百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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第二十六話 三人

 

「二人いる?アリウスと繋がってるのは聖園ミカちゃんだけじゃなかったの?」

「いや、もう一人いたんだ。元アリウス生の生徒が……」

「それが、白洲アズサさん…?」

 

 鬼による一人潜入から時が経ち、アヤメとナグサも連れてトリニティにやって来た。そしてトリニティ内のカフェで鬼が得た新情報の共有をする。貸し切りの状態なので周りには誰もいない。

 元々、鬼達はトリニティ内でアリウスと繋がっているのは聖園ミカだけだと思っていた。しかし実際はもう一人存在し、しかも補習授業部に組み込まれた生徒だった。

 

 恐らくだが、彼女が百合園セイアを襲撃した生徒だろう。外部からの襲撃よりも内部から近づいたうえで襲撃した方が難易度は低い。

 問題は、彼女がやったかどうかがティーパーティーに通達されているかだが…。

 

「多分わかってないよね、わかってたらわざわざ補習授業部なんかに入れたりしないはずだし」

「ミカ側からも伝えられていない辺り、そこの二人は繋がっているって思っていい。そんでもって白洲アズサが元アリウス生ってわかった時点でミカも確定で黒だ。この二人をどうにかしないとアリウス側に情報が行く」

「つまり、聖園ミカさんを説得、桐藤ナギサさんも説得、白洲アズサちゃんは様子見?それとアリウスの子達も制圧……」

「やることが一気に増えたなぁ。というか鬼さんはどうやってアズサちゃんのことを調べたの?襲撃犯ってことは絶対に隠したがるだろうし、すぐにわかるものじゃないと思うんだけど」

「これを見てみろ」

 

 鬼が取り出した書類は白洲アズサの編入書だった。一見普通の書類ではある

 

「こいつは偽造されてる書類だ。編入元の学園からも情報を取りに行ったが、情報があるだけで白洲アズサが在籍していた経歴はない」

「まさか…」

「ただただ編入させた可能性があるが、不思議なことに白洲アズサの編入前までの経歴は真っ白だった。となれば、ティーパーティーとしての立場を使って強引に入れたんだろう」

「でも、なんでわざわざアリウスの子を入れたんだろう…後ろめたいことが無いなら気にすることも無いはず」

「…あ、鬼さんが前に言ってた!アリウスって元々はトリニティの領内にあった学校の一つで、他の分派?から弾圧されたって…」

「そうだ。しかもエデン条約が近い時に弾圧した学園から生徒が編入なんて怪しいなんてもんじゃない。だからティーパーティーの立場を使ったんだろうが…」

「なんでわざわざそんなことをしたかだよね。もしかして、本当に聖園ミカさんが裏切ろうとして?」

「それは無いと思いたいがな…本当に裏切るなら、身内を傷つけて謝罪はせんだろう。それに残りの身内に関して言えば、外に疑惑の目を向けている状態だ。裏切りが本命ならこの状態を利用してトリニティ内で仲違いでもさせるだろ」

「じゃあなんで襲撃させたのさー!?もう意味わかんないよ~…」

 

 ミカの行動の一貫性の無さに頭を抱える三人。スパイとして動くにはあまりにも杜撰すぎるし、スパイじゃなかった場合はあまりにも怪しすぎる。

 彼女が怪しまれていないのは、偏にティーパーティーであることとナギサの疑惑の目が向いていなからだろう。

 

 また三人でミカの目的を考えるが、やはりこれといった答えは出てこない。しかし、アヤメがあることを思い出す。確か鬼が相談をしに来た時に、ユカリが何か言っていた気がする。

 

『……わかりましたわ!本当はセイアさんにちょっかいをかけようとしたんですの!でもありうすの生徒さん方が間違って攻撃してしまって「そんなはずじゃなかった」と後悔してるんですの!』

 

「……あ」

「ん、どうした?なんか思いついたのか」

「ねぇ鬼さん、ナグサ。前にユカリが言ってなかった?聖園ミカちゃんは百合園セイアちゃんにちょっかいを掛けたかっただけだって…」

「言ってた気がするけど、それがどうし……もしかして?」

「本当は攻撃するつもりがなかったってことか…?だとしたらなんでアリウスと接触してんだ」

「そこなんだよねぇ……」

 

 襲撃の理由を考えても、結局『何故アリウスと接触したのか』という点に回帰する。この部分が判明しない限りは今までの行動の理由が分からずじまいだ。

 改めて状況を整理するために今までのことを振り返る鬼。そしてついに決断を下す。

 

「こうなったら……リスクを取ってでも確証を得なきゃ動けないな」

「リスク?」

「もしかして…」

「あぁ────」

 

 

 

「本人から直接聞き出す」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 夜、幼馴染とのお茶会も終わった聖園ミカは変わらぬ様子で校舎を歩く。すでに人の気配は無く、寮で暮らしている生徒や自宅に住んでいる生徒は出払っているのだろう。

 かくいうミカも同じく寮に帰る途中であり、普段と変わらない道を通っている。例え調印式という一大イベントがあろうが、帰る場所自体は変わらない。

 

 校舎のロビー部分に差し掛かり、出入り口に手を掛けて開けようとする。

 

「…あれ?」

 

 開かない。建付けが悪いのかと思い、力を込めてもビクともしない。

 もしやトリニティの誰かが嫌がらせでもしに来たのだろうか。そう勘ぐってみるも、ロビーの出入り口を塞ぐのはさすがに一線を越えている。人の気配がないとはいえ、誰もいないというわけではないのだから。

 一応嫌がらせの線も考えてドアの様子を確認する。すると、鍵穴の奥側に何かがあるのが見えた。

 

「…剣、かな…」

 

 ドアの向こう側を塞ぐように剣が突き立てられている。しかも複数あり、ドアを囲むようにして配置されていながらも少々禍々しく感じる。

 実際には剣ではなく刀なのだが、これの力でドアを塞いでいるのは確かだった。

 

「こんばんは、トリニティのお姫様」

「っ!誰!?」

 

 誰もいないと思っていた影の部分から声を掛けられる。目を凝らすと、まるで闇そのものが動いているような人影が見えた。

 

「悪いが名前を言えない。お前さんに危害を加えるつもりもないから安心してくれ」

「…ふーん?こんなことまでして安心してほしいって、ちょっと無理があるじゃんね☆せめて要件を教えてほしいな」

「……それもそうか。お前さんには聞きたいことがあったから来ただけだ。それが済んだらすぐに開放する」

「聞きたいこと?何々?」

 

 明るく振舞いながらも銃からは手を離さない。襲い掛かってきた瞬間に迎撃するつもりだし、不利な場合は壁を壊してでも脱出する。

 いつでも動けるようにミカが構えて、人影が口を開く。

 そして出てきた質問に、ミカは固まってしまう。

 

 

 

 

「何故、百合園セイアを襲撃したことで謝罪していたんだ」

「……ぇ」

 

 何故、どうして、なんでそれを知ってるの。

 聖園ミカは政治にあまり向いていない。それは本人も自認していることであり、同時に腹芸と言ったことははっきり言って下手だ。それは人影からの質問で固まってしまい、困惑の声が漏れることからもわかる。

 

 いや、ミカがアリウスと繋がっていることがバレるのはまだわかる。どうしても人の動きという物は足が付くものであり、執念深く調べれば自然にわかってしまうからだ。

 しかしセイアを襲撃したことを後悔しているという部分に関してはわかりようもない。その謝罪の言葉をミカは漏らすことすら出来ず、ひたすらに心の中へと押し留めてしまっていたことだったからだ。

 

「な、なんで、セイアちゃんのことを…」

「……この際だから踏み込ませてもらうが、なんでアリウスと接触した?最初はエデン条約を台無しにしたいのかって思ってたが、どうにも杜撰すぎる。お前さんの本当の目的がわからねぇんだよ。オレはそれを知りたい」

「それ、は……」

 

 最初は、ただただアリウスとの融和を望んでいた。いや、望むというよりも『こうなったらいい』に近かった。

 同じテーブルをアリウスの生徒達と囲み、一緒にお茶会をして会話を楽しむ。そんな未来があったらいいと思っていた。アリウスから白洲アズサの編入した時だって純粋に喜んでいた。

 

 セイアのヘイローが壊されたと聞いて、すべてが崩れ去るような気分だった。

 

 それ以降は深い理由も無く嫌っていたゲヘナとの和解を阻止するという目的が主題だったと自分を騙し、幼馴染も騙している。先生すら巻き込んでエデン条約をなかったことにしようとしているのに、目の前の存在はそれは本当の目的ではないと突き付けてくる。

 だが己の犯した罪がミカの心を駆り立てるのだ、人殺しをしたのなら理由が必要だと。そんなものがあるわけないのに、百合園セイアを殺してまで達成しようとする目標を立てようとしてしまう。

 

 ぐちゃぐちゃになった心のまま、人影の意図を探ろうとする。しかし表情も見えなければ姿すら見えないそれは、一対の光る眼でミカを見つめている。

 それはまるで、彼女を責め立てる罰の化身のようにも見えた。

 

「……っぁ」

「ん?」

 

 誰もいない状況、まるで闇から現れたような風貌、そして誰にも悟られないようにと無意識に隠していた心を言い当てられたことで、ミカの精神は限界を迎えてしまった。

 まともに立つことすら叶わないままへたり込んでしまう。息が荒くなり、目の焦点が合わなくなっていく。

 ミカは目の前の存在が己の行いを罰しに来た執行人のようにしか見えなくなってしまった。誰かを殺すという重罪を犯した魂を断罪しに来たのだと。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」

「えっいや、大丈夫か?オレの声が聞こえてるか?」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!」

「いや待て待て待て、そこまで限界だったのか!?すまん追い詰めすぎたゴメン!!」

「ちょっ、鬼さん何やってんの!?ただ聞きに来ただけだったんでしょ!?」

「ここまで思い詰めてたなんて想定外だったんだよ!?」

「とにかく、ミカさんを落ち着かせないと…!アヤメ、周りに人がいないか確認しに行こう!」

「わかった!鬼さん早くミカちゃん連れてきて!」

「あいよ!ミカ、すまんがちょっと触るぞ…!」

 

 ミカが蹲ってしまい問いかけにも応じなくなると、焦った鬼が纏っていた影を脱ぎ捨ててミカの下へと駆け寄る。大丈夫かなと見守っていたアヤメとナグサが思わず飛び出してしまうほどに大慌てな三人は、急いでその場を後にする。

 人が来ていないことを確認した二人が影へと飛び込み、辺りを覆っていた刀を消した鬼がミカを抱き上げて二人に続く。ミカは抱き上げられたことにすら反応せず、鬼は反省の心でいっぱいになった。

 

「ゴメンなミカ、質問ぐらいは出来る程度に余裕があるって思ってたんだが…!タイミングが悪かったか!?」

「多分、鬼さんが影で見えなくなってたからじゃないかな。普通の人じゃないって思って自分のことを責めに来たんだって…」

「嘘だろそんなつもりなかったんだけどな…!どうせベアトリーチェのやつがクソみてぇな理由でミカのこと利用しようとしてんだろって思ってたから姿見せたらまずいって考えただけなのに…」

「ベアトリーチェ、って誰の事?」

「アリウスの親玉!もっと言うならアリウスの生徒を洗脳してるクソ野郎だ!トリニティがこうなってんのも10割そいつのせい!!」

「なんでそんなやつが野放しになってるのさ!?」

「オレの元同僚だからかバレないように動くのは一丁前に出来やがるしアリウス自治区の奥に引きこもってるせいで手出し出来ないんだよ!だからオレ以外であいつのことを知ってんのはお前さんらとアリウスとゲマトリアだけだ!」

「あぁもう、それよりミカちゃんはどうするの!?」

「起きて話せるようになるまでは安静にしてもらう…!そのためには────」

 

 影の中を疾走する三人と抱えられたまま喋らなくなったミカ。すでにミカがいた場所からはかなり離れており、トリニティの中心区域からかなり離れている。

 白目を向きながら走る鬼とアヤメに、比較的落ち着いているナグサが影の世界を駆け回る。何処を目指しているのかわからなかったが、鬼がある一点を見てさらに加速する。

 

 そこには、海月のようにぷかぷかと寛ぐ狐耳の少女がいた。

 

「……おや、誰かが来ていることはわかっていたが、やはり君だったのか。君の言う通り、眠りに落ちる時はここに来るが…想像以上に気分が落ち着くよ。ここなら予知夢も見ないし意識だけが何処かに行く心配も無いから安心して寝れ……待て、何故ミカがそこにいる?それに後ろにいる二人は────」

「悪いセイアお前さんがいる隠れ家って何処だ!?急患なんだ!!」

「は?は?きゅ、急患…?一応そこの光から出られると思うが…」

「助かる!一応出た先が安全か確認しといてくれ」

「「わかった」」

「待ってくれ、状況の説明を頼む。何故君はミカを抱き上げてるんだ?何故ミカはこの世の終わりのような顔をしてるんだ?何故私の下にやって来たんだ?それと先程の二人組は誰なんだ?」

「ミカにアリウスと接触した理由を聞きに行ったらオレのせいで精神的な限界を迎えた。

急いで落ち着ける場所に連れて行く必要があってお前さんのいる場所なら落ち着ける可能性があると判断した。

さっきの二人はオレの知り合いで絶望の未来に抗うために手伝いに来てもらった!

以上、質問はあるか!?」

「…………無い、が…」

「よし、起きれそうだったらお前さんも起きてくれ!ミカに説明して作戦会議だ!!」

 

 光からアヤメの手が現れ、安全であることが確かめられたので鬼も光へと飛び込む。

 影の世界にぽつんと一人、セイアだけが残される。

 

「…急展開すぎやしないかい???」

 

 そんなセイアの呟きは、誰も聞いていない静かな影の世界に溶けて消えた。

 

 




先生が来るまでのキヴォトス、心に限界を迎えそうな子達が多すぎる問題。
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