百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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ちょっと一日だけお休みを頂いてました。
それと、今後の投稿も日を開けつつの形式になりそうです。


第三十八話 任命

 

『現在アリウス分校に所属する生徒はトリニティ総合学園と物流会社"大和"によって保護されており、比較的精神に落ち着きを保った方からアリウス分校について聞き込みをされているとか』

 

『何故大和で保護された生徒がいるのかと聞けば、"元々アリウスという地域があることを知っていたがベアトリーチェによって手出しできない状態が続いていた。そこで連邦生徒会と連携を取り、アリウスに存在する生徒達を保護する計画を進めてきた"とのことです!』

 

『その証拠として大和の社長は連邦生徒会長が承認した書類を連邦生徒会に提出し、受理されたという情報も!これからトリニティ総合学園、大和、シャーレの共同作戦によってベアトリーチェという大人からアリウスを解放するつもりかもしれないという噂話も────』

 

 クロノススクールの生徒が興奮した様子で話す画面の左側には、見覚えのあり過ぎるいつどうやって撮ったのか見当もつかない異形の写真が映っている。

 鬼がリモコンを操作すれば話の途中だったレポーターが消え、真っ暗な画面になった。

 

「なんでこんなことをしてるのか、わかるか?」

「…マダムを社会的に孤立させるため、か?」

「そんなところだ。アズサから聞いた話だと、あいつは今もアリウス自治区の生徒会長とかやってんだろ?ババァなのに。となりゃあ生徒会長としての自治区運営責任が問われる」

「自治区の運営責任…他の学園も生徒会長が学園を取りまとめると聞くが、それを利用するのか?」

「そうだ。あいつはアリウスの運営に不適切であり、今後のアリウス自治区の成長の障害だと下す。そうすればあいつの大義も無くなるしアリウスに居れる理由も消える」

「…マダムが大人しく諦めるとは思えないけど」

 

 ミサキの言葉に鬼も肯首する。今も昔もアリウス自治区は天然の要塞と化しており、わざわざ脱出するメリットがない。

 不規則に変化し続けることで侵入者を迷わせるカタコンベ、マエストロが複製したユスティナ聖徒会、そして元々の目的だろう儀式。

 これらを捨てて出ていくのはベアトリーチェからすれば敗北を認めることとなる。

 そもそもアリウスから出てきた瞬間に鬼との鬼ごっこが始まるのだ。猶の事出ていく気があるわけない。

 

「だからこそ今回の作戦が必要になる。カタコンベを通り、あいつをアリウスから力づくで追い出すんだ。あいつが何言おうがちゃんと書類を通してるこっちに理がある以上、説得力は皆無だ」

「ボ、ボロクソに言うんですね…」

「事実だから仕方ないだろ」

「……ならあなたが言う、私達にしか出来ないことをしてほしいというのは」

「先生のサポートと共にカタコンベを通り、ベアトリーチェをアリウスから追い出す任務に着いてもらう」

「マダムを……」

「アリウスから、追い出す……」

「あいつがいなくなったアリウスには連邦生徒会が承認した高等・中等学校を設立するつもりでな。その学園の生徒会にはアリウススクワッド、お前さんらがやってほしい」

「生徒会を、私達が…!?」

「あぁ。アツコが正式な生徒会長の後継者、ロイヤルブラッドな以上はそのアツコがいたチームが生徒会になるのはおかしい話じゃない。まぁ調停委員会みたいな役割もあとで必要だが……そこは追々だな」

 

 話し終えた鬼が四人を見渡せば、各々が違う反応をしていた。

 アツコは少し考えこみ、ヒヨリは次々と出てくる情報に目を白黒させ、ミサキは内容を理解しているようだがあまり気にしておらず、サオリは俯きがちに自分の手を見つめている。

 

 

「アリウススクワッド、もう一度任務を言い渡す。

 アリウスで威張り散らす大人を協力者と共に叩き出し、アリウスだけが掴める明日を取り戻してくるんだ」

 

 

 その言葉に四人の視線が鬼に集中する。アズサの視線も同様に鬼へと向けば、静かに鬼は語り掛ける。

 

「あいつは今もアツコの命を狙っている。その身を贄として己の物とするために、執念は今も向き続けている」

 

「何のために戦って何のために抗うのか。そして、何のために生きるのか……それは深く考えなくていい。今はただ、大切な家族を守るためにヤツに突き付けてやれ」

 

「『お前の下らない目的のために家族の命をくれてやるつもりはない』、ってな」

 

「そうすりゃあもしかしたらだが……ちょっとだけ胸がすくように感じるかもな?」

 

 少しおどけるように肩をすくめる。固くなり過ぎない空気の中で鬼の思いを感じる。しかし、あぁとてもわかりやすい。

 何のために戦うのか、何のために生きるのかがわからなくてもいい。ただ家族を害そうとする悪意を振り払うために抗う。

 

(全ては虚しいものだ。だがそれが、今日最善を尽くさない理由にはならない……あぁ、アズサ。やっと私にもその意味がわかった)

 

 虚しくとも辛くとも、家族を守るために戦う。そのために一日一日最善を尽くす。そうだ、そのために生きようとするのも一つの答えなのだろう。

 それに……今もなお、自分達と仲良くなれると信じ続ける天使が一人いた。いつしか同じ机を囲み、過去やしがらみに囚われずお茶をしたいと願った、恩人が。

 

 その日が来る時を待たずして死ぬわけにはいかない。

 

 横に立つ三人に視線を向ければ、了承の意が返ってくる。アズサは四人の背筋が先程以上に整う姿に、思わず笑みが零れてしまった。

 

「────了解した、社長」

 

「アリウススクワッドはあなたの命に従う。指示を」

 

 それぞれがそれぞれに信頼の念を置くチーム、そして信念の炎が宿ったサオリの目を見た鬼がクツクツと笑う。そして確信する。この四人ならばあいつと面と向かって立ち向かえる。

 今まで味わった苦しみも辛さも抱えて、初めての反抗期を迎えるのだろう。

 

「……いいね、お前さんら。最高だ」

 

◇◆◇◆◇

 

「まずはアツコ、お前さんはオレと一緒にセイアの護衛だ。あいつがお前さんのことを生贄にして儀式をしようとしている関係上、すまないがアリウスに連れていくことは出来ない」

「わかった。じゃあ鬼さんの事務手伝いでもしてるね」

「そんでミサキとヒヨリとサオリ、三人はさっき言ったように先生達と共にアリウスに向かえ。最優先はベアトリーチェの排除、そして今もいるだろうアリウス生の確保だ」

「「「了解」」」

「アズサ、今すぐ先生の所に戻って伝えてくれ。『突入準備完了、明日の朝に決行する』」

「わかった。鬼はどうするんだ?」

「オレはセイアとアツコの護衛だ。最近セイアの様子がおかしいってのもあるが…オレがいるってだけであいつ自身が手を出すのを躊躇う、真正面から戦ったところで勝てる見込みなんぞないだろうしな」

 

 アズサが部屋を退出し、「次にカタコンベ突破後の話だ」と言うと鬼の影が円形に形を変える。すでに地下通路に通ずる廊下で見ていたとはいえ、見慣れぬ影の動きに四人が注目する。

 

「オレのこの力を使えば、途中にいるだろうアリウス生を無視してベアトリーチェにカチコミに行ける」

「…一個質問していい?その力を使えば、私達の案内が無くてもカタコンベを通り抜けれるんじゃない?」

「五分五分だ。オレがあそこを影で通ったことが無いから、無事に通れるかどうかがわからん。それと、あれ自体が変な構造になってる以上影の世界でも迷う可能性がある」

「まだカタコンベの変動周期は来ていませんけど、元々迷路みたいなところですからね……鬼さんの言う通り、迷う可能性は大いにあります」

「リスクとリターンを考えるなら、視認性が最悪な影の世界で通るよりも現実で通り抜けた後の方がいいってことだ。そしてアリウス自治区に入った後は……この二人が影の世界に入る手伝いをしてくれる」

 

 影から二人分の水しぶきが上がる。そこにはアズサを挟むようにして立っていたお面の生徒が立っていた。片方は長い耳にピアスをしており、もう一人は色白な肌を持っている。

 

「どうも~!お面の人1で~す」

「こんにちは、お面の美少女です」

「顔見えないのに美少女って言っても意味なくない?」

「わかりやすい方がいいかなって……」

「……まぁ、こんなんだがちゃんと強いぞ。二人にはベアトリーチェとの戦いでも援護に入ってもらうつもりだ」

「…社長の協力者だったのか。道理で戦える人間の空気を感じる」

「これでも鍛錬は欠かさずやってるからね、自衛はちゃんとできるよ」

「私達が影の世界での案内をする。でも、相手のいる方向自体はわからないからそこはお願い」

「了解した」

「…調印式の時、こんなのがスタンバってたの?」

「あ、あの時の私達はすでに詰んでたんですねぇ……辛いですね…」

「今は味方だから安心してね!」

 

 お面の人1であるアヤメがそう言えば、ヒヨリは少し苦笑いで反応を返す。

 ヒヨリはアリウスでも屈指のスナイパーであり、相手を見る目はとても優れている。相手の動き、癖、パターンから次の行動を予測して撃ち抜くことが仕事だからだ。

 

 そんなヒヨリから見ても、目の前の二人はサオリと同等以上の実力を持っている。足運び、通路で見た薄いようで張り巡らされた警戒、一般人のような存在感なのにその内に秘めた圧力は強者のそれ。

 この人達、多分だがどこかの自治区の特殊部隊か何かではないだろうか。

 

 鬼?あれは常識の範囲外にいるからノーカンである。

 

「これで今作戦の概要は伝え終わった。以上、これで解散とする。何か質問がある場合は残ってくれ。二人はアリスクに部屋の案内を頼む」

「わかった、四人部屋のところでいい?」

「そこで頼む。空いて無かったら二人部屋でいい」

「はいはーい!それじゃあ行こっか。他のアリウス生の子達も寝泊まりしてるところでね、最近出来たばっかりなんだ」

「他のアリウス生徒も?」

「わ、私も一度見に行ったんですが、すごく整った部屋でしたよ…!」

「ヒヨリ、いつの間に入ったんだ……」

 

 二人に連れられてアリスクが退出する。部屋には鬼と、一人だけ残ったミサキだけになった。

 

「何か、聞きたいことでもあったのか?」

「…あなたは、何でアリウスのことを助けようとするの?」

 

 ミサキからの質問に眉を顰める。どういう意図の質問かと思えば、彼女の澱んだ目と視線が合う。

 

「あなたが言った戦う理由、それは納得できた。ずっと一緒に生きてきた誰かを見捨てたくは無いし、これからも狙われてほしくない。そのために戦う……だけど、その後は?彼女がいなくなった後も生きる理由は何?」

 

 結局は苦しみしかない人生を先延ばしにするだけなのに。

 

「……ふむ。何で生きるのか、か…」

 

 鬼は少し考えこむと、腰に差した刀を抜く。水に濡らしたかのようなきらめきを放ち、一種の芸術作品のような美しさがある。その刃を指の腹に押し当てる。

 今度はミサキが眉を顰める番だった。ミサキは目の前の鬼の戦いぶりを見て以降、鬼はキヴォトスに住む人間のように頑丈な人間なのだと思っていた。でなければあの身体能力の理由がわからない。

 銃ではなく刀を常備するのも、頑丈さと身体に自信があるからであるからだと。

 

 そんなミサキの予想に反するように刀が鬼の皮膚を貫き、小さな傷が生まれて血を垂らす。

 

「…血?」

 

 血。今、鬼はそれほどまでに強く指を差したのか。いやそうは見えなかった。ならば刀が鋭すぎるのか。少し刃を当てるだけで傷が出来るほどの業物なのか。

 

「オレはお前さんらと違って頑丈性は無い。最初から神秘があったわけでもないし、ヘイローを持つわけでもないからな」

「……は?じゃあもしかして、あの時リーダーの銃弾を避けてたのは……」

「当たったら体が吹っ飛ぶからな。さすがに避けるよ」

 

 そう言いながら鬼は刀を仕舞って指をハンカチで拭い、垂れる血の跡を消していく。しかしミサキは鬼の言葉が耳に入らない。

 キヴォトスの外の人間はキヴォトスに住まう人間と違い、銃弾一発で致命傷になる。それが目の前の大人も同様ならば……あの時、サオリの銃弾が一発でも当たっていたら────

 

 リーダーは、人殺しになっていたかもしれない。

 

「────なんで?」

「っと」

「なんで何も気にしてないの?なんで逃げないの?なんで、なんで……ずっと、戦ってるの」

 

 鬼へと近づきその胸倉をつかむ。そして睨み上げるように鬼の目を覗き込むと、仮面の奥にある赤い瞳が見えた。

 何故そんな体で銃弾が飛び交う世界で戦うのか。一発でも当たれば致命傷になるというのに、何故銃弾の雨の中を突っ切っていくのか。

 

 

 ……何でその体を持ってるのがあなたなの?何でその体を持っているのが私じゃないの。

 その体だったら楽に死ねるだろうに。あなたが私の体を持っているのなら、もっとやりたいことが増えるだろうに。

 

 何故?何故?何故、何故、何故────理解が、できない。

 

 

 ……ねぇ。あなたがこれからも生きるのなら、苦しみしかない世界にいるというのなら…………

 

 

 

 私と体を交換してよ。

 

 

 

 

 

 

「あのな、何勘違いしてんのか知らねぇが……オレの体は普通じゃないんだよ」

「……?」

 

 目の前に先程の指が現れる。いくらハンカチで拭ったとはいえ今も傷があるだろう場所、そこには一切の傷跡が無い。

 まるで先程まであった傷が幻のように、綺麗さっぱり消えていた。

 

「……は?傷が、ない?」

「この体は死なずの身。普通の銃弾じゃあ肉が吹き飛ぶことはあれど、死ぬことはない。痛みはあるけどな」

「……」

「そりゃあ昔は普通の人間だったさ。銃弾一発で致命傷だし、体を失えばそのまま。癒えることはない。……だが、オレの生き方を変えた時は一度も無い」

「っどうして?私達と違って頑丈じゃないならあんな場所に出てくるわけにはいかないでしょ。意味わかんない」

「脆かろうが硬かろうが関係なく戦ってたと思うぞ?」

「…意味わかんない、意味わかんない意味わかんない意味わかんないっ。なんで?なんでこんな世界で生きようとするの?肉体なんて死ねば土に帰るだけなのに、ただの器なのに…っ」

 

 頭が茹でるように熱くなり、語気と握りこむ手が強くなる。しかし鬼はずっと落ち着いたままミサキの目を見つめ続け、ついでミサキの手首や首元の包帯に視線をやる。

 いつものミサキならば気づく視線。しかし彼女は気づくことなく鬼を睨む。

 

「……なぁミサキ」

「なに」

「生きるのって、怖いよな」

「────っ」

 

 鬼の言葉に冷や水をかけられた様に頭が冷えていく。掴んだ手が離れ、一歩二歩と後ろへ下がる。

 

「ずっと理不尽なことだらけで、ずっと嫌なことだらけで……なんで生きてるのかもわからない時が不意に来る。自分は今も生きているのかが曖昧な時すらある」

「……」

「オレだってそんな時があったさ。なんで今もオレは生きているのか、なんでずっと刀を振ってたのかって……」

「…大人なのに?」

「大人だって子供と同じ生きている人間だしな。……けどな、生きるのが怖くて……死にたいって思っても、理不尽な死から逃げ出したくなかった」

「理不尽な死…?」

「人生に諦めて死んでしまうのだって、誰かに殺されてしまうのだって、災害で死ぬのだって…須らく理不尽な死だとオレは思ってる。自分が望んだわけじゃないからな」

 

 災害で死んでしまった人々は死にたくて死んだわけではない。人生を諦めてしまう人は望んで死のうとするのではない。

 前者は逃れることが出来ず、後者はその道しか見えなくなってしまうからだと鬼は考える。

 

「……だけど少しでも抗って、少しでも後に生きる誰かに残したくて……人は繋いできた。理不尽な死を乗り越えるために」

 

 災害を知った人は少しでも死を防ぐためにと何かを開発し、逃げる以外にも選択肢があると伝えるために対策を考える。

 遺されたこの身を形見と考え、人は理不尽な死に抗うために繋ぎ続けている。その先により良い未来があると信じて。

 

「子供は未来だ。先に死んじまう大人に比べたら何年も先の未来を作ることが出来る。その未来に理不尽な死がやってこないように、悪意に晒されないためにオレは戦ってきた。生きるのが怖くとも、な」

「子供は、未来…」

「そうだ。それはお前さんもだぜ、ミサキ?」

「私が?未来?」

「そうだ、未来だ。…お前さんがこの先も生き続けたら、いつしか大人になる。今度はお前さんが守る側になるんだ」

「私には、無理だよ」

「ならお前さんは、アツコがベアトリーチェに殺されてもいいのか?あいつはアツコの命を狙い続けるぞ」

「───いいわけない。姫は、私にとっても大事な人だから……殺させるわけにはいかない」

 

 力強いミサキの返事に鬼が仮面の下で微笑む。

 

「生きるための理由を考えるのは難しい。オレの言うことだってオレの答えなだけで、違う立場の人ならそれは間違ってると言うだろう。結局死んでしまう未来は変えられていないじゃないかってな」

「……」

「それを否定することは出来ん。オレもいつしか死ぬし、未来に生きる人間も死んじまう。肉体の限界には抗えない」

「…そうだね。人はいずれ死んでしまう。いくら頑張ったとしても」

「けど未来を思っての行動は間違ってないと胸を張って言える。だろ?」

 

 ミサキに近づき、その手を掴んで優しく握りこむ。包帯の巻かれたその手は一見痛々しく、見る人が変われば何か思うところもあるだろう。

 しかしその手は確かに暖かく、今も生きていることをしかと感じさせる。

 

「ミサキ、あいつがいなくなったあともお前さんが生きる理由をオレが出すことは出来ない。それは、お前さん自身が見つけることだからだ」

「…うん」

「けどな、あいつがいなくなったとしても悲しむ誰かがいるだろう。様々な理由、様々要因で、何で生きるかもわからなくなる子もいるだろう。

 そんな子達にとっての、よりよい未来のために頑張ってもいいんじゃねぇか?」

 

 鬼がそう言えば、ミサキは鬼から視線を外して握りこまれた手を見る。力加減を変えてぐにぐにと遊んでいると、少し鬼が擽ったそうに手を離す。

 しかし逃がさないと言わんばかりに掴み取り、もう一度ぐにぐにとする。

 

「……私は、死のうが生きようがどうでもいい。それは今も変わらないよ」

「……」

「誰かのために頑張るのだって、自分に余裕がある人だから出来ることだと思ってる。だから私に出来るとも思えない」

「……そうだな。余裕があるから誰かに手を差し伸べられる。それも事実だ」

「けど、……けど、今は…それが出来るように頑張る。それでいい?」

「それでお前さんが納得できるなら。あぁでも、一つ言ってもいいか?」

「なに」

「死のうが生きようがどうでもいいってお前さんは言うが……お前さんが死んじまうと、悲しむ誰かが絶対にいる。それはわかっといてくれ」

「……姫とか、ヒヨリとか…リーダーとか?」

「おう」

「その中に、あなたは入ってるの」

「当たり前だろ」

「…………そ」

 

 ミサキは鬼の手を握り続ける。この体をただの器と考えても、この暖かさは何にも代えられない。死んでしまえば、この手を握ることも出来ない。

 それは少し、嫌だと思ってしまう。

 

 様子を見に来たアヤメが呼びに来るまでの間、二人はずっと握り合ったままだった。

 

 

 

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