百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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トリニティ潜入まで行きたかったけど思ったより伸びちゃったのでここで一区切り。次回に回します。


第二十五話 面作

 

 木を削る音と小さな息遣いが同時に聞こえる。

 アヤメの目の前で黙々とノミを握る鬼がいて、横ではナグサが一緒に見ていた。

 

 トリニティにアヤメとナグサが付いてくることが決まったことで面を作る必要があり、急遽鬼が面の製作に取り掛かっているのだ。

 二人が一緒に見ているのは、これから自分が付けるものなんだから一から作られているところを見ときたいだろうという鬼の計らいによるものだ。

 といってもユメにワカモ、他の二年生も作業場にいるので他の生徒達も見ることが出来る状態なので、二人だけが見ているというわけでもない。

 ちなみにユカリは実家に呼ばれたらしく、今回は欠席している。凄く未練がましい表情で家に帰る姿はとても記憶に残った。

 

「増女の型にするのも考えたんだが……今回はそういうわけでもないしな、小面の型に沿って作る。そっちの方がお前さんらに適してるだろうしな」

「小面って何?」

「ありたいに言えば最も若い女の面だな。小ってのに可愛らしいとか若くて美しいっていう意味が籠ってる」

「…可愛らしい」

「…美しい」

「あ?なんだ、間違ったことは言ってねぇだろ?」

「いやぁ、あはは…め、面と向かって言われるとちょっと恥ずかしいなぁ、って…」

「…美しい……」

 

「見なよキキョウ、師匠の誉め言葉に委員長達が一撃ノックアウトされてるぞ」

「……反吐が出る」

「キキョウ?」

「そう言えば、ワカモちゃんの付けてる面も鬼さんに作ってもらったり?」

「おや、よくお分かりで。すべてというわけではありませんが、鬼様に作っていただいた面も確かにあります」

「へぇ、ワカモ先輩はどのような面を作ってもらったんだ?」

「そうですね…今付けているこの狐面もそうですが、彼女達へ作られているような面もいくつか」

 

 二人が呆然としている間も面の製作は進み、紙やすりで角ばった部分を削っている作業に入った。少しずつユメが付けているような面に近づく過程を見ていると、アヤメには気になることがあった。

 

「鬼さんってさ、こういう物づくりが好きだったりするの?蕎麦だったりお面だったり…何というか、あんまり一貫性がないけど」

「蕎麦づくりに関してはただの趣味だ。面に関しちゃ、こいつを修理したりするし一から作ったりするおかげで慣れてるだけだ」

「そうなんだ…」

 

 鬼が指さした鬼面はかなりの年季があるのか、新品のような艶やかさは無い。しかし鬼が言うような修理の跡は見当たらず、本当に修理をしたりしているのかはわからない。

 すると、ユメと共に作業場の中を見学していたレンゲが壁に掛けられている面に気づいた。製作途中なのか、色を付けられずに掛けられている。

 

「なぁなぁ師匠、この面は?なんで色が付いてないんだ?」

「それか?そいつは色を付けないのが正解なんだ。付けちまったら誰にも渡せないからな」

「渡せない…?なんでなんだ?」

「んー…そうだな。前提として面の一つ一つには意味が込められているんだ。こいつみたいな女性を模した面だったり、オレの付けてる鬼の面だったり……。ただオレの作る面はちょっと特殊でな。色まで付けちまうと面の意味に合わせて変なことになるんだよ」

「変なこと?具体的にはどんなのが起こったりするんだ」

「例えば付けた人が老けたり、付けてたら老化が留まったり───」

「呪われてない?それ」

「キキョウの言う通り、呪われてるようなもんだ。オレの意思に関係ないけどな」

「……いややばいだろ、師匠の意思に関係なく変な力が付くって」

「だから途中でやめてるんだ。オレが最後まで作らなきゃただのお面でしかないし、色自体は渡した人に付けてもらってる。基本はオレが横で見ながら付けてもらうけどな」

 

 そう言いながら面の内側に漆を塗りたくり、表側の色も付けていく。まるで生きているかのように見えるそれは、鬼の手によって命が吹き込まれていくからだろうか。

 

「……いや待って?じゃあ今鬼さんが作ってるそれって…」

「お察しの通り、最初から最後までオレが手掛けるもんだ。アヤメ、ナグサ。エデン条約が終わったら使わなくてもいいし返さなくていいが、誰にも渡すなよ?女性じゃなかったら効果は無いが、逆に生徒とかの手に渡ると戦争が起きるぜ」

「まさか、ユメさんみたいに年齢が…?」

「止まるな。なんならさっき言ったみたいに『最も若く、可愛らしく、美しい』の三拍子が揃ってるから、着けてる間は老化も止まるしメイクを付けなくても顔の状態が整っていくぞ。外したらすぐにわかる」

「特急呪物じゃん!!??メイクを付けなくてもいいってどういうこと!?」

「オレに言われても困る。まぁその時その時の様子で変わるみたいでな、着けてる人間が「メイクしないとな~」って時にそいつを付けたら勝手にメイクもしてくれるみたいだぞ?その人に一番合ったメイクにな」

「……鬼さん、使い終わったら返していい…?」

「オレが持っててどうすんだよ。いらなかったら割ってもいいからな」

「それは嫌だ」

「どっちだよ」

 

 その話を聞いたナグサの体が震えだし、顔も青ざめていく。自認が「美人なところしか取り柄がない」「無表情系美少女」の彼女と言えど、年齢が止まるという点で恐れをなしたらしい。

 それもそうだ。つまり面を付けている間はほぼ不老の状態なのだ。そんなもの、誰もが欲しがるに決まっている。

 

「……よし、出来たぞ。ほれアヤメ、付け心地を確かめてくれ」

「今の話を聞いて付けれるわけなくない?」

「嫌だったら付けなくていいだけの話だ。さっさと付けな」

「く、うぅ~……!つ、付けたくないのに付けたくなっちゃう…!」

「何言ってんだお前」

 

 アヤメの理性と本能が争っている後ろで、キキョウはワカモの面に目を向ける。先程の話の通りではワカモの付けている面は鬼が作った物であり、完成しているのならば異常性を発揮するもの。

 そしてそれを、彼女は日常的に付けている。

 

「……」

「…?あら、もしかして私の面が気になりますか?」

「そりゃ今の話を聞いたら気にもなるでしょ」

「うふふ…残念ですが、この面にはかような力はありません。鬼様に頼み、一部分だけパーツを抜いてもらっているのです」

「一部分だけ?どこのこと?」

「ここです」

「…目の部分?」

 

 よくよく見ると、目の部分は取り外しが可能なレンズとなっており、通常の面とは少し違う。

 

「鬼様の作る面は、すべて面のみで完結するもの。しかしこのように付け加えてしまえば、それは一から鬼様が作った面とは言えません。他の面も同様に、私の持つ面はそこらのものと変わりないものです」

「なんでそうしたの?老化が止まるなんて話、普通は欲しがるものじゃない」

「魅力を感じませんもの」

「魅力…?」

 

 怪訝そうな視線を向けるキキョウを一瞥し、ワカモは鬼を見る。面倒くさくなったのか、むりやり面をアヤメに付けた後はナグサの分の面を作り始めた。

 その視線からは、憧憬の感情を感じ取れる。

 

「鬼様と共にいる時間がいつまでも続けばいいなんて、そんなの当たり前です。けれど、終わりがないのはまた寂しいものです。限りある時間の中だから、あの方との時間が尊く思えるのです」

「限りある時間の中…」

「はい。永遠の時間の中で愛し合うのも確かに良いものですが…人として生きてほしいとあの方に願われた以上は、人として生き、人として死のうと思っているのです。そして鬼様の中で生き続ける。とても優しいあの方は、人として死んだ私のことを決して忘れはしないでしょう。

 …それって、とても素敵じゃありませんこと?」

「…会った時、ワカモさんのことを重たい人だと思っていたけど…訂正させて。あんた、とっても重いのね?」

「うふふふ!誉め言葉として受け取らせてもらいますわ。それとですが、その言葉はあなたにお返ししても?」

「はぁ?なんで私に。どこも重くないでしょ」

「最近はあちらに入り浸っていると聞いていますが?」

「あれは、寝心地が良いから来てるだけだし…」

「仕事中の鬼様の膝に乗ったかと思えば、そのまま眠りにつくのは?」

「……」

「鬼様が食事当番になった時に好物や好みの味付けを聞いては「ふーん、私にはどうでもいいけどね」なんて言った後に練習しているのは?」

 

 そっぽを向いて視線が合わなくなる。表情自体はまったくと言っていいほどわからないが、尻尾は挙動不審気味にあっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しない。耳に関しては伏せられている。

 

「鬼様はいつも献身的に構ってくださいますもの。構ってほしい時は話さずとも察し、買い物等も一緒に楽しみながら付き添ってくれる。そんな生活に少しずつ堕ち始めたといったところでしょうか?」

「……違うから」

「顔を背けながら言っても説得力はありませんよ」

 

 ついには立ち上がり、ユメと一緒に面を見ているレンゲの下に向かってしまう。よくよく見れば、その耳元は赤く染まっていた。

 

「ふふ…!鬼様を狙う方が多いこと多いこと……油断も隙もありはしませんね。勘解由小路の後輩は…どっちなんでしょうか?まぁ、誰が相手でも負けるつもりは毛頭ないですが」

 

 鬼達も面作りが終わったのか、すでに撤収の準備に入っている。箒を取り出して木くずを払っているから、自分は染料などに使った器を洗おうか。

 自然な形で鬼に近づきつつ、彼の手伝いをするワカモであった。

 

◇◆◇◆◇

 

「先生が補習授業部の顧問に…?」

 

 三人での潜入に先んじて鬼がトリニティに来ると、とある噂が有名なものとなっていた。

 その内容は、落第に匹敵する生徒を集める補習授業部にシャーレの先生が顧問となり、成績不振となった者たちの救済を目指しているというもの。

 

 別段内容自体はおかしなものではなく、これといった不審な点は無い。しかし鬼の脳裏をよぎるのは、百花繚乱組に相談した時にキキョウが言っていたこと。

 

『もしかしたらだけど……桐藤ナギサの視点で怪しい生徒を入れて隔離するためのものかもしれない。一人一人確かめるよりも効率的で確実だから』

 

「……シャーレの力を使って、か?」

 

 シャーレは連邦生徒会長によって付与された権限のもとに、あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関。そのため、学籍や所属学園を問わずに相手が了承すれば部員として加入させることが出来る。

 そして、先生自身がする人間とは思えないがその逆もしかり。退部させることも出来る。

 

 そのシャーレの人間である先生が補習授業部の顧問となった。つまり補習授業部の加入・退部はシャーレの権限によって強化され……

 

「本当にお払い箱にするつもりか…!?」

 

 すでに桐藤ナギサの精神に限界が来ている可能性があると考え、鬼はすぐさま百鬼夜行へと戻る。本来なら聖園ミカの説得、そして隠れ潜んでいるアリウスへの妨害を成功させた上で彼女の説得がしたかったが予定変更。

 こうなったら補習授業部へのテコ入れをしなければ、彼女の行動一つで複数の生徒が退部となる。そして補習授業部というのは最後の防波堤として存在している可能性があり、その防波堤から外れてしまった生徒は退学となるやもしれない。

 

「調印式まではまだ時間がある。これは、様子見が必要か?下手に刺激したらマズいかもな…」

 

 おそらく補習授業部の生徒が退部するまでには手順を踏むはず。その手順の中で生徒達が落第を回避すればナギサも何も言えない。

 入れた理由である成績の不振が解消された場合、退部する必要も無ければ退学にまで話が行くこともない。逆に成績の不振が認められた場合はその限りではないだろう。

 

 下手に説得に失敗し、補習授業部への嫌がらせか何かが発生すれば無実の生徒達が犠牲になる。それは避けたい。

 ミカがアリウスと繋がっている証拠と補習授業部に来るであろう生徒達の無実、ここまで集めないと鬼は安心できない。鬼は手間の増えた準備をするために急いだ。

 

 その後補習授業部に集められた生徒達の情報を集めている内に、四人の内の一人である白洲アズサが本当のトリニティの裏切り者である可能性が浮上し、頭を抱えることを今の鬼は知らない。

 

 

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