かわいそうなランポッサ4世くん
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感想
ありがとうございます。やる気につながってます。
「お久しぶりね。ランポッサ四世。」
「おう、久しぶりだな。わざわざ隠居している妹君がここに来るとは珍しい。」
「お兄様も壮健そうで何よりですわ。少し太りました?」
「おうともさ。果たして誰のせいだろうな?」
「全く見当が付きませんわ。ねぇ、ミラー。」
「そうねぇ。お姉さまと私で分からないのなら、世紀の大難題かもしれませんわね。」
三人が自然に軽口を叩く。
まるで昔から変わらぬ兄妹の会話。
しかし、その光景を部屋の端から見ている男だけは、全く笑えていなかった。
レイブン侯。
王国派最大貴族。
今や、ランポッサ四世を支える重鎮の一人である。
そして今、この場には。
ランポッサ四世。
レイブン侯。
ラナー王女。
ミラー王女。
王国派の中核。
いや、貴族派がほぼ瓦解した現状では、実質的にリエスティーゼ王国の中枢そのものと言ってよかった。
……もっとも。
実際に胃を痛め、矢面に立っているのは。
ほぼランポッサ四世とレイブン侯だけなのだが。
「それで?」
ランポッサ四世は、早々に本題へ入った。
「今日は何をやらかした。」
即断。
経験則だった。
この姉妹が、わざわざ城まで出向いてくる時。
大抵、ろくでもない。
「あら、お兄様。人聞きが悪いですわ。」
「そうですよ。私たちはいつだって平和的です。」
「お前たちの“平和的”ほど信用ならんものはない。」
即答だった。
ラナーとミラーは顔を見合わせ、小さく笑う。
その様子は妙に自然で――だからこそ、レイブン侯は視線を逸らしたくなる。
だが話は、そのまま王国情勢へ移っていった。
貴族派の現状。
北部貴族の切り崩し。
帝国との摩擦。
ボウロロープ侯の件。
最近増え始めた盗賊団の動向。
会話は淡々と進む。
だが恐ろしいのは、その速度だった。
情報が流れ。
整理され。
必要な部分だけ抽出されていく。
ランポッサ四世が特に驚いていたのは、ミラーだった。
以前までは、ラナーの隣で黙っているだけだった少女。
それが今では完全に会話へ入り込んでいる。
いや。
入り込むどころではない。
「北部側は、切り崩せます。」
ミラーが静かに言う。
「今の貴族派は、もう“勝ち馬”を失っていますから。」
「……理由は?」
ランポッサ四世が問う。
「恐怖です。」
即答。
「帝国への恐怖。
王国派への恐怖。
そして、今後見捨てられることへの恐怖。」
淡々としている。
だが妙に鋭い。
「だから今は、“理念”ではなく“保身”で動いています。」
レイブン侯が、ちらりとミラーを見る。
視線に気づいたのか。
ミラーはにこりと微笑んだ。
「追い込まれた獣を狩るほど容易なものはないでしょ」
――レイブン侯は即座に目を逸らした。
怖い。
本気で怖い。
以前はラナー王女だけでも十分理解不能だった。
それが今、二人いる。
しかも問題なのは。
「ところで、お兄様。」
「おう、どうした。」
そんな会話の最中。
ラナーが、ごく自然な動作でミラーの髪を撫でた。
ミラーは嬉しそうに目を細め、そのまま肩へ身体を寄せる。
自然。
あまりにも自然。
隠す気がない。
レイブン侯は、内心で顔をしかめた。
(本当に、隠す気がないのか……この姉妹は……)
レイブン侯にとってはたまらなく嫌悪を覚えた。
「……それで?」
ランポッサ四世が話を戻す。
「わざわざここまで来たんだ。ただの雑談ではあるまい。」
「ああ、そうだったわね。」
ラナーは思い出したように言い、ドレスの内側から一通の封蝋付き書簡を取り出した。
机の上へ置く。
ランポッサ四世はそれを見て――固まった。
「……何だこれは。」
「招待状よ。」
「見れば分かる。」
国王を証明する封蝋。
正式な書式。
自分が書いたことになっている署名。
全て、自分名義。
当然、こんなものを出した記憶はない。
「なぜ。」
頭痛を堪えるような声。
「まだ伝えていなかったから。」
「そういう問題ではない。」
レイブン侯も横から覗き込み――表情を引きつらせた。
「陛下名義、で出されていますね……。」
「だから見れば分かる。」
呻くように返す。
「で? これはどこへ送った。」
「会談の申し込み。」
「誰と。」
ラナーは、実にあっさりと言った。
「六大神に近い力を持つ存在。」
沈黙。
「……は?」
「だから、簡単に言えば法国で言う神様みたいなもの。」
「……は?」
ランポッサ四世の顔から血の気が引く。
レイブン侯は、今度こそ無言になった。
「待て待て待て。」
ランポッサ四世が額を押さえる。
「神? 神と会談?」
「ええ。」
「勘弁してくれ。」
素が漏れた。
ミラーが小さく笑う。
「大丈夫ですよ。話は通じる相手ですから。」
「お前たちの“話が通じる”は信用ならん。」
即答だった。
嫌な予感しかしない。
この姉妹が絡む時点で、大抵ろくでもない方向へ行く。
「馬車は手配しておいたわ。」
「待て。」
「今日中に出立して。」
「待てと言っている。」
「お兄様なら大丈夫よ。」
「根拠は。」
「勘。」
「帰れ。」
即答。
だがラナーは全く気にした様子がない。
そのままミラーへ身体を寄せる。
「ねぇミラー。今日のお昼どうしようかしら。」
「久しぶりにパスタとか?」
「いいわねぇ。」
「お姉さまと二人で外食、久しぶり。」
完全に話が終わった空気を出している。
ランポッサ四世は頭を抱えた。
レイブン侯は、もはや現実逃避寸前である。
「……ラナー様。」
辛うじてレイブン侯が口を開く。
「詳細は……?」
「ああ、これ。」
ラナーは追加で一冊の冊子を机へ置いた。
分厚い。
嫌な予感しかしない。
「大まかな情報をまとめておいたわ。」
「……大まか?」
「安心して。危険性についても書いてあるから。」
その一言が全く安心できない。
ランポッサ四世は冊子をめくる。
数ページ見ただけで、眉間が痛くなった。
「……なぜこういう重要案件を、もっと普通に説明できんのだお前たちは。」
「あら。」
「効率的でしょう?」
「効率だけで国家運営できれば誰も苦労せん。」
心底疲れた声だった。
「じゃあ、お兄様。よろしくね。」
「じゃあね、お兄様。」
ミラーが自然にラナーの腕へ抱きつく。
二人は、そのまま仲睦まじく部屋を後にした。
扉が閉まる。
静寂。
しばらくして。
「……陛下。」
「何だ。」
「胃薬をお持ちします。」
「ああ。頼む。」
ランポッサ四世は深く椅子へ沈み込んだ。
机の上には。
自分が出したことになっている会談の申し込み。
そして。
伝説上の“六大神に近い力を持つ存在”との面会予定。
あの地頭だけで未来すら見通す姉妹たちだ。
間違いはないのだろう。
残されたのは、得体の知れない不安だけだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
馬車の揺れが、一定のリズムで身体を揺らす。
窓の外は夜。
エ・ランテルへの街道には月明かりだけが落ちていた。
車内にいるのは二人。
ランポッサ四世。
そしてレイブン侯。
向かい合って座っているが、空気は重い。
原因は明白だった。
「……。」
レイブン侯は無言で視線を落とす。
膝の上には分厚い資料。
ラナーから渡されたものだ。
この移動中の間、目が皿になるほど読み込んだもの。
そこには、トブの大森林周辺で発生した異常。
地殻変動。
未知の巨大施設。
蒼の薔薇による接触報告。
そして――
『ナザリック地下大墳墓』
という名称が記されていた。
ランポッサ四世は深々とため息を吐く。
「……対面で話せ。」
思わず漏れた。
なぜこういう重要案件を手紙で済ませるのか。
しかも“六大神級の存在と会談予約しておいたから行ってね”で済ませる話では断じてない。
レイブン侯も静かに頷く。
「同感です……。」
資料をめくる。
蒼の薔薇の証言。
死そのもののような存在。
会話能力。
規格外の装備。
そして、“ワールドアイテム”という単語。
今まで見てきたすべての常識から外れている。
いや。
常識という枠組みそのものを踏み潰している。
「これ、本当に王国案件か……?」
ランポッサ四世が呟く。
「本来なら、国家機密でしょうな。」
レイブン侯の声も硬い。
もし事実なら。
この存在一つで国家バランスが崩壊しかねない。
帝国。
法国。
評議国。
どこが知っても動く。
それほどの情報だった。
だが。
レイブン侯の頭の片隅には、別の意味で頭から離れないものがあった。
あの姉妹だ。
「……。」
思い出す。
自然に触れ合う姿。
互いを見る視線。
距離感。
隠す気がない。
いや、恐らく。
“理解した上でどうでもいいと思っている”。
それが一番恐ろしい。
レイブン侯は内心で顔をしかめた。
生理的嫌悪感。
それに近いものがあった。
同性。
しかも姉妹。
倫理も常識も逸脱している。
だがさらに恐ろしいのは、二人がそれを全く忌避せずまるで見せつけるように行動している。
二人は異端であることを理解している。
理解した上で、それでも互いを優先している。
だから怖い。
「レイブン侯。」
「……は。」
「考えていることは分かるが、今はそっちを考えるな。」
ランポッサ四世は疲れ切った顔で言った。
「余も頭が痛い。」
「申し訳ありません。」
「いや、分かる。」
本当に分かる。
あの二人は身内でなければもっと楽だった。
ましてやここまで優秀でなければ様々な手の打ちようはあっただろう。
ランポッサ四世は資料を閉じる。
「しかし……。」
窓の外を見る。
暗い森。
遠くに見える山脈。
そのどこかに、“それ”はある。
「ぷれいやー、か。」
重い言葉だった。
資料の情報からも法国の機密としてそれがあり、妹たちはそれを自身でも納得できるよう資料にまとめた。
「おとぎ話の存在だと思っていたがまさか実在するとは…。」
「………。」
だが同時に、妙な違和感もある。
資料を読む限り。
その存在は、最初から敵対を選んでいない。
情報収集。
対話。
確認。
まるで――
「……探っているようだな。」
「はい。」
レイブン侯も同意する。
「世界を知らない者の動きに近い。」
ランポッサ四世は腕を組む。
もし本当にぷれいやーなら。
本来こんな回りくどい真似は必要ない。
力で全てを押し潰せる。
だがそれをしていない。
つまり。
「慎重、なのか。」
「あるいは臆病。」
「その表現は危険だぞ。」
「承知しております。」
レイブン侯は苦笑する。
慎重な怪物。
理性ある災害。
どちらにせよ最悪だ。
馬車が揺れる。
沈黙。
やがて、御者の声が外から響いた。
「間もなく目的地周辺へ到着します!」
二人は顔を上げる。
ランポッサ四世は小さく息を吐いた。
「……行くしかないか。」
「はい。」
馬車は夜の森を進む。
その先。
エ・ランテル近隣の会談場へとおもむいた。
二人に振り回されて、かわいそうなザナック陛下。
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9月4日投稿予定っす