百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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第三話 夏祭

 

 鬼との出会いから時は経ち、夏が近づいてきた百鬼夜行。祭りが盛んに行われる地域だからか、夏祭りの準備を進めている街の雰囲気は少し浮ついたものとなってきた。

 それは調停委員会としての巡回活動を行っているアヤメも感じており、彼女もまたワクワクしている気持ちが存在していた。

 

「さーてと、委員長から言われたルートは……ここら一帯かな?ナグサ、行くよ!」

「あ、ま、待ってアヤメ…」

 

 呼びかけられた可憐な白髪の少女──御稜ナグサが慌ててアヤメを追いかけ、二人並んで街道を歩いていく。少し前は風邪を拗らせたせいで外出することが困難だったが、安静にすればすぐに治った。しかし風邪にかかったせいなのか気分も落ち込んでおり、このごろは暗い雰囲気である時が多かった。しかしいつもよりも華やかさが増した街を見れば気分は上がるもの。普段の彼女にしては笑みが零れることも多くなっていた。

 

 そんな隣を歩く幼馴染の姿に安心しながらも巡回を欠かさないアヤメは、いつぞやに見たうどん屋を見かけた。まだお昼時でもなければ休憩の時間でもないため通り過ぎたが、あそこで出会った鬼のことを思い出した。

 

 数カ月という長くも短くもない期間ではあったが、鬼と出会うことは予想以上にあった。

 

 屋根の上で日向ぼっこをしているのを見たこともあれば、積みあがった段ボールを一切のブレもなく運んでいる姿を見たこともあった。稀に初等部の生徒達の遊びに混ざっていることもあり、よく見たのはかくれんぼの鬼をしている姿。隠れた子達を相手に絶妙な時間間隔で探し当てて楽しませていた。しかし隠れる側になると途端に下手になるようで、雑貨屋の面置き場に突っ立っているのを見た時は本当に隠れる気があるのか不思議に思ったものだ。

 

 時々自分から連絡を取り雑談に興じることもあった。自分以上に百鬼夜行のグルメを知っているのか、鬼に連れられてお茶をすることもしばしば。おかげで有名どころのお菓子はほとんど堪能できた。流石にお世話になっていると思ったのでアヤメが払おうとしても、「ガキに支払わせる大人がいるかよ」とにべもなく断られてしまう。

 贈り物でも渡せば受け取ってもらえるだろうかと考えていると、そういえばとふと思う。隣の幼馴染と二人で鬼と出会ったことはなかったな、と。

 

 いつも鬼と出会うのは調停委員会の活動も終わり、一人で散策している時のみ。幼馴染を誘わなかったのは風邪を拗らせていたこともあるし、落ち込み気味というのもあった。関わる内に悪い大人ではないと判断できたが、第一印象は刀を持った鬼であるため自分に自信を持てない幼馴染は委縮してしまう可能性があった。落ち込み気味だったのがさらに悪化する可能性もあり二人で会うこともなかったが、今の雰囲気なら会っても大丈夫ではないだろうか。

 

「そういえばナグサって、鬼さんと出会ったことってあったっけ」

「え…?鬼…鬼……ううん。無い、かな。聞いたことはあるけど、ちょっと怖くて…」

「じゃあさ、一回会ってみない?いい人だからさ!」

「え…!?あ、あう……アヤメも、一緒にいてくれる?」

「もちろん!私が誘ったんだから当たり前じゃん」

「じゃあ、会ってみたいな…でも、調停委員会の活動中に会えるかな…?」

「どうだろう?雑貨屋のお面コーナーの横で突っ立ってることもあったし、初等部の子達にもみくちゃにされてたこともあるからなー。まぁ会えなかったら連絡すればいいし、大丈夫大丈夫」

「連絡先、もう持ってるんだ……?」

 

 担当する時間まで巡回し、トラブルが発生した場合は適度対処するというのが今日の活動内容だったが、今のところはこれと言った問題もなくただただ同じルートを歩き続けていた。そこに「鬼を探す」という目標が入ってくれば活動にも身が入るというもの。さぁ残りのルートも回り切ろうと歩き出し……

 

「あっ、アヤメちゃんじゃねぇか!すまんがちょっと手伝ってくれんか!?人手が足りなくてよ、祭りに間に合うか微妙なんだわ!」

 

 呼び止められた方向に目を向ければ、街灯に提灯を飾り付ける機械人のおじさんがいた。頭に鉢巻を括り付けており、祭りに対する熱意を感じられる。

 

「はいはーい、任せてよ~!ナグサはどうする?」

「私も手伝うよ。…できるか、わからないけど」

「ありがと!おじさーん、私達はなにしたらいいー?」

「荷台に乗ってる提灯をあっちに持って行っててくんねぇか。つけるのは向こうにいる奴等がするからよ!」

「了解~!ナグサ、行こっか!」

「うん…!」

 

 教えてもらった方向に行けば、大量の提灯を積み込んだ荷車が鎮座していた。遠くの方に目を向ければ、色んな人達が協力して提灯を着けているのが伺えた。かなりの人数がいるとはいえ、街全体に飾り付けるとなれば確かに人手が足りていない気がする。

 巡回のこともあるため早く済ませてしまおうと意気込んでいると、見覚えのある後ろ姿を発見する。高い背丈に、変わらない着物姿。梯子無しで街灯によじ登り、袖口から提灯を取り出して飾り付けるまでのスムーズさはかなりの慣れがある。極めつけに腰元に差した一本の刀。おそらくキヴォトス中を探しても常に刀を差している人など一人しかいない。

 

「おーい鬼さーん!鬼さんもいたんだー!」

「あの人が、鬼…?」

「あ?その声は……アヤメか?」

 

 街灯を滑るようにして降りてきた鬼がこちらに歩いてくると、隣にいたナグサがアヤメを盾にするようにして身を隠す。少しだけ顔が出ているため、興味はあるようだ。ナグサとアヤメの視線を受けて鬼は少し不思議がりながらも二人に声を掛けた。

 

「おいおい、なんでアヤメが提灯を持ってんだ。他の調停委員会の子達みたいなパトロール中じゃねぇのか?」

「そうだよ。だけど提灯の飾り付けを手伝ってほしいって言われたから、じゃあ手伝った方がいいかなって!そういう鬼さんは?」

「祭りの運営に携わってる知り合いからヘルプが来てな。運営自体はニャン天丸が大丈夫って言ってたんだが、流石に提灯の飾り付けが予定より遅いらしいから頼んだってさ。それより、アヤメに隠れてるその白髪の生徒は誰だ?お前さんの知り合いか?」

「そう!私の幼馴染のナグサだよ!ほらナグサ、隠れてないで出てきなって」

「あう……えっと、御稜、ナグサです。よろしくお願いします…」

「おう、よろしくな。オレのことは鬼面とかそこのアヤメみたく鬼さんとかで覚えといてくれ」

「は、はい」

 

「アヤメと違って引っ込み思案気味な生徒だな」と呟きながら、袖口に手を突っ込んで新しい提灯を探す鬼。しかしいくら探しても見当たらず、諦めて二人の手元に目をやった。

 

「…提灯はまだあるな。よし、じゃあ二人ともオレについてきてくれ。オレが提灯を飾り付けてくから二人が渡すっていう形で行こう」

「了解~!」

「わ、わかりました…!」

 

 先導して歩く鬼とその後ろをついていくアヤメ。そしてさらに後ろをひよこのようにちょこちょことついていくナグサの姿は、少しばかりの間だが百鬼夜行内で微笑ましい光景として有名になったらしい。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 春が過ぎ、夏の夜。暗い夜闇の下で、ぼんやりとした提灯の明かりが街を照らす。街中を囲むようにして飾り付けられた提灯と街道に並んだ屋台の列から香る焼きそばやたこ焼きに焼き鳥の匂いが来る人々に祭りの雰囲気を直に感じさせる。

 

「ほらナグサ、あっちで待ってるって!」

「待ってアヤメ、ねぎまがまだ食べれてなくて…」

「食べながら歩いたらいいから!」

 

 ゲヘナ学園やトリニティ総合学園、さらにはミレニアムサイエンススクールの制服と百鬼夜行連合学園の制服が入り乱れる中、二人の少女が人波をかき分けながら進む。目指すはある神社。祭りの日の問題対処に当たるメンバーに上級生が当てられていたのも幸運と言えるだろう。

 

 

 

 前日の昼の時のことだった。その日もまた鬼に連れられ、自分達が手伝って飾り付けた提灯を眺めながらおにぎりを頬張っていると鬼にとある提案をされた。

 

「神社?」

「おう。オレが月一ぐらいで通ってるところでな、神木と花火がよく見える場所にあんだよ。折角だし三人で見ねぇか?」

「へー隠しスポットってやつかぁ。私は全然大丈夫だけど」

「私も、大丈夫です」

「おし、なら明日の花火前……7時ぐらいにはここに来てくれ。そこからはオレが案内するからさ」

「はーい。でも急にどうしたの?」

「前もって約束しとかねぇとアヤメはオレを探しかねないしそれにナグサは巻き込まれそうだからな」

「私のことなんだと思ってるの?」

「初対面のやつに厨二病とかほざくガキ」

「それはゴメン」

「おう許してやろうじゃねぇか」

 

 HAHAHAと笑い合う二人に対し、少しばかり蚊帳の外に感じてしまうナグサ。まだ関わって数カ月だというのにアヤメとかなり仲良くなっている鬼に対する嫉妬心もあるし、それを自覚して自己嫌悪もしてしまう。そんなナグサの状態に目をやりつつ、鬼が立ち上がって二人に対して口を開く。

 

「あとはまぁ、ナグサのことも知りたくてな」

「……え?」

「アヤメに関しちゃあ何となく知ってはいるけど、ナグサに関してはオレよくわかってないからな。せっかく関わったんだからもっと知っときたいって思うのは変か?」

「でも、私って美人なところしか取り柄が無いし、アヤメと違って強くもないから……」

「急にどうした???……まぁとりあえず、ナグサのことを蚊帳の外にしたくないってだけだ。面とか強さとか関係ねぇよ。…話は以上だ、オレは運営のやつらに呼ばれてっから、またな」

「うん、また明日!」

「…また、明日」

 

 

 

「……」

「ナグサ?どうしたの?」

「あ、ううん。昨日のことを思い出して…」

「鬼さんのこと?そういえばナグサにナンパみたいなことしてたね。もしかして鬼さんと会うの、嫌だったり?」

「ナン……っ!?ち、違っ、その、私はアヤメみたいな凄い人じゃないし、いい人でもない。なのに、なんで関わってくれるんだろうって……」

「……さぁ?鬼さんなりの考えがあるんじゃない?本人がいるんだし直接聞いてみたら?案外応えてくれるかもよ」

 

 華やかさと賑やかさが両立していた世界から少し離れ、二人は小さな鳥居の前に辿り着いた。鬼から待ち合わせ場所として指定された場所だ。鳥居の向こう側は少しばかりの提灯が釣り下がっており、石階段を淡く照らしている。そして鳥居の下に視線を向ければ、見慣れた鬼面がぼんやりと浮かんでいた。いつもの着物姿ではなく、浴衣を着こなしている。

 

「おう、アヤメにナグサ。ほぼ時間ピッタシだな」

「こんばんは…」

「鬼さんこんばんは!それで、この階段の上で見る感じ?」

「そうだ。結構な高さだが、二人なら苦でも無いだろ。さ、行くとしようか」

 

 二人からの返事を聞きながらも鬼はゆったりとした足取りで階段を登っていく。同じようにアヤメとナグサも登っていけば、少しだけ階段が途切れた部分が見えてくる。結構な高さがあると聞いていたが、思ってたよりも早く着きそうだなとアヤメが考えていると、鬼から声を掛けられる。

 

「二人は、今日の祭りを楽しんでるか?」

「え?そりゃ楽しいけど」

「私も、楽しいです」

「…そうか」

「何々、急にどうしたのさ」

「いやなに、花火を見ようって誘ったのはオレだったからな。後からお前さんら二人が、他の同級生と集まるってことを考えてなかったからさ…ちょっとだけ、後悔しててな」

「ふーん」

「いやふーんて、興味なしかよ」

「だってさ、他の子達は他の子達で集まってるし、私はナグサといれたらいっかなって思ってたから」

「そういうナグサは?」

「…私もアヤメといれたら、良かったから」

「……最近の高校生ってそういうもんなのか?よくわからんな……」

「そういう鬼さんこそ、なんで私達のこと誘ってくれたのさ?鬼さんって結構顔が広そうだし、引く手数多だったりしないの?」

 

 別に他の同級生と交流が無いわけではない。それなりに喋るし、困っていたら手助けだってする。ナグサはどうなのか知らないが、アヤメ自身は鬼と花火と祭りを見るのにワクワクもしていた。今まであってきた人達とどこか違う目の前の大人が、無性に気になったというのもあるだろう。

 そこでふと思い至る。昨日鬼はナグサのことも知りたかったからと言っていたが、本当にそうだったのだろうか?建前ではなく、本当にナグサとの交流を深めようとしていたから共に誘ったとか、と。

 

 そんな思考をしている内に階段を登り切り、歴史がありそうな神社の前に辿り着いた。後ろを振り返ってみれば、神木と街を一望できる景色が広がっていた。

 感嘆していると、隣に立って振り返ったナグサもまた感嘆の息を一つ吐く。己が住んでいる街を見渡す経験など無く、そこに祭りの明かりが加われば猶更のこと。

 

「言っただろ、ナグサのことをもう少し知っておきたいって。お前さんら二人とは、長い付き合いになりそうだからな」

 

 足元にブルーシートが広げられると鬼の袖口から重り用の石が取り出され、いつの間にか用意した紙袋から祭りの定番である焼きそばやたこ焼きにお茶の入った急須と人数分の湯飲みが用意される。鬼の袖口からどうやって入れていたのかわからない石が何個も出てくるのを見たナグサは思考が停止し、脳内に疑問符が大量に浮かんだ。

 

「まぁ、純粋にアヤメを含めた三人で見に行きたいって気持ちもあったがな。あとここの自慢がしたかった。こんな所があるんだぜーって」

「うわ、年下にマウントとって恥ずかしくないの」

「大人だって自慢話ぐらいしたいもんなんだよ。それに、実際に綺麗だろ?ここ」

「…うん。綺麗」

 

 湯飲みに入れられた茶を飲みながら街を眺め、花火の時間まで待つ。焼きそばも食べてみれば、祭りが大好きな百鬼夜行なだけあって中々に美味だった。

 

 またナグサもアヤメと同じように茶を口にしつつ花火の時間まで待機することにしたらしい。先程の紙袋と袖口から出た石はまだ処理しきれていないようで、時々紙袋と鬼の袖を見比べては首を傾げている。幾ばくかの空白の時間が生まれ、それぞれが思い思いの時間を過ごし……花火の時間が来た。

 

 

────ひゅるるる~~~………ドーンッ!!

 

 

「おー!本当によく見える!」

「だろー?」

「…ホントに、綺麗」

 

 打ち上がった花火が空を彩り、下の祭りの雰囲気も一層賑やかになった。その後も連続で打ちあがり続けて祭りはさらに盛り上がりを見せていく。

 三人はそんな街から少し離れ、しばし花火と街が一望できる景色を堪能した。

 

 花火を見ながら鬼と二人の生徒の談笑が続き、ナグサも鬼に対して少しばかり心を開き始めるのだった。

 

 

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