百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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リアル事情で執筆時間が確保できないのつらたん。でも何か投稿したい欲が出る。なので一話だけ投稿です。
今度はちゃんとストック溜めたいなぁ……。


第四十八話 仲間

 

「アリス、ただいま戻りました!」

「あっ!お帰りアリス、今日はいつもより遅かったね?」

「お昼は過ぎちゃったけど、ちゃんとお昼ご飯は食べてきた?」

「はい!今日はパンケーキを食べました!歯磨きも完了済みです」

「パンケーキ!?アリスだけなのはずるいし、今から私も……」

「お姉ちゃん……?」

 

 鬼とのドライブを終えたアリスが部室に戻ると、瓜二つの姉妹──才羽モモイと才羽ミドリが二人仲良く格闘ゲームをしている所に出くわした。ゲーム開発部の部長、花岡ユズの姿は確認できないが……部室のロッカーからタイピング音がするので、何かしらの作業のためにロッカーに入っているのだろう。

 モモイとミドリがやっていたゲームを見やると、どうやらモモイがミドリに追い込まれているらしい。その最中にアリスのパンケーキの話が出たため、これ幸いと逃亡を図ったかもしれない。

 

 凄みのある笑みをミドリに向けられて逃げられず、追い込まれた場面から逆転も叶わず敗北しているのはご愛嬌と言ったところか。

 

 ミドリが勝ち誇り、モモイが崩れ落ちるのを見ながらソファに座ると、少し前のドライブを思い返す。

 鬼との出会い、ミレニアムの案内とクエストの報酬。今まで感じたことの無い疾走感はアリスに新鮮な驚きを与え、初めて見た百鬼夜行の景色は今も脳裏に浮かぶ。その後の鬼からの問いかけは、特に印象深い。

 半日と経っていないにも関わらず、鬼との信頼関係はちゃんと築けているとアリスは確信していた。

 

 そんな濃い時間を思い返していると、何故かモモイとミドリからの視線が向けられていることに気づいた。心なしか、ロッカーの隙間からも視線を感じる。

 

「アリス、何か良いことでもあったの?」

「え?」

「アリスちゃん、ソファに座ってからずっと楽しそうだったよ。……もしかして、無意識だった?」

「ほ、本当ですか?」

 

 微笑ましそうなモモイとミドリの言葉を受けて頬に手をやると、知らず知らずのうちに口角が上がっていたことに気づく。どうやら先程までのことを思い出している内に、その時の感情も思い出して笑っていたらしい。

 自分が笑っていたことに気づいたアリスは、折角だからこのことを三人に共有しようと考える。あの時鬼が言っていたように、ミレニアムで過ごす自分達ではあまり経験しない事でありゲーム開発に生かせるかもしれないからだ。

 

 どうやらモモイとミドリだけでなく、ユズもアリスの雰囲気に興味を示しているようだ。ならば三人にも情景だけでいいから知ってほしいとアリスは口を開く。

 

「実はアリス、今日は百鬼夜行連合学院までドライブに行ってきました!」

「「百鬼夜行連合学院?」」

 

 天真爛漫なまでに嬉しそうなアリスの笑顔に対し、モモイとミドリは首を傾げた。二人が百鬼夜行連合学院を知らないわけではない。知っているからこそ不思議に思ったのだ。

 

「あ、アリスちゃん。百鬼夜行連合学院って、ここからじゃ凄く遠い筈なんだけど……」

「それにドライブって、アリスちゃんもしかして無免許で運転とかしちゃった…?」

「まっさか~!そんなことアリスがするわけ……するわけ……そういえば昨日、キヴォトスカート8DXやってたような……」

「アリスちゃん、百鬼夜行のことも気になるんだけど、それよりドライブって…?」

 

 ロッカーからユズが現れたのを皮切りに、アリスを除いたゲーム開発部の面々が焦り始める。というのも、アリスは義務教育をゲームで終えたようなものなのでゲームの影響をとても受けやすい。RPGゲーム特有の口調をするのもそれが原因だった。先生の助力もあって常識自体は教えられてはいるので、本当に危険なことはしない。

 がしかし、アリスの言うことが本当ならいつものデイリークエストの時間から帰ってくるまでの間で百鬼夜行連合学院とミレニアムを往復していることになる。いくらアリスでも、電車などを経由しなければそんな移動は出来ない。

 

『電車などでの移動をドライブとは言わないだろうし、となれば本当に運転して移動した…?』

 

 そんな思考が三人の頭に浮かぶ。自転車のレンタルでも往復は困難な距離な以上、アリスがレーシングゲームの影響を受けて本当に運転した可能性があった。

 といっても、キヴォトスでの無免許運転はそこまで罰されるものではない。事実免許はモモイ達でも受けられるものだし、人身事故が起きたとて青たんが出来るか車が粉砕される程度の被害が精々なのだ。

 

 三人が焦っているのは、偏にユウカからの説教が怖いからという単純な理由である。

 三人の焦りようを不思議に思いながらもアリスは質問に答えようとして、鬼を思い出す。新しくパーティーメンバーになったサムライのことを。

 

「ドライブは新たなパーティーメンバーである鬼と行きました!鬼はバイクを持っていて、アリスを乗せて百鬼夜行まで連れて行ってくれたのです」

「……ミドリ、ユズ、ちょっと集合」

 

 モモイが集合を掛けて三人で顔を突き合わせ、アリスの言葉の意味を三人で確認する。三人の脳裏に浮かぶのは、児童誘拐だった。

 

「鬼って誰か知ってる…?」

「私は知らない、かな」

「ミドリは?」

「うーん……どこかで聞いたことがあるよう、な……ごめん、思い出せない」

「私も知らないけど、え?もしかしてアリス、気づかない内に攫われちゃってた…?」

「で、でも、アリスちゃんは戻って来てるよ?」

「それにアリスちゃんなら、相手が悪い人かどうかは判別付くはずだから一概に攫われたとは……」

「でも百鬼夜行に行ってるんだよね?そんな遠くにまで行くなんて怪しくない?ホラーゲームなら次の日にアリスが消えてるかもしれないよ!?」

「縁起でもないこと言わないで、お姉ちゃん。……でも、さすがに心配だよね」

「先生に相談するのは、どうかな」

「あっ、それありかも!それじゃあ先生に連絡を……」

「何の話をしてるんですか?アリスも聞きたいです!」

「うぇっ!?あー、えーっと……」

 

 三人で固まってひそひそ話をしていたことでアリスが不思議に思い、モモイの背後から覗き込むようにして話しかける。当然、アリスから離れて認識のすり合わせをしていたモモイ達はそれに驚くも、逆にアリスに直接聞くのもありかもしれないと判断する。

 

「あー、アリス?」

「何ですか?」

「その、鬼って誰のことを言ってるのかなーって思って……」

「鬼は鬼です!公園で昼寝をしていた男性で、職業(ジョブ)はサムライです!」

「ごめん待って、侍?侍って刀を持ってちょっと昔っぽい服装の人のことを言ってる感じ?」

「いえ、鬼は黒いライダースーツを着たサムライでした」

「黒のライダースーツを身にまとった侍!?何その現代風な侍、かっこよすぎでしょ!ちょっとアリス、今度私もその人に会わせてくれない!?」

「ちょっとお姉ちゃん、そうじゃないでしょ!アリスちゃん、その人とのお話って聞けないかな。私達はその人のことは知らないから、気になって…」

「わかりました。あれはアリスがデイリークエストを終えた後のことです───」

 

 アリスが鬼との出会いから開発部に戻ってくるまでのことを三人に話し終えると、三人は顔を見合わせる。アリスの話を聞く限り、鬼が悪意を持った人間ではないことはわかった。ドライブも鬼がアリスを乗せた上でのものであるということも把握できた。…そもそもの話だが。

 

「鬼って人、ただただアリスちゃんのクエストに巻き込まれただけだったね」

「アリスちゃんを見て逃げたのは怪しいけど、わざわざアリスちゃんを連れてミレニアムの中を歩いてるから疚しい目的は無いのかな……ゲームでもそういう人って、表通りとかにはあまり出ない印象だし」

「それにしてもアリスちゃん、よくその、鬼?さんが逃げようとしたのを捕まえられたね…?」

「アリス、あの瞬間だけUZQueenモードをトレース出来た気がします」

 

 アリスと鬼の出会いの話を聞いたことで、鬼は悪い人ではないのだろうと判断してほっとする。もしも鬼の行動を不審に思えば、先生へ通報することも辞さなかっただろう。

 三人が危惧していた事態の当事者であるはずのアリスは三人の心配に気づくことはなく、嬉しそうに鬼との一日をユズに話す。モモイとミドリはそんなアリスの様子を微笑まし気に眺めていた。

 

 すると、モモイはアリスの表情に何処か迷いがあることに気づく。何か話そうとして、しかし本当に聞いていいのか迷うような顔だ。

 ミドリもまた、モモイの視線に釣られてアリスの表情に注視したことで気づいた。

 

「ねぇねぇアリス、ちょっといい?」

「はい、なんですか?」

「いや、アリスがさっきから浮かない顔してるような気がしてさ?何かあったのかな~って」

「……アリス、浮かない顔をしてましたか…?」

 

 どうやら無自覚だったらしく、モモイとミドリが頷くと自分の表情筋を確かめるように揉み解す。しかしこれといった異常はないので、状態異常に罹っているというわけではなかった。

 ならばこれは自分の感情によるものだと結論付け、心配そうに見守るモモイ達を見る。

 そして決断する。

 

「……実は、ここに戻って来る前に鬼からある質問をされました。もしもアリスが魔王と言われた時、周りはどう反応するのか、と。アリスはその質問に───」

「んん?アリスが魔王ってどういうこと?しかも周りがどう思うかって……そんなの決まりきったことじゃん」

 

 話が飛躍したように感じたのかモモイがアリスの話の途中で遮り、疑問と共に立ち上がる。そしてソファで仁王立ち、胸を張る。

 

「魔王とかそんなの関係ない!アリスはアリスだし、私達の友達!いつもみたいにゲームをするだけだよ!」

「……!」

 

 ふふん、と言いたげに堂々と言い放つモモイにアリスが瞠目し、ユズの暖かい笑みとミドリの冷ややかな半目がモモイに向けられる。

 

「お姉ちゃん、まだアリスちゃんが喋ってる途中だったのになに遮ってるの。いや、言いたいことは私もわかるし同じだけどさ」

「あ゛っ、やっちゃった……アリス、ごめんね?」

「というかいつもみたいにゲームをするだけって、ゲーム製作は何処に行ったのさ?いくらミレニアムプライスで特別賞を貰えたからって慢心は出来ないんだよ」

「な、なんのことかなー!?ちょっと急に耳が遠くなってー!」

「あっコラ!そんな言い訳が通じると本当に思ってる!?」

「ふふ……モモイらしい言いっぷりだね、アリスちゃん。私達の言いたいことを全部言われちゃった」

 

 いつものじゃれ合いが始まるのを横目に、ユズがアリスに声を掛ける。しかしアリスからの返事は無く、代わりに漏れ出るような笑い声が返ってきた。無邪気な笑みにユズが呆けていると、嬉しそうにアリスが頷く。

 

「ふふ、あはは!鬼の言う通りでした!あはは!」

「「……え?」」

「鬼の言う通り…?」

「はい!」

 

 二人が思わずじゃれ合いを止めてアリスに振り返り、ユズがアリスに聞き返せばとても嬉しそうにアリスが話し出す。

 

「アリスは最初、鬼からの質問に答えることが出来ませんでした。理由は様々でしたが……一番の理由は、モモイ達に拒絶されるかもしれない未来を想像し、怖くなったからでした。すると鬼は、逆の立場にして考えてみればいいとアリスに言いました」

「逆の立場……つまり、お姉ちゃんが魔王だった場合ってこと?なんていうか、弱そう……」

「ミドリ?それは私でも傷つくよ?」

「……アリスは勇者を目指しています。ならば魔王は倒さなければならないと思っていました。けれどモモイが魔王ならば、アリスはモモイを傷つけたくありません。大切な友達を拒絶したく、ありませんでした」

「……アリスちゃん」

「けれど鬼は、それでいいと言ってくれました!例え勇者と魔王でも、友達ならば戦うことなく受け入れることが出来るって!そしてそれはアリスだけではなく、モモイ達も同じだろうと……」

「「「……!」」」

「モモイ達の元に帰って来てから少し不安になって、やっぱり拒絶されてしまうことが怖くて……でも、聞けて良かったです。アリス、やっぱりモモイ達のことが大好きです!」

 

 改めて口にされた思いの丈をぶつけられて思わず照れてしまいそうになり、しかしアリスの迷いが晴れたことを確信する。何故アリスに魔王の質問をしたのかは疑問に思うが、アリスに悪影響がないのなら別に大丈夫だろう。三人はそう結論付けた。

 

「それにしても、百鬼夜行か~。いいな~!私も百鬼夜行に行ってみたい!」

「行ってみたいって、ミレニアムから百鬼夜行は結構な距離があるんだよ?アリスちゃんみたいに連れて行ってもらうならともかく」

「アリス、鬼の運転するバイクでショートカットをしました!ジェットコースターみたいで、爽快感溢れるドライブです!」

「……待てよ、もしかしたらアリスに付いていけば私も鬼さん?のドライブに行けるのでは……?」

「さすがにバイクに三人で乗るのは難しいんじゃないかな…?」

「というか、初対面の人に失礼になると思うな」

「大丈夫大丈夫、アリスにお願いしてもらえば!」

「他力本願じゃん……」

 

 呆れた様子のミドリだが、確かに鬼に乗せてもらえば自分達も百鬼夜行に短時間で向かうことが出来るのは確かだと考える。しかし初対面の、しかも大人の人に急に頼み込んで迷惑になりそうだと考えてしまいやっぱり駄目だと首を振る。

 そんな妹の様子も露知らず、モモイは何かを探し始める。アリスの悩みも解消できて気が緩んだため、ゲームでもしようかと思ったのだ。

 

「何しよっかな~特に決まってないから適当に決めよっかな……あれ?」

「どうかしたの、お姉ちゃん?」

「いや、ちょっとね……あれぇ?私のゲームガールズアドバンスSPが見当たらない……ユズ~何か知らない?」

「モモイのゲームガールズアドバンスSP……ううん、私も知らない、かな」

「前に廃墟に行った時からほったらかしにしてたし、何処かに埋もれてるんじゃない?」

「そ、そんな~!まだ消えたセーブデータの進捗まで戻せてないのにぃ……仕方ない、大乱闘キヴォトスブラザーズSPでもしようかな」

「アリス、今度こそ即死コンボを決めてみせます!」

「そう簡単にいくと思わないでよ、アリス!」

「ユズちゃんも一緒にやる?」

「ど、どうしようかな……アリスちゃんのアドバイスに回ってみたいし、見学するよ」

 

 いつの間にか無くなったゲーム機に消沈するものの、気を取り直してゲームカセットを取り出して四人でワイワイと楽しむ。負けて悔しみ、勝って喜び、やって来たユウカも巻き込んでゲームで遊ぶ。

 

 ゲーム開発部の友情は今日も深まるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 所々に光が見える闇の世界。光の向こう側では変わらぬ日常風景が広がっていた。

 

 そんな世界を一つのゲーム機が浮かんでいる。その機体に何故か縄を回しながら。不意に縄が引っ張られ、水とも大気とも言えない世界を進む。

 

「───なんつー棚ぼただ。あの後アリスが大丈夫か心配になって見に行っただけだったんだが……」

 

 

「まさか『鍵』を見つけちまうとはな。アリスのすぐ近くに潜んでいるとは思わなかったぞ」

 

 

 縄を引っ張っていた張本人の鬼がゲーム機──モモイのゲームガールズアドバンスSPを見る。何処からどう見てもただのゲーム機であるのに、鬼の目からはその内側から感じるものを正確に読み取る。ただのゲーム機から感じるわけがない嫌な気配を。

 

「さーてどうしたもんかな。リオに報告はするとしてその後現世に戻すのもな……このままオレの影にほったらかしにしとくか?けどそれだけで封印出来るのかはわからんし……」

 

 うーんうーんと悩み続け、あーでもこーでもないと考える。──その時、鬼に電流走る。

 鬼は名もなき神々を知っていても詳しいとは言えない。しかし鬼以上に名もなき神々を知る者がいる。

 

「そうだ、黒服呼ぼう。あいつとリオの二人がいたらどうにでもなんだろ」

 

 これから目途が立った鬼が黒服に連絡しようとして、影の中では電波が出ないことを思い出して肩を落としながらリオの元へと向かう。

 

 その後ろでは、音もなくゲーム機が縄を抜け出そうと荒ぶっていた。

 

 

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