百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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ゲヘナ二部良かった……

問題は、雷帝を掘り下げられれば掘り下げられるほど鬼ィさんと雷帝が大喧嘩してた可能性があることですね……(震え声)


第五十話 理解

 

 鬼の提案が切って捨てられ、しかし黒服から姉妹喧嘩という観点に焦点を合わせるのはどうかという妥協案が出てきた後のこと。

 感情論を要素に組み込みたくないリオと、名もなき神々の遺産にも姉妹喧嘩というものが発生するのか検証したい黒服が対立した。

 

「反対よ。彼女と『鍵』が姉妹であるというのは憶測でしかないし、そもそも『鍵』がアリスの言葉に耳を貸すとは思えない。そんな検証をするぐらいなら『鍵』の無力化を図る方が合理的よ」

「とは言ってもですねぇ、今の私達が『鍵』の解析を試みても何の成果が無いというのは問題でしょう。明星ヒマリといった解析の専門家に協力を要請しようにも、貴女の言っていたことを考えるのならば彼女達と私達は相いれない立場。名も無き神々の危険性を考えるのならば、『鍵』の無力化は秘密裏に行った方が得策です。貴女と彼女が対立したとなればこのことが公になりますし、何よりいらない混乱が発生しますから」

「……」

「……まぁ、ミレニアム内で収まればただの事故で済む可能性もありますけどね」

「事故、爆発、大騒ぎはゲヘナ並みに起きるしな。大体どっかは爆発してる印象があるぞ」

「……ミレニアムに所属する生徒の多くが好奇心旺盛だからこそ、多くの実験が起きるの。その結果爆発が起きるのも、よくある話よ。とにかく、私はアリスと『鍵』を接触させるつもりはないわ。接触させるぐらいなら、今ここで『鍵』を破壊した方がいい」

 

 断固とした姿勢を崩さないリオに黒服は肩を落とし、鬼に視線を投げかける。彼からすれば、今回の件は鬼からのヘルプが掛ったから来ただけでありその過程でミレニアムに混乱が起きたとしても関係ない。強いて言うなら、名も無き神々の技術の結晶である『鍵』と王女を解析したかったぐらいしか未練はないのだ。

 しかしミレニアムトップであるリオと事を構えるぐらいならば、そんな未練切り捨てても惜しくは無い。まだ解析途上の実験もある以上、危険に飛び込むような真似はしない。だがせっかくの鬼からの要請だ、出来る限りの手伝いはしたい。

 そんな黒服の視線に鬼は頷くことで返事を返した。そして、リオと向き合う。

 

「お前さんの言うことも一理ある。言い出したのはオレだが、アリスと『鍵』を接触させるのはリスキーだ。かといって今のままじゃ同じ意見にしかならんだろ?いつアリスがDivi:Sionと接触するかわからん以上、時間は敵だ。折角『鍵』もアリスもいなくならないままなんとかなるかもしれない以上、オレは破壊の手段は後にしておきたい」

「……貴方は、彼女達の危険性をわかっているはずよ。それに時間が敵だと言うのなら、早期解決を図るのは正しいと思うのだけれど」

「阿呆、そりゃオレ達だけで話してるからそれしかないように思えるだけだっての」

「どういうこと?まさか、ヒマリに協力するつもりなんて言うつもりかしら」

「そのまさかだな」

「駄目よ」

 

 言葉少なに切り捨てられた提案に、鬼は頭を掻いて首を捻る。いくらヒマリと意見が相いれないからといって、ここまで避ける理由がわからない。最終手段がそうであるだけで、向こうだって無力化できるのならそれに越したことは無いはず。それは彼女も、リオも理解しているだろう。

 

「……なんでそんなにもヒマリとの協力を避けるんだ?もし対立することになったとて、その過程までなら協力も出来るんじゃないか?」

「彼女と協力関係になれば私達の関係が明るみになるだけじゃなく、アリスを破壊しなければならなくなった際に妨害される可能性もある。いくら貴方と言えど、ヒマリやチヒロがアリスを隠そうとすれば手間取る。その間に彼女が暴走したのなら、甚大な被害がこの世界に及ぶ。良案じゃないと言ったのは相容れないだけではないのよ」

「そりゃあそうだが……別にオレとお前さんが手を組んでるのはバレても大丈夫だろ、対外的には一企業の社長とミレニアムのトップが協力してるだけだし。黒服はまずいかもだが」

「クックック……偽装は施してありますが、全知と呼ばれる明星ヒマリ相手だと少々心もとないかもしれません。その点はリオさんに同意します……が、その程度なら私がここで手を切ればいいだけのことです。そして妨害ならば、鬼面がその程度で止まる程度の実力ではないです。貴女もそれはわかっているはず」

「……」

 

 鬼が黒服の誉め言葉にむずかゆいものを感じながらも、リオを観察する。何処か駄々をこねる子供のように理由を探し、反論する言葉を模索しているようにすら思える。彼女らしからぬ様子に、すぐ傍で待機していたトキに視線で質問する。

 

────リオのやつ、なんでこんなに嫌がってんだ?なんか知ってる?

 

────私にもわかりません

 

 視線と横に振る首から読み取った回答は、最もリオと近しいと言えるトキですらわからないというものだった。

 

 鬼にもわからず、近しいものですらわからない。……ならもう、直接聞いた方がいい。

 

「リオ、お前さんらしくねぇな。いくらリスクのある提案だとしても、それに見合ったリターンがあるのは確かだ。それならそのリスクを減少させてハイリターンローリスクにして考えるのだって合理だろ?今のお前さん、どっちかっていうと非合理的じゃないか?」

「──!」

「なんか譲れない理由でもあんだろ?お前さんの考えることだ、怒るようなもんじゃないのはわかってるから聞かせてくれよ」

 

 諭すように鬼が問いかける。酷なことを聞いている自覚があるからか、申し訳なさそうな鬼の様子にリオが瞠目して答えに窮する様子を見せる。

 動揺しているのかあっちへこっちへ視線が行き来し、遂には伏せてしまった。

 

「……黒服、すまんが…」

「構いませんよ。こちらとしても、どのタイミングで離脱するか迷っていた以上は願ったり叶ったりですから」

 

「また飲みに行きましょうね」と言い残し、黒服は鬼の影に沈み込んでいく。第三者がいるから喋りづらいのだと考えた鬼からの頼みだったが、黒服は双方に齟齬を生まない自然な形で離脱したのだ。

 

 幾ばくかの沈黙が広がり、鬼はリオからの返答を待つ。側に寄ったトキもまた、主の答えを黙って待ち続ける。

 

 

「………貴方と彼女は、違うから…」

 

 

 静かに零れた呟きが部屋に解けていく。少しの震えを伴った返答に、鬼はまだ続きがあると感じて少しの頷きだけを返す。

 

「貴方と初めて会った時から、貴方は私のやろうとしていることも私の考えも否定しなかった。私の懸念も何の疑問も無く受け入れて、一緒に備えようとしてくれた……だからなのかわからないけど、何時しか否定されることが怖くなったの……」

「ヒマリとの協力関係自体を嫌がったのも、根本的に対立するしアリスの危険性を訴えても否定されるからか」

 

 確認するように問いかければ、小さな肯首が返ってくる。

 

 鬼はリオと出会った頃を回想する。接触は向こうからであり、AMAS越しの対話と相成った。時期を考えれば鬼とカイザーの抗争から時間も空いており、鬼が大和の人員増強に悩めるぐらいには世間も比較的落ち着いていた状況だったので接触しやすかったのかもしれない。

 その頃から合理を主軸に置いた少女で、今以上に何処か排他的、そして誰も信用としない存在だった。鬼を相手にした時も決して弱みを見せようとせず、本人が現れることすらない。それだけ鬼のことを警戒していたということでもあるのだが、少し寂しいものを覚えていた。

 鬼が根気強く接し、彼女の危惧する存在やその考えを決して否定しなかったで漸く信頼関係を築くことが出来た。彼女がセミナーになってからもその関係性は続き、エリドゥ制作に携わることを許可される程には信頼されていると鬼は自負している。

 

 しかし、その接し方故にリオの心境に変化が起きていたとは思ってもみなかった。その合理を主軸とした思考と周りを置いてけぼりにする行動力故に周囲から理解が得られないということを鑑みればすぐに気づけたことだった。

 トキを別にしても、彼女の小を切り捨て大を救うという考え方は周囲からしてみれば好印象は持てない。当然、何故小を切り捨てるのかと思うだろうし彼女に反発する。

 鬼はリオがセミナーという学園を統治する立場であり、その判断故に犠牲を最小限にしようとする在り方に理解も納得もいっている。客観的に見れば、彼女の考え方は正しいと言えば正しいのだ。少し強引なきらいがあっても鬼は絶対に否定は出来ないと考える。

 

 上の立場にいる人間というのはえてして、冷徹な判断も下さなければならないのだ。例え大人ではない子供だとしても、それは変わらない。故に鬼は彼女の寄り添おうとし続けた……結果、鬼はリオからの信頼を得た。

 

 リオが、周囲からの理解を得るという行為に拒絶感を覚えるという代償をもって。

 

「……すまなかったな、リオ」

「……?」

 

 リオの頭を撫でつけ、謝罪の言葉を向ける。撫でられているリオはというと、急に撫でられたことと謝罪の言葉の意図が分からず困惑していた。

 

 鬼はリオがヒマリとの協力を嫌がるのも、その内に秘めていた不安も鬼が原因だと考えた。目の前の少女は時に自分と同じ大人と勘違いしてしまいそうになるが、そうではない。彼女だって不安に感じるし迷いもする少女で、大人が守らなければならない子供なのだ。そんな相手が不安に思ってしまう原因を作ってしまったのならば謝らなけれならない。

 そして誠意を見せるのならば、その失態を自身で拭わなければならない。

 

「なぁリオ、一度でいい。オレにヒマリとの交渉を任せてくれないか?」

「貴方が……?」

「おう。もしそれで拒否されたのなら、彼女達との協力関係の話無しでいい。オレ達だけでなんとかしようぜ」

「……」

 

 鬼が交渉に出ることによるメリットデメリット、ヒマリに鬼という関係者がバレたとしても協力関係を取り憑けることが出来た際のメリット等。可能性を天秤にかければ、やはり思い浮かぶのは自身の不安な感情。しかし持ち前の精神で押さえつけて判断する。

 

「わかったわ。けれど、もし交渉が失敗したらすべて白紙にして『鍵』とアリスの対処に移る。それでいいかしら?」

「あぁ。任せてくれ」

「……えぇ、任せたわ」

 

 鬼の仮面から見える赤い瞳が嬉しそうに細められるのが見えたかと思うと、リオの頭を撫でていた手が退けられる。するとリオの口から「あ…」という切なそうな声が漏れ、反射的に鬼の腕を掴んで引き止める。

 

 鬼が首を傾げると、そのまま手をリオの頭に戻された。

 

「……もう少しだけ、このまま」

「……別に構わんが……」

 

 何故手を戻されたのかわからないまま言われたとおりに撫でていると、鉄皮のようなリオの表情が綻ぶ。

 結局鬼がヒマリとのアポイントメントを取りに行こうするまでの間、頭に?を浮かべた鬼が綻んだ笑みを浮かべるリオの頭を撫で続ける光景が続くのであった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「……ちょっと腕しびれたか…?まぁいいや。トキ、すまんがヒマリにメール送ってくれないか?いくら奴さんでも急にオレ名義で送れば警戒される可能性がある」

「承知しました。すぐにお送りします」

「助かる、すぐに向かおう」

 

 

「……」

「……ん?」

「……」

「……どうした。なんで付いてくるんだ」

「いえ、別に」

「そうか」

 

 

「……」

「……」

「……」グイグイ

「なんだ、なんで頭を押し付けてくるんだ」

「いえ、別に」

 

 

「……」

「……」

「……」

「……」グリグリ

「嘘つけなんかあるから押し付けてくるんだろ。本当になん、ちょっ、押しつよっ」

「別になんでもありません。決してリオ様のように頭を撫でてほしいとかそういうのではありません」

「それが本音か!言えばいいじゃねぇかなんで無言なんだよ!?」

「わかっていませんね鬼様。こういう時は傍でさりげなくアピールすれば雰囲気を作りながら要望を叶えてもらえるものなんです。ピースピース」

「何処にさりげなさがあった!?」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 催促し続けついにはドリルのように鬼の腹を抉ったトキを撫でくり回した後、鬼はミレニアムに戻ってきた。ヒマリ宛てのメールを出した所、すぐさま会いたいという旨の内容の返事が返ってきたからだ。迎えが来るらしく、それまで待っていてほしいとも追記されていたのでしばしの待機時間を過ごす。

 

「……平和だな」

 

 図書館近くのベンチに座り、空を仰ぐ。変わらず聞こえてくる爆発音に子供達の話し声。何時ぞやのように眠気が刺激される時間だが、今回は待ち合わせもあるので静かに待つ。決してアリスの接近に気づけず、逃げようとして無様に地面に落下したことを気にして眠ろうとしないわけではない。

 

 アリスの接近を気にしているわけではないが、念のためアリスの気配を探り───覚えのある気配が彼女の近くにいることに気づく。

 

「これは……シャーレの先生か?」

 

 神秘を宿す生徒とは大きく違う気配はその違い故にとても覚えやすく、すぐにわかった。どうやらアリス以外にも三人程近くにおり、固まったまま動かない様子を見るにゲームでもしているのだろう。傍にいるのは以前アリスが言っていた友人にゲーム開発部の面々なのだろうと予測できる。

 

「まいったな、ヒマリとかならまだしも先生とは出くわしたくないぞ……」

 

 現状、鬼は先生と一切の接触を図っていない。理由は気まずいの一言に尽きる。

 

 そもそも鬼がミレニアムに来たのは名も無き神々の王女を調査することであり、最悪の場合は破壊することすら考えていた。しかし名も無き神々の王女であるAL-1S、つまりはアリスは生徒として生活しており、そこには先生の協力もあったらしい。

 鬼はヒマリとの交渉において破壊も辞さないことを隠すつもりはない。根本的な部分を隠したところで不信感しか生まないからだ。だがヒマリはアリスを守る側に立つためその情報は先生にまで届くだろう。となれば、もしも鬼と先生が何かしらで出会った場合は芋づる式に敵対することになる。

 

──え?あんなに子供のために頑張れる大人と敵対しないといけないの?嫌に決まってるだろ。

 

 ……というのが鬼の本音である。大人のカード自体はそこまで怖くはない。ただただ彼女の為人を考えれば考えるほどやりたくねぇ~というだけなのだ。

 

 なので鬼は先生とは出会いたくない。そもそも元ゲマトリアという時点で不信感を持たれるので猶更鬼がミレニアムにいるということを知られたくない。

 

「まぁさっさとアリスと『鍵』を喧嘩させるなりなんなりでなんとかしたら会うことも無いだろ*1。」

 

 それに動くとしたらヒマリやアリスが主体となるだろうし、わざわざ鬼が姿を現す必要もないので隠れながら動けばいいや*2と伸びをする。それにアヤメ達の協力もあるのでなんとかなるだろうと開き直った*3。

 

 ちなみにアヤメ達は鬼がミレニアムに戻ってきた辺りで出発したらしく、電車を乗り継いで向かってきているらしい。行く面子はくじ引きで決めたようで留守番役にはレンゲとキキョウ、ワカモとユメらしくそれ以外の三人が来るとのこと。グループトークに添付された写真を見てみれば、初めての遠出に喜ぶユカリと一緒にピースをするアヤメとナグサ、不貞腐れて鬼の使っている布団に包まったキキョウと慰めるレンゲ、息災であることを示すように手を振っているワカモとユメが映っていた。

 鬼は拗ねたキキョウに笑いつつ、気を付けて来るように伝えている。

 

 三人がミレニアムに着く時間を考えるに、ヒマリとの交渉が終わったあたりで迎えに行けばちょうどいいかなんて考えていると、鬼の下へと一人の人影が近づいてくる。

 

「こんにちは、あなたが鬼さん?」

「ん、あぁ。オレが鬼だ。お前さんが迎えの……ッ?」

 

 声を掛けてきた少女に目を向けた鬼だったが、その姿を目にしたかと思えば言葉を詰まらせて固まった。

 

「私は和泉元エイミ。部長に頼まれて迎えに来たんだけど…どうかした?」

「……」

 

 和泉元エイミと名乗った少女の問いかけに対し、鬼は目頭を抑えて目の前の現実が幻であることを祈る。鬼が頭を抱えた理由。それはエイミの服装にあった。

 ピンク色の長髪を三つ編みにし、首にヘッドホンをかけているところまではいい。普通のファッションだ。足などにガーゼが貼られているのも、荒事に巻き込まれることが多いキヴォトスではおかしな話ではない。問題は上半身にある。

 服がはだけている。いやはだけている処ではない。下着が見えているのはどういうことだ?そしてその下着に着いたファスナーは一体何なんだ。羞恥心は何処へ行った。

 

「……すまん、一つ言ってもいいか」

「ん、どうかした?」

「ちゃんと服着てくれ。目のやりどころに困る」

「あー、ちょっと無理かな」

「嘘だろ」

 

 取り繕う余裕もないまま鬼の素の声が出る。そんな鬼の様子を見ながら一つ断りを入れて扇風機を付ける。

 

「私、他の人より暑がりなんだ。本当ならもっと脱ぎたいぐらいなんだけど」

「待て待て待て、暑がりなだけなんだな?ならこうすればいい…ちょっと触らせてもらうが、いいか?」

「?変なことしないなら」

 

 エイミからの了承を得、一瞬だけ肩に触れる。ソフトタッチとも言えないぐらいの一瞬の合間、鬼が小さく口ずさむ。

 

「氷鬼」

 

 すると、エイミの体全体を覆うように氷で出来た風が現れる。目を凝らせば、風の中に雪の結晶が浮かんでいるのが見えた。

 一体何をするのかと見守っていたエイミだったが、体全体を覆う風からの冷気が程よい涼しさを与えてくれる。自動的に体温の調節をしてくれているのか、寒すぎず弱すぎずの塩梅を保ってくれているようだ。

 

「……!わ、涼しい……」

「これならわざわざはだける必要もないだろ?そんじゃ、案内頼む」

「うん、ありがとう。それじゃあついてきて」

 

 扇風機を付けずとも涼しいからか、やって来た時よりも上機嫌なエイミに連れられて鬼は歩く。

 

 鬼から視界を外さないように動く監視カメラに気づきながら。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 連れられるままに歩くと、とある扉の前で止まる。他の扉に比べて重厚で、とても近未来的だった。扉の横にあった装置にエイミが近寄り、ピ、ポ、パという音の後にカードを滑らせる。するとロックが外れたのか、電子音と共に扉が開いた。

 

「部長、鬼さんが来たよ」

「ありがとうございます、エイミ。いつ会えるかと心待ちにしておりました」

 

 エイミの後から部屋に入ると、壁に備え付けられていたモニターと向き合っていた少女が返事と共に姿を現した。これまた近未来的な車椅子が滑らかに動き、鬼の真正面へと移動した。

 

「初めまして、物流会社大和社長であり神出鬼没の影の正体と噂されている鬼面さん、あるいは鬼さん。私は────」

 

 

「超天才清楚系病弱美少女ハッカー、明星ヒマリです!」

 

 

 ────瞬間、鬼はあることを悟る。

 あ、中々に愉快な娘なんだな、と……。

 

「……まぁ、うん。なんか色々と知ってるみたいだが改めて名乗るが、鬼だ。鬼面でも鬼とでも呼んでくれ」

「えぇよろしくお願いします、鬼さん。……」

「……」

 

 静寂。自身の紹介に何か反応が無いかと待っているヒマリと何を言えばいいのかわからない鬼が若干の気まずさを感じていると、ヒマリが一つ咳払いをして空気を切り替える。

 

「では、本題に入ってもよろしいでしょうか」

「あ、あぁ。今日は一応メールでも送った通り、お前さんと交渉したくてな」

「えぇ、そちら側の情報は拝見しました。アリスの中にある力の無力化、あるいはコントロール。そして……アリスの姉妹機である『鍵』の解析、ですね」

「そうだ、こっちでも色々と試みてはいるんだが…成果は乏しくてな」

「なるほど……故にミレニアムが誇る天才ハッカーであり「全知」の学位を持つ眉目秀麗な乙女であるこの私に協力を持ち掛けた、というわけですね」

「そういうわけだ」

「……」

 

 またしても反応が貰えず、少しムスッとした顔を見せるヒマリ。鬼はというと、不機嫌になったことはわかるが、何故そうなったのかはわからず少し考えて…もしや自己紹介に反応してほしいのかと気づいた。

 

「……天才ハッカーか。オレは機械方面が分からんからなんとも言えんが、全知の方は聞いたことあるな…お前さんがその全知の学位を持ってんのか?凄ぇな…」

「ふふん!そうでしょうそうでしょう!」

 

 途端に機嫌を良くしてヒマリは胸を張った。望ましい反応を返せたことに鬼は少しほっとした。

 

「それでですね、協力の件ですが……こちらからも是非お願いします。鬼さんからのメールを見るに、アリスの力のコントロールは最重要案件。となれば、私も力は惜しみません」

「!本当か?」

「ですが、その前に一つお聞きしたいことがあります」

「聞きたいこと?なんだ?」

 

 これといったトラブルもなく交渉が成立するかと思った鬼に、ヒマリが口を開く。そこには先程までの微笑が浮かんでいたが、ふざけるような雰囲気はない。目の奥からは真剣味を帯びた光が宿っている。

 

「私が聞きたいこと……それは、この交渉に貴方と協力関係にある存在が承諾したか、ということです」

「……少しは隠す努力をしてたんだが、それでもバレてんのは…さすがは全知ってとこか」

「ふふっ、私は超天才美少女ハッカーですから!ちょちょいっとやればわかってしまうんです!……そう。わかってしまうんです」

 

 ヒマリの目に宿る光が少し強くなったように感じる。部屋の空気を少しずつ冷やしていたエアコンを暖房に切り替え、暖かい風が部屋を循環していく。

 優しい風が鬼のゆらめく髪を、ヒマリの頬を撫でる。

 

「鬼さん、そしてあの陰気な女……リオは、もしもアリスの力のコントロールが出来ない場合、彼女を殺すつもりですね」

「……」

 

 

 

「そうだ」

 

 

 

 ヒマリの確信を秘めた確認の言葉に鬼が頷いた瞬間、入り口が吹き飛んだ。当たればただでは済まないだろう速度で向かってくる扉が鬼へと向かい、ヒマリに飛んで行ったらマズいと考えて刀を滑らせる。

 

 強烈な横向きの運動エネルギーごと扉を賽子上に切り刻めば、その向こう側から多量の神秘が込められた銃弾の雨あられが向かってくるのが目に入る。これまた避けた場合の被害を鑑みて受け止める選択を取れば銃弾が鬼の体に触れる直前、その体全体を影が覆いつくす。飛び込んできた銃弾が影へと飲まれ、その場には硝煙の匂いだけが残った。

 

 鬼にダメージが無いことがわかったのか、入り口から舌打ちをする音が聞こえた。

 

「随分なご挨拶だな、そのまま撃っちまえばヒマリに当たってただろ?」

「安心しな、あたしがそんなヘマするわけねぇさ」

 

 その言葉に反応するように、鬼の顔を覆う影からすべての弾丸が影に入る前の逆向きに放たれ、現れた存在はその全てを飛び越えることで軽々躱す。

 鬼へ向けられた弾丸の全てが精密そのものと言える精度で放たれ、鬼の顔だけを狙っていた。その後ろにだれかがいたとしても、角度的には決して当たらない角度だったのだ。

 

 煙の奥から現れた小柄な影。鬼に比べれば小さすぎるその姿からは想像できない威圧感が放たれ、張り詰めた空気がさらに重くそれぞれに纏わりつく。

 

 龍の絵柄のジャケット、メイド服、気性の荒さが伺える吊り上げられた笑み、太陽を思わせる明るい橙色の髪。

 

 Cleaning&Clearing(C&C)部長、ミレニアム最強と謳われ、その任務成功率が100%であることから付いた異名は『約束された勝利の象徴』。

 

 

「…で?誰を殺すって言ったんだ?」

 

 

 美甘ネルが、特異現象捜査部に現れた。

 

 

 

*1:
フラグ①が立ちました

*2:
フラグ②が立ちました

*3:
フラグ③が立ちました




体力の限界です!!本当はもうちょっと続けたかった~!
次回はミレニアム編の終盤ぐらいまでには行きたいなぁ……。

あ、あと少しで10万UA行きそうなので記念番外編でも書きたいな~なんて考えてますので、お気軽にアンケートの回答をお願いします。

記念番外編の内容はどんなのがいいですか?

  • 鬼ィさん、原作に飛ぶ(時期は先生着任)
  • 連会「オリチャー発動!鬼さんを先生に!」
  • ゲマトリアの飲み会(ただの雑談)
  • カイザーとの抗争(ネタバレあり?かも)
  • 百鬼夜行での一日
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