飽きもせず、新しく投稿します。
「お姉さま。お姉さま。」
と、白銀の髪をなびかせる少女は、金髪の少女の双丘へと顔をしずめぐりぐりと顔を押し付ける。
金髪の少女、ラナーはそれを愛おしそうになでながら、
「ねぇ、ミラー。ちょっといいかしら。」
と、声をかける。
白銀の少女、ミラーは顔を押し付けるのをやめ、顔を上げる。
「どうしたのおねーさま」
「そうね。一応お兄様の為に色々決めないと。」
「………………」
と、頬膨らましている。
本当にかわいい。
自然と手で白銀の長髪をわしゃわしゃする。
そんなことはお構いなく、ジト目でこちらを見ている。
「まあまあ、でも、しょうがないでしょ。」
「…はぁ。」
と、言いながら居住まいを直す。
先ほどの雰囲気はどこへ行ったのか、まともに対応している。
「で、なんだっけ?」
「うーんとね、まずは今年の税率から決めないと…」
「そこらへんは決められるんじゃないかな。王様も馬鹿じゃないんだし。」
「そうもいかないのよね…。」
北部地方は、例年に比べ収穫量が落ちている。
それに周辺をまとめている貴族が貴族だ。
「…たしか、北部地方が凶作なんだっけ?」
「そうね。」
案の定、ミラーも知っていたらしい。
さすが自慢の妹だ。
「そうね…。北部の貴族からは締め付けを弱める…。いやボウロロープ…。そうね9パーセントほどでいいんじゃないかしら。」
「
「何度か痛みつけているから問題ないでしょ。それでもやってくるなら、そうね邪魔だからお父様と同じ目に合わせればいいかもしれないわね。お姉さまもそう思うでしょ。」
と、こちらにさも当然というように首を傾ける。
確かに、国政をまわすうえで貴族派閥をまとめるのに便利そうだから、残しているけど…。
最悪ここまで物分かりが悪いのであれば一思いにやるのもありかもしれない。
「そうね。確かにそれがいいわね。じゃあ次。」
と、寝屋の上、二匹の化け物は話し合う。
決められるのは、王国の根幹をなす政策ばかり。
それを、さも当然に疑うことすらなく次々と決めていく。
「いったんこんなところかしらね。」
「お兄様も一人で決めればいいのに。」
「しょうがないでしょ。交換条件なのだし。」
と、ラナーは、ミラーをたしなめる。
すでに、先ほどの内容は手紙にまとめられており、届ける手はずはそろっている。
「なんだっけ。王の面倒ごとは全部引き受ける代わりに政策を手伝ってくれ~。って言ってたっけ。」
「まあ、まあ。そのおかげでこうやって二人で暮らせているわけだし。」
「はあ、手がかかるお兄様。それよりも…ねぇお姉さま。こんなうわさは聞かなかったかしら?」
ミラーが、こんなことを言うのは非常に珍しい。
「噂?」
「そう。エ・ランテル付近に何やら大きな地殻変動があったみたいなんだけど。」
それは、初耳だ。
「えっと、初めて聞いたわ。」
ミラーは得意げにふふんと鼻を鳴らし、
「えっとね。確か噂で聞いたんだけど、エ・ランテル、そのカルネ村だったかしら、あの付近に小山が出来上がったということを聞いてね。」
「…。」
カルネ村…。ああ、あの帝国との国境付近の村か。
地殻変動。もしかして帝国が軍事…。
いや、あの坊ちゃんが私たちの裏をかく。万に一つとしてほぼないだろう。
戦略的にも意味不明…。
「お姉さま。お姉さま。」
「ん、何かしら?」
想像以上に考え込んでいたらしい。
ミラーの一言で戻ってくる。
「一つの仮説ですが、もしかしたら100年の…。」
「…確かにその可能性もあるわね。」
十分に警戒する案件だ。
「いったん。こんなところね。」
「じゃあ。」
「ほら、いらっしゃい。」
と、ベットの縁に腰掛け、膝を叩く。
ミラーは待ち望んでいましたと言わんばかりに頭を押し付けてくる。
膝にミラーの息が当たり少しくくすぐったい。
「ねえ、ミラー。明日、ピクニックでもいかない?」
「ピクニック。行きます。」
王都の中心街から外れた一角にある一軒家。
そこでは幸せな時間が流れていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝。
封蝋付きの書簡が机に置かれている。
紋章は王家のもの。
だが差出人の名はない。
なくてもわかる。
「……来たか。」
向かいに座るのはレイブン公。
静かに紅茶を口にしている。
「殿下。開けますか。」
「開けぬわけにもいかんだろう。」
封を切る。
最初の一文を読んだ瞬間、こめかみが重くなる。
――ボウロロープ候を貴族位から排除する策
「……はは。」
乾いた笑いが漏れる。
「いきなりそれか。」
レイブン公が文章を覗き込み眉をわずかに動かす。
「大胆、というべきでしょうな。」
内容はこうだ。
凶作に苦しむボウロロープ領。
王都いや王は“慈悲”として税率を大幅に引き下げる。
表向きは救済。
だが。
横領があれば即時摘発。
証拠の大まかなありかは書簡にも記されている。
慈悲と罠を同時に張る。
「相変わらず、我が妹たちは性格が悪い……。」
思わずこぼれる。
「しかし、理には適っております。」
レイブン公は淡々としている。
「凶作は事実。減税は正義。その上で不正があれば断罪。
反発の余地はございません。凶作ゆえ市民の反発も相当なものでしょう。」
王は書簡をめくる。
他にも並んでいる。
・帝国との距離を曖昧に保つための商会誘導策
・エ・ランテルの情報網再構築
・帝国への黒粉密輸
などなど。
奇策ばかりだ。
正攻法ではない。
だが、成功すれば国は締まる。
「……私は管理できる範囲しか考えぬ。」
王は椅子に背を預ける。
「彼女らは、管理できぬ部分を弄る。」
レイブン公は目を細める。
「まるで未来を見ているかのようです。」
「やめろ。」
即座に遮る。
「予知などではない。妹たちの計算だ。」
だが。
確かに。
ここ数年、王国は持ち直している。
それも、不自然なほど、先回りして。
「殿下は、どうなさいますか。」
王は書簡を机に置く。
しばらく沈黙。
「実行する。」
レイブン公はわずかに息を吐く。
「異論は?」
「ありません。しかし…薄気味悪いですね。」
窓の外を見る。
王都は今日も穏やかだ。
数年前と異なり、道には馬車が行き来しており市場は活気と物で溢れかえっている。
まさに理想の国だ。
「……私は王だ。」
小さく呟く。
「利用できるものは利用する。」
それが得体のしれない妹であろうと。
レイブン公は静かに頭を下げる。
「承知いたしました。」
机の上の書簡。
整然とした文字。
ザナックいや、ランポッサ四世はもう驚かない。
驚かないことに、わずかな寒気を覚えながら。
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