暁もまだやってこないトリニティの一区画に、ガスマスクを付けた集団が姿を隠して移動する。訓練され、統率された動きである建物を包囲していく。
「チームⅣ、到着」
「特段変わった様子は無し、警戒も予想通り」
「チームⅤ、チームⅥ、チームⅧ、全て準備完了とのことです」
「ターゲットの位置は確認済み。予定通り作戦を開始する」
「総員、前へ」
機械のような返事と共に音も無く建物へと向かい始める。異常ともいえる状況に気づく人間は一人としていなかった。────知っていた者達を除いて。
「……」
セーフハウスの中で一人、ナギサは紅茶を飲み干す。手元に震えも無ければ怯えも無い。あるのはただ一つ、これから起きる全てに備え、全てに対応し、今なお続く怨嗟の螺旋を受け止め、断ち切る覚悟。
誰もいないはずのセーフハウスの扉を誰かが叩く。来たか、ナギサはそう思った。
「どうぞ」
「……」
「ようこそ、浦和ハナコさん。何の御用でしょうか?」
「ナギサさんに聞きたいことがありまして」
扉を開けた先に立っていた少女、浦和ハナコに微笑む。ハナコもまた淡い笑みで返し、部屋の中に足を踏む入れる。
ナギサが襲撃されるということとナギサが何処にいるかについても既に周知済みだったために、ここにいること自体はおかしくない。
だがわざわざここにやってくるということは、ナギサ自身に用がある場合のみだろう。
「聞きたいこととは?」
「…私、最初はナギサさんが私達を退学させるところまでいくと思ってたんです」
それこそ、私が怒っちゃいそうになるぐらいにまで。
「……」
「でもそうはならなかった。第2次特別学力試験の後からあなたは変わった。疑心暗鬼の中にいた綱渡りな生徒ではなく、一本の軸を持って行動する為政者のような…今のあなたに」
「ふふ、そう見えますか?だとしたら喜ばしいことですね」
「えぇ、嬉しいことです。それが自力で立ち上がったのならば、ですが」
一歩、また一歩ナギサとの距離を縮めていく。ナギサはカップに紅茶を入れ、空いていた対面の机に置いて椅子を引く。
礼を言いながらハナコが対面の椅子に座れば、どちらからと言わずに紅茶を口に含む。
ハーブティーの香りが鼻を擽った。
「あの時の私とあなたは、言うなれば潜在的な敵同士。……あなたの状態を知っていながら、手を差し伸べられませんでした」
「確かに、あの時の私がハナコさんに手を差し伸べられたら感謝よりも先に疑いの目を向けていたでしょうね」
「はい。そんなあなたが立ち直った理由は……アズサちゃんを攫ったあの鬼面の方ですね?」
「…そういえば、ハナコさんが後ろにいたと仰っていましたね」
「何故アズサちゃんを攫ったのか。何故先生を介さずに伝えるのではなく、攫ったアズサちゃんを介してアリウス分校の襲撃と解放の協力を望んだのか…それは、あの方と先生の間に何かがあるのではないかと思って」
「……つまり、先生と何かがある相手が理由で立ち直った私は本当に信頼できるのかが知りたい、といったところでしょうか?」
「はい」
笑みを浮かべて首を傾ける姿はとても様になっており、見る人が一般の人間ならば可憐な姿だと感じるだろう。
だが政治的闘争や人間関係に鋭い人間ならば、それが戦闘態勢に入った狼のように見えただろう。「お前を疑っているのだ」と抜き身の刃を持っているようなものだ。
しかし相対するナギサは、さもありなんと受け流す。そもそも本人から事情を聞いていなければ、彼女のような疑いが生まれても仕方ない。
唇に指を当てる。あの時に閉じられた口と彼の指の感触は今も覚えていて、時々それを思い出してしまう。その様子に少し驚いたのか、ハナコは少し瞠目する。
「あの、ナギサさん?」
「?はい、なんでしょうか」
「何故そのような表情を…?……まさか」
「…いえ、少し思い出していただけです。それで、ハナコさんの質問の返答としては────」
「シたんですか?」
「……はい?」
「シたんですか?」
「あの、何を…?」
「■■■■■や■■■をして二人だけのトリニティを作り上げたのかと聞いてるんです!」
「…は、はいいいぃぃいいいッ!?そ、そんな破廉恥なことをするわけないじゃないですか!?そ、そもそもあの方は純粋に私のことを心配してくれて…!それにあの場にはミカさんやセイアさんに彼の協力者の方も…!」
「つまり初めてを5Pで!?」
「するわけないでしょう!?」
ハナコ、暴走。
先程まで漂っていた弁舌戦の空気なんてどこへやら、まくしたてるハナコと赤面しながら振り回されるナギサによって一気にギャグの空間へと変化する。
護衛のためにやって来たアズサが不思議がって部屋を覗く程度には急展開だった。
そもそもハナコとて本当に疑っていたわけではない。アズサの告白と彼女自身が鬼のことを「紹介することは出来ない、だけど信頼できる人なんだ。……先生と同じくらいに」と言っていたことを踏まえ、恐らく敵ではないと判断していた。
しかしナギサが本当にアズサと出会った人物によって立ち直ったのかを確認するために、わざわざナギサのセーフハウスにまでやって来たのだ。
まさか恋する乙女のような表情を見られるとは思っていなかったので、先程までの空気を投げ出して暴走してしまったが。
「ハナコさんあなた、さっきまで私のことを疑っていましたよね!?何故急には、破廉恥なことを聞き始めたんですか!?」
「いやですねナギサさん、隠さなくていいんですよ?あなたに優しく寄り添ってくださった殿方との熱い、あつ~い語り合いを……♥」
「し・て・い・ま・せ・んッ!!!水着で徘徊していたと聞いた時は耳を疑いましたが、さてはそちらが素の貴方ですね!?」
「うふふ♥さて、どちらでしょうね?ナギサさんの思っていた私、そして今の私……確かめませんか?」
「結構ですっ!それに間もなくアリウスが────」
「ハナコ、始まったぞ」
「「!!」」
礼節など放り投げて言い合う二人の下にアズサが声を掛ける。それとほぼ同じタイミングで建物が揺れるような爆発が起きた。
爆発の方向には、光に照らされた誰それの姿も確認できる。
「…では、私は行きますね」
「…はい。また今度会った時は、一緒にお話ししたいです。…色々と♥」
憂鬱そうに頷きながらナギサの姿が影の中へと沈み込んでいく。いつの間にか椅子と机を囲むように広がった影を避けながら、ハナコはアズサと共にナギサのいた部屋を後にする。
今も戦っているであろう先生の下へと向かうため。
◇◆◇◆◇
「くそっ!何で正義実現委員会がここにいるんだ!?まさか、スパイが嘘の情報を掴まされたのか…!?」
「隊長!チームⅠ、Ⅱ、Ⅲの応答がありません!他チームは反応はありますが、そちらもすでに攻撃を受けています!」
「隠れていた援軍からの応答もありません!撃破されていると考えるべきかと…!」
「…っ!退却だ!全員、散り散りに────」
「きゃははははははッ!!!」
「「「うわあああああ!?」」」
部隊長の指示を遮るような奇声と散弾が飛び、唯一無事だった部隊が一瞬で制圧される。
制圧した存在である正義実現委員会委員長、剣先ツルギは即座にリロードを行って辺りの様子を確認した。立っている敵は存在せず、己の後輩と同級生が手際よくアリウス生達を捕縛しているところだった。
「ハスミ先輩、作戦対象の捕縛が終わりました。他の方々の援護に……」
「……いえ、すでに終わったようです。ツルギもお疲れさまでした」
「きひひひ……。…ミカ様の話を聞いた時は耳を疑ったが、どうやら本当の話らしい」
「となると、本当に調印式も来るってことっすよね」
「えぇ。ミカ様が騙されていたことに気づかなければ、このことも知らずに調印式の日を迎えていたかもしれませんね」
「……騙されていた、か」
「ツルギ先輩、どうかなさいましたか?」
「いや、独り言だ。全員、対象の回収が済み次第退却するぞ」
部下の返事を聞きながらツルギは少し前に教えられた計画を思い出す。概ねはナギサが聞いた計画と同じであったが、その背景までは時間がなかったので省略しつつ伝えられていた。
ミカがアリウスと和解しようと動いていたが、騙されて利用されそうになっていたこと。それによりナギサも疑心暗鬼に陥っていたこと。重体ではあったものの、一命を取り留めたセイアによって全員が現状を把握したことで今回の迎撃戦が講じられたこと等々。
だがその中で気にかかったことがミカの話だった。ツルギから見ても彼女は政治に向いている為人とは思えず、騙されたことに気づいたというのが本当なのかと思ったのだ。
しかし直接会ったミカ本人は以前にも増して力強く、ナギサの立ち振る舞いも威厳に満ちたものとなっていた。故に隠されている事実があることはわかっているが、それが悪い方向に傾けるものではないと判断した。
「きひひ……戻ったらすぐに調印式の準備だ。話が本当なら、会場そのものにミサイルが撃ち込まれる」
「ミサイルですか……私達だけでなく、ゲヘナ諸共吹き飛ばそうという魂胆ですね」
「うへぇ……どこからそんな兵器を用意したんすかね?それにどうやってそのことを知ったのやら…」
「さぁな。だがあの鬼気迫る話ぶりを見るに嘘とは思えん」
「調印式を襲うアリウス分校……彼女達は悪い大人に利用されていると聞いています。正義のために、一刻も早い行動が必要になりますね」
「焦ってはいけませんよ、マシロ。相手の出方を挫くための準備がなければ、やられてしまうのはこちらですから」
「はい、ハスミ先輩!」
少しずつ広がる連携の輪は確かに強固なものとなっている。しかしそれでも防ぐこと自体は困難だった。
故に、全員がそれぞれに出来る備えをしていく。敵も味方も、誰一人として犠牲を出さないために
◇◆◇◆◇
「────というわけで、最初の関門は突破できた。全員お疲れ様!」
『お疲れ様でした~!』
捕まえたアリウス生達を回収し、全員の武装解除を行い食事を食べさせて敵意が無いことを示した後のこと。鬼が経営する会社『大和』の中で鬼が関わった生徒達が顔を合わせて会議をしていた。
実態はほぼお疲れ様会だったが、本来の目的は調印式のことについてなのでそれぞれの手元には軽食と共に資料が配られている。
ちなみに白洲アズサは補習授業部最後の試験に臨んでおり、この場にはいない。もしも誰か一人が合格ラインに達しなくとも退学しないことが決まっているとはいえ、知らない者達からすれば手を抜くことの出来ない試験なのだ。
「ん~おいし~!ナギちゃんのロールケーキよりもパクパクいけちゃいそう!」
「ミカさん?それはどういう意味ですか?」
「仕方ないさ。ケーキとこのお饅頭を比べれば食べやすさも全く違ってくる。それにミカの口にロールケーキを突っ込みまくっているのはナギサだからね?こう言われてしまうのも…」
「セイアさんの口に叩き込んでもいいんですよ…?」
「わかった、降参だ。だからその袖口から取り出したロールケーキは仕舞ってくれ、頼む」
「久々に食べる鬼さんの和菓子だぁ…」
「そうだね、アヤメ……」
「ねぇナグサ」
「何?」
「…疲れたねぇ」
「…そうだね」
「……鬼面さん、お二人はどうなさったのでしょうか」
「援軍の方をしばき倒しに行くのに付いてきてもらったんだよ。その時に折角の機会だから無傷かつ撃ち漏らし無しを条件にして半分を相手させたらこうなった。そんなに嫌だったか?黄昏の寺院跡地までの往復ダッシュ」
「とりあえず彼女達は寝かせておきますね」
「助かる」
ティーパーティーがいつものやり取りを交わし、死んだ目をしたアヤメとナグサをミネが寝かせ、鬼は目的の調印式のことについて説明するためのプロジェクターを用意する。
余談だが、予期されていた時間よりも早く起き上がれたセイアは今まで目の前でお預けになっていた鬼の手料理を掻きこむ勢いで食べては耳を揺らし、幸せそうな顔をしていた。
「…よし、全員食べながらでいいから聞いてくれ。アヤメとナグサは寝たまんまでいい。次の関門の調印式についてまとめようと思う」
鬼がプロジェクターを起動し、調印式の文書を冒頭に置いたパワーポイントを映し出す。生徒達も居住まいを正して聞く姿勢に入った。
「まず今回の事件に関しては、前々から言っていた筋書きを公表してミカとナギサに対するマイナスイメージを減らしながら健在であることを示す。ここで大切にしたいのは一般生徒にアリウスのことを詳らかに説明せず、誰かが暗躍していた程度の情報で抑えたい」
「アリウス生のことを公表しないのは、混乱を防ぐためですか?」
「それもあるが、足の引っ張り合いを失くしたいってのが大部分だ。歴史に精通する生徒がいればアリウスとトリニティの関係性に辿り着くだろう。その場合、アリウスを利用して~とか考える馬鹿が現れる可能性がある。今は横のつながりを重視したいのにそんな馬鹿が現れたらどうしようもない」
「どうしよう、いないと言い切れないや」
「……やはり抜本的な改革が必要なんでしょうか。いえしかし、急な行動と言うのも…」
「二人とも、今は調印式のことについて考えようじゃないか。まずはこれを乗り越えなければその先のことも話したところで意味がない」
セイアの進言を二人が聞き届けたのを確認し、鬼が次のページに進む。そこにはシャーレ、ティーパーティー、正実、シスターフッド、救護騎士団、ゲヘナの風紀委員会のマークが載っていた。
「次に、今から伝えることを主にこの委員会等の幹部以上の面々に共有してほしい。調印式当日はアリウススクワッドと他アリウス生だけが相手じゃない。もっと面倒くさい相手が現れることが分かった」
「もっと面倒くさい相手って?」
「……オレの元同僚が教えてくれた情報によれば、それは戒律の守護者であり戒律を破るものを始末する武力集団。過去の亡霊であり、不死身の存在。ユスティナ聖徒会の
「ユスティナ聖徒会!?そんな、数百年も前の存在が何故調印式に!?」
「わからん。元同僚も詳細は語られなかったらしい」
「何故君の元同僚がそのことを知っているんだい?それにわざわざ鬼面さんに伝える理由もわからないな」
「曰く、『聖徒の交わりをこの目で確かめ、この世に表わしたくもある。だがそれ以前に、我が同朋を汚す三流以下の舞台装置に素直に従いたくもない。故に貴殿に伝えよう』だと」
全員の頭に疑問符が浮かんだ。何処か芝居がかった言葉を飲み込むのに苦戦してしまったからだった。だが、唯一アヤメとナグサだけがあることを思い出す。
それは、ユメを救い出した鬼が話していた時のこと。
「…それって、鬼さんが『物事を独自に解釈する』って言ってた人?」
「おーよく覚えてたな、そうそいつのこと。悪いが名前は伏せさせてもらう」
「えぇっと…?ゴメンセイアちゃん、どういう意味かわかった?」
「…恐らくだが、鬼面さんにこのことを教えた人物が言うには、ユスティナ聖徒会の姿を見たいが、鬼面さんを汚す?存在に素直に従って顕現させるのは嫌だから鬼面さんに伝えよう、と言ったところかな」
「そんなもんだ。あいつ自身、プライベートでの頼みなら断ったらしいんだが…ゲマトリアという組織を通じての要請だったから断れなかったんだと。そういう"契約"らしい」
鬼は自分に教えてくれた相手のことを思い出す。興味はあるが嫌いな存在に要請されて顕現させたくなかったのか、心底嫌そうな声で教えてくれた彼。
『あの"崇高"は貴殿と共に描きたかった』と言っていたから、本当に嫌だったんだろう。
「最悪なことにこれを阻止することは出来ない。教えてくれた本人が分からなかった以上、徹底的に隠すつもりの切り札なんだろう。だが情報があるっていうのはかなりのアドバンテージだ、絶対に共有してくれ」
「わかりました」
「それとアヤメ、このユスティナ聖徒会の対処はお前がキーだ」
「え、私?」
横になりながらアヤメが自分を指させば、頷きで返ってくる。
「吹き飛ばせば少しの時間稼ぎは出来るが、撃破まではいかない。だがお前さんの持つ百蓮なら違う。お前さんの神秘を通し、百蓮で撃ち抜けば復活しない」
「……あ、ユスティナ聖徒会?は亡霊だから…」
「正解だナグサ。そうだ、
「朝のアリウス生との戦いはこのためかぁ……」
「よくわかったな。花丸をあげよう」
そう、鬼がアヤメとナグサを連れてアリウス生の援軍の対処をしたわけ。それはアヤメとナグサの二対多の処理速度を少しでも速めるためのものだった。
ナグサが援護、アヤメが本命の一撃を与えるスタイルは昔から組み立てており、単独行動も可能となっている。アリウス生の侵攻直前に情報が届き、ちょうどいいとばかりに連れ出したのだ。
話を聞いていたミカが「なんで鬼さんも倒せるんだろう…」と疑問に思っていると、最後のページに移動した。どうやら今度はミサイルの画像が載せられており、恐らく巡航ミサイルの話なのだと検討づけた。
「最後に、ミサイルの被害をどうするかだ。結論から言ってしまえば死者を0にすることは出来ても、被害そのものは無理だ」
「やはりですか……」
「ミサイルそのものを破壊しようにも、レーダーでは捕捉できない兵器だからね。鬼面さんでも困難なのだろう?」
「いや、出来る。雷を切るよかまだ簡単だしな」
「雷???」
「ただそれをしちまうと、確実に着弾したと判断しない場合に今度はミサイルの雨あられが飛んでくる可能性がある。いくつあるかわからん以上、成功させたと油断させた上で迎撃したい」
「ですが、それでは現場にいる人々の被害が…」
「大丈夫だ。そのための用意もしてある」
そう言って鬼が取り出したのは小さな機械だった。手乗りサイズ程度の機械で、表面にミレニアムの校章が付いている。
「オレの知り合いに掛け合ってみたらな、こいつを用意してくれた」
「何これ?ちっちゃな機械みたいだけど……」
「そいつは遠隔で作動するやつでな、こんな感じに……」
鬼が別に用意したボタンを押すと機械が作動し、機械を持っていたミカの周りに薄い膜のようなバリアを張りだした。
シャーレの先生がこのバリアを目にしたら、「ユウカのシールド…?」と口にしたことだろう。
「えっナニコレナニコレ!?」
「小型バリア発生装置。こいつがあれば一回程度ならミサイルの攻撃を防ぐことが出来る。だが時間も無かった関係上、一度使えばすぐにぶっ壊れちまうらしい」
「あ、本当だ。うんともすんとも言わなくなっちゃった…」
「だが少しでも衝撃を和らげることが出来ればいい。少しの爆破程度はキヴォトスに住む人間なら耐えれるからな。後は調印式にやって来た人に配っていけば人的被害は無い」
「確かに…!」
「でも鬼さん、その場合ってミサイルに壊される建物はどうするの?ここに住んでるわけじゃないからあまり詳しくないけど、かなりの歴史があるんじゃ…」
「いえ、人の命には代えられません。例え歴史を持った建物が壊れようと、最優先はただ一つですから」
アヤメの心配にナギサがそう返せば、カップをソーサーに置いて遠くを見つめる。その方向には今回の調印が結ばれる場所である古聖堂がある。
「例えこの判断で後ろ指を差されようと構いません。それが私のやるべきことですから」
「…ナギちゃん。ナギちゃん一人じゃないよ。私もセイアちゃんも一緒にいるから」
「これは君一人が背負うべきものじゃない。私達全員で背負うべきものだからね。…だから、そんな寂しいことを言わないでくれ」
「お二人とも……」
「……今日はここまでにしようか。まだアリウススクワッドのこととかゲヘナのこととかも残ってるけど、それはまた今度だ」
鬼のお開きの宣言で今日の会議は終了した。
運命の調印式、その時が刻一刻と迫って来ている。