スコーンを口にしながら紅茶の香りを楽しみ、街道を歩く人々の様子を眺める。いつぞや鬼が貸し切ったカフェでいつもの三人がゆっくりとお茶をしていた。
話題はとある部活、シスターフッドのことについてだった。
「シスターフッド?って、この前違う区域で戦ってくれてた人達?」
「そ。補習授業部の浦和ハナコが連絡したのか、そこの生徒達も手助けしてくれてな」
「あの時だけで、トリニティの委員会のほとんどが戦ってたんだね…」
「百鬼夜行じゃほぼ起こりえないから新鮮だよね~」
「ティーパーティー、正義実現委員会、シスターフッド、補習授業部……この数の協力は確かに無いな」
「それでそれで、シスターフッドってどんな人たちなの?私ちょっと気になるな」
「んー…まぁ活動内容の影響もあるけど、結構秘密主義的なところがあるな。シスターは善良なんだが、カウンセリングとかも受け持ってる関係上秘匿性は保たにゃならんし」
「へー」
「カウンセリング……懺悔室みたいな?」
「そうそう。それにシスターフッドの前身にユスティナ聖徒会があるからか結構政治に対しての発言力もあるらしくてな、ナギサも頭を悩ませてたみたいだ」
「ユスティナ聖徒会が変わった部活だったんだ!?それは色んな所に強いよね……」
「鬼さん、この前そのシスターフッドの長の人と会ったんだよね?大丈夫だった…?」
「別に何ともなかったぞ?それにサクラコも良い子だったしな」
「え、そうなの?なんていうか、めちゃくちゃ腹黒そうな人って聞いてたけど……」
「そうなんか?そういった噂を聞く前に会ったから知らなかったな」
鬼がシスターフッドの長、歌住サクラコと出会ったのはアリウス襲撃の翌日に情報の共有のために向かったナギサとミカの影に潜む形で付いていったのだ。
そこで交わされた会話を見るに、意味深な言葉遣いをするが性根自体はとても善良かつ温厚な存在だと判断した。
『なんというか、周りが勘違いしまくりそうな生徒だな』とは鬼の言葉である。
「だがこれでトリニティでの連携は固まった。ティーパーティーの噂も少しずつだが広がってるし、トリニティでも有力の委員会に情報の共有も出来て協力も約束された。シャーレの先生もアリウスのことで協力してくれるとのことだから、あとの問題はゲヘナとアリウスだな」
「ゲヘナかぁ……。ミカちゃん達が会いに行くのはマズいんだっけ?」
「あぁ。最悪の場合、このタイミングで動いたことにアリウスが疑問を持って探りに来る可能性がある。なんで調印式を待たずにゲヘナにトリニティの誰それが向かうんだってな」
「だから先生に……?」
「そうだ。風紀委員会への情報の共有は彼女に任せる。先生にはオレを除いたこと以外は一緒の情報が行ってるからちゃんと動いてくれるはず…」
「そういえば、この前先生が二人に謝ったって聞いたけど?」
「ん、あぁ。なんでも先生としてやってはいけないことをナギサにしてしまったのと、ミカのことをちゃんと見れていなかったことを謝りたかったんだと」
「それで、ミカさんとナギサさんは…?」
「『そもそも恨んでも無いし、悪いのは自分達だから謝るのはこっちです』、だってさ……ちゃんと自分達のしたことを反省して、やり直そうとしてるみたいだ」
「…そっか、よかったね……」
ミカは『あの時の先生の言葉には、自分も救われたところがあったから』と言った。
ナギサは『確かに、先生に見捨てられてしまったと思ってしまいましたが……今はもう違います。先生にも、先生にしか見えないところがあった故の不手際ですから。私もやってはいけないことしていましたから、先生だけが悪いんじゃありません』と振り返っていた。
すでに二人は前を向き、過去は過去として目の前の壁に向き合っている。
未来という恐怖と向き合ったセイアと、己の罪を受け止めたミカとナギサに報いるために……鬼が動く。今も過去の恨みと教えられながら、未来に歩むことを許されない子供達のために。
◇◆◇◆◇
少し時間は遡り、アヤメとナグサ等が席を外していた時にアリウススクワッドのこととゲヘナへの情報共有について話し合っていた鬼は、ある書類をティーパーティーの面々に見せた。
最初は何の書類かわからなかった三人だったが、詳しく読むうちにその一枚の紙の持つ権限の強さに体を震わせた。
「お、鬼さん……これって……」
「…不思議に思っていた。鬼面さんがアリウスを直接手助けするのは困難だ。それは学園と一企業の社長という位置関係もあったが、それ以上にトリニティとアリウスの因縁のこともあったからだ」
「ですがこの書類があれば、それも関係ない……」
「そうだ。この書類があれば、オレがアリウスに手出ししたところで誰も何も言えない。
そこにあったのは、鬼に手向けられたクリスマスプレゼント。
連邦生徒会長のサインがされたアリウス高等学校・中等学校等の設立認定書だった。
「鬼面さん、君はどうやってこれを……」
「オレの会社、物流会社『大和』の社員は元アリウス生だ。もしかしたら連邦生徒会長はそれを知ってたのかもな?」
「「「!?」」」
二人が席を倒しながら立ち上がってしまう。驚きもあったし何故そこにという疑問もあった。今まで思考の片隅にすらなかった事実にセイアとナギサが固まる中、ミカだけが感情に整理を付ける。
「……聞いてもいいかな?鬼さんとアリウスのこと」
「悪いが、なんでオレの会社にアリウス生がいるのかとか、どこに繋がりがあったのかとかについては答えたくない。胸糞悪いだけだからな」
「それでも。…それでも、知りたい。アリウスの子達と仲良くなりたいって言ったのは私だから、なんで鬼さんが力を貸してくれたのかも知らないといけないと思う」
「……」
「あの子達が抱えた恨みも、悪意も……受け止めてあげたいから。それに…」
「それに?」
「相手のことを知らないまま仲良くなろうとしたら、何処かで嚙み合わなくなっちゃうかもしれない。だから、少しでも知りたいの。あの子達のことを」
ミカの言葉に鬼が黙り込み、しばしの空白を置いてため息を一つ零す。
「……オレの話を聞いた後でいい、この書類のことを三人で認めてほしい。トリニティから後押しされれば、もっと動きやすいからな。それと、聞いて後悔するなよ?」
◇◆◇◆◇
「……」
「鬼さん、どうかしたの…?上の空だよ…」
「なんか思い出してたり?」
「そんなところだ。そろそろ夕方だし、どっかに泊まろうか。明日が調印式だからな…」
二人と共に席を立ち、会計を済ませながらティーパーティーの面々に話した時のことを思い出す。
断片的に知っていたセイアは俯き、ナギサは口元を手で覆ってしまうほどに衝撃を受け、ミカは静かに鬼を抱きしめて頬を濡らした。
何故泣くのかと聞けば、ミカは自分でもわからないと言った。童話のお姫様のような優しい心を持った彼女の何かに触れたのだろうかと鬼は考え、ミカを慰めた。
「ちょっと話過ぎたかもな……」
「何が?」
「うんや、独り言」
目の前の二人にすら話していない、鬼がゲマトリアに入り同僚を叩き切って亜空間か出てきた後から百鬼夜行に戻るまでの間の話。それも一緒に話したのがまずかったかと鬼は少し反省する。
まさかあそこまで空気が死ぬとは思わなかったし、ミカを泣かせるつもりもなかったからだ。
鬼にとっては過去のことであり引きずることではなかったが……セイアですらあそこまで沈痛な思いになるとは。
(にしても、ミサイルかぁ……懐かしいな)
昔のことを思い出したからか、もう一度過去の記憶を引っ張り出す。
(あの時は本当に馬鹿だったなぁオレ。いや、ベアトリーチェのやつがやばいってのは黒服から聞いてたんだが……)
(アリウスに足踏み入れた瞬間に案内役の生徒で身動きを封じてミサイルの雨あられだったもんな。オレがアリウスの生徒を庇うってわかった上で)
◇◆◇◆◇
「首尾は?」
「大丈夫」
「姫、行けるか」
「……(スス、スー)」
「辛いですよね、苦しいですよね……でもそれが人生ですものね……」
「ヒヨリ、そっちはどうなの」
「あっはい、準備は完了しています…」
「ならいい。決行は明日の調印式に────」
「初弾の一撃が命中し、本命の巡航ミサイルが爆発した瞬間だ。準備を怠るな」
次回、調印式。