こんな筆者ですが、いつもいつもご愛読ありがとうございます。至らぬところもありますが、見守っていただけるととてもありがたい限りです。
硝煙と煙が消えない部屋の中で一人の生徒と大人が向かい合って立つ。一人は自身の愛銃をリロードし、片方は自身に纏わせていた影を戻して抜いた刀を鞘に戻す。しかし影には戻さず添えるように左手で掴んだまま。
闘志を剥きだしにした視線が鬼へと向けられ、コツコツと鬼とネルが距離を保ったままヒマリやエイミのいる向きを避けて移動する。
「……誰を殺すって言ったのか、聞いてたっけか」
「……」
鬼の問いかけにネルが反応し、鋭い眼光が部屋の明かりに反射する。細められた目に反するように膨れ上がる闘気が鬼の肌を撫で、少しばかり鬼の血が沸き立つような錯覚を覚える。アヤメ達百花繚乱とは違う、エージェントとしての自負から来る自信。
野性的なまでの『お前を叩き潰す』という意志。鬼はそれをまざまざと魅せられ、嬉しそうに指の骨を鳴らして闘志を返す。
「もしも……もしもアリスが暴走し、名もなき神々の王女として覚醒したのなら。オレはあの子を殺す。そう言ったのさ」
「────覚悟は出来てるみてェだなッ!!」
ネルの吠えた声と直後のマズルフラッシュが鬼を照らし、ツイン・ドラゴンが火を噴く。鬼も今度は回避をせずにすべて鞘で受け止める。例えSMGだろうとミレニアム最強が放った銃弾、鉄すら貫くだろう一撃一撃を軽くいなして距離を詰めていく。
ネルもまたスタートダッシュを決めるようにして足に力を入れ、弾丸ライナーと見間違う姿勢とスピードで鬼へと接近した。放たれる弾丸を捌きつつ近づく鬼と一切の抵抗がないネルの速さは歴然で、鬼が攻撃する間もなく包囲されていると見間違うレベルの弾幕が鬼へと襲い掛かる。そのすべてを撃ち落としながらも鬼がネルを確認すれば、部屋の壁や棚を利用することで鬼を中心として円を描くように移動していた。
「器用なことだ」
手、足、肩とこちらの機動性を奪おうとする意志が見え見えの攻撃を避けつつ、さすがに反撃するべきかと手の内に隠した苦無を投擲しようとする、が。
「ん?」
ネルがいない。いや、気配だけは感じ取れた。しかしその方向は先程までいたであろう場所の真反対かつ鬼の死角だ。
陽動、そんな言葉が脳裏を過ぎる。
「本当に器用だな────ぶっ!?」
「捕まえたぜ!!」
振り向きざまに叩き落とそうとした鬼の視界が何かで覆いつくされ、嬉々としたネルの声だけが聞こえる。まさか飛び掛かってくると思っていなかったせいで反応が出来ず、少し困ってしまう。すぐさま引き剥がそうとするも、首へと回された足のせいで出来そうにはない。
苦無を影に戻しつつヘッドバンキングをすることで無理矢理剥がそうとするが逆に首へのダメージを無視できない。さてどうしたものかと鬼が立ち尽くすと、ネルが動いた。
「そら、よっ!」
「んんんんっ!?」
挟んだ足の力だけで鬼の首を締めあげ、鬼の仮面ごと叩き割らんばかりの威力で肘が落とされる。首を絞められているせいで少しの息苦しさを感じつつ肘を弾いて逸らせば、鬼の肩に深々と突き刺さる。
「もういっちょ!!」
「ぐおっ!?」
再び降ろされた一撃が同じ場所へと向かい、バキリと嫌な音が響く。ネルが追撃を加えようとツイン・ドラゴンを振りかぶった瞬間、鬼から急激な熱を感じ取る。直感に従って鬼を蹴り飛ばしながら飛びのけば、鬼の体が炎に包まれた。
しかし炎に包まれた本人はクツクツと笑いつつ、外れてしまった砕けた肩の骨をガコンと戻す。
「……おいおい、まっくろくろすけの次は人間松明か?面白人間ショーを見に来たわけじゃないんだよ」
「そういうお前さんは恥じらいってもんは無いのか?フェイスハガーみたいに顔面に取りきやがって。首をいわしそうだ」
「そうでもしねぇと見失いそうなんでね」
「判断がいいな」なんて言いながら治った肩を回し、炎を消せば先程と同じ姿が現れ、鬼の健在さを示す。それを見たネルの顔がしかめっ面に変わった。
鬼の姿を認めてからもそうだが、今に至る戦闘の間もずっと鬼の気配が掴めない。そこにいるようでそこにいない、無理矢理取り付かなければ目の前にいるのに見失ってしまいそうだった。しかもダメージを与えたとて、脱臼しながら砕けた筈の肩を見るにすぐさま再生する肉体の持ち主。挙句は組み付かれても発火することで抵抗も可能と、本当に人間なのか疑いたくなる。
「まぁ人間かどうかは怪しいっちゃ怪しいが、一応人間なんじゃないか?自認は鬼だが」
「心を読むんじゃねぇ」
「んなしかめっ面されたら嫌でもわかるわ。それともなんだ、勝てそうにないからそんな顔になったのか?」
「んなわけ、ねぇだろ!」
鬼からの煽りへの返事と言わんばかりに扉の残骸を蹴り飛ばせば、正拳突きが残骸を粉砕して木屑が舞う。その木屑のさらに向こうからネルの足が振り抜かれ、塵を切り裂きながら鬼の防御する腕に命中した。軋んだ腕に笑みが零れ、思わず伸びてしまった腕に鎖が巻き付かれる。
「へぇ…!」
「っラァッ!」
蹴った態勢から脱力することで鬼の腕から逃れつつ、目の前を過ぎ去る間際に鎖を巻き付けることで即席の軸として体を捻って勢いをつける。横蹴りが鬼の脇腹に命中するかに思われたが、捻じりこんだ鬼の腕が靴底ごと掴み取った。
「───器用どころか……!やろうとして出来ることじゃねぇだろ、それ」
「それに反応してるアンタはどうなんだよ、あァ?」
「ガラ悪いなお前さん」
鬼は腕を鎖できつく縛り上げられ、ネルは片足を掴まれている状態のままで同時に動く。鬼がネルを吊り上げようと足を引っ張ろうとした瞬間にもう片方のネルの足が鬼の手諸共蹴りつけて鬼の拘束から脱した。ならば銃を取り上げようと鎖を掲げれば、わざと片方の銃を手放して引っ張ることで銃すら回収して距離を取る。
ネルが銃口を向けようとした瞬間、それよりも速く鬼が吶喊した。仰け反って動いたその速度に瞠目し、しかし驚きよりも速く動いた体が銃を振りかぶっていた。その銃口が体に突き刺さり、有効打が入った。
そう思った瞬間、銃を伝わって感じる軽さに違和感を覚える。振り抜いた腕を引き戻す勢いに乗りながらより距離を取って周囲の把握に移り……首元に熱を感じた。
「ッ!?」
「おっと、避けたか」
皮膚に触れる寸前に飛びのき、声の方向を凝視する。すると何もないと思った空間に紛れるように、鬼が立っていた。いや、紛れているように見えるだけで、彼は何の小細工も無しにそこに立っていただけだった。
「影法師って名付けた技でな。見抜けなかっただろ?」
ネルの首の高さに合わせた手刀を崩し、ネルの後方を指さす。ネルもその先を見れば、やはりそこには鬼がいる。しかしネルが殴った箇所から広がるように影へと変わっていくのも確認できた。
「流石はC&Cの部長だな、アスナが自慢するだけはある。あの手刀に威力は無かったが、速度自体は本気だったんだぜ?しかも気配自体も絶ってたはずなのによく気づけたもんだ」
あいつらも最近になってようやく気づけるようになるレベルなんだがな、と付け加えるように言うと袖口から何かを取り出す。警戒している内に取り出されたそれは、木刀だった。
「……お前さんにハリセンはちょっと違う気がするしな。これでやるか」
「ハッ、ようやく得物を取り出すつもりになったのかよ。随分とスロースターターだな」
「……そうじゃないことはお前さんがよぉくわかってるだろうに……」
幽鬼のように佇み、仮面の奥に光る双眸が闘志を滾らせる。その瞳に晒されたネルの口角がまた吊り上がり、冷汗が流れた。
空白が流れ、双方の体が前傾姿勢に近づき…………観戦していたエイミの、ストローの音が鳴った。
「「────」」
弾かれるように飛び出した体が相手を穿かんとし、木刀と銃口が衝突する─────
「ゴホンッ!!」
ピタリ、と止まった。ほぼ同時に咳きこみ音をした本人の方を向けば、二人に向けて少し凄んだ笑みを向けるヒマリがいた。
「……そこまでで十分ではありませんか?それ以上となればこの部屋を破壊しつくすまで止まりませんでしょうし」
「おいおい、折角あたしもあっちも熱くなって来たところでなんで止めんだ。最後までやってもよくねぇか」
「あのですねネルさん、私が貴女を呼んだのはもしもの時に備えて待っておいてほしいと頼んだのが始まりですよ。ヒートアップしたのはわかりますが、せめて取引の完遂まで待ってください」
「…………ちっ、そういやそうだったな…悪い。アンタも、急に襲い掛かって悪かった」
「…いや、タイミングが悪かっただけだ。オレもやり合って楽しんでた以上、止めなかったこっちにも非はある。すまんかった。ヒマリも、急に暴れてすまん」
「…いえ、ネルさんに伝え忘れた私にも非があります。これで手打ちということでお願いします」
「了解」
冷や水をかけられたように戦闘の熱が冷め、互いに謝罪を返す。得物を向け合っていた者達とは思えないほどの切り替えの早さに、戦闘そのものを止めるために介入したヒマリが眉をひそめる。
「もしかして、どちらも最初から止めるつもりだったんですか?頭に血が上ったように戦っていましたが……」
「あぁ?まぁ、あっちからは気持ち悪いぐらい何も感じなかったのもあるが……完全にやりあおうって感じじゃなかったからな」
「こっちも似た感じだったな。本気でかかって来てる印象じゃなかったから、多分そうだろうなと」
「むぅ、戦闘慣れした人同士だから通じ合っているといいますか、戦闘狂だからわかったのか…」
「「誰が戦闘狂だ」」
突発的に発生した戦闘が集結したことで張り詰めた空気も緩和し、やっと取引に移れるとヒマリが姿勢を正す。
「それでは、改めてお聞きしたいのですが…何故アリスを殺すことになるのかを教えてくれませんか?そうでなければ、そちらのやりたいこともわかりませんから」
「そのことはあたしも聞きてぇな。アンタはそういう手合いには見えねぇし、納得できん」
「あー、それもそうだな。話さなきゃ何も始まらんしな……長くなるが、いいか?」
戦いの余波で倒れてしまった棚等をエイミやネルと共に治しながら聞けば、頷きが返ってくるのでリオと共に導きだした答えを伝える。アリスが名もなき神々の王女という存在であること、その力はキヴォトスを滅ぼしうるもの、今はアリスではあるがDivi:Sionに触れれば覚醒する可能性があること……黒服のことはぼかしつつ、ヒマリ達との情報共有を行った。
「んで、名もなき王女の傍仕えである『鍵』は既に確保済みだからアリスが覚醒しても名もなき神々の力を振るうのは困難…な、筈。ここは不確かだから何とも言えない。『鍵』無しでも力を振るう可能性は全然ある。何か質問は?」
「ん」
「はい美甘ネル」
「ネルでいい。あたしはチビとちょっと戦ったぐらいだし、あいつを全部わかってるわけじゃないが……本当にあいつが世界を滅ぼす存在なのか?勇者を目指すただのチビ助の間違いじゃねぇのか」
挙手をしたネルからの質問。同じ思いのヒマリも同調するように頷けば、鬼は少し唸り絞り出すように答える。
「ん゛ん~……オレからすればそれも間違いじゃないんだよ。ただまぁ魔王なのも間違いじゃなくてだな……こう言うのも悪ぃけど、あそこまで勇者を目指せるのも奇跡なぐらい……」
「そんなにか……」
「いやほんと、クソゲーって使いようなんだなって思ったぐらいだよ。んでだ!今言ったようにアリスの現状は奇跡としか言いようがない状態なんだ。せっかく掴んだチャンスを有効活用したい。けどオレ達だけじゃどうしても時間が足りない。『鍵』へのアプローチもそうだが、説得も難しい……」
「そのための交渉というわけですか……なるほど、あの油汚れにも勝る頑固なリオが排除の選択肢を保留にして素直に交渉になんて天変地異の前触れか?なんて思っていましたが、鬼さんという協力者がいたからこそ保留に出来たんですね」
「実際、オレがすぐに接触しなかったら自分一人でなんとかしようとしてたしな。初手からアリスのことを排除しようとしてたし、間に合ってよかったよ」
「……あの女ならそう考えるでしょうね」
ネル、エイミ、鬼の三人の手によって元の部屋へと戻った後、改めて鬼とヒマリが向かい合う。その横にはネルとエイミが立ち、交渉の行く末を見守る。
「そちらからの提案を受け入れましょう。私の大切な後輩を守ることが出来るというのなら、いくらでも力をお貸しします。この……清楚系病弱天才ハッカーかつ優しくて万能で「全知」である「特異現象捜査部」部長美少女、明星ヒマリが!!」
「おう、よろしく頼むぜ」
ヒマリの自己紹介に拍手と共に返せば、ヒマリはふふん!と満足そうに胸を張った。隣に立つエイミは聞きなれているからか無表情で、ネルはあまり気にせず鼻を鳴らす。
「では鬼さん、作戦会議に移りましょう。既に時間が差し迫っている以上、迅速な対応が必要ですから」
「了解、リオにはもう伝えておいた……って、もう返事が返って来たな。えぇっと……『すぐに向かう』?あいつこの場所がわかってんのか?」
『待たせたわね』
「はっや」
鬼がリオからの返事に首を捻ったのと同時にドアから一機のドローンが現れ、リオのホログラムが写し出された。まさか連絡してから間を置かずにやってくるとは思っていなかった鬼が驚き、エイミやネルは「あ、会長」や「あいつ、ずっと外で待ってたのか?」なんて反応を見せる。
そしてヒマリはというと、何処か薄暗さを感じさせる笑みをリオに向けていた。
「おやおや、この方は自らここへ赴いたというのにあなたは秘密基地に引きこもったままですか。たまには出てきたらどうです?くだらない企みなんてやめて」
「……くだらないかどうかは私が決めるわ。そもそもアリスが名もなき神々の王女であり、この世界を壊す可能性があるのだから早急な対応が必要なのは確かではなくて?」
「アリスに危険性があると同時に、あの子は我々の大切な後輩ですよ。危険物の解除から試すのではなく、排除から入るのは愚行でしょうに」
「……貴女は何もわかっていない。あれを野放しにすることの危険性は──」
ヒマリとリオの口論が始まったかと思うと、突然弾けるような音が響いた。開きかけた口を思わず閉じ、音の方向を見れば拍手の態勢でこちらを見る鬼がいた。前もって言われていたのか、横にいたネルとエイミは両手で耳を抑えている。
「……落ち着いたか?お前さんらがいがみ合う気持ちもわかるが、今は協力しなきゃ何も解決しないんだ。早速作戦会議と行こうぜ」
「……えぇ、そうね」
「そうでしたね……お見苦しい所を見せてしまいましたね」
「いいさ、思うところがあるのは確かだしな」
そう言いながらも鬼は肩を竦める。ほんの少し張り詰めた空気が緩んだのを感じ、先程までのギスギスした会話も消えて作戦会議に移るのだった。
◇◆◇◆◇
「……それで、どうでしたか?」
「あ?何がだ?さっきの作戦のことならあたしはいい作戦じゃね?って思ってるが」
五人による作戦会議も終わって、準備のためにリオがエリドゥに戻り、鬼がアリス達への説明のために百花繚乱の三人を迎えに退出し、エイミがそれの案内を買って出た後の部屋でヒマリがネルに問いかける。ネルもまた、部員たちの元へ戻ろうとしている所だった。ネルは先程の作戦についてかと思った返答を返すが、ヒマリは首を横に振った。
では何が聞きたいのかと目線で促せば、ヒマリは退出した鬼を見るかのように入り口に目線をやる。
「あなたがここに来た時、鬼さんと手合わせをされましたが……あなたから見て、彼はどう見えましたか?」
「……どう見えたか、か。なんでそんなこと聞くんだ?」
「確認のため、ですかね。鬼さんとは、今回が初の接触となりましたから」
ヒマリから見た鬼は理知的な雰囲気も大人としての風格も持ち合わせた存在で、噂に聞いたカイザーを滅ぼしかけた人物とは似ても似つかなかった。いや、ネルとのあの戦いを見ればただならぬ強者であることはわかる。だが横で観戦していても、カイザーの兵を蹴散らしたと思えるような戦いぶりではなかった。どこか遊んでいるような、楽しんでいるような……そんな感想を抱いたのだ。
しかしそれは戦闘に慣れていないヒマリの感想であり、ミレニアムが誇る最高戦力の美甘ネルならば別の感想を抱いていてもおかしくはない。そう思ったからこその問いかけだった。
しかしヒマリの思惑に反し、ネルは首を捻って唸った。唸って唸って、組んだ腕と共に頭も下がり続け……やっと纏まったのか元の態勢に戻る。
「まぁ、悪人ではないだろうよ。あいつの言う最終手段ってのも、元はどうかは知らねぇが今日の時点では避けたがっているようにも見えたしな」
「確かにそうですね。会議では積極的に案を出してくださりましたし」
正式に協力関係に至ったことでやっと行えた会議では、どうやってアリスと『鍵』を引き合わせた上で無力化するかということについてずっと話し込んでいた。その最中も鬼は案を出してはブラッシュアップを行い、ヒマリやリオから意見を聞いては考え込んでいた。
途中で出てきたTSCを終わるまで帰れま10とかいう人の心を何処に置いてきたのかと疑う案もあったが、彼がずっとアリスの力を何とかしようとし続けていたことは確かだった。そもそもあの堅物の塊のようなリオが彼の意見に反発するような姿勢を見せなかったのを見るに、彼女が信頼するだけの何かが彼にあるのだろう。
「ただ」
「ただ?」
「ありゃバケモンだな」
「はぁ……?それは、どういう……」
「初めてだったんだよ、あぁまで遊ばれるってのは」
ネルのその言葉に、思わずヒマリの目が見開かれた。
このミレニアムにおいてC&Cは凄腕のエージェント集団であり、ミレニアムの最高戦力のネルをして鬼は「化け物」と評されたのだ。
「まず第一に、あっちからは一切手を出しに来てねぇ。あったとしてもこっちが先にぶっ放すかぶっ飛ばそうとしたのを防ぐぐらいだったんだよ。掴みかかって来たのもあたしが近場でウロチョロしてたからだと思うぜ」
「……苛烈な攻撃に手が出せなかったかと思っていましたが、実態はそうではないと?」
「あァ。後はあの立ち振る舞いだな。あの距離で視認してるってのにぼやけて見えなくなるなんざ意味が分かんねぇ。無理矢理しがみつかなきゃマジで見失うぞ、あれ」
「カメレオンはイリドフォアとメラノフォアを用いることで景色に溶け込むと言いますよ?鬼さんのあれもそれと近似したものの可能性があります」
「そういうのじゃねぇな。体の色とか服の色とかを周りに溶け込ませるってんならどう頑張っても違和感は残る。あれの場合はなんつーか……空気に溶け込むって言い方が近いな。ただ、その溶け込み方が尋常じゃない」
そこにいるのに、そこにいない。脳が誤認してしまうほどの気配の絶ち方を突破するために飛び掛かり抱き着いたが、それ以外に対策法が無かったが故の苦肉の策だったのだ。そんな戦い慣れしたネルですら感じ取ることが困難ならば、このキヴォトスであの鬼の気配を読み取れる者はいないのではないだろうか。ヒマリはそう思った。
しかし、鬼の力の考察をすればするほど苦虫を嚙み潰したような顔になるヒマリに反してネルの顔は笑みを浮かべる。それに気づいたヒマリは、ネルの心情を察して思わずため息をついた。
「……普通だったら、歯が立たなかったことで落ち込みそうなものなんですが……まったく動じてないどころか、とても楽しそうですね?」
「当たり前だろ?あたしより強くて速い、んでもって勝てるかもわかんねぇ相手なんだ。そういう奴に挑んでる時程──」
────燃えてくるもんじゃねぇか。
「よし!チビと『鍵』ってのを引き合わせるまではどうしても時間が掛かんだ。その間、ちょっと鬼さんから手ほどきを受けれねぇか頼んでみるか!」
「はいぃ?手ほどきですか?え、喧嘩の間違いではなく?」
「そこまで血気盛んじゃねぇよ!そもそもあたしより強い奴の胸借りれるかもしれない機会なんて滅多に無ぇんだ、それを棒に振るような真似をしたくないだけだっつーの」
「そういうことでしたか……では折角ですし、C&Cから打診してみるのはどうでしょう?そうすれば公的に実験場の使用申請もしやすいですし、他の方の経験にも繋がるかと」
「あー、それも考えたんだが……ウチから申請するとセミナーも通るから会計に叱られそうでよ。『やりすぎないでくださいね!?』、なんてな。だからあいつらに聞きつつプライベートで頼んでみようかと」
「あー……それはまぁ……頑張ってください」
「投げやりじゃねぇか!?」
その後、鬼からの快諾を得たことで手合わせの機会に恵まれただけでなく実験場で出た被害も鬼が補装するとユウカに掛け合ったことで申請が下り、無事C&Cは手合わせに挑めるようになった。
余談だが、今回の手伝いにやって来た百花繚乱調停委員会のアヤメ、ナグサ、ユカリの三人も手合わせに参加することになったので急遽ミレニアムと百鬼夜行の親善試合という形を取ることにもなった。百鬼夜行の方角から降って湧いたミレニアムとの親善試合という案件に悲鳴を上げるカホが見えたような気もするが気のせい気のせい。隣でニヤが笑っているような気もするのでモーマンタイ。
なお、その笑みが引き攣っているように見えるのも気のせいだろう。
◇◆◇◆◇
「鬼さん久しぶり~!ナグサとユカリも一緒に来たよ!」
「久しぶり、鬼さん。少しでも役立てるよう、頑張るから」
「お久しぶりですの、鬼様!きゔぉとすの危機とお聞きし、駆けつけに参りましたわ!」
「久しぶり……久しぶりって言う程か?まぁ変わらず元気そうで何よりだ」
ミレニアムに通ずるモノレールから現れた和服の三人、アヤメとナグサ、そしてユカリの三人と鬼が数日ぶりに再会した。その後ろ側では案内のために付いてきたエイミが待機している。鬼がいる間はひんやりとした風が包んでくれるので居心地良さそうに四人の会話を眺めているのだ。
周囲の人々はあまり見ない和服の三人を見ては「観光かな?」「あれじゃない、百鬼夜行連合学院ってところの人とか……」「かもね~、あそこって確か観光が有名だったよね!」なんて世間話をしていた。ミレニアムと百鬼夜行はゲヘナと比べると交流も少なく、時々ミレニアム学園の生徒が観光目的で赴く程度。流し目程度でも見てしまうのは致し方ない。
それはそうと、三人がわざわざミレニアムへと足を運んでくれた理由を忘れたわけではないのでエイミに声を掛けて目的地へと向かう。向かう先は勿論、ゲーム開発部の部室だ。
その最中では三人の近況についての話題が盛り上がった。この数日、修行部やお祭り運営委員会、忍術研究部*1などの百花繚乱紛争調停委員会以外の面々を加えた鍛錬をしていたらしい。鬼も分身づてに把握していたが、実際に三人を見れば以前以上に身体が仕上がっているのがわかる。急激な変化……というより、より戦闘に適した動きが出来るようになっている、といったところか。
「たったの数日だってのに、よくそこまで鍛えられたもんだ。それだけ良い経験が出来たってことなんだろうが」
「うん!たったの数日だったけど、本当にやってよかったって思ってるよ。色んな人達と交流も出来たしね」
「参加してくれた人達も良い経験になるって喜んでくれて、これからも時々交流戦がしたいって言ってくれたんだ。キキョウは戦略の幅が広がるって嬉しそうだったし、レンゲは「うおおおおお!青春だー!」ってはしゃいでたし……」
「ワカモ先輩に全員吹き飛ばされながらでしたが、格上との戦いというのを経験出来ましたわ~!」
ユカリはとても明るく言っているが、ワカモの名前が出た瞬間にアヤメとナグサの顔が引き攣ったのを鬼は見逃さなかった。出会った頃からワカモの秘書修行までの間、ワカモもアヤメ達のように鬼による鍛錬に参加していたこともあってその実力は百鬼夜行でも頭一つ抜けている。
タイマンであればアヤメとナグサとも渡り合う実力と絡め手上等の戦法は、いくら百花繚乱紛争調停委員会の部長副部長の二人でもキツイ所があったのだろう。なんなら鬼による神秘を用いた戦い方を教えたことで、鬼のように炎を操って攻撃したり幻覚染みた妨害もしてくるようになっている。鬼ですら手古摺るので、その実力は折り紙付きだ。
そういえば少し前に、炎を使ったら尻尾が増えるようになって困ってるなんて相談事を受けたなぁなんて鬼が思い返していると、いつの間にかゲーム開発部の部室のすぐ近くに来ていた。中からは楽しそうな声と電子音が聞こえ、ゲーム開発部のメンバーで楽しく遊んでいるのだろう。
「……あ、アポ取ってねぇや」
「あー、そういえばそうだったね。今から部長に連絡してもらう?」
「どうすっかな……」
「ねぇねぇ鬼さん、結局私達はゲーム開発部?の子達に事情を説明すればいいだけだよね」
「ん?そうだな、オレが説明するよりかは納得されやすいだろうしな。まぁヒマリから説明した方が良かったかもだが……」
「部長は会長と一緒に準備で忙しいから、難しいかも」
ゲーム開発部へ向かう道中で既にミレニアムでの事情は説明していたため、アヤメ達三人は自分の凡その役割を理解している。そして鬼の役に立つために頑張ろうと奮起すると共に、いきなり説明から入るよりもやるべきことがあるのではないか、と考えていた。
「じゃあさじゃあさ!私達が説明する前にゲーム開発部の子達と遊んでもいいかな?あ、ナグサとユカリもいいって言ってくれてるからよ!」
「ほぉ、その心は?」
「えっと、いきなり友達が凄くやばい存在になりかけてるから、その手伝いをしてほしいって伝えるよりも……」
「一度こみゅにけーしょんを取ることで仲を深めれば、こちらからの説明も飲み込みやすいと考えたのです!」
そんな三人からの提案に、鬼はふむと顎を擦りながら思案する。実際問題、鬼よりもアヤメ達の方が受け入れられやすいと考えても初対面の存在なことには変わりない。そこでゲームなりなんなりでワンクッション挟んでから事情を説明するというのは悪くない提案だ。
ちらりとエイミの方に目を向ければ、視線に気づいたエイミが頷いた。エイミも良い提案だと感じたのだろう。
「……よし、ならそれで行こう。エイミ、ヒマリに頼んで『百鬼夜行連合学院からの交流生がゲーム開発部に興味を示して訪れたので、交流してください』、って感じの連絡をしてほしい」
「わかった。……送れたみたいだよ」
エイミの言葉の後、開発部の部室内から僅かに沸き立つような驚きの気配を感じ、次いで興奮したかのような声が聞こえてきた。それを諫める声も聞こえるが、悪感情は抱かれていないように感じる。
「なら行くか。一応エイミもアヤメ達に付いていてくれるか?」
「任せて。案内役として来たのもそのためでもあるし」
「助かる。そんじゃあアヤメ、ナグサ、ユカリ。ゲーム開発部の面々への説明は頼んだぞ」
「まっかせて!しっかりと仲良くなってちゃんと説明してくるから!」
「うん、頑張ってくるね」
「ふっふーん!百花繚乱のえりーとたる身共のこみゅにけーしょん能力、とくとご覧くださいまし!」
冷静に、しかし頼もしさの感じるエイミとやる気に満ち満ちている三人の様子に笑みを浮かべる。まだ計画のスタートラインにすら立っていないのに、何故だか『なんとかなる』という思いを抱いてしまう。
しかし油断は禁物であると切り替え、部室の扉をノックする。すると、中から「どうぞー!」なんて溌剌とした返事が返ってきた。意を決し、服装をアリスと出会った時のライダージャケット等に変えながら扉を開く。
「失礼する。百鬼夜行からやって来た交流生の引率の者だが……────あ」
開きながら目に入った光景に、鬼の口が途中で停止した。
「こんにちはー!百鬼夜行の人だよね?私はゲーム開発部の才羽モモイ………………あれ?」
「?どうしたのお姉ちゃん、百鬼夜行から来てくれた人が来たんじゃ………………あれ?」
「あ、あれ………?」
「!!鬼です!もしかして、新たなストーリーが始まるフラグでしょうか?」
まず内装だが、鬼がゲーム機に入っていた『鍵』を回収する際に訪れた時のぐちゃぐちゃ具合は鳴りを潜め、普通の部室となっていた。流石に他校からの来客が来るとなり、急いで片づけたのだろう。事実部屋の片隅の物置らしき場所からゲームがはみ出していた。
そして元気よく挨拶をした金髪の少女、才羽モモイは最初陽気に挨拶をしてくれていたが、鬼の姿を目にすると途端に首を傾げて急停止した。続くもう一人の金髪の少女………モモイに似ているため、恐らく双子の妹らしき方も姉の様子に違和感を覚えてこちらを伺い、モモイの逆方向に首を傾げて姉とのシンメトリーを作りながら急停止する。か細い困惑の声も聞こえたため、もう一人いるのだろう。
そして鬼達の目的の相手のアリスはというと、鬼の様子を見ても他の部員とは違って元気に手を振りながら近寄ってきている。以前の邂逅から少し日が経っているが、気落ちもしていないので一安心した。
だが問題はそこではない。
鬼の視線の先、ゲーム画面を映す用のディスプレイらしきテレビに向かい合ったソファに一人の
連邦捜査部S.C.H.A.L.E
「………………え、っと。こ、こんにちは?」
ぎこちない挨拶、しかし一切の動揺も無くこちらへ向けられた視線からはギラギラとした何らかの感情が滲み出ている。そして徐に立ち上がり、固まった空気など意にも介さずに歩き出し固まった才羽姉妹を通り抜けて鬼の前で仁王立つ。
深呼吸し、胸の前で強張った手を握りしめて、一言。
「ちょっとだけ、お時間いただけますか?」
言われた本人である鬼は、後方からビシバシと突き刺すような驚きの感情を拵えた視線と急激に襲い掛かった胃痛を抑えるように鳩尾を手で支える。そして何年振りかの脂汗が頬を伝い、口を強く引き絞ってただ一言を返す。
「………………勘弁してくれ」
アヤメ&ナグサ:え、もしかしてこの人が先生?何で急に鬼さんの時間を頂こうとしてるの??
ゲーム開発部の3人:もしかしてアリスが言ってた鬼ってこの人?
アリス:鬼です!!
エイミ:なんだか大変そうだなぁ
ユカリ:ですの?
先生:見つけた
鬼ィさん:たすけて
記念番外編の内容はどんなのがいいですか?
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鬼ィさん、原作に飛ぶ(時期は先生着任)
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連会「オリチャー発動!鬼さんを先生に!」
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ゲマトリアの飲み会(ただの雑談)
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カイザーとの抗争(ネタバレあり?かも)
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百鬼夜行での一日