百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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第三十九話 逆襲

 

 早朝。鬼が指示した場所へとアリウススクワッドの三人が向かうと、見覚えのある顔ぶれが待機していた。

 

「サオリ、ミサキ、ヒヨリ、おはよう。変わりないか?」

「あぁ。アズサはどうだ」

「私か?私も元気だ、昨日ヒフミと一緒にモモフレンズの話をするぐらいにな」

「……そうか、大事な友人を持ったのか」

「えへへ、おはようございますアズサちゃん。暖かいお布団で寝ていると、起きるのが辛くなりますね……」

「わかる。アリウスでは想像できないレベルの快適さに体が鈍ってしまいそうだ」

「おはよう、アズサ。元気そうだね」

「あぁ、ミサキ。ミサキも……何かあったのか?」

「?何が」

「いや、何というか……少し目が輝いているように見えた」

「……気のせいでしょ」

 

 駆け寄ってきたアズサに三人が挨拶を交わしていると、その後方から一人の大人が歩いてくる。ヘイローを持たず、タブレットを持ち歩くキヴォトスの外からやって来た存在。

 そんな先生が三人に微笑みかけながら声を掛けてきた。

 

「三人とも、元気そうでよかった。こんな早くに起きてもしっかりしてるの、尊敬するな~。私は全然起きれないし……」

「…あ、あぁ」

「え、っとぉ……」

「……」

「ん、どうしたの?…あ゛っ、もしかして私、失礼なこと聞いちゃった…!?ご、ゴメンね!そうだよね、本当はゆっくり寝てたかったよね…!」

「い、いやそういうことではなく!…何故、そのように接してくれるんだ?」

「え、どういうこと…?」

 

 本気で困惑して首を傾げる先生と、気まずそうに目線を逸らすサオリ。

 今は協力者であり先生と生徒という関係だが、少し前までは命を狙っていた側と狙われていた側だった。

 サオリにとって目の前の相手はその対象であり、己を止めようとしてくれた存在がいたとはいえ狙っていた事実は変わらない。

 

 あの時のことを謝っていなければ、許してもらったわけでもない。憎悪を向けてきた相手と和やかに会話をしようとする彼女の行動にわけがわからなかった。

 

「先生は私達に命を狙われた。なのに何故恨みを向けない…」

「…うーん、ねぇサオリ。私はみんなのことを恨んでないよ」

「……え?」

「サオリ達はあの時のこと、後悔して、反省してるでしょ」

「……あぁ」

「また同じことをしようとする?」

「しない。絶対に」

「ならよし!……人は間違いを犯したら反省して、何が間違いだったのかを学ぶ。それはアリウスの子達も一緒。もう次はしないって決めた人を責め続けるのは、違うと思うな」

 

 そう言った先生はこれからのことを聞いてくる。アリウスを何とかしたらどうするのか、何かしたいことは見つかったりしたのか。

 もしも困ったことがあったらいつでも相談に来てほしいとか、シャーレの当番も募集している等、楽し気に。

 

 徐々に先生の距離感の測り方に心地良いものを感じたのか、サオリだけでなくミサキやヒヨリも少しずつ歩み寄るようになる。

 そんな四人を見守るアズサの傍にヒフミが立った。

 

「アズサちゃん、まだ問題は終わってませんが……良かったですね」

「あぁ…本当に、良かった」

 

 感慨深げにアズサが呟くと、サオリの手首に巻かれた時計からアラームが鳴った。すぐさま三人は先生との会話を切り上げ、それぞれの装備を整える。

 マスクを着け、リュックを背負い直し、カタコンベに目を向ける。

 

 作戦の開始時間がやって来た。

 

「…先生、カタコンベを通り抜けた後は構造が変わるタイミングがすぐに来る。マダムを倒すその時まで帰ってくることは出来ない。それでも大丈夫か」

「うん。皆、案内はお願いね」

「任されました…!」

「置いてかれないでね」

「ヒフミ、行こう」

「は、はい!」

 

 カタコンベへと足を踏み入れる。緊張する者もいれば冷静な者もいるチームが明日を掴むための戦いに挑む。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 カタコンベ内で発生した戦闘も恙なく終え、アリウス自治区に侵入する。すると足元の影が波立ち、手を振りながら二人分の上半身が現れる。

 

「わっ、誰?」

「どうも~ずっと皆さんの影にスタンバってました」

「私達だけじゃカタコンベは通れなかったけど、みんなが通ってくれたおかげで付いてくることが出来た。ここからはこの中に入ってね」

「先生、この二人が残りの協力者だ。安心してほしい」

「そうなの?じゃあ安心できるか……よろしくね!」

「「よろしく」」

「みんな、恐らくベアトリーチェはバシリカにいるはずだ。方向的に言えば……こっちの方向だ」

「先生、これから私達はここを通ってバシリカに向かう。ヒフミも一緒に来てくれ」

「だ、大丈夫でしょうか…!?私着替えなんて持ってきてないです…!」

「濡れたりしないから大丈夫、不安なら私の手を握っていい」

「……は、はい」

 

 最初に先生が安全確認を踏まえて飛び込み、続いてヒフミとアズサが足を踏み入れる。恐る恐るヒフミが影の中へと沈んでいくが、アズサの手を握る腕に震えは無かった。

 残った三人が辺りの安全を確認すると、三人も影へと足を踏み入れる。するとミサキが何かを取り出した。

 気になったヒヨリが後ろから確認して、唖然とする。

 

「…え?ミサキさんそれ何ですか?」

「鬼が渡してくれたモーションセンサー付きの暗視ゴーグル。始まる前に渡してくれたの」

「なんか、特殊部隊の人が付けそうなゴーグルですね……」

「?ヒヨリ、私達は特殊部隊みたいなものだろう?」

「いえそれはそうなんですが…違和感が凄くて」

 

 黒いマスクに滅茶苦茶ゴツいゴーグルをつけた身内の姿に違和感が拭えないヒヨリだったが、ミサキからすれば無くてはならない装備だった。

 というのも、影の世界はまず見えないし動きも慣れていない内は移動もままならない。時々鬼の影の世界に入るアヤメ達は慣れているが他は違う。

 

 それに加え、ミサキは閉所恐怖症も持っていた。以前入った際は複数人で固まって入ったが、今回は移動を重視するためどうしても人同士の距離が空いてしまう。

 そうなればミサキにとっては辺りの様子もわからない闇の世界に一人いると錯覚してしまう可能性があった。

 

 これの対応策として用意されたのが、ミサキの付けているゴーグルだった。これにより影の世界に存在する構造物の形を読み取りつつ、共に行動する者達の姿も確認できる。事実、これを付けている間はミサキも安心して影の世界に入ることが出来た。

 

 ちなみにゴーグルの製作が間に合わなかった場合、全員にロープを括り付けて移動するか電車ごっこで影の世界に入り込む案が挙げられていた。

 これから大人との対決だというのに電車ごっこで突っ込む。前代未聞の事態だろう。

 

 それはさておき全員が影の中へと入り、しばしの休憩に入る。さしものベアトリーチェも鬼の力が及ぶ影の世界には手出しできないようで、ユスティナ聖徒会やアリウスの生徒がここに来ることはなかった。

 

「…ここからバシリカまでノンストップで向かうんだよね。そしたらそこで、ベアトリーチェと出会うわけだ」

「あぁ、彼女はあなたのことを最大の障害と称していた。となれば自分からやって来る相手を待ち構えてくるはず」

「こっちが向かってることはわかってるだろうし」

「じ、自分達の方から向かわないといけないのは、やっぱり怖いですねぇ…」

「だがここで決着を着けなければ、みんなの命に危険が及ぶ。…他の皆に手出しさせるわけにはいかない」

「…アズサちゃん、一人で突っ走ったらダメですからね?先生も、アリウススクワッドの御三方もいるんですから、みんなで立ち向かうんです」

「…!…あぁ、すまないなヒフミ。少し焦っていたかもしれない」

「……うん。私から何か言うことはなさそうだね。よし!ちょっとでもいいから体力は休めよう!アズサの言う通り、決着の時が近づいてるからね」

 

 アリウススクワッドと補習授業部の二人の返事を境にしてそれぞれの態勢で休息を取る。喋っていなかった二人も同様に休む態勢に入った。

 

「ねぇ、アヤメ」

「ん、なぁに?」

「セイアさん、大丈夫かな」

「……」

 

 声を潜めて問いかけるナグサに対し、アヤメは少しの逡巡を経て口を開く。

 そこには、絶対的な信頼の思いが籠っていた。

 

「大丈夫。だって、鬼さんが一緒にいるんだから」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 一方その頃、『大和』が管理する一戸建ての家の中で鬼は眠るセイアのすぐそばにいた。

 鬼の反対側にはミカもいて、二人から少し離れた所ではナギサとアツコが共に書類の整理を行っていた。

 

 瞳が閉じたままのセイアを不安げにミカが見守る中、セイアの腕の中には一つのお守りが握られていた。赤色を基本としており、鬼の面のような模様が施されている。

 

「…セイアさんはまだ、起きることは出来ないのでしょうか……」

「セイア次第、だな。セイアが見たっていう未来が気がかりだが……それ以上に精神的なダメージもある筈だ」

 

 

 アリウス自治区へサオリ達が向かう前のことだった。突然セイアからのSOSが鬼へと届き、アツコと他のティーパーティーを連れて向かうと何処か虚ろ気なセイアがミネの隠れ家にいた。

 息も少しだけ浅く、現実を見ているような気配が薄い。

 ミネが瞳孔の確認を行っている最中だというのにまったくの反応すらない異常事態にミカとナギサはパニックに陥る寸前、鬼の横にいたアツコの姿を確認してセイアが取り乱した。

 

 ミネと鬼が落ち着かせるために抑え込もうとすると、譫言のようにセイアが呟く。磔、儀式────終焉。

 

「セイア、セイア!オレを見ろ!!」

「っぁ……鬼面、さん…」

「大丈夫だ、今お前さんが見てるのは現実だ。アツコはここにいるし、みんなもいる。世界は滅んじゃいない」

「…………、すまない。少し、手を握ってくれないか……出来るのなら、全員で…」

「あぁ、いいぞ。ミネ、それに三人とも。頼めるか?」

「お任せを」

「う、うん!」

「えぇ、構いませんとも!」

「よくわからないけど、こうすればいいの?」

 

 全員でセイアの手を握っていると次第にセイアの生気が戻り始め、取り乱すこともなくなった。そしてセイアが語りだす。

 

 鬼がアリウススクワッドの説得を行っていた頃、セイアは久方ぶりの予知夢を見ていた。以前ならば忌避していた夢だったが、セイアは受け止める覚悟を持って見つめていた。

 襲い来る絶望に少しでも抗うための情報を得る。そのために逃げてばかりではいけないと思い始めていたからだった。

 

 そしてセイアは見た。あの時の滅びの未来────磔にされ、生贄となったアツコの姿を。

 

「私が…?」

「だけどセイアちゃん、この子ならずっと鬼さんの傍にいたよ?」

「私もそう思ったさ。だが私の思考の整理がつく前に場面が切り替わり、さらに取り乱したよ……鬼面さん、君は以前ある組織に属していたと言っていたね。そこには、黒いスーツを身に着けた大人はいたかい?」

「……!!まさかセイア、ゲマトリアの会合を見ていたのか!?」

「「「っ!?」」」

「恐らく、だが……あれは予知夢ではなく、明晰夢の方だろう。予知よりも現実味があり、理解できないあの空気は確かなものだった」

「クソッ!制御下に無い能力の欠点だな…!」

「セイアちゃんは何ともないの…?」

「…会合では、ある女が一人の紳士らしき大人に食って掛かっていた。確か、マエストロと言った大人に。私はそれを見ていると、女が実体が無い筈の私に気づいたのさ」

「…!」

 

 ミネがセイアの身体検査をしようとすると、セイアが首を振って体自体に傷は無いことを伝える。しかしその目は虚ろで、現実味を持った意識が無いように見える。

 ナギサが心配になってセイアの顔を伺えば、淡い笑みが返ってくる。

 

「私は今、現実と夢の境が曖昧になっている。君達の手を握っていなければ自信を持てないほどに……。元々明晰夢の見過ぎもあっただろうが、あの会合を目にしてからはさらに酷い気分だ…」

「そんな…!」

「深淵を覗くとき、深淵もまた己を覗き込む……少しばかり、事を急いてしまったかな。はは…」

「……鬼さん」

「…わかってる。セイア、ちょっと待ってろ」

 

 ミカが不安げに鬼へ助けを求めると、鬼は少しの間部屋から退出する。何をしに行くかも語らずに出て行った鬼を五人が見送ると、何かを握って戻ってきた。

 

「セイア、これからまた眠っちまいそうになったらこれを握れ。役に立つはずだ」

「これは…?」

「お守り。あ、中身は覗くなよ?効果が無くなっちまうからな」

「お守り、か。…ありがとう、鬼面さん。気休め程度に、持っておく、よ……」

「…セイアちゃん?セイアちゃん!!ね、寝ちゃった…」

 

 鬼がお守りを渡して一時もせずにセイアが眠りに落ちる。いくらミカが起こそうにも開かれることのない瞼は、まるで死んでしまったかのよう。

 ミネが呼吸と体温を診断し、身体そのものに異常は無いことが確認されてやっとミカとナギサは腰を下ろした。

 

 

 セイアが眠りに落ち、サオリ達からカタコンベに侵入した旨の連絡が届いても未だ瞳が開くことは無かった。

 少しでも意識を他のことに向けさせるため、ナギサにはアリウス制圧後の学校設立に必要な教材、施設についてまとめた文書の確認を行ってもらっており、アツコにはその補助に回ってもらっている。

 

 今の精神状態では困難と考えたミカは鬼の傍でセイアを見守っており、ぎこちなく羽が揺れる。

 

「オレの予測になるが……」

「?」

「セイアの見たアツコの儀式の未来は、この世界の未来ではないのかもしれないな」

「違う世界の未来ってこと?でもどうして……」

「前から気になってたんだ。なんでオレの姿が無いのかって。アツコが生贄になんのもキヴォトスが滅びるのも、オレが動かないわけがない。そもそもアツコに関してはオレが傍にいるしな」

「確かに……え、じゃあセイアちゃんは、鬼さんがいない未来を見てたってこと?」

「ありえなくはない。なんでオレがいないのかは知らんがな…」

 

 思い出すのは去年のこと。何がきっかけなのか、アヤメと並行世界のアヤメが入れ替わった事件があった。彼女の世界には鬼がおらず、彼女の精神は限界を迎え始めていた。

 

「オレがいない世界があることはおかしくない。となれば、何でセイアがそんな未来を見たのかだな」

「んー……調印式の時からセイアちゃんに何かあった覚えはないかな。いつも通り毒吐いてくるセイアちゃんだったよ」

「…あいつらがいる場所に近づいちまったから、か?それぐらいしか思いつかんな…まぁこのことはどうでもいい。問題は、セイアの予知能力だ」

「やはりセイアさんに悪影響を?」

「残念だが、ここまで害があったのなら切り離すことも考えるべきだな。時間を掛けてセイアに馴染ませれたならいいんだが、滅びが訪れるって話だからな……時間も足りない」

「私達には、寄り添うことしか出来ないのですね……」

「セイアのことを考えて寄り添ってやれるだけ十分さ。ちゃんと見守ってよう」

「…はい」

「……う」

「……セイアちゃん?起きたの!?大丈夫────」

 

 瞬間、セイアの体が跳ね上がり苦し気な声が漏れ始める。仰け反った体で必死に息をしようとするが吸えず、どんどん顔色が悪くなる一方だった。

 

「セイアちゃん!?セイアちゃん!!」

「ミカさんそのまま抑えてください!」

「ミカはナギサとそのままセイアを支えてろ!アツコ、ミネを呼んできてくれ!」

「わかった!」

「鬼さんは!?」

「やれるだけのことはやる…!」

 

 ミカとナギサがセイアを支えている間に鬼はセイアの持つお守りに力を込める。仄かに赤く光りだし、模様が浮かび上がる。しかしセイアの状態は変わらず苦しいまま。

 ミカとナギサが傍によってからは少しだけマシになったように見えたが、お守りの効果はまだ発揮していない。

 

「頼むぞ、セイア……!」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「…こ、こは……」

 

 誘われるままに眠りに落ちたセイアが目にしたのは、ボロボロになったどこかの聖堂だった。見覚えのある建築様式に息が詰まるような空気。

 

「まさか……アリウス自治区?」

 

 不安げに手を握れば、何かを持っていたことに気づく。よく見れば、鬼が渡してくれたお守りだった。…こんなにも明るい色をしていただろうか?

 

「────えぇ、ここはアリウスの「バシリカ」と呼ばれるところです」

「っ!!────うっ……!?」

「覗き見をしているネズミがいると思ったら、やはりあなたでしたか……まさかこの至聖所まで追いかけてくるなんて」

「……が、は…っ」

「夢の中だと思って油断していたのですか?預言の大天使……いえ、百合園セイア」

「……ここが、あの祭壇……」

「えぇ。他のゲマトリアでも訪れたことの無い秘境です。光栄に思いなさい」

 

 吊り上げられたまま光が視界に入る。ただ見るだけだというのに不吉な気配を感じ、全員が栗立つように恐怖を覚える。

 

「お前は…このキヴォトスに、何を呼ぼうと…っ!?」

「フフ…あなた達には到底理解できないモノですよ。さぁ、このままその光に焼かれなさい……」

「あ、が……っ」

 

 光に晒され続けている内に意識が混濁し始める。体の何処かが引っ繰り返るような悍ましさを覚え、痙攣していた体の力が抜けていく。

 ついには完全に脱力しききってしまい、持っていたお守りも地面へと落下し────

 

 

 

 

 桜吹雪が視界を覆いつくす。

 

「っ!?これは……あの紛い物の!!」

「……?」

 

 気づけば、誰かの腕に抱きかかえられていた。薄れる意識のまま腕の持ち主に目を向けようとするも頭は動かず、その身に体を委ねる。

 父親に守られる娘のような安心感を抱きながら、セイアの意識はもう一度眠りについた。

 

 そして、目を覚ます。

 

「……何処だ、ここは…?」

 

 懸造りで建てられたような木造の舞台にセイアは立っていた。辺りを一望できる構造で、緑豊かな山々が心落ち着かせる。

 

「まさか、彼の言っていた百鬼夜行自治区…?」

「ふぅむ、お客かの?妾以外にここに来ることの出来る者がおるとはの」

「っ!?…どちら様かな」

 

 声のする方を見ると、白桃色の長い髪を持つ狐耳の少女が立っていた。外見からは察せられないほどの老獪な気配を内包するその姿は、どう見ても一般人ではない。

 そもそもセイアの見る明晰夢と同じ世界にいる時点で特殊な存在であると考えられる。

 落としたはずなのに手元に戻っていたお守りを握りしめると、目の前の少女がお守りに気づく。

 

「…ふむ、なるほど。道理で鬼の気配が……あいわかった。もし、そこのお主」

「私のことかな?」

「そうじゃ。折角の客人じゃ、少し教えてやると今お主は夢と現実の境にいる。じゃがお主は現実に帰りたいのじゃろう?その手伝いをしよう」

「なんだって……?」

「まぁ、怪しむ気持ちもわからんでもない。当然妾と取引してもらう」

 

 

「お主の持つ預言の力、ここに置いて行け」

 

 

 

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