百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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第五話 救出

 

 始まりはいつものように鬼の下に向かおうとした時のことだった。いつものようにナグサと共に街並みを眺めつつ歩いていると、行き交う人々の話が耳に届いた。少しの驚きを含み、「またか」という呆れた雰囲気。

 

「ねぇねぇ聞いた?最近他の学園で噂されてる話…!」

「聞いた聞いた。ゲヘナ学園とトリニティ総合学園に出たらしいね……超高速で移動する影!」

「ゲヘナ学園で暴れてる問題児達がその影に轢かれたせいで今日一日だけ静かだったって話、本当なのかな?」

「でもでも、時々出てるってことだから本当なんじゃない?あ~あ、珍しく静かならゲヘナに遊びに行けたかもな~」

「やめときなよ~もしかしたらアンタも轢かれちゃうかもよ?」

「コメディ漫画みたいに錐もみ回転しながらぶっ飛んで?……ちょっとやってみたいかも」

 

「今日で何回目だ?」

「さぁな。だが、かなりの期間空いてたってのは確かだが」

「トリニティ総合学園じゃ正義実現委員会が出動したんだってよ」

「何度も侵入されちまったからか?で、どうだったんだ?」

「交戦しなかったってよ。いや、交戦できなかっただったか?」

「できなかった?正義実現委員会ってのは、ここで言う百花繚乱紛争調停委員会みたいなもんだった筈だろ。なんでできなかったんだよ」

「なんでも、正実の中でも特に実力が高い生徒が先陣切ったかと思ったら菓子折りと手紙を持って帰って来たんだとさ。行きはかなり騒がしかったのに、帰ってきたら困惑した様子で戻って来ててかなり驚かれたらしい」

「は?菓子折りと手紙?…なんて書いてたんだ?」

「『騒がしくしてすんません。お菓子は皆さんで食べてください』って書いてあったらしい」

「……なんでだろうな、俺ぁそんなことをしそうな人を知ってる気がする」

「……珍しいな。多分同じ人を思い浮かべてるぜ」

「「……ま、流石に違うだろ!ハハハハハ!」」

 

 色んな人の話に出てくる超高速で移動する影。これはアヤメも聞いたことがあった。曰く、スローモーション撮影でも影のような何かが飛んでいるようにしか見えず、楕円型の軌道を取りながら飛び上がることはあるが基本的に低空飛行している何からしい。

 時々その影に轢かれてしまう犠牲者もおり、都市伝説というには少しばかり人の目に触れすぎている。だがこれまた不思議なことに轢かれる犠牲者は一人残らず何かしらのトラブルを起こしていた生徒、暗い噂が絶えないとされている企業の幹部や重役のみとなっており、先程挙げられた正義実現委員会などの治安機構の職員は一切被害を受けていないのだとか。

 一部では「このおかしな影は何かしらの判断基準を持って人を轢き飛ばしているのでは?」と囁かれているらしいが、真実は明らかとなっていない。

 

(この噂、鬼さんも知ってるのかな)

 

 彼の下に遊びに行くようになってから知ったことだが、彼はキヴォトスで噂される異常現象に詳しい。アビドス高等学校には巨大な鯨と大蛇が合体したような化け物がいたり、とある閉鎖された遊園地に二体の人形が存在していたのだとか。ここ百鬼夜行では百物語という怪談に記された怪異が出るらしく、人目に付かないうちに処理してるらしい。唯一トリニティのことには口をつぐみはしたものの、他学園のことも含めてよく知っているなぁと感じた。

 

 そんな彼ならば、今日も噂になっている影の正体もわかるのではないだろうか。他の異常現象についても何かしらの正体を掴んでいるのか、「預言者が~」「恐怖が~」なんて言っていたのを覚えている。

 

「ナグサは知ってた?最近噂になった影の話」

「みんなが言ってたのは知っているけど、直に見たことは無かったかな」

「あ、やっぱり?他の学園に出た~って話は私も聞いたことがあるんだけど、百鬼夜行で現れたって話は聞いたことないんだよねぇ。もしかしたら、百鬼夜行の誰かかもしんないね?例えば…」

「鬼さん、とか?」

「もしかしたらだけどね。でももしそうだとして、なんで姿を隠すんだろ」

「あまり人に見られたくない、とか?」

「だとしたら、わざと誰かを轢き飛ばす理由が無いように思えるんだよね~。んー……誰がやったかってのが知られたくなかった、とか」

 

 二人はあーでもこーでもないと何故鬼が影となった状態で爆走しているのかを推理しながら通りを行く。影が鬼であるという想定は既に前提条件として組み込まれ、鬼ではないという予想は一片たりとも話に出てこない。というのも二人、どう考えても鬼が影になってるんだろうなぁということを話をしている内に確信していた。

 

 そもそもアヤメは鬼の桁違いな身体能力を目にしており、絶対に他にもなんか隠してるでしょと常々疑っていた。さらにあの黒スーツの異形に出会った日に散歩範囲がキヴォトス全域と言っていたのも覚えており、他学園に出て百鬼夜行に出ないという事実から百鬼夜行内ではバレてしまうかもしれないと考えているのではと予測を立てたことで鬼に行き着いた。

 逆にナグサはというと、アヤメが調停委員会の委員長に呼ばれて不在の際に鬼と散歩をしていたことがあり、その際に鬼が茶を用いた和菓子店に入って何かしらの商品を買っていたのを知っていた。その際に和菓子の用途について聞いてみれば、「いやーそろそろ迷惑かけてそうだから、何かしらの詫びはあった方がいいかなって。あそこ結構ギスギスしてるし…」と言っていた。

 

 トリニティ総合学園がギスギスしているというのは初めて知ったが、その時は何かしらのトラブルでも起こしたのかなと流して鬼が作った焼き鳥に舌鼓を打っていた。確信を得たのは噂に上がった正義実現委員会の受け取ったという和菓子。噂の少し前に鬼は和菓子を買っていたなと思い出し、あの影は鬼さんだったのかと納得した。

 

 話している間も二人は歩き続けた。最近屯する場所を変えたらしく、前までいた和菓子店ではなく温泉旅館へと向かった二人。場所を変えた理由は至ってシンプルで、「最近温泉にハマってんだよな」とのこと。が、いつぞやのように屋根に鬼の姿は無く、澄んだ青空のみが見える。

 

「……今日もいないね。また職場かな」

「女将さんなら、何か知ってるんじゃ?」

「確かに?じゃあ聞いてみようか!女将さーん!鬼さんのこと知らなーい?」

「あらあらアヤメちゃんにナグサちゃん、また鬼さんに用なのかい?残念だけど、今は散歩中よ」

 

 旅館から現れた女将が言うには、「準備が出来たからまた散歩に行ってくる」と言って姿を消したらしい。昨日の真夜中に伝えたらしく、今日までには帰ってくる予定とのこと。

 

「そっかぁ……じゃあ外で待ってようか。そろそろ帰ってきそうな気がするし!ありがとね女将さん!ばいばーい!」

「ありがとうございました、女将さん」

「役に立たなくてごめんよ。今度来たときはちょっとだけサービス付けといてあげる」

 

 女将に感謝し、旅館の外に出てきた二人はこの後どうしよう?と立ち止まる。今日は休日なので授業も委員会の活動も無く、かといって鍛錬をする気分でもない。お茶でも飲みに行くか迷うが、せっかくなら鬼も一緒の方がいい。彼の話はお茶のいい肴になるからだ。

 自然と近くの川に架かった橋の柵に寄りかかり、少しの間ぼうっとすることにした二人。

 

 アヤメは持ち歩いている愛銃の動作チェックを行い、ナグサはいつも持ち歩いている銃弾の数の確認をする。休日とはいえ、稀に応援の呼び出しが飛んでくることがあるため装備の確認は忘れないようにしている。

 例え最強の存在であろうと、準備を怠れば寝首を掻かれるものなのだ。

 

◇◆◇◆◇

 

 時計が一刻回ったかと思った頃、川を進むアヒルの親子を眺めていたアヤメは風が変わったことに気づく。どこか、乾いていながらも暑い風。

 目を閉じて仮眠を取っていたナグサも風の変わり目に起こされたようで、不思議がった様子で辺りを見回す。

 

 嫌なものを感じるわけではないが、それでもどこかが違うと感じた風の音に混じるようにして下駄の音が聞こえた。遠くから微かに聞こえるわけではなく、風に運ばれて聞こえたわけでもない。最初からわからなかっただけで聞こえていたのかと勘違いするほどの近くから鳴った音に、アヤメとナグサは「いやまさかな」という否定と「でも彼ならありえそうだな…」という期待を持って音の方向へと振り向き……急に体が石になったのかと思うほどに一瞬で固まった。

 

「よう、二人とも。今回の散歩はかなりヒリヒリしたぜ」

 

 いつもの調子で話しかけてくる鬼。いや、そこに驚いたわけではない。急に現れたのもまぁ何かしらの力で現れたのだと予測できるが、それに固まったわけではないのだ。二人が固まった原因。それは今も鬼の肩にある存在。

 

 米俵の抱え方をしながら持ち上げているそれはヘイローが存在しているためどこかの生徒だとわかる。かなり長い髪の持ち主のようで、緑がかった薄い水色が日差しに照らされて鮮やかに見える。またかなりのスタイルもあるようで、鬼が何度持ち直そうとしては揺れる山に二人の視線が誘導されてしまう。ナグサは自身の体と見比べては鬼の肩に視線を戻し、何度も繰り返して……絶望した。なんなら膝をついた。

 

 アヤメは(デッッッッ……)と叫びそうになった内側の自分を殴り飛ばして抑制し、震えた声で鬼へと問いかける。

 

 

「どうしたナグサ、膝を折ったかと思ったら絶望し始めて。ヘイローがパキパキ言ってっけど大丈夫か?」

「…………鬼さん、その肩にいる人は……?」

「散歩してたら拾った」

「ひぃん……」

「「???」」

 

 鬼がどっかから()()()()()()()()()()を持った生徒を拾った。その情報の重さに脳の処理機能が負け、二人は思考を放り投げた。

 

◇◆◇◆◇

 

「うし、応急処置はしてたから命は助かるだろうが……ここまで来たら治るのも早いだろ。んでアヤメとナグサは何してんだ?ナグサはまだ絶望してるけどよ」

「ナグサはまぁ……放っといてあげて?ちょっと自分に無いものを直面して絶望してるだけだから」

「……あー。セクハラになるからあんま言いたかないが…まだ希望はある、はず……うん」

「ぎゃくにとどめをさしにきてる……」

 

 鬼に連れられてやってきたのは、百鬼夜行内にある診療所だった。比較的ダメージを抑えることに成功したアヤメは鬼の用事が終わるまで待ち、鬼に持ち上げられて運ばれたナグサを頑張って励ましていた。そのかいあって何とか持ち直し、医師に彼女を任せて戻ってきた鬼によって再度撃沈された。慰めが止めになってしまい慌てる鬼、もう一度事実に直面したことで自分もまだ希望はある筈と一度現実逃避するアヤメ、ひたすら「やきとりがたべたい……」と呟くナグサ。診療所の待合室はカオスだった。

 

 余談だが、後になって一部分がまるで育たなかった調停委員会副委員長のナグサはこのことを根に持っており、時々他生徒と自分を見比べてはむしゃくしゃしてとある怪談家と共に鬼へ炒った豆を投げつけている。

 

閑話休題(まぁそれは置いておいて)

 

「鬼面様、少しご相談があるのでこちらに来ていただきますか?」

「あ、はい。悪い二人とも、ちょっと面倒なことになってそうだから後で説明する」

「あ、うん。ほらナグサ、ちゃんとしなって」

「あやめぇ……」

 

 グスグスと泣き出したナグサの対応をしている内に相談が終わったらしく、鬼が現れてことの詳細を話し始める。

 それは鬼の趣味である散歩であり、ある一人の少女の命を繋いだ話だった。

 




少し長くなりそうだったのでここで一区切り。
もしかしたら明日も一日置くかもです。

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