白銀の妹   作:meigetu

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なんか、一章の終わりまでかけたので、いったん全部投稿します。
約10話ほどの予定っす。


四話

トブの森は、いつ来ても空気が重い。

 

木々が空を覆い、昼だというのに薄暗い。

湿った土の匂いと、どこか甘い腐葉土の匂いが混ざっている。

 

すでに二手に分かれており、時間になればカルネ村で落ち合う手はずになっている。

しかし…。

 

「……静かすぎるわね。」

 

ティナが小さく呟いた。

 

「逆だ。多すぎる。」

 

ガガーランが低く返す。

 

気配はある。

だが、こちらを避けるように遠巻きに動いている。

 

まるで——

 

「観察されている、ってやつかしら。」

 

ラキュースは聖剣を軽く握り直した。

今回の目的は討伐ではない。

ラナー様から直接聞いた、奇妙な報告。突然の地殻変動。

 

実在確認。

それだけ。

 

だが、森に足を踏み入れてからというもの、誰も軽口を叩かない。

ティナがふと立ち止まった。

 

「……妙。」

「何が?」

「探知範囲内に、反応が出ない。」

「それはいいことじゃ——」

 

言い終わる前に、ティナの短剣が抜かれた。

 

「違う。」

 

その声は低い。

 

「出ない、んじゃない。いない。」

 

ぞくり、と背筋が粟立つ。

この森に、何もいないはずがない。

 

「全員、背中を合わせろ。」

 

ガガーランが指示を出す。

瞬間。

 

「おや。」

 

その声は、あまりにも近かった。

三人は同時に振り向く。

そこに、立っていた。

 

黒の燕尾服。

白手袋。

整えられた白髪。

年配の執事然とした男。

 

まるで、最初からそこにいたかのように。

 

「なっ……!?」

 

ティナが一歩退く。

あり得ない。

探知にも、視界にも、聴覚にも。

何一つ引っかからなかった。

 

「失礼。驚かせるつもりはなかったのですが。」

 

穏やかな声。

だが、足音も、魔力の揺らぎも、気配もなかった。

ラキュースの瞳が細まる。

 

(転移……? いや、詠唱は? 兆候は?)

 

ない。

 

「……何者だ。」

 

ガガーランが問う。

何事もないかのように男は一礼した。

 

「ナザリック地下大墳墓、執事長。セバスと申します。」

 

その名に、ラキュースはわずかに眉を動かした。

 

「ナザリック……?」

「はい。この先にございます。」

 

さらり、と告げる。

まるで、自宅の庭を案内するかのように。

ティナが小声で呟く。

 

「気づかなかった。完全に背後を取られてた。」

「ええ。正面からでも、同じ結果でしたよ。」

 

にこり、と笑う。

悪意はない。

だからこそ、恐ろしい。

 

ラキュースは一歩前に出た。

 

「私たちは“蒼の薔薇”。この森に存在するとされる施設の調査に来た。」

「存じております。」

 

即答。

空気が凍る。

 

「……監視していたのか。」

「必要最低限の警戒を。」

 

柔らかい。

だが、その言葉に嘘はない。

 

「なぜここに…。」

 

一歩、退く。

 

「主がお会いしたいと。」

 

沈黙。

森が、音を失う。

 

「主、だと?」

「はい。ナザリック地下大墳墓の主、モモンガ様。」

 

その名は、奇妙な響きを持っていた。

ラキュースは仲間を見た。

撤退か。

戦闘か。

それとも——

 

セバスは静かに続ける。

 

「もちろん、強制ではございません。お帰りいただいても結構。」

 

だが。

その穏やかな視線の奥に、揺るがぬ自信がある。

逃げられると思うか、と。

 

「……どうする?」

 

ティナが囁く。

ガガーランは舌打ちした。

 

「ここまで来て尻尾巻くかよ。」

 

ラキュースはしばし沈黙し、そして言った。

 

「……行こう。」

 

その声は、いつになく重い。

ラキュースは頷いた。

 

「案内を頼む、セバス殿。」

「かしこまりました。」黒

再び一礼。

 

そして彼は背を向ける。

 

その歩みはゆったりとしている。

だが、追いつくのが難しい。

 

蒼の薔薇は、互いに視線を交わし——

山の奥へと足を踏み出した。

その先に、何が待つかも知らずに。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ナザリック地下大墳墓、その偽装山の麓。

 

白い石の円卓が静かに据えられている。周囲には何もない。ただ、空気だけが重い。

 

「ようこそ。客人よ」

 

黒き法衣を纏った骸骨の王は、すでに席に着いていた。

その背後に控えるのは、黒き翼を持つフルプレートの騎士。

体のラインから女性であることがわかる。

 

蒼の薔薇の面々は立ったまま、距離を保っていた。

いや、恐怖していた。

目の前の存在が死そのものであることを本能的に理解し恐怖し立ちすくんでいた。

 

「……ご招待、痛み入る」

 

その言葉が、ラキュースの口から出たのは貴族としての矜恃ゆえだろうか、返した。

後ろでは、ガガーランと、ティアは、恐怖から動けなくなっている。

 

「…。ああ、すまない。」

 

という言葉と共に、死という圧力が軽くなる。

 

「絶望のオーラが漏れ出ていたようだ。ひとまず、席についてくれ。」

 

と、近くにいるメイド服を着た召使が、椅子を引かれる。

私たち三人は流されるまま席に着いた。

目の前に、紅茶が差し出される。

とてつもなく良い匂いがする。

良いものであることが分かる。

これは、歓迎されているのだろうか。

焦る頭を、紅茶の落ち着くにおいでごまかす

 

「警戒は無理もない。我らもまた、そなたらを観察していた」

 

観察。

その一語に、ティアの指先がわずかに震える。

 

「我はこの地に拠を構えたばかりだ。ゆえに問いたい。この世界のことを」

 

侵略の宣言ではない。

だが、隙でもない。

 

「……何をお知りになりたい?」

 

ラキュースが問う。

骸骨の空洞の眼窩が、静かに彼女たちを見渡した。

 

「いやなに、なぜここを探索していたのか問いたくてな。」

「…依頼があって。」

 

ティアがこぼすように言葉を漏らす。

 

「それは?」

「カルネ村付近で地殻変動があったから調べてこいと。」

「依頼者はだれか?」

「っっ。それに関しては言えない。」

 

その言葉と同時に、空気が裂けた。

フルプレートの騎士の殺気が解き放たれる。

視界が揺らぐ。膝が震える。

 

「無礼者が」

 

斧がわずかに持ち上がる。

終わる――そう思った瞬間。

 

「アルベド」

 

低い声が落ちる。

それだけで、殺気が霧散した。

 

「申し訳ございません、モモンガ様」

 

何事もなかったように下がる女性。

骸骨の王は静かに続ける。

 

「依頼者を伏せるのは当然だ。こちらこそ無粋なことを聞いた。」

 

救われた。

そう感じてしまった自分が恐ろしい。

 

そして、この地獄のような問答は続く。

それは、周辺の地理についてや周辺の支配地域のあたりまえのことから、アダマンタイト級冒険者にしかわからないことも聞かれる。

こちらも、ある程度時間もたったおかげで落ち着いて答える。

 

「なるほど。なるほど。」

 

目の前の骸骨は机の上に自前の書類を持ち見ている。

 

「最後に二つ伺いたいのだがよいか?」

「は、はい。」

「国家が秘匿する“切り札”は存在するか?」

「あるとは思います。詳しくは知りませんが。」

「それはワールドアイテムなのか?」

「ワールドアイテム?」

 

疑問からか、座っている二人を見る。

しかし両者ともに知らないようである。

 

「いや、何でもない。最後に我のような存在は、討伐対象か?」

「……アンデッドなら、普通は敵だ。だが、それは下級のものであって今のように話せたりコミュニケーションが取れるのであれば話は別だと思うぜ、実際正体は隠しているがうちのおチビちゃんも実際アンデッドだし。」

「ガガーラン。」

「いや、聞かなかったことにしてくれ。」

 

二人の叱責を受け、ガガーランは黙る。

目の前の存在は一息をついた。

 

「なるほど。良いことが聞けた。」

 

何やら不気味ではあるが笑っている。

会話がひと段落したのち、

 

「せっかくだ。話を聞いた対価を支払おう。セバス。」

「は。」

 

と、先ほど案内した執事長が、五つの小箱が載ったお盆を持ってくる。

 

「これは…?」

「指輪だ。装着すれば分かる」

 

鑑定。

絶句。

【永続効果:栄養摂取不要・睡眠不要・疲労蓄積軽減(中)】

ほぼ国宝級の装備だ。いや国宝だろう。

それが五つも並んでいる。

ラキュースが震える。

ガガーランが笑うのやめる。

 

「……冗談だろ」

「これは、リングオブサステナンス。我らにとっては常備品だ。睡眠や食事がいらなくなるものだ。冒険者である貴殿らにはちょうどいいだろう。ほかにも二名いるようだがそちらの分も含んでいる。皆で使ってくれ。」

「……代償は?」

「対価はすでに支払われた。情報だ」

 

ラキュースは恐る恐る。手に取った。

 

 

 

「はぁ。助かった。」

 

三人のうちだれが漏らしたのだろうか。

カルネ村に帰った私たちは意気消沈していた。 それもそうだ。

久しぶりに死ぬと感じる経験をし、そのうえで生存し帰って来たのだ。

安心感と共に、とてつもない疲労感が襲ってくる。

手には、先ほどもらった小箱が五つあった。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

トブの森付近で探索していたイビルアイとティナが顔を出す。

我々の意気消沈した様子を見て驚いている。 ああ、もうそんな時間か。

 

「ビンゴもビンゴ。まさかその主と、接触する羽目になるとは思わなかったわ。」

「だな。あれはすごかった。」

「死ぬかと思った。」

 

「少し待て、本当に何があった?それにこの小箱それはなんだ?」

「順を追って説明をするから少し待って。」

 

 

……少女説明中……。

 

 

「なるほど。」

「……。」

「で、それは?」

 

と、小箱を指さされる。

 

「ああ、これのこと?お礼にと、貰ったものよ。」

 

そこには、指輪が五つある。

 

「…………。どこでもらった?」

「どうしたの?」

「だから、どこでもらったのか聞いているんだ。」

 

いつもとは異なる気迫で迫るイビルアイに皆一様に驚く。

その気迫からか、ラキュースは、

 

「さっき話した、ダンジョンの主だけど……。」

「そうね。確か、リング・オブ…」

「リング・オブ・サステナンスだろう。睡眠や食事がいらなくなり一日中動くことが出来る指輪。見たことある。まさか……。」

 

と、深刻に考えている。

 

「何かあったの?」

「最初に接触したのが私たちでよかった。だからか。あの二人からわざわざ国宝級のスクロールを渡された時点でもう少し怪しめばよかったのだ。」

「……。イビルアイ。何が分かったの?」

 

「……あまり、軽々しく話すべきではないが…」

 

イビルアイはそう告げ静かに話し始めた。

 

カルネ村、外れの空き家。

五人は中に入り、扉を閉めた。

 

外は静かだ。

だが、森の空気はまだまとわりついている。

 

イビルアイは机の上に小箱を置かせた。

カチリ、と蓋を開く。

指輪が五つ。

それを見つめる瞳が、わずかに揺れる。

 

「間違いない……」

 

低い。

いつもの皮肉混じりの声ではない。

 

「リング・オブ・サステナンス。昔、一度だけ見た」

 

空気が止まる。

ラキュースが息を呑む。

それは伝説だ。

歴史の書物の中の話。

 

「昔、私は“異質な存在”と共闘した」

 

静かに続ける。

 

「装備自体の概念が違う。常識が違う」

「……」

「そして、彼らはこの世界の法則を超えた道具を持っていた」

 

指輪を指でつまむ。

 

「まるで、物語から飛び出てきたかのような装備」

 

その単語に、ラキュースの眉がわずかに動く。

 

「ぷれいやー……と、彼らは呼ばれていた」

 

沈黙。

ガガーランが腕を組む。

 

「つまり、あの骸骨がそれだと?」

「実際にあったわけではないから断定はできない」

 

即答。

だが目は真剣だ。

 

「だが、あの圧力。あの装備。そして“ワールドアイテム”という言葉」

 

全員が顔を上げる。

 

「ワールドアイテムという言葉を知っている存在は限られている」

「……それが何なのか、私たちは知らない」

 

ラキュースの声は重い。

 

「だからこそ、危険だ」

 

イビルアイはきっぱり言う。

 

「もし本当にプレイヤーなら——国家単位で揺らぐ」

 

ガガーランが低く笑う。

 

「国家単位、ねぇ。あの殺気見りゃ、そりゃ分かる」

 

ティナがぽつり。

 

「敵意は……感じなかった」

 

全員がそちらを見る。

 

「殺気はあった。でも、主は止めた」

 

ラキュースも頷く。

 

「情報を求めていた。侵略者の目ではなかったわね。」

 

イビルアイはしばし黙る。

 

そして小さく吐息。

 

「だから厄介だ」

「どういう意味だ?」

「意思があるということだ。思考がある。選択がある」

 

怪物ではない。

判断する存在。

それは、単純な災害よりずっと厄介だ。

 

「……報告するか?」

 

ガガーランの問い。

ラキュースは目を閉じる。

ラナーの顔が浮かぶ。

 

「隠せない」

 

きっぱり。

 

「だが、“ぷれいやー”という言葉は伏せる」

 

イビルアイが頷く。

 

「賢明だ」

「まずは、ダンジョンの存在。会話可能なアンデッド。指輪の入手経緯。それだけ」

 

ティナが指輪を見る。

 

「……これ、使う?」

「使うな」

 

即答したのはイビルアイ。

 

「少なくとも今は」

「罠か?」

「罠の可能性が十分にある」

 

その言葉の意味を、全員が理解する。

これは贈り物だ。

だが同時に、接点だ。

 

「……最初に接触したのが私たちでよかった、か」

 

ラキュースが呟く。

イビルアイは静かに頷く。

 

「あれが下手な貴族に見つかっていたら、即戦争だ」

 

ガガーランが肩を回す。

 

「で? どうすんだよ。敵か味方か」

 

ラキュースはゆっくりと答える。

 

「まだ分からない」

 

視線は森の奥へ。

 

「だが——あれは“話が通じる存在”だ」

 

イビルアイが目を細める。

 

「だからこそ、選択を誤るな」

 

その言葉は、警告だった。

プレイヤー。

その存在は、この世界にとって祝福にも災厄にもなる。

カルネ村の外で、風が鳴る。

だが蒼の薔薇は知った。

世界の歯車が、静かに動き出したことを。

 




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31日投稿予定っす
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