百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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やっぱり感想みたいに読む方の声が聞けるのはいいですねぇ……。返信している内に番外編のネタとかが浮かんできたりもしますし。


番外編3 みんなのそばにいさせて

 

 朝日が瞼を照らし、ぼんやりとした思考のまま目を開ける。あぁ、またあの仮面を被る日々が続くのかと心が沈みかけ────

 

「おはようさん、アヤメ」

「…!鬼さん…!」

 

 頭上から掛けられた声に心が弾む。そして確証する。私は今もこの世界にいれていると。

 

「そろそろ朝飯にでもしようか。まだナグサとユメは寝てるし、手伝ってくれるか?」

「うん、任せて」

 

 起き上がって周りを見渡せば、鬼の言う通りユメとナグサが寝ているのが目に入った。ナグサは静かに眠っているが、ユメは緩んだ顔で涎を垂らしている。良い夢でも見れているのだろうか。

 鬼の腕の中で寝たあの暖かさを思い出しながら着替えようとして、そういえば鬼さんがいたなと思って振り返るも、すでに入り口から外に出ているところだった。

 

 目を離したすきに寝間着姿からいつもの袴の服装に変わっていることに驚いていると、出る寸前にこちらに顔を向ける。

 

「着替えはそこのタンスに入ってるからな。こっちのアヤメの奴がオレのタンスに自分の着替えぶち込んでたし」

「うん、わかっ……え?なんで私の服が鬼さんのタンスに入ってるの?」

「……さ、さぁ」

「えっいやちょっと」

「下拵えしてくるわ」

「……逃げた」

 

 後で問い詰めようと思いながらタンスを確認すれば、本当に自分用の服があった。なんなら他の人用の服が大部分を占めている。持ち主であるはずの鬼の服は中心にあるが、左右から誰かしらの服で挟まれていた。

 

(……男性のタンスってこんな感じなのかな…いや、そんなわけないでしょ)

 

 とりあえず着替えたら鬼の元に向かって朝食の準備をしよう。そう思いながらアヤメは着替え始める。

 

◇◆◇◆◇

 

 鬼と作った朝食が起床した二人にも好評だったのを思い出しつつ、調停員会の鍛錬場から百鬼夜行の街並みを眺めるアヤメ。

 目の前ではキキョウとレンゲが鬼から自分の説明を受けており、キキョウはアヤメのことをちらちら見つつ説明を聞いているが、レンゲは「えーッ!?違う世界のアヤメ先輩ぃ!?」と驚きっぱなしである。

 顎なんて外れんばかりに開いていて、少しだけ笑ってしまいそうになる。

 

「とりあえず、アヤメであることには変わりないんだよ。ただ、元いた世界がちょっと、な……」

「私も周りにいた人間も全員アヤメ先輩に頼りっぱなしだったってことでしょ?今のアヤメ先輩がどれだけ押し潰れそうになっていたかも知らずに……ほんと、反吐が出る」

「……じゃ、じゃあさ師匠!今日の祭りにアヤメ先輩も連れて行かないか!?」

「今日のプチ祭りみたいなのにか?……素の状態のアヤメが行けるかどうかだな。

 

 何かを考えている様子の鬼がキキョウ達を連れてアヤメの下へ向かう。どうやら祭りに行かないか?という誘いがしたかったらしい。

 

「……祭り、か」

「アヤメ先輩、こっちの百鬼夜行の祭りは見たことないんだろ?そっちと少しぐらいしか違いは無いかもしんないけど……鬼さんもいるし、ユメ先輩もいるから絶対に違う楽しさがあるからさ!」

「……行きたくないんだったら別にいいけどね」

「今の発言の副音声は『アヤメが家にいるなら自分も一緒にいるから』だな」

「すげぇな師匠、あのツンケンした気遣いの言葉からそこまで読み取るなんて…!」

「……ほんっとうにぶつよ…!?」

「はは、図星だったか────危ねぇ!?ブツどころか打ちやがった!?」

「あんたを殺して私も死んでやる…!」

「わーっ!?キキョウストップストップ!!」

「……ふふっ…!」

 

 目の前で起きるキャットファイトに、自分を気遣ってくれる後輩達に思わず笑みが零れる。久しぶりに笑った気すらする。

 その内側では今の世界へ向けられた気持ちが強まるが、それを表に出さずに三人のわちゃわちゃを楽しむ。

 

「……うん、私も行きたいな。こっちのお祭り」

「っ!!本当ですか!?ナグサ先ぱーい!今日の私達って巡回ルートどこでしたっけー!」

「調べるからちょっと待ってねー」

「……だってよキキョウ。だからオレの首に回したこの尻尾を外してくれませんかね」

「あんたが私を下した瞬間にその顔面地面に叩きつけてやるから…!」

「殺意が高すぎる」

 

◇◆◇◆◇

 

 下ろそうとしても抵抗して鬼の首に回した尻尾を離さないキキョウと無理矢理引き剥がそうとするレンゲナグサアヤメ+鬼の仁義無き戦いが終わって数時間後のこと。

 

 淡い提灯の光が街並みを照らし、香ばしい匂いが鼻腔を擽る世界に変貌した百鬼夜行を六人で歩く。その半分は百花繚乱の制服だが、もう半分は浴衣姿となっている。

 

 鬼は扇子を広げながら祭りの屋台を眺め、ナグサは焼き鳥を食べながら鬼と会話をしている。キキョウは祭りの雰囲気を味わいながらも策敵を続けており、レンゲはアヤメに楽し気に話しかけている。ユメは鬼の傍を歩きつつ、アヤメはワクワクする気持ちを抱きながらレンゲの話を楽しんでいた。

 

「アヤメ先輩、これ!型抜きですって!一緒にやりましょう!」

「うん、負けないからね」

「あんた、力んじゃうせいで型抜きできたことあったっけ?」

「今なら出来る気がするんだ…!アヤメ先輩、お覚悟!」

 

「ナグサちゃん、焼き鳥美味しい?」

「美味しいです……」

「ふふ…そっか」

「……射的もあるな。どうする、やるか?」

「あ、じゃあ私やってみたい!えへへ、ライフルはあんまり撃ったことないから新鮮だな~」

「ナグサはどうする?」

「私はいいかな。まだ焼き鳥が残ってるし、それに……」

「それに?」

「……ユメさんを慰めた方がいいかなって」

「……」

 

「ひぃん……」

「どんまいです…」

「おっちゃん、拳銃型のとか無いのか?」

「すまねぇな鬼の兄ちゃん、うちには置いてねぇな…。まさか一個も落とせないとは思ってなかったからな、これぐらいならやるよ!」

「ぐすん…え?い、いいの!?やった~!」

「わざわざすまねぇなおっちゃん、また来るぜ」

「おう!また来いよ!」

 

 屋台の獣人のおじさんがユメにココアシガレットを投げ渡し、鬼達が一人一本ココアシガレットを食べてアヤメ達の下へと戻っていく。あまり距離もなかったのですぐに合流できたが、合流した鬼達は思わず困惑してしまう。

 

 型抜きをする椅子のすぐそばでアヤメは型抜きのお菓子を食べ、キキョウは隣を呆れたように見つめ、レンゲは真っ白に燃え尽きていた。

 明日がジョーしそうな姿勢のレンゲのすぐそばには砕け散った型抜きが存在し、先程の勝負が決まったことが分かる。

 

燃えましたよ……燃え尽きました……真っ白に……

「だから言ったのに…」

「レンゲってずっと全力投球でやっちゃうもんね。…ん、これイチゴ味だ。美味しい」

「すげぇなレンゲ、一刺し目で爆散してんじゃねぇか」

「レンゲってちょっとだけ不器用だよね」

「レンゲちゃん、元気出して!ほら、ココアシガレット!さっき貰ったんだ~」

いただきます…

 

 なんとかレンゲの元気も持ち直した後、鬼の提案で神社に上ることになった。行き場所は前回の夏祭りで花火を見た神社であり、理由は鬼の「気分」という言葉で締めくくられた。

 

「へ~、アヤメ先輩達はこの階段を登って上で花火を見たのか!こんなにいいところがあるんだったらもっと早く知りたかった~!」

「程々に高いんだね…」

「まぁ、ちょっと丘っぽくなってるだけだからな。そろそろ着くと思うが…」

「…もう一年経っちゃったのか。早いな…」

「アヤメちゃんはこの神社のこと、知ってたり?」

「いえ、初めて知りました…」

 

 何故急に鬼はこの神社に向かい始めたのか。不思議に思って聞いてみても、「気分」の一言しか返ってこない。他のみんなはこれといった反対もせずに歩いているが、本当になんで向かっているのだろうか。

 先程花火の話が出ていたが、聞く限りでは今日の祭りでは花火は上がらない。

 

 アヤメが疑問に思ったまま階段を上がる内に頂点に辿り着き、目の前に本殿が現れる。後ろを振り返れば、百鬼夜行名物の神木と街が一望できる景色が広がっていた。

 

「うし、着いたか。そんじゃあ後は自由解散で~」

『はーい』

「…え?」

 

 示し合わせたかのように自分と鬼を残して解散し、二人だけが神社に残った。突然の解散に脳の思考が追いつかないアヤメだったが、鬼が手招きしているのを見たので素直についていく。

 

「鬼さん、あそこで解散なんて私聞いてない…」

「言ってないからな」

「な、なんで……」

「お前さんと話したいことがあったからなぁ」

 

 そう言いながら神社の裏側に回り、少しだけある雑木林の中へと踏み入っていく。慌ててついていけば、周りが木々で囲まれた広けた場所に出た。

 その中心で鬼がブルーシートを広げてお茶を用意し、仰向けに寝転がった。何をしているのかと見ていると、鬼の横を指さされた。……同じように横になれということだろうか。

 横になってみれば、少しずつ星が見え始めた空が広がっていた。

 

「……ねぇ、なんで私だけここに連れて来てくれたの?それに話したいことって、何を話したいの…?」

「……アヤメは、元の世界に帰りたいか?」

「帰りたくない」

 

 鬼が横に視線を寄こせば、こちらを見つめるアヤメの瞳があった。しかしその目のハイライトは消え失せ、どろどろとした感情が渦巻いていた。

 

「戻りたくないよ。私は、私のまま生きていたい……完璧な私なんて仮面を被って生きていきたくないよ……。鬼さんもわかってくれるでしょ…?」

「…まぁな。わかりはする」

「じゃあそんなこと────」

「元のアヤメが今もどこかにいるのに?」

「っ」

 

 鬼がそう言うと、一瞬だけアヤメの瞳に正気が戻る。薄々気づいていたのだろう。自分は元々この世界の住人ではなく、この体に入ってしまったせいで元々いたアヤメはどこかに行ってしまった。そして自分が今もここで生きていると、元のアヤメが戻ってくることは出来ない。

 同じ人間は同じ世界に二人も存在できないのだから。

 

「それ、は……」

「オレはお前さんに戻れって言ってんじゃない。だが、このままだと誰かに成り代わった自分のまま生きてくことになるんだぜ?それって仮面を被って生きてるみたいなもんだろ」

「……でも、でも!戻っても私の居場所は無いよ…!本当の私を待ってくれてる人なんていない!!こっちのみんなみたいに私を見てくれる人はいない、勝手な期待とお願いばっかり向けてくるんだよ……!?わ、私は、誰かの期待なんて抱えて、生きていけないよ……」

「……」

「……こっちの私に、思うところが無いってわけじゃない。だけどそれ以上に、私はこの世界を離したくない…」

 

 寝ていた態勢から自分に覆いかぶさる形になったアヤメの目じりから涙が零れ、鬼の面に落ちていく。

 面の奥から除く赤い瞳は、今も昔もアヤメ自身を見つめていた。

 

 アヤメもわかっている。このまま生きていくと、この世界のアヤメとして生きていくことになる。それはこの世界で生きていたアヤメが築いた軌跡を横から掠め取る形になる。

 アヤメが罪を犯してもいいという性根の持ち主であれば何も思わなかっただろうが、彼女は誰かの助けになったことに喜びを覚えるような人間だった。成り代わって生きて行けば、その人が本来経験するだろう喜びや悲しみ、怒りや愛の未来を潰す所業となる。

 例え嫉妬心すら覚える自分のことだろうとそれだけはやってはいけないと考えていたし、何よりも。

 

 自分のことを認め、慰め、肯定してくれた鬼やユメ、ナグサ達のことを裏切るような真似はしたくない。

 

「私は……わた、しは…どうすればいいのかな……」

「……」

「こっちの私の未来を、奪いたくないよ……!だけど、もう仮面を被るのもいや……!」

「……そうだろうな。お前さんは優しいやつだから…誰かが困ってたら、それをなんとかしたいって思えるもんな」

「……っ」

 

 堪えようとしても涙は溢れ、その頬を濡らしていく。鬼がその目元を拭っても流れてしまい、その手をアヤメが両手で握りこんで縋るようにさめざめと泣き続ける。

 その様子を見た鬼は確信する。

 

 自分は、自分達はぎりぎりのところで間に合ったのだと。彼女が限界を迎え、自暴自棄になってしまう前に。

 

 

 

「アヤメ。逃げたっていいんだぜ」

 

 

 

 




「アヤメちゃん、大丈夫かな…」
「ユメ先輩、もうちょっとだけ頭隠して!見えちゃいますから…!」
「キキョウ、なんて言ってるか聞こえる?」
「ギリギリ聞こえる。要所要所が聞こえなかったりしなかったら、なんとか翻訳できるよ」

『一方その頃3』
鬼アヤメ「ということで私は初めての百花繚乱のミーティングでーす!どんどんパフパフ~」
他三人「「「ちょっと待って」」」
◇◆◇◆◇
レンゲ「……えぇっと?つまり今のアヤメ委員長は元の委員長じゃなくて…」
キキョウ「別世界のアヤメ委員長で、きっかけはわからないけど私達の知るアヤメ委員長と入れ替わってしまったってこと…?」
鬼アヤメ「そゆこと!いきなり呼び出してごめんね。クズノハ様がちゃんと見て来いって仰ったからこうした方がいいかなって」
ナグサ「と、とにかく…今のアヤメは、アヤメなんだよね…?あんまり変わらないんだね……」
鬼アヤメ「────本当にそう思う?ナグサ。みんなが見ていた私は本当の私だったのかな」
ナグサ「え…?だ、だってアヤメはどんな時でも太陽みたいな笑顔で、困った人がいたらいつでも助けてくれる……」
鬼アヤメ「それが彼女の本当の姿だって断定できる?彼女が一人でいるとき、どんな彼女なのかわかる?」
ナグサ「…‥‥」
鬼アヤメ「……鬼さんが言ってたのはこういうことだったのかな」
レンゲ「ま、待ってくれアヤメ委員長…いやアヤメ先輩!じゃあ今まで私達が見てきたアヤメ委員長は…」
キキョウ「私達が勝手なイメージを押し付けてきた彼女だってこと…?」

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