白銀の妹   作:meigetu

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実際は二日後投稿予定でした。
設定ミスって来年の二日後が投稿予定日になってました。

600PV & 15登録ありがとうございます。


二話

「ごめんね。急に呼び出してしまって」

 

柔らかな声音。

 

森の昼下がり。

木漏れ日が揺れる開けた空間に、三人の少女がいた。

 

「いいのよ、ラナー。王都でちょうど休暇中だったし、気分転換にもなるわ」

 

ラキュースが笑う。

 

王城から少し離れただけで、空気はずいぶん軽い。

 

少し離れた木陰では、銀髪の少女が本を読んでいる。

 

「ミラーは……ああ、あそこで読書中なのね」

「はい。お気に入りの時間のようです」

 

本から目を離さぬまま、しかし会話は聞いている。

そんな距離感。

 

ラナーはくすりと笑う。

 

変わったのは環境だけ。

関係は、変わらない。

風が吹き抜ける。

穏やかだ。

 

「最近の青の薔薇はどうかしら? 何か面白い依頼でも?」

 

何気ない問い。

だが、ラナーの視線は柔らかく固定されている。

 

「相変わらずよ。ああ、そういえばティアが死ぬほど行きたがっていたわ」

「へえ?」

「お姉さまに毒牙をかける輩など……」

 

本から視線を上げず、ミラーが呟く。

温度が、わずかに下がる。

 

「ミラー」

 

ラナーが優しく窘める。

 

「冗談です」

 

冗談に聞こえない。

ラキュースは苦笑する。

 

「相変わらずね、本当に」

 

話題を変えるように、ラキュースがつぶやく。

 

「そういえば、生活には慣れてきたかしら?王城から引っ越していたことは知っていたけど。」

「そこは大丈夫よ。これなんてミラーの手作りなのよ。」

 

色鮮やかなサンドイッチ。

野菜の断面が美しい。

 

「あら、なかなかに暮らしを楽しんでいるのね。」

「そう言えば、ラキュース。青の薔薇はどういったものを食べているのかしら?」

「どうしたの唐突に?」

「いや、ただただ知りたくてね。もしかしたら普段の料理に役に立つのかなって。」

「そうね…。でも、自分で料理することはあまりないかしら。ほとんどが保存食か、宿の料理だし。」

「そっか。残念。」

「そうね機会があれば、店主にでもレシピを聞いてみるわ。」

 

そういうとミラーは、嬉しそうに笑顔を浮かべた。

久方ぶりに話しあいその心地よさから矢のごとく時が過ぎる。

 

日が傾き始める。

ここで、ラナーがふと空を見上げる。

 

「そういえば、近いうち私の方から青の薔薇にクエストを出したくて、いいかしら?」

 

と、ラナーは話す。

 

「それは?また、六腕みたいなものがでてきたの?」

「ふふ、それと同じくらい重要なことよ。まあ、危険はないわ、少なくともあなたたちには」

「………含みがあるわね」

 

ラナーと、ミラーは顔を合わせ微笑む。

 

「ええ、少し想定外のことが起こってね早急に調査してほしいの。エ・ランテルの町のほうで。」

「エ・ランテル?」

「そう、そこから少し離れたカルネ村付近に大きな地殻変動があったようです。」

 

と、ミラーが本から目を外し、一枚の地図を出す。

推測される場所に指を走らせる。

そこは確かに帝国、王国の国境付近であった。

 

「地殻変動ね。何か急に山でもできたの?」

「ええ。正確には“隆起”に近いですね。不自然な規模です」

 

と、即答される。

一瞬当たったことに驚き、ラキュースは困った顔を浮かべた。

 

「エ・ランテルって帝国付近の町でしょ。さすがに帝国とのごたごたに巻き込まれるのはごめんよ。」

「その線はないと思います。というより、わざわざ珍妙なものを立てる意味が分かりません。」

「まあ、ミラー様が言うのであれば…そうなのでしょうけど…」

 

ミラーの声は平坦だった。

ラキュースが腕を組む。

 

「といった感じよ。できればそこに何があるかだけでも調べてくれればいいのだけど。」

「もう一つ質問いいかしら。」

「なに?」

「なぜ私たちなの?これくらいの任務なら下級の冒険者でもいいと思うのだけど。」

 

至極当然の意見であった。

 

「偵察程度の任務ならゴールドいやシルバーでもいいと思うけどなぜ私たちに?」

「そうね……。」

 

ラナーは一瞬考え、

 

「もちろん、それは危険性が高いからよ。そして信用のある冒険者を動かしたいからよ。そして、早急に任務を行ってほしいの。」

「早急にって…。」

 

ミラーは懐から一枚の紙、いやスクロールを取り出す。

 

「これは…。スクロール…。」

「そう、ここには転移の魔法が込められているわ。」

 

…魔法 転移。

逸脱者しか使えない魔法の一つだ。

確か、イビルアイが使えたはずだが…。

用意するだけで国家予算が余裕で吹き飛ぶような代物を出している。

 

「……本気ね」

「ええ」

 

ミラーはラキュースではなく、ラナーを一瞬だけ見る。

 

「帰還を最優先で。調査は二の次です。万が一構造物を見つけた場合は入らず報告だけお願いします。」

「そこから探索を始めてほしい。報酬は弾むわ。」

「そうですね、金貨何枚ほどがいいですか?」

「いや、スクロールはいらないわ。イビルアイが持っているし」

 

一瞬の沈黙。

ミラーはラキュースにスクロールを押し付ける。

 

「では使用判断はお任せします。最悪売ってもかまいません。できる限り早めにお願いします。」

 

ラナーが穏やかに微笑んだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「と、いう感じなのだけど。」

 

青の薔薇が泊っている王都の宿の一室。

 

「なるほど。相当緊急のようだな。」

「わ、私も行きたかった。」

「ティア落ち込まない。」

 

相変わらずである。

落ち込んだティアをティナが慰めている。

 

「だ、だって、あんな美人姉妹。絶対ものにしたいでしょ。一回ぐらいつまみ食いしても…。」

「いいわけないでしょ。」

「いや、あの二人はできているね。私のセンサーがそういっている。」

「あの二人は姉妹よ。センサーぶっ壊れているんじゃないの。」

「いや、姉妹丼。だからおこぼれを。」

「ティナ、ティアの頭を冷やさせて。」

「はーい」

 

クエストの話をしているのに話がまとまらない。

 

「しかし、転移のスクロールか。入手方法はどうなのかは知らないが、相当本気らしいな。」

 

ティアと、ティナがごちゃごちゃしている横でイビルアイがそう告げる。

 

「そうね。私も初めて見たわ。」

「どこで手に入れたんだ?」

「詳しくは言わなかったけど法国らしいわ。私たちが使わなければ、最悪売り払って武器や防具代に充ててくれだそうよ。」

「なるほど。」

「困っている親友の頼みだもの。皆には迷惑をかけるけどお願い。」

 

と、頭を下げる。

 

「全く。しょうがない。」

「あの二人がここまで、警戒していると逆に気になるな。」

 

珍しくイビルアイが興味を示している。

 

「鬼リーダー。私はラナー様と、ミラー様に会いたいです。」

 

そんな雰囲気もなんやらぶっ壊す一言を放つ馬鹿がいる。

 

「ティア提案。任務報告の時、会える。」

「確かに。よし、早く行こう。今すぐ行こう。」

「こんなのでやる気を出されてもしょうがないのだけど」

 

ラキュースは大きくため息をついた。

 

「出発は明朝。各自準備を整えておいてね。」

「了解」

「了解だ」

 

それぞれが動き出す。

しかし、イビルアイだけが、窓辺に立ったまま外を見ていた。

 

「……妙だな」

「何が?」

「隆起だ」

 

静かな声。

 

「自然にしてはありえない。まるで――なにか隠しているようだ」

 

部屋の空気が一瞬だけ重くなる。

ティアが首をかしげる。

 

「隠している?何を?」

 

イビルアイは答えない。

ただ小さく呟く。

 

「嫌な予感がする」

 

ラキュースは剣を握る。

 

「予感で止まるなら、私たちは青の薔薇じゃない」

 

短く言い切る。

 

「行くわよ」

 

窓の外では月が上り夜を告げていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

王都の自宅。

 

白い湯気が静かに立ち上る浴室。

夜の光が淡く差し込んでいる。

 

「ねぇ、お姉さま。本当に渡してよかったの?」

 

湯船の向かいで、ミラーが小さく問う。

 

「何のことかしら?」

「スクロールです。法国から譲り受けたあれを……」

 

ラナーは肩まで湯に浸かり、ゆっくりと目を細める。

 

「イビルアイが転移を使えるのは知っていました。それでも、予備を与えた理由が……」

 

少しだけ視線を伏せる。

 

「ラキュース様を心配しているから、でしょうか?」

 

その問いに、ラナーはくすりと笑った。

 

「まさか」

 

即答。

 

「たかだか駒よ」

 

ミラーの瞳が揺れる。

ラナーは指先で湯をすくい、落とす。

 

「でもね、優秀な駒は失うと面倒なの」

 

静かな声。

 

「イビルアイが死ねば、帰還手段が減る。ラキュースが死ねば、青の薔薇が鈍る」

「……だから保険を?」

「ええ」

 

湯船にしずくが落ちる音が聞こえる。

 

「それに――」

 

ラナーは湯船の縁に頬を乗せ、柔らかく笑う。

 

「命を握っておくのは悪くないでしょう?」

 

ミラーの呼吸が止まる。

 

「……帰還手段を“与えた”のではなく、“依存させた”?」

「ふふ」

 

否定しない。

 

「使えば恩。使わなければ負い目。どちらに転んでも、こちらの糸は切れないわ」

 

静寂。

湯の音だけが響く。

 

「お姉さまは、本当に……」

「なに?」

「素敵です」

 

即答だった。

ラナーは一瞬だけ目を丸くし、そして笑う。

 

「ふふふ、あなたも十分、怪物よ。ミラー」

 

 




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