百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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暑いと思えば夜は寒い今日この頃。皆さんはお元気ですか。自分は布団から出られない時間が若干短くなりました。


第二話 鬼面

 

 

「ちょ、ちょっと待ってー!」

 

 うどん屋でのトラブルから数分経った頃、アヤメはまだ鬼を追いかけていた。キヴォトスで生きる生徒の身体能力はかなりのものであり、頑張れば車に追い付けるほどの脚力を有する。例え今は一年生の肉体であろうと、大きな差異は無い。しかし屋根を飛び移りながら移動する鬼の速さはそれ以上であり、背負っているヘルメット団をものともせず走っている。

 背負われているヘルメット団の二人は途中で目が覚めたのか、凄まじいスピードで移り変わる景色に甲高い悲鳴を上げていた。ジェットコースターでもあそこまでの上下左右の動きは無いだろう。

 

「というかこの方向って、駅に向かってる……?」

 

 キヴォトスの中心であるD.U.からほど遠い位置にある百鬼夜行連合学園とはいえ、学園内にはハイランダー鉄道学園が運営する鉄道は走っているため学園間の移動を行うことはできる。時々ではあるが他学園からの観光客がやってくることもあるので、調停委員会や陰陽部による案内をすることもある。

 鬼が向かっている方向はその駅の一つに近く、もしやそこから送り返すつもりなのだろうか。

 

 すると鬼がこちらへ視線を投げかける。少し後方にいることを確認したようで、一気に加速したかと思うと空中に躍り出た。先程まであった距離が一気に離れる。

 

「はっや……!?」

 

「「きゃあああああああぁぁぁぁぁ────!?」」

 

 思わず足を止めれば、ヘルメット団による絶叫がエコーのように小さくなり、ついには聞こえなくなった。周りにいた人々が「おー今日はよく飛ぶなぁ」「今の子達、鬼さんに捕まったみたいだな。可愛いそ」「南無南無…」と話す声でやっとのこと気を取り直し、鬼が消えた方向へとまた走り出す。さすがに今度こそ追いつけるはずと信じて。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「──んで?君等の拠点までいくら掛かるんだ?」

「えっと……400クレジットぐらいかと…」

「んー…これだけあったらいいだろ。ほれ、さっさと帰んな」

「あ、ありがとうございます…」

「おう。うちに来たかったら何時でも対応するし、困った事でもいいから来な。それじゃあな」

「「はっはい!ありがとうございました!!」」

 

 アヤメが駅にやっとのことでたどり着くと、既に説教も送り出しも済んでいた。駅構内に向かうヘルメット団の2人は少しだけ気分が上がった様子で話し合い、姿も見えなくなる。

 

「はぁ…はぁ…結構、急いで来たのにな……」

「ん?お前さんさっきから追いかけて来てたガキンチョか」

「いや、体力ありすぎじゃない?ふう…」

 

何とか一息つき、改めて目の前の大人の姿を確認する。

 こちらは少し肩で息をしているというのに汗一つ流していない。腰に差した刀の横にあった筈のハリセンは影も形もなく、何処に仕舞ったのか見当もつかない。

 

 もしや背中に仕舞ったのかと確認するも、盛り上がった部分は無い。向こうからすればいきなり自身の周りをぐるぐるしながら訝しげな目で見てくる生徒に見えるだろうが、何を探しているのか気づいているようで何も言ってこなかった。

 

 ついに諦めたアヤメが「何処に仕舞ったの?」と言いたげな視線で鬼を見つめれば、ため息一つ吐いて「あっちで話そうか」とベンチを指さす。特に拒否する理由もないため着いて行き座ってみれば、袖口でゴソゴソと何かを探す。

 

「お前さんが探してんのは……これだろ?」

「…!?え、何処から出したのさ」

「こっからだが。てかお前さん誰だ」

「あ、忘れてた。私は百花繚乱紛争調停委員会1年生の七稜アヤメ!アヤメって呼んでくださいな」

「ほー調停委員会の娘だったか。オレはまぁ…鬼面か鬼とでも覚えといてくれ」

「じゃあ鬼さんで。ねぇねぇそれどうやって出したの?教えてほしいな!」

「めっちゃグイグイ来るじゃん…?」

 

 手品のように現れたハリセンに驚けば名を聞かれ、調停委員会に所属するものであるとわかったことで親近感を得られたのか、少しばかりの素っ気なさが無くなる。チャンスとばかりにぐいぐい距離を詰めれば困惑されるものの、嫌ではなさそうに思えた。

 

「さっきこの袖口から出してたよね?でもハリセンを入れるには小さい気が……」

「普通はな。オレのはズルしてるようなもんで、手で持てる物体ならいくらでも入る」

「へー!じゃあこういった石ころでも?」

「入るな」

「このお団子も?」

「入るな」

「この銃も?」

「入るな」

「私も?」

「入るかボケ」

「えーケチー!」

「何処にケチな要素があんだよ!?」

 

 ぶーぶー文句を言いながら袖口に団子を突っ込めば、勝手に入れんじゃねぇと取り出され口に突っ込まれる。団子を食べつつ、あまりされたことの扱いを受けることに新鮮味を感じながらちらりと鬼の横顔を眺める。

 袖口に入れていたのか、自身が食べている団子と同じものを手に取りお面の口元へと向けた。まさかと思えば、予想通り面を着けたまま団子を食し始めた。内側で口を動かしているのかと思うも、頬の動きも無く団子が一つ面の中に消えた。目の前で起きた怪奇現象に手が止まりつつ、視線は鬼が付ける面のおかしなところに気が付いた。

 

 最初の邂逅の時点でも目にしたが、面の紐が存在していない。お面が顔にくっつくようにして装着されているが、外れる様子はない。

 

「鬼さん鬼さん、ちょっと聞いてもいい?」

「んあ?なんだ」

「そのお面ってどうなってるの?ちょっと外してみたりとか……」

「断る」

「え、なんで?」

「一身上の都合により外すことが出来ません」

「それって目上の人にする断り方じゃない?…嫌がるならダメか。そんなに大事なものなの?」

「そりゃな。こいつを外すとオレがオレじゃなくなるし」

「厨二病?」

「こいつでしばき倒してもいいんだぞテメェ」

 

 予想外の理由で断られたためにポロっと口が滑れば、どうやってやってるのかは不明だがお面の表面に青筋を立ててながらのハリセンの素振りが繰り返される。風切り音が一切しないにも関わず、残像を残す無駄のない無駄な技術に思わず感心し、流石に酷い言い草だったなと謝罪する。アヤメがちゃんと謝ったからか、鬼も素振りをやめて袖口に収納した。

 

「ったく。人が大事にしてるもんのことを教えてやったら厨二病って言われるなんて初めての経験だ馬鹿野郎。オレが元々いた職場の同僚でも言われたことないぞ」

「ごめんね…って、元々いた職場?今も仕事はしてるんでしょ?さっきの子達に名刺渡してたし」

「あれは今いる会社だ。オレが立てたやつだがな、前の職場を追い出されたから一から始めたんだよ」

「追い出されるって、何したのさ」

「同僚の顔面を叩き切った」

「追い出されて当たり前じゃない?」

 

 てっきり嵌められたりして追い出されたのかと考えていただけに、追い出された理由に「そりゃそうだろ」としか思えないアヤメ。言った本人である鬼はまったく悪びれもせず「いやでもあの野郎はいない方がいいし…」とぼやいていた。

 先程までのやり取りを通じて鬼の為人をなんとなく掴んでいたために、叩き切ったという点で混乱してしまう。が、キヴォトスなんだからそういうこともあるかと納得して団子を完食する。中々のしっとりさを持った団子だったために、幼馴染───ナグサの分も買って帰ろうかと考え、いやでもあの子焼き鳥の方が好きだから食べるかな?と悩んでしまう。

 

 アヤメがどうしようかとうんうん言っていると、鬼が立ち上がる。さすがに長居しすぎたのか今から帰るつもりらしい。ならば自分も帰ろうと思うと、鬼がアヤメを呼びかける。なんだと振り返れば、折りたたんだ紙を渡された。開けていいか確認すると了承されたので開けてみれば、何かのコードらしき書かれた文字。

 

「オレの連絡先。用事かなんかあったらそれに連絡してくれ。仕事の日以外はいつも散歩してっからあんま会えねぇし」

「あ、そうなんだ…。…?時々屋根に上ってるのは?」

「気分」

「…花火を上げたり小さな子達と遊ぶのは?」

「それも気分だな」

「自由だね」

「アヤメみたく学校に行くわけでもないし、オレが動く仕事も不定期だから暇な時間が多いんだよ」

 

 そう言いながら鬼は遠ざかり、瞬きすればいつの間にか姿も消えていた。あまりにも自然に消えたことで狐に包まれたような気分になるが、手元に残った紙が先程までの時間が現実であることを実感させる。

 

 この日、七稜アヤメという少女は鬼と出会った。長い付き合いとなる、一人の"大人"と。

 

 

 余談だがアヤメは話を聞いていたナグサが指摘するまでの間、当初の目的である注意と毛布の存在を忘却しておりちょっとだけ後悔したとか。

 

 





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