さんがアリウスの子達のことを担当して、私とナグサがティーパーティーの子達のことを受け持てば良くない?それなら命の危険だってないだろうし」

「鬼さんならアリウスの子達だって抑えられるだろうし……」

「……。否定できん……」

 

 確かにとしか言えない。そうだ、命の危険があるのはアリウスとの戦闘だ。ではそこに生徒がいかずに鬼が担当すれば、少なくともヘイロー破壊爆弾やらの被害を生徒が受けることは無い。

 鬼が絶対に避けたい生徒の危機という点はこうすれば回避できる。そもそも複数人で動く点でもメリットしかないのだ。

 

「それにさ?他から見て誰かわからないってことは百合園セイアちゃんの未来視にも沿いつつ動けるから、調印式の時も一緒に動けるよね?」

「もしも調印式で誰かが倒れるんだったら、人手は必要だよね」

「それは、そうだが……」

「あのね鬼さん、私達だって死にたくて動くんじゃないよ。自分の命は優先するし、戦いも避ける。けどそれと同等に、悲しんじゃう誰かがいるなら助けたいんだ。絶対に死なないから、お願い!」

 

 懇願するアヤメを支持するかのように、鬼の周囲から目線が向けられる。その程度は別に気にしないが、人手が欲しいのも確か。しかもアヤメとナグサレベルなら、例え相手が暴れても鎮圧自体は容易いだろう。

 結果、鬼は眉間に皺が寄りまくるのを感じつつ悩み続け、ついには唸り始め……。

 

「…………わかった。だが危険を感じたらすぐに逃げること。アリウスの特徴を伝えるからそれらしき姿を見たらその場を離れること。他にも守ってもらうことがあるが……これを遵守してくれるなら、連れて行こう」

 

 とてもとても苦しそうに、了承の言葉を出すのだった。脳裏では、二人に渡す面に命の危機に晒される時に身代わりとなってくれる呪いをつけるようにしようと決心しながら。

 

 




「ねぇアヤメ」
「どうしたの?」
「その…アヤメは、怖くない?」
「さっきの話?」
「……うん。私はちょっとだけ怖くて…鬼さんが、あそこまで言ってくることなんて、今まで無かったから」
「…本当は、私もちょっぴり怖いんだ。けどね…鬼さんなら、もし本当に危なくなった時は絶対に助けてくれるって信じてるんだ。頼りっきりは駄目だから、慢心は絶対に出来なけどね」
「……そうだね。私達も、その思いに応えないといけない」
「うん。命大事に、ってね」
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