「ポーションより、とりあえず一杯」   作:高校ジャージ10年目

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十二話目です。よろしくお願いします


第十二話:王都凱旋! 盾と栓抜きと王宮ビアガーデン(前編)

 懐かしき王都の城門をくぐりながら、ユウマは荷馬車の揺れに身を任せていた。

 今のユウマの背後には、ビールという名の福音を共に広める最強の仲間たちがいる。

「……ユウマ。王都の湿度は高めね。空気中の熱伝導率が上がっているわ。不潔だわ。今すぐ王城全体を氷の結界で包んで、巨大な『冷却塔』に改造してあげましょうか?」

「セラフィナさん、落ち着いて。それ、歴史的建造物の不法占拠になりますから」

 ユウマが冷静になだめる横で、重戦士ガレスは、己の魂とも言える大盾をまじまじと見つめていた。

「……なぁ、ユウマ殿。私は今一度、君に問いたい。この……盾の右上に、魔工学的に穿たれた、この『鍵型』の切り欠きは何だ? 私の記憶が正しければ、これは数多の魔物から仲間を守るための聖鉄の盾だったはずなのだが」

「ガレスさん。それは、私が設計しセラフィナさんに加工してもらった『次世代型・万能防護栓抜(シールド・オープナー)』です。戦場でも、敵の攻撃を防いだ反動を利用して瓶ビールの王冠を弾き飛ばせる。利便性と防御の究極の融合ですよ」

「戦いながら開ける状況があるのか!? 私の騎士としての誇りが……防御力が、ビールへのサービス精神という名の下に削られていく……!」

「いいじゃない、ガレス。これであなたはパーティーの『守護神』兼『給仕係』よ。論理的な多機能化だわ」

 セラフィナの冷たい一言に、ガレスはガックリと肩を落とした。

 一行が王城に到着すると、そこでは「魔王軍撃退の祝勝会」の準備が進んでいた。

 広間を仕切るのは、王宮の飲料管理を司るバルザス大臣。彼はユウマの姿を見つけると、鼻で笑いながら近づいてきた。

「おやおや、かつて『ビールこそが世界を救う』などと法螺を吹いていたユウマではないか。勇者様に付いて、まだそんな麦の腐った汁を造っているのかね?」

「大臣。これは腐っているのではなく、酵母による神秘の対話です。……ところで、今日の祝勝会では何を振る舞うのですか?」

「ふん。我が国最高の魔導師たちが、莫大な国家予算を投じて精製した『特級・超回復ポーション』だよ。味は苦く、温度は……そうだな、魔力の安定のために常温だが、効能は世界一だ」

「常温、ですか」

 ユウマの瞳に、うっすらと「狂気」の光が宿った。

「バルザス大臣。……おもてなしの心を忘れた飲み物に、真の勝利を祝う資格はありません」

「……計算完了。摂氏25.2度。この気温でその温度の液体を飲ませるなんて、味覚への虐待、あるいは物理的な暴力ね。不潔だわ。大臣、今すぐあなたのその髭を凍らせて、不純な熱をリセットしてあげましょうか?」

「な、なんだこの女は!? 衛兵! 衛兵を呼べ!」

「まぁまぁ、大臣。せっかくですから、王様の前で『どちらが祝勝会にふさわしいか』、飲み比べ(テイスティング)といこうじゃありませんか」

 勇者アレクが剣の柄を叩き、ニヤリと笑った。

「俺たちが魔王軍を押し返せたのは、大臣のポーションのおかげじゃない。ユウマのビールがあったからだ」

 

 王宮の大広間。

 国王を筆頭に、着飾った貴族たちが集まる中、ユウマたちは「特設ビアガーデン・ブース」の設営を開始した。

「セラフィナさん、定温結界の展開を。ターゲット温度はマイナス1.8度。泡の密度を維持するため、対流を抑制してください」

「演算開始。……完璧よ。不潔な温度上昇は、一分子たりとも許さないわ」

「ガレスさん、盾の出番です! 瓶ビールの栓を一気に、かつエレガントに開けてください!」

「……もう、どうにでもなれだ! おおおおおおっ!!」

 ガレスが吠えながら、盾の切り欠きを次々と瓶の王冠に引っ掛け、弾き飛ばしていく。

 パコンッ! パコンッ! パコンッ!!

 心地よい抜栓の音が、まるで祝祭のファンファーレのように広間に響き渡る。

「リリィさん、泡に聖なる浄化(クリーミング)を!」

「はいっ! 聖なる泡よ、シルクのように滑らかに……『クリーミー・ヘヴン』!」

 注がれたビールは、黄金の液体の上に、雪のように白くキメ細やかな泡が盛り上がっていた。

 セラフィナの冷気でジョッキは美しく曇り、見た目だけで周囲の室温が下がったかのような錯覚を抱かせる。

「……さあ、陛下。これが、現代日本の知識と異世界の魔法が融合した、究極の『最初の一杯』です」

 ユウマが差し出したジョッキを受け取った国王。彼は怪訝な顔をしながらも、その「美しすぎる泡」に目を奪われていた。

「……ほう。この冷気、そしてこの泡の弾力……。大臣のポーションとは、明らかに何かが違うようだが……」

 国王がジョッキを傾け、その黄金の液体を一口含んだ。

 ――シュワァッ。

 ――ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ……。

 静まり返る王宮。

 次の瞬間、国王は持っていた王笏を放り出し、立ち上がった。

「…………な……なんだ、この『喉越しの雷鳴』は……っ!!!!」

 




今回の登場ビール設定メモ
• 王宮凱旋・ピルスナー『ロイヤル・ゴールデン・サンダー』
• 特徴: セラフィナの「絶対零度管理」とガレスの「盾栓抜き」により、鮮度100%で提供されるピルスナー。
• 効果: 飲んだ瞬間、王族としての体面を忘れ、ただの「ビール大好きおじさん」に変える。
• ガレスの盾: 栓抜き部分が非常に使いやすく、ガレス自身も「……悪くないな」と思い始めている。
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