「ポーションより、とりあえず一杯」   作:高校ジャージ10年目

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十三話目です。よろしくお願いします


第十三話:王都凱旋! 盾と栓抜きと王宮ビアガーデン(後編)

「……っ!! な、なんだこの『喉越しの雷鳴』は……っ!!!!」

 国王の叫びを皮切りに、王宮大広間は未曾有の熱狂に包まれた。

 かつてポーションこそが至高と信じていた貴族たちが、今は我先にと黄金のジョッキを掲げ、泡の髭を蓄えて笑い合っている。

 そんな狂乱の宴の片隅で、勇者アレクの瞳に「悪魔的なひらめき」が宿った。

「……なぁ、セラフィナ。お前の魔力と、ユウマの造ったこの大量のビールがあれば、もっと『最高』なことができると思わないか?」

「……何よ、筋肉勇者。私の計算を邪魔しないでちょうだい。今はまだ陛下のジョッキの液温をコンマ1度単位で維持するのに忙しいのよ」

「いいか、よく見ろよ。あそこの噴水……。あそこからポーションじゃなく、キンキンに冷えたビールが溢れ出してたらどうだ? まさに『約束された黄金の地』じゃねぇか!」

 その言葉に、セラフィナの眼鏡がキラーンと冷たく光った。

「……噴水を、巨大な定温循環式のディスペンサーに改造する……? つまり、大気開放による酸化のリスクを、私の氷結結界で分子レベルで封じ込めつつ、常に理想的な対流を維持しろと言うのね? ……不潔なほど、クリエイティブな提案だわ。採用よ!!」

「だろ!? よし、やろうぜ!!」

 数分後。

「……え、何してるんですか、二人とも」

 おつまみの追加発注を確認していたユウマが戻ると、そこには目を疑う光景が広がっていた。

 セラフィナが杖を構え、王宮のシンボルである大噴水をまるごと巨大な氷のドームで包み込んでいる。そして、アレクが数十個の樽を一気に噴水の水源へと放り込んでいた。

「演算開始! 噴水内の流体、すべてをビールへと置換。落差による衝撃を魔法のクッションで吸収し、泡のきめ細やかさを均一化……! 出てきなさい、『絶対零度のビール噴水(ビア・フォール)』!!」

 シュアァァァァァッ!! という凄まじい音と共に、噴水の彫刻から水ではなく、完璧な温度に冷やされた黄金のビールが、白い泡を伴って勢いよく噴き出した。

「うおおおおお!! すげぇ! 夢のビールシャワーだ!!」

 アレクがジョッキを噴水に突っ込み、溢れるビールをキャッチして狂喜乱舞している。

「………………」

 それを見たユウマの顔から、一切の表情が消えた。

 無言で、噴き出すビールと、それを自慢げに眺める二人を凝視している。

「……ユ、ユウマ殿、顔が怖い。顔が非常に怖いぞ」

 ガレスが盾(栓抜き)を抱えながら、おずおずと声をかける。

「……アレクさん、セラフィナさん」

 ユウマの声は、セラフィナの冷気よりも低く、重かった。

「……何よ。あなたの理論を、公共施設規模にスケールアップしてあげたのよ。感謝してほしいわね」

「そうだよユウマ! これで注ぐ手間も省けるし、見た目も最高だろ!?」

「…………バカ言わないでください」

 ユウマの眼鏡の奥で、ドス黒い炎が揺れた。

「……大気開放による急速な炭酸の消失、落下衝撃による泡の破壊、さらには彫刻の石材に含まれる不純物との接触……。あんなのは『ビール』じゃない。ただの**『麦の香りがする騒がしい液体』**です。……セラフィナさん、あなたの『品質管理』というプライドは、そんな安っぽいパフォーマンスで溶けてしまったんですか?」

「……っ!!」

 セラフィナが、初めて見るユウマの「ガチのダメ出し」に、ビクッと肩を震わせた。

「アレクさんもです。ビールは、醸造師がその一滴一滴に込めた設計図通りに飲むから美味いんです。噴水から浴びていいのは、修行中の滝行か、勝者のシャンパンファイトだけです。……即刻、停止させてください。不潔です。品質に対する冒涜です」

「……あ、はい。すみませんでした……」

 最強の勇者アレクが、まるで叱られた子供のようにシュンとして噴水を止めにかかる。

「……わ、私だって、その……流体力学的な実験のつもりだったのよ……っ!」

 セラフィナも顔を真っ赤にして、ブツブツと数式を呟きながら結界を解除した。

 結局、噴水ビールはユウマの「一喝」によって幻と消えた。

 だが、その後のユウマの徹底した品質再管理により、王宮の晩餐会は史上最高の成功を収めた。

「……ふぅ。一時はどうなることかと思ったが、やはりユウマ殿の『ビール愛』は、魔女の魔力すら凌駕するのだな」

 ガレスが、自分の盾の「栓抜き」を丁寧に布で拭きながら呟く。

「……ガレスさん。次は、その盾に『温度センサー』と『自動洗浄機能』を付けましょうか。あと、セラフィナさんの魔力を使って、噴水じゃなく『王宮地下の配管すべてをビール専用にする』なら、酸化の問題はクリアできるかもしれません」

「……ユウマ殿。君も大概、そちら側の人間だと思うぞ」

 王都の夜は更けていく。

 ユウマの「ビール狂気」が、仲間たちの暴走すら飲み込み、世界を少しずつ(しかし確実に)黄金色に染め変えていくのだった。




今回の登場ビール設定メモ
* まぼろしの『ビア・フォール』
* 特徴: 噴水から溢れ出すビール。見た目は豪華だが、ユウマ曰く「炭酸が抜けてただの汚水に近い」。
* 教訓: ビールは適切な注ぎ口から注ぐべし。
* ユウマの一言: 「セラフィナさん、噴水にするくらいなら、王様の喉に直接テレポートさせた方がまだマシです」

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