百鬼夜行の鬼   作:龍玉

38 / 51
—追記—
ミサキのサオリに対しての呼び方間違えてました……。


第三十四話 偶然

 

「8時の方向、三体のユスティナ聖徒会が接近中!」

「負傷者の運搬途中でアリウス生の襲撃を受けたという報告が!ゲヘナ生徒の援護で切り抜けましたが、まだ負傷者が残っています!」

「焦らず一体一体の脚部を狙ってください!困難な場合は手榴弾の投擲で纏めて吹き飛ばすように!」

「ツルギ先輩達が陽動するっす、それに合わせて負傷者の捜索と安全圏までの移動!古聖堂周りにいる私達に向かってきている以上、ここから離れればユスティナ聖徒会自体は追ってこないっす!」

「ハスミ先輩、私も先生の援護に向かいます!」

「マシロ、捕縛用ロープを忘れないで!恐らく集中的に狙われている可能性があります!」

「はい!」

 

「うわっ!?」

「今の、頭が完全に出てたらやられてた…!ちょっとあんた、今は積極的に出る場合じゃないでしょ!?」

「うるさいなぁトリニティのくせに!一体でも攻撃しないと怪我してる人を運べないだろ!?」

「ふ、二人とも、今は喧嘩してる場合じゃないよ…!」

「わかってるけど…!やるなら合わせなさい!先輩が言うには足を撃って縛り上げでもしないとずっと動くって話なのよ!」

「……っ!だったらせーので撃つぞ!いいな!?」

「「「せー……のっ!!」」」

 

 崩れ落ちた古聖堂を中心としてアリウス生とユスティナ聖徒会を相手にした迎撃戦が繰り広げられる。バリアーによって指揮が可能な生徒が無事だったことでゲヘナが相手だろうと比較的連携を取って動くことが出来ていた。

 すでに先生と一部の正実の生徒は別行動を取っており、負傷者の退避を最優先とした持久戦となっている。

 

 その先生はと言うとナギサとハナコによるサポートを受けながら負傷者を救出し、ヒナタ、ツルギと共にユスティナ聖徒会とアリウス生の捕縛を行っていた。そこにマシロも合流しより一層勢いを増していく。

 

「ヒナタ、右前方にユスティナ聖徒会!」

「は、はい!まずはお話を……!」

「マシロ、もうすぐ負傷者のいる場所に着くから救出の用意をお願い!ツルギは周りの敵を倒して!」

「わかりました!」

「了解……ぃひひひひははははァ!!」

『先生、こちらの退避は完了しました。すぐにそちらへ────』

「いや、ナギサはそのまま私のサポートをお願い!情報が混濁している以上、ハナコとナギサ達の整理が重要になる!」

『ナギサさん、ここは耐えなければいけません。それにティーパーティーのホストであるあなたが狙われてしまえば、混乱が加速する可能性が高いです』

『……っ!…わかり、ました』

 

 青黒かったショートヘアーに灰と埃が付くことも気にせず、矢継ぎ早に指示を飛ばす。ミサイルの直撃と空中で起きた爆破の衝撃で開けた古聖堂を駆け抜けながら負傷者を救出し、どんどん安全圏へと移動させていく。

 先生自身に存在するスペックをフル活用した指揮は大々的なものではなかったが、確実な効果を出していった。

 

 その背後からユスティナ聖徒会が先生を狙う。無機質な銃口が向けられ、回避を取ろうとして…レーザーのような掃射によって他のユスティナ聖徒会諸共吹き飛んでいく。

 

「先生、無事?」

「ヒナ!おかげさまで無傷だよ」

「それは良かった。戦況は?」

「思ってたよりも負傷者の回収スピードが早い。それが終わったら一気に攻勢に出る!ヒナは私と一緒にアリウス生の確保をお願い!」

「任せて頂戴」

 

「な、何故ゲヘナの風紀委員長がここにいる!?」

「アリウススクワッドが失敗したのか!?なら今すぐにでも撃破しなければ────!」

 

「終幕:イシュ・ボシェテ」

 

「「「うわあああああ!?」」」

 

 ヒナの持つ愛銃、終幕:デストロイヤーが立ちふさがるアリウス生を薙ぎ払う。その合間にも先生による指揮によって負傷者が運び出され、ついに古聖堂周りにいた負傷者が全員退避した。

 

 これにより今まで持久戦を強いられていた正実等の生徒達は攻勢の姿勢に打って出ようとする。

 

「好き勝手やってくれたな……。だがそれもここで終わらせる」

 

「この憎悪を持って……ッ!」

 

 それを許さぬ存在もまた、ここに立っていた。

 

◇◆◇◆◇

 

「なん────うがっ!?」

 

「今何か────ぎゃっ!?」

 

 走る、走る。道中で立っていたアリウス生を峰打ちで気絶させ、ユスティナ聖徒会を切り倒しながら負傷者をミネのいる診療所へを運び続ける。

 

「ミネ、これが最後だ!後はアリウスを……何やってんだ?」

「鬼面さん、お疲れさまでした。これですか?救護の妨害をしようとした者達です」

 

 最後の救助者を運び入れようとした鬼の目の前には、シールドを構えたミネが入り口の前に人の山を作る姿があった。

 何故か拳から煙が立ち上り、倒れる人の頭には一人残らずたんこぶが出来上がっていた。

 

 恐らく診療所ではゲヘナトリニティ関係なく傷の手当に当たっていたのだが、一部の過激派に当たる生徒がそれに不満を持ったのだろう。

 「何故ゲヘナなんかを」などと。

 

 しかし診療所には救護に命を懸けるミネがいた。手当の邪魔だと伝えたところで聞く耳を持たず、結局……。

 

『救護ッ!!』

『いやそれただの拳っ!?』

『な、何が救護だ!新しい怪我人をッ!?』

 

 というのが繰り返されたのだろう。想像に容易い。

 

「な、るほど。…とりあえず、怪我人は頼んだぞ」

「お任せください。セリナ!新しい救護対象者が────」

 

 入り口を通って病室を探し、目的の部屋に入る。そこには今も眠ったままのセイアと護衛のために待機していたミカが座っていた。

 

「ミカ、新情報だ。ユスティナ聖徒会の発生理由が分かった」

「本当!?何が原因だったの?」

「どうやらあの古聖堂、大昔のトリニティの公会議が初めて開かれた場所だったらしい。そしてその会議でアリウスが弾圧され、姿を消した。その弾圧した組織が……ユスティナ聖徒会」

「…!」

「アリウスが調印式のETOとして動き、トリニティとゲヘナを敵対勢力に据え置くことであの聖徒会は戒律の守護者として起動した。元々アリウスも公会議に参加していた存在だったし、資格はあったからな。問題はそれだけじゃない。あいつら、調印を何とかしなかったら無限に発生する」

「無限に…!?私に何か出来ることは…」

「今アリウススクワッドと先生が戦ってるらしい。現状ETOとしての資格を持ってるのがアリウスな以上、向こう側を降伏させなきゃユスティナ聖徒会は消えない可能性がある。……無限の兵だってことを見抜けなかったオレのミスだ。頼む、一緒に戦ってくれねぇか」

「────任せて!あ、でもセイアちゃんはどうしよう……」

「オレの影の中に放り込んどけば勝手に合体するだろ。とにかく、急いで古聖堂に向かうぞ!」

「うん!」

 

 セイアの体を背負ったまま鬼が影へと飛び込み、鬼を追ってミカも影へと入った。ミカが影に入ってすぐに移動しようとすると、遠くから誰かがやって来るのが見える。

 金髪に狐の耳、自分よりも少々小柄の背丈……百合園セイアだった。

 

「あれだけの避難者をたった一人で避難させるとは、やはり君は凄いな」

「セイアお前さん、なんでわざわざ来たんだ。こっちから迎えに行くつもりだったのに」

「ずっと君のことを追いかけていたからだよ?今はとにかく情報が必要だからね、君を追いかければ自ずと情報が入ってくると思ったのさ」

「セイアちゃん、元気になってから凄くアクティブになってるね…?」

「出来ることをしようとしているだけさ。あ、私の体だね。ありがとう」

 

 鬼の背中にあった本体と精神体のセイアが手を重ねると、吸い込まれるようにして精神体のセイアが姿を消した。そして本体の瞼が薄く開かれ、鬼の体をしっかりと抱きしめる。

 

「では行こうか。まずはアヤメ君とナグサ君の回収かな?」

「おう。無限に発生する相手なんざあいつらにはまだキツイ。辞め時が来たことを伝えにゃならん」

「やはりか。その道中で少し報告があるが、いいかい?」

「あぁ、聞かせてくれ。さて、行くか!」

「う、うん……」

 

 ミカが羨まし気にセイアを見て諦めるように被りを振った。自分もセイアのように鬼に掴まったりしてみたいと思ったのだ。しかし今は緊急事態なのだから、我が儘は言ってられないのだと自制したのだ。

 が、鬼にはそんなことお見通しだった。ミカが鬼についていく姿勢を取った瞬間、足を掬い上げるようにして持ち上げて体を抱える。

 ミカも「ひゃっ!?」と驚きの声を上げてしまう。だって今の態勢は……

 

「お、おおおお鬼さん、これって…!?」

「お姫様抱っこ。悪いが、今は移動のことを考えたらこっちの方が走りやすいんだよ」

「な、なる、ほど……。……~~ッ!!」

 

 ミカが顔を両手で抑えて身もだえしている内に鬼が走り出し、アヤメとナグサのいる場所へと向かい始める。

 その道中でセイアからの話を聞こうとするも、膨れっ面に加えて若干不満そうな声で返事が返ってくる。

 

「セイア?どうしたよ」

「何も?ただただこんな事件が起きていなければよかったのになと思っているだけさ。不満は一切ないのだけれどね」

「?……とりあえず、お前さんが言ってた報告ってなんだ」

「あぁそのことかい。そうだね、はっきり言ってこれは偶然の産物としか言えないだろう。君自身、一切意図せず作り上げた構図であり効果だったのだから。だが確かに紡ぎあげた奇跡であり、彼女が関わったことで必然となった」

「あ?」

「簡単な話だ。君のおかげで、アリウスが狙っていた計画に支障が出ただけのことさ」

「なんだと?」

 

 セイアが腕で地上を示す。釣られて鬼が地上に目を向けて……訝しんだ。

 

「……ユスティナ聖徒会の輪郭が、朧げになってる…?」

 

 

 

 それはアリウススクワッドと先生の戦いの場でも表面化し始めた。

 

「リーダー、ユスティナ聖徒会が…」

「どういうことだ…!?」

「き、消えては現れてを繰り返してますぅ…!?」

 

「な、何…?」

「先生、私の傍から離れないで」

「委員長、これは……」

「わからない。でも、何故かは知らないけど……ユスティナ聖徒会の勢いが沈んだ」

 

 後から合流した銀鏡イオリが困惑した声で辺りを見回す。先程までずっと現れ続けていたユスティナ聖徒会、その姿が何度も消えては現れてを繰り返し、壊れたテレビのように動作を停止した。

 

 それは先生へと憎悪を向けていた錠前サオリや援護を行っていた戒野ミサキですら想定外だったのか、相手も味方も総じて困惑し続けていた。

 

 

 鬼にとって、ユスティナ聖徒会が戒律の守護者であるが故に使命を果たすまで現れ続ける亡霊であることを見抜くことが出来なかった。それを知ったのも、トリニティを走り回っていた時に届いた新たなメールを見たからだった。

 しかしそこに、新たな想定外の事態が起きた。

 

 元々結ばれる筈だった条約によって発足されるETOはトリニティとゲヘナの相互から人員を出し合うことで成立する紛争を防ぐ条約機構。

 しかしそれが結ばれる前にアリウスが介入することにより、ETOの構成員にアリウスの生徒が組み込まれるという内容に捻じ曲げられてしまった。これによってユスティナ聖徒会がアリウスの味方として現れ、今も猛威を振るっていた。

 

 だがここで想定外の事態が起こった。鬼と先生の存在である。

 もしも、鬼がトリニティ内の問題を根こそぎ取り除いてアリウスの真実を知らさなければ。もしも、先生がゲヘナの生徒に調印式に迫る危機を伝えなければ。

 両校の不信が爆発して互いを敵とみなしてしまい、アリウスからの奇襲によって犠牲者が出ていたかもしれなかった。

 

 だが鬼がアリウスを敵ではなくベアトリーチェという大人によって利用されている被害者と伝え、先生がアリウスに手を差し伸べるためにゲヘナの生徒とトリニティの生徒をまとめ上げて抵抗した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()場所で、ゲヘナの生徒とトリニティの生徒が手を取り合った状態で。

 

 さらに言えば先生が所属するシャーレは連邦生徒会長によって設立された機関であり、その立ち位置を()()()()()()()()()()と見ることも出来た。

 そしてエデン条約は、連邦生徒会長が発案したものでもる。

 

 そう…偶然と偶然が重なり、本来のエデン条約にて発足される機関としての形が出来上がっていたのだ。

 

「……ッ!!」

 

 先生の思考回路にスパークが発せられる。エデン条約、ETO、互いから生徒を出し合う機構、そして戒律の守護者と言われていた存在の不具合。そして先程、ハナコが導き出した相手の正体。

 点と点が繋がり、一本の線となった。

 

「────ここに宣言するっ!」

 

「私達が……新たな条約機構!新たなエデン条約機構(ETO)であるとッ!!」

 

『な……っ!?』

 

 普段出すことも無いほどに声を張り上げ、ここにいる全員に聞こえるようにその言葉を宣言した。

 全員がその意味を認識した途端にユスティナ聖徒会の姿が薄くなり、少しずつ数を減らしていく。

 

 そしてミサイルの爆炎によって発生していた暗雲から日光が差し込み、地面を照らす。それは、捻じ曲げられた約束が正しい姿へ変化したことを示唆するような光だった。

 

 

「……素晴らしい。やはり貴殿は芸術を理解し、品性と知性を持って大人としてそこに立ち、捻じ曲げられた条約を無効とするか。あの女の要請に従うことは業腹の思いだったが、彼女の姿を目にしたことは感謝するとしよう」

 

 古聖堂から地下通路に位置する廊下から一人の異形がアリウススクワッドと対峙する生徒達と先生を観察する。その傍にはアリウスの生徒だけでなく、特長的なマスクを付けた少女も立っていた。

 アリウスの生徒達は先生の宣言に動揺し、マスクを付けた少女──秤アツコは黙したまま先生を見る。

 

「…ふむ。あの女からの依頼は戒律の守護者と聖徒の交わりの複製であり、そこで私の役目は終わりとなる。しかしこのまま終われば我が理解者に叱られてしまうな……」

 

 木で出来た体を軋ませてアツコに視線をやる。本来ならば正式なアリウス生徒会長の後継者であり、その血筋は貴きもの。

 何故ベアトリーチェが彼女に執着するのか。木の人形の姿をした異形──マエストロはここまでアリウスを利用しようとする彼女の意図を考察し……一つの答えに辿り着く。

 

「儀式、か」

 

 マエストロは知っている。ベアトリーチェが己を色彩と同等の存在とすることでこの世界を支配しようとしていることを。そしてその企みに、己の芸術に理解を示しインスピレーションを与えてくれる理解者が利用されそうになったことを。

 目の前の少女に流れるロイヤルブラッドの血を生贄とすれば、大層な力を得ることが出来るだろう。それこそ、色彩に近づけるほどに。

 

 マエストロは大人だ。しかし子供も大人も関係なくただひたすら芸術の完成を目指す。はっきり言えば、彼は子供を食い物にする悪い大人ではない。例え助けを求めていようと己の作品に目を向けるが故に悪人であるのだ。

 しかしそれも鬼との出会いで変わった。マエストロが彼の在り方に興味を示し、交友を深めたころに彼からあることを頼まれたのだ。

 

 『気が向いたらでいいから、子供に芸術の見方を教えてやってほしい』と。

 芸術とは人生そのものであり、自己の表現として世界を写し出す手段と鬼は考えた。大人からすれば芸術に美しさを見出すこともあれば、悲しみや怒り、喜びを表現することがある。しかし子供はそれを見出すほどの経験を積んでおらず、ただの作品としか捉えられないこともある。

 だからこそ大人が芸術を教え、伝えなければいけない。ただただ大人だけで芸術を描き作り出すだけならば、後の世を作る子供が芸術の喜びを知らずに生きていくだろう。

 その先に待つのは、確かな価値を持った作品たちの忘却と衰退である。

 

 それは芸術家であるマエストロにとっても避けたいことではないのか、と鬼は聞いてきた。

 

「……」

「……?」

 

 見られていたことに気づいたアツコが首を傾げてマエストロに向きなおる。他のアリウスの生徒達がマエストロに怯えている中、彼女だけは態度が変わらなかった。それはマエストロ以上に恐ろしい大人を知っていたからなのか、単に肝が据わっているだけなのか。

 

「予定を早め、聖徒の交わりの『威厳』を複製する。ロイヤルブラッド、其方にも協力してもらうぞ」

「……」

 

 アツコの頷きに歪な体を軋ませて廊下を歩く。

 一人の大人としての矜持を持って仕事は完遂させる。だがそれ以降のことはプライベートとなるのだ。何をしようと他者が何を言おうと知ったことではない。

 

 仕事を終えたマエストロが一人の少女を連れて鬼の下に向かうのだって、彼自身のプライベートの話なのだ。

 

 




こそこそ小話
マエストロは鬼ぃさんの予定が空いている日に小さな個展を開いているそうです。絵画だったりオブジェだったり、色んな作品が置いてあるそうな。
時折生徒や一般市民が寄ってみては、程々の満足感を得ながら芸術を学んでいるそうです。
鬼ぃさんはその個展の警備員としてマエストロと雑談をしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。