百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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まだ書き切れてないけど我慢できないので投稿。出来次第順次投下していくつもりです。


第四十三話 散策

 

「鬼さん早くー!」

「あいあい、ちょっと待てって……おぉ、いつにも増して元気だな二人とも」

「当たり前でしょ!ね、ナグサ!」

「うん…私達、昨日はちゃんと眠れないぐらいに楽しみだったから」

 

 トリニティ内に立つホテルからアヤメとナグサが鬼と共に外出する。

 百花繚乱の正装を着込みながら談笑する三人はこれといった目的地も無く歩き出すと、無性に楽しくなってアヤメから笑みが漏れる。

 二人もそれに釣られてしまって笑えば、まだ何もしていないのに楽しくなってくる。

 

 今日は三人だけの、鬼と過ごす一日なのだ。

 

◇◆◇◆◇

 

 アリウスとの会議も終わり、無事にアリウス自治区代表として選ばれた梯スバルとも話が付いたので鬼も安心して元アリウス生達に後を任せた後のこと。アヤメとナグサは鬼に埋め合わせを願ったのだ。

 埋め合わせと言うのは鬼がユスティナ聖徒会の誤情報を二人に伝えてしまっていたこと*1についてで、二人はそれを口実に鬼と三人でトリニティを散策したいと願った。

 

これを鬼は了承し、折角トリニティに来ているのだからトリニティ内を散策してみることに。

 

 早速三人はトリニティ内の服屋へと向かった。こういう時にしか見れない服もあるだろうし、気に入れば購入してみようか、などと考えながら店内に入れば煌びやかな服が陳列する光景が広がる。

 

「わぁ…!」

「凄い……普段着からハイブランドものまで揃ってる」

「トリニティで出すとなりゃ、それだけ資本金に自信がある店なことが多い。そもそもがお嬢様学校だしな」

「そ、それもそうだね…どうしよう、今更になって庶民的な私が来てよかったのかわからなくなってきた……」

「頭がくらくらしちゃいそう……」

「一歩入ってちょっとしてから何やってんだ。別に気になる服があるんだったらオレから出すから気にすんな」

「いや無理無理無理無理、気にするよ」

「鬼さん鬼さん、この服の値段を見て。遠慮なしにこれ欲しいなんて言えない」

「いいからいいから。そんなに気が引けるんだったらカジュアルなやつでも見に行くか?そっちなら気にすることもないだろ」

 

 0が何個も並んだ値札を振るえた手で指さすナグサとアヤメの背中を押しながら普段着コーナーへと向かう。店自慢のブランドものから離れると、次第に二人の青ざめた顔が元に戻っていく。

 あまり見ない二人の反応に鬼が面白がりながら連れていけば、やはり普段着を扱うコーナーと言うこともあって人の数もそこそこある。

 

 あまり無い機会なので二手に分かれて物色することになった。というのも、鬼はファッションに関してはあまり無頓着と言えるので二人と一緒にいても良いアドバイスなんて送れる気がしない。

 ならば最初から二人に任せ、後から感想を言えばいい。そう判断した鬼が黒を基調としたジャケット系を眺めていると、アヤメの呼ぶ声がした。

 

「鬼さん、ちょっとこっち来て〜!」

「どうした?欲しい服が決まったのか」

「この二つで迷ってて……鬼さんに選んでほしいの」

 

 そう言うアヤメの手元には白色のパーカーとカーディガンが握られており、交互に体に重ねては着比べている。

 

「オレに聞かれても困るがな……」

「いいからいいから!どっちがいいか教えてくれるだけでいいしさ」

「…下は決まってんのか?」

「あ、ズボンはこれにしようかなって。これならどの普段着にも合いそうだし」

 

 腕にかけていたジーンズを見せる。他にはデニムのショートパンツ等も選んでいたのか、買い物かごにいくつか入っていた。

 

「そっちはいいのか?」

「デニムのこと?こっちは夏用にしようかなって。この二つならジーンズの方が合いそうだしね」

「なるほどね。そんでジーンズが下なら……こっちかね」

 

 鬼がカーディガンを手に取る。アヤメはパーカーを戻し、ジーンズとカーディガンを自分の上に重ねてみる。全体的に明るい雰囲気を見せ、着心地も良さそうだ。

 

「カーディガンか~!選択理由は?」

「パーカーも悪かないが、こっちの方が爽やかさがあんだろ。お前さんの明るい性格的にそっちの方が良さそうだ」

「なるほど、爽やかさか…確かにこっちの方が良いかも。後でインナーとか探さないとな。あ、せっかくだし着てくるね!」

 

 ぴゅーっと試着室に駆け込んで数分。選んだコーデを着込んだアヤメが現れた。どうやらインナーは薄紫色にしたようで、紫色をした瞳に合った良い色合いをしている。

 「お~」と鬼が声を漏らすと、気分を良くしたのかちょっとしたポーズを取る。整った顔立ちと言うこともあり、雑誌とかに載っていても不思議には思わない。

 

「いつもは百花繚乱の制服を着てるお前さんを見てたから、新鮮味があるってのはそうなんだが……こういうのがあれか、かっこ可愛いってやつか。いいね、似合ってるぞ」

「ふふ!こういう服装もいいよね~。キキョウ達の私服姿とか気になるし、今度百花繚乱でファションショーでも開こうかな?」

「準備もそうだが、時間あんのか?」

「ぶっちゃけると無いかな」

 

 苦笑しながらアヤメが答えると、鬼も同意するように頷く。ゲヘナの風紀員会もそうだが、学園ごとに存在する治安維持機関の休みは非常に少ない。ここがキヴォトスであるというのも理由の一つだが、日常的に学園内の巡回を行う必要があるのでその分時間が必要になる。

 人手があるのなら、ルーティーンを決めるなりなんなりで時間の確保が行えるが……百花繚乱は人数が限られているのでそれも難しい。

 

 時々ではあるが休日を入れているので、時間が無いというわけではないが……あまり大きなイベントをするというのは厳しい。

 

「夏休みとかなら別なんだけどね~」

「夏休みか……成人したら夏休みなんて概念が消え去るからな、今の内に楽しんどけ」

「え、大人になったら夏休みとかって無いの…?」

「無い。大学生ならあるにはあるだろうが」

「えー…一年の時とか二年の時とか、鬼さんといつも一緒にいたから夏休みがある人もいるんだなって思ってたんだけど」

「オレはズルしてるからそう見えるだけで、いつも働いてんぞ?前に大和に来てただろ?」

「そういえば鬼さんって大和の社長だったっけ。実感わかないな…」

「鬼さん、今いいかな」

「ん、ナグサか。どうし……おぉ?」

「お~!」

 

 鬼とアヤメが雑談をしていた背後からナグサが声を掛ける。振り向いた鬼と体をずらしてナグサが見えるように動いたアヤメは、驚きの声を漏らした。そこには確かにナグサがいたが、かなりの様変わりをしていた。

 

 上は白のブラウス、下は淡いブルーをしたロングスカートをしており、儚げな雰囲気がより前面に出ている。

 

「……ど、どうかな」

「凄いなナグサ、和風なら当然似合うとは思っていたが…洋風でもめちゃくちゃ似合ってんな。西欧系の絵画にいても違和感ないぞ」

「ナグサも良いセンスしてるね~。そういう物静かな服装は私に合いそうにないから、ちょっと羨ましいや」

「………あ、ありがとう。アヤメも、似合ってるよ………」

「「声ちっちゃ」」

 

 鬼とアヤメからの誉め言葉によってナグサの顔に血液が集まり始めたことで真っ赤に染まり、恥ずかしそうに顔を逸らす。楽しそうにアヤメが絡みに行けば、より恥ずかしくなったのかナグサの体が固まった。そしてアヤメが鬼に向かってポーズを取る。

 鬼は最初、なんのポーズなのかとわからなかったがすぐに理解してスマホを取り出す。

 

「ハイチーズ」

「いぇい!」

「ぃ、ぃぇぃ……」

 

 いつにも増して楽しんでいるアヤメと楽しいが真っ赤な顔を隠したくて声が出ずらかったナグサ。そんな二人の様子を珍しく笑う鬼がパシャリと写真を撮る。

 

「次は鬼さんも一緒に!」

「あ?オレもか」

「当たり前でしょ!三人で来たんだから、三人で撮らないと!」

「あ、アヤメ、鬼さんの服が決まってるかわからないし、写真はまた今度に……」

「ナグサは恥ずかしがらないの!折角似合ってるのに勿体ないよ!」

「ミ゜ッ」

「トドメ刺してねぇか?……服はまぁ、決まってるしな…着てくるか」

 

 鬼がそう言うといくつかの服を見繕って試着室に入る。そしてアヤメがナグサの蘇生を試みていると、鬼が入った部屋のカーテンが開けられて、中にいた鬼の姿が目に入る。

 

「この前、レンゲにジャケットをあげたから予備が無くてな。どうだ、似合ってるか?」

「……」

「?どうした、なんで固まってんだよ」

 

 アヤメの目の前に立つ鬼の姿は、いつもの和服姿とは似ても似つかない服装だった。

 黒のライダージャケット、黒のボトムスに二つ以上に黒いTシャツ。いつの間にか下駄から運動靴に変わっていて、手元はライダース手袋で覆われている。

 さらに鬼の面がずれて下の顔が少し見えるのがアヤメの心を擽った。

 

「……かっこいい」

「おー、似合ってるみたいでよかったよ。オレはお前さんらみたいに、カジュアル風なのを着こなせる気がしないからさ。こういう系の服の方が良さそうだな」

「なんていうか、ダンディーな大人って感じがして、良い。……ねぇ鬼さん、そのまま右手を、こう……首に重なるようにしながら左に持ってってピースしてくれない?」

「急にどうした?…こうか?」

「で、悪そうな笑顔でべーって……」

「ん」

「ウ゛ッッッ」

 

 長舌+かっこいい+好きな人の悪そうな笑顔+目元が見えないままという焦らしの過剰摂取をしてしまったアヤメが胸を抑えて倒れた。

 倒れた人とは思えない満足げな顔で倒れるものだから、鬼はポーズを取ったまま首を傾げる。

 

 と、倒れたアヤメの横から呻き声が聞こえたかと思うとナグサが起き上がる。額に手を当てている辺り、鬼からのストレートな誉め言葉が効いたようだ。

 そして満足げに倒れるアヤメに気づき、鬼へと目線を向けて……鼻血を吹き出しながらアヤメの横に倒れた。

 

「……満足、です」

「……そうか」

 

 どう反応すればいいのかわからず、何とか返答した鬼。その目の前には満足げな表情で倒れる二人。

 中々に楽しい買い物だな、なんて思う鬼であった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「ほんっとごめんね鬼さん……急に倒れちゃったりして」

「まぁ、満足だったんなら構わんよ。何に満足したのかは知らんが」

「お会計も鬼さんがやってくれたんだよね。至れり尽くせりで申し訳ないな…」

「あっそうだお会計!鬼さんが払ってくれたんだよね!?本当にゴメン、後でちゃんと返すね…!」

「オレが出すって言ったんだから気にしなくていい。ほら、そろそろ昼飯にでも行くぞ」

「「ありがとうございます……」」

 

 服屋から退出してしばし街道を歩く。すでに会計を済ませた服は鬼の影に収納し、百鬼夜行に戻った際に開封するのだ。

 余談だが、トリニティで出店できるレベルということもあって安くても五桁は下らず、鬼が買ったライダージャケットなどはもう一つ0が付いていた。二人は自分の分は出すつもりでいたため、至れり尽くせり過ぎて申し訳なく思う。

 

 鬼はこの時間を三人で過ごすためなら必要な出費だと考えているが、二人は何かお礼をしなければならないと決意する。といっても、トリニティにいる間は甘えるしかないだろう。鬼を出し抜くようにしてお会計を済ませようとしても、先回りされた挙句全額支払い済みになっている光景が目に浮かぶからだ。

 

「何だったらお礼になるかな……」

「鬼さん、たまに仕事をしてるからそれ用のお菓子とか作ってみる?」

「それなら私達でも出来そうだね」

「何の話をしてんだ?」

「二人だけの話!それより、お昼はどうするの?」

「んー……トリニティでがっつり系は無いイメージだし、カフェにでも寄るか」

「じゃああそこ行ってみない?おしゃれだし、人もそこそこ入ってるみたいだよ」

「そうするか。ナグサもそれでいいか?」

「うん、私も行ってみたいかな」

「うし、ならここにするか。すみません、三人なんですが…」

「三名様ですか?でしたら、こちらのテーブルに…」

 

 中に入ってみると、木造の天井やテーブルが出迎える。カフェと言うより、ログハウスに近い。普段の生活の延長線上にありそうな雰囲気の内装だと感じる。

 

「へぇ、ランチメニューは結構あるみたいだな。二人とも、先選んでいいぞ」

「ありがと~。それじゃあ私は…このカツパンってのにしようかな」

「えっと、私はハムトーストで、アイスティーを一つ…」

「了解、それじゃあ…店員さん、注文したいんだが…」

「はい、何を注文なさいますか?」

「カツパンとハムトースト、あと小倉トーストとミニサラダを一つずつ。それとアイスティーとアイスコーヒーを頼む」

「アイスティーはレモン、ミルク、ストレートがございますが、どれにしましょうか」

「それじゃあ、ミルクでお願いします」

「承りました。少々お待ちください」

 

 店員らしきロボットが注文内容を持ち帰って数分、早速アイスティーとアイスコーヒーが届いた。添えられた甘味と共にコーヒーを口に含むと、独特な風味とコクが喉を通る。甘味が苦さにちょうど良く、ほどよいアクセントになっていた。

 

「…美味いな。また黒服に勧めたい店が出来た」

「コーヒーかぁ。私はあんまり飲まないけど、どんな感じなの?」

「飲んでみりゃわかる。この豆を食った後に飲んでみな」

「……にがい」

「ククッ、最初はそんなもんだ。慣れたら風味に嵌るのさ」

「私の紅茶、いる…?」

「ちょうだい……」

 

 アヤメがコーヒーとアイスティーの両方を味わい、甘味を食した頃にランチが届く。それぞれの目の前に頼んだ料理が届けられ、程よい温かみを持った香りにワクワクしてしまう。

 あまり食べない小倉の小豆が乗ったトーストを鬼が頬張り、ハムトーストを少しずつアヤメが食べ、メニューで想像していた大きさを遥かに超える大きさのカツパンにアヤメの手が止まる。

 

「でっっっか」

「思ってたよりもデカいな?あぐ…うん、うまい」

「ハムトーストも美味しいね。アヤメは、食べれそう?」

「なんとか……きつかったら頼んでもいい?」

「ならその時はオレが食うか」

 

 予想外の大きさに驚きながらも恙なく食事が進み、程々の談笑も加えながら腹ごなしを終える。

 

 その後、トリニティ内をうろうろしながら午後を過ごしていく三人。時々補習授業部の面々とすれ違ったり、四人の一年生らしき生徒達が並んでいたクレープ屋さんに並んでみたり。

 思っていたよりもトリニティの散策を楽しむアヤメとナグサは、河川敷近くを歩きながら鬼を盗み見る。

 

 鬼は先程買ったクレープを食べるため、珍しいことに鬼の面をずらしている。どうやらクリームが多いものだったようで、汚れるのを避けるためにずらしているらしい。

 口を開けるたびに見える舌に意識が持ってかれるが、何とか耐える。

 

「…ねぇ、鬼さん」

「ん?どうした」

「……」

 

 口を開き、質問しようとしてやっぱりやめる。ナグサも質問したそうだが、アヤメと同様にそれを聞くことに対して憚られる思いを抱いているようだった。

 

 二人が聞こうとしていること。それは、アリウス自治区で耳にした鬼の話。ベアトリーチェが話していた、昔の鬼のこと。『人を、生徒を食べた』というその話の真偽を鬼に確かめたかった。

 

 恐らくだが、この機会を逃すと聞くことが出来ない気がする。二人はそう直感した。だがそのことを聞いてしまうと、今までの関係が崩れてしまうような気配すらした。

 

 『鬼は昔、人を食っていたのか』、そのことを口にしようとすると背筋に悪寒が走る。聞くことに恐怖心を抱いているのか、それともその質問の内容に対して怯えているのかわからない。

 

「……ッ」

「……?」

 

 当然鬼は二人の質問の内容を察することが出来ない。自分に何かを聞きたいのだろうことはわかるが……何を聞きたいのかはわからない。当然だ、二人は口にせず口内で言葉を押し留めている。

 そんな鬼に対して申し訳なく思うが、それでも質問をしようとしても口に出せない。結局、そのままの質問を諦める。そして少しだけ頭を捻ることにした。

 

「っ鬼さんはさ、誰かの……人の命を、奪ったことって、ある?」

「……人の、命を?」

 

 訝し気に首を傾ける鬼の疑問に頷く。真剣な様子のアヤメに、心配そうだがこちらを案じるような視線のナグサ。誤魔化すのは余計に心配させるだろうと鬼は察する。

 

「人の命、か……オレはこの刀を握ってから何百年と経つだろうが、人の命を絶ったことは無いな。ロボットぐらいか?粉々にしたのって。それだって記憶媒体までは壊してねぇし……」

「じゃあ鬼さんは、さつ、殺人を犯したことは無い……?」

「無いな。イメージの中でそういう動き自体はするが、実際にはしない。んなことしちまったら、大人としてお前さんらの前に立つことが出来ん。どうしようもない人間の場合は別だが……

「そっ、かぁ……。……………~~~~っ!!」

「……よかったぁ…!」

「???何が?」

 

 突然感極まった様子でアヤメとナグサが抱き合う。いきなりの質問に答えただけの鬼は何がよかったのかわからずじまいなので、疑問符しか頭の上に浮かばない。

 

「…まぁお前さんらがよかったならいいか。さてと、そろそろ帰るか。ナギサ達には今度土産でも持ってこよう」

「うん!えへへ、何がいいかな~」

「お饅頭とかいいんじゃないかな。あと、焼き鳥とか」

「なんで焼き鳥?保存すんの難しいぞ」

 

 二人の胸につっかえていた小さなとげが取り除かれたような解放感に、二人は清々しい気分になる。結局二人の質問の意図が分からなかったが、二人が良いならヨシッと鬼は判断した。

 

 本来の目的だった埋め合わせの散策に満足しながら、二人と鬼は百鬼夜行へと戻るのだった。

 

 

*1
第三十五話 打開

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