「ポーションより、とりあえず一杯」   作:高校ジャージ10年目

1 / 24
オリジナルで投稿していきます!よろしくお願いします!


第一話:瀕死の勇者と黄金色の奇跡

勇者は死にかけていた。

 

「回復魔法を! 早く!」

 

 聖女が叫ぶ。しかし彼女の魔力は底をつきかけている。目の前で倒れているのは、王都随一の剣士にして、選ばれし勇者アレク。

 

 魔王軍四天王、毒霧のバルザックの瘴気をまともに浴びたのだ。

 

「ポーションは!?」

「さっき全部使いました!」

 

 絶望的だった。呼吸は浅く、肌は土気色。あと数分で心臓が止まる。

 

 そのときだった。

 

「……あの」

 

 場違いな声が聞こえた。

 

 振り向くと、荷馬車の横で麦袋を抱えた青年が立っている。エプロン姿。腰には奇妙な樽型の容器。

 

「今、命に関わる場面なんだが?」

 

 騎士が睨む。

 

「わかってます。でも、たぶん――それ、効きます」

 

 青年は真顔で言った。

 

「は?」

 

「とりあえず一杯、どうですか?」

 

 騎士は本気で殴ろうとした。

 

 だが聖女が止めた。

 

「……待って。もう魔力がないの。何でも試すしか……」

 

 青年は手際よく木製のジョッキを取り出した。腰の小樽から黄金色の液体を注ぐ。

 

 しゅわり、と泡が立つ。

 

 芳醇な香りが漂った。麦の甘みと爽やかな苦味。

 

「これは……酒か?」

「ビールです」

 

 青年は胸を張った。

 

「異世界転移してから三年。俺のチート能力は“最高のビールを醸せる”ことでした」

 

「帰れ」

 

「まあまあ」

 

 彼は勇者の口元にそっとジョッキを当てた。

 

「飲ませるのか!?」

「飲ませます」

 

 勇者の喉が、ごくりと鳴った。

 

 その瞬間。

 

 ぶわっ、と光が弾けた。

 

「な、なに!?」

 

 勇者の顔色がみるみる赤みを取り戻す。呼吸が深くなり、胸の傷がじわじわと塞がっていく。

 

「嘘だろ……」

 

 騎士が膝から崩れ落ちた。

 

 聖女が震える声で言う。

 

「……完全回復。しかも毒素まで消えてる……」

 

 勇者はむくりと起き上がった。

 

「うまい」

 

 第一声がそれだった。

 

「何だこれは。爽やかで、それでいて芯がある。俺は今、生きていると実感している」

 

「それはただ酔ってるだけでは?」

 

 青年は真顔で言った。

 

「名前は?」

「ユウマです。元・会社員です」

「ユウマ、我がパーティーに入れ」

 

 勇者は真剣だった。

 

「回復魔法より効く。しかも美味い。これは革命だ」

 

 こうしてユウマは、勇者パーティーの“回復担当”になった。

 

 ただし、問題が一つある。

 

 ――飲みすぎると翌日が地獄、ということだ。

 

 

 三日後。

 

 魔王軍の小隊を撃破した夜。

 

「かんぱーい!」

 

 勇者、騎士、聖女、そしてユウマは焚き火を囲んでいた。

 

 ジョッキがぶつかり合う。

 

「ははは! 魔王軍など恐れるに足らん!」

「勇者様、それ三杯目です」

「まだいける!」

 

 ユウマは冷静に注ぐ。

 

「今日はホップ強めです。戦闘後なので爽快感重視で」

 

「ユウマ殿……あなたは天才です」

 

 聖女がうっとりしている。

 

 そして翌朝。

 

「う、うぅ……頭が割れる……」

「世界が回っている……」

 

 勇者と騎士が地面に転がっていた。

 

「二日酔いですね」

 

 ユウマは麦茶を渡した。

 

「回復は!?」

「それは治せません」

 

「何故だ!」

「仕様です」

 

 この世界の神は、どうやら二日酔いには厳しいらしい。

 

 

 一週間後。

 

 魔王軍四天王、炎獄のザルドとの戦闘。

 

 激闘の末、勇者が再び致命傷を負う。

 

「ユウマ!」

 

「はいはい」

 

 ユウマは落ち着いて別の樽を取り出した。

 

「今日は特別醸造。スタウトです」

 

 黒く重厚な液体。

 

 勇者が飲んだ瞬間、炎の傷が消え、筋肉が膨れ上がる。

 

「力が……みなぎる!」

 

「アルコール度数高めですから」

 

「お前それ今言うな!」

 

 勇者はザルドを一撃で吹き飛ばした。

 

 戦闘後。

 

「ユウマ……これは軍事利用できるのでは?」

 騎士が真剣な顔で言う。

 

「やめましょう」

 

 ユウマは即答した。

 

「戦争のために飲む酒は、まずいです」

 

 その言葉に、聖女が小さく笑った。

 

「では、何のために?」

 

 ユウマはジョッキを掲げる。

 

「今日生きてることを祝うため、です」

 

 夕日が黄金色に染まる。

 

 泡がきらめく。

 

 勇者はしみじみ言った。

 

「ポーションより効くな」

 

「でも飲みすぎ注意です」

 

「わかっている」

 

 三秒後。

 

「もう一杯!」

 

「勇者様ァァァ!」

 

 こうして世界は今日も救われた。

 

 だいたい酔いの勢いで。

 

 魔王軍がこの事実を知るのは、もう少し後の話である。

 

 ――そして魔王自身がビール沼に落ちるのも。




はじめましての人ははじめまして。

お久しぶりの人はお久しぶり。

オリジナルを書くのは久々なので楽しみながら書いて行きます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。