「ポーションより、とりあえず一杯」 作:高校ジャージ10年目
常温将軍カロンの「ぬるま湯地獄」を、物理的な圧力と聖なる浄化で粉砕した一行。
ついに目の前には、魔王城の黒い巨躯がそびえ立っていた。だが、その巨大な城門の前には、さらに巨大な「影」が座り込んでいた。
「……腹が、減った。何もかも、食い尽くしてやる……」
現れたのは、魔王軍最後の門番、暴食公ベルゼ。
山のような巨体を持ち、その口はブラックホールのように周囲の物質を吸い込んでいた。城門の石材さえもバリバリと噛み砕くその姿に、一行は足を止める。
「……不潔なほど、エネルギー効率が悪い個体ね。あんなに摂取しても熱量として変換できていないわ。ただの『浪費の塊』だわ」
セラフィナが冷静に分析する。
「あれを倒さないと、魔王城には入れませんね……。でも、物理的な攻撃は全部食べられちゃいそうです」
リリィが聖杖を構えるが、ベルゼの放つ「空腹の波動」に周囲の空気が歪む。
「……ユウマ殿。私の盾……というか、この『回転式自動栓抜き』が、さっきから勝手に回り始めて止まらんのだ! このままでは私がドリルになって城門を突き破ってしまうぞ!」
ガレスが、高圧ビールの影響で超高速回転を始めた盾に振り回され、独楽(こま)のように地面を削っていた。
「それです!ガレスさん、そのまま耐えてください! その回転、利用できます!」
ユウマが叫ぶ。そして、隣でじっと拳を握りしめていた男の肩を叩いた。
「……アレクさん。出番ですよ。勇者の『本気』、見せてやってください」
「…………待ってたぜ、その言葉を」
アレクがゆっくりと聖剣を引き抜く。その瞳には、今まで「脇役」に甘んじていた鬱憤……ではなく、「最高の一杯を飲むための、最高の渇き」が宿っていた。
「いいか、みんな。あいつは全部食っちまうんだろ? だったら、『最高に美味すぎて、食った瞬間に満足して眠っちまうような一撃』を叩き込んでやろうじゃねぇか!」
「……勇者らしい、脳筋な理論ね。でも、嫌いじゃないわ。演算開始! アレクの聖剣に、絶対零度の『冷気圧縮層』を展開!」
「私も合わせます! 聖剣の輝きに、喉越しを極限まで高める『超・浄化の泡』をコーティングします!」
セラフィナの冷気と、リリィの聖なる泡。
二人の魔力が、アレクの聖剣の上で螺旋状に絡み合い、黄金色に輝く。それはもはや剣というより、巨大な「ビールの奔流」を纏った光の柱だった。
「ユウマ! 仕込みはいいか!?」
「いつでもいけます! ……ガレスさん、発射台をお願いします!」
「わ、わかった! おおおお、回る、回るぞおおおおお!!!」
高速回転するガレスの盾に、アレクが飛び乗った。
遠心力によって加速し、聖女の泡と魔女の冷気を纏ったアレクが、光の弾丸となって暴食公ベルゼの口へと突っ込んでいく。
「これこそが、勇者の究極奥義……!!」
アレクの叫びが響き渡る。
「『とりあえず、一撃(グイッといけ)!!』」
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!!
アレクの聖剣がベルゼの喉奥に突き刺さった瞬間、溜め込まれていた「最高鮮度のビールエネルギー」が一気に解放された。
物理的なダメージではない。
マイナス2度の極冷、シルクのような喉越し、そしてリリィが込めた「満腹の祝福」。
「………………は……っ!?」
ベルゼの巨大な瞳が、カッと見開かれた。
その巨体が震え、口から黄金の光と……大量の「幸せそうなため息」が漏れ出す。
「……美味い。……冷たい。……喉が、喉が喜んでいる。……もう、何も、食べたく、ない……。私は、満たされた……」
暴食の化身だった男が、生まれて初めて「お腹いっぱい」という感覚を味わい、恍惚の表情を浮かべた。
そして、巨大な地響きを立ててその場に倒れ込み……。
――グォォォォォ……。
爆睡し始めた。
「……決まったな」
アレクが着地し、聖剣を鞘に納める。その背後では、巨大なベルゼが気持ちよさそうにイビキをかいていた。
「……不潔なほど、完璧なフィニッシュだったわね。私の冷却効率を120%引き出したアレクの腕力……。少しだけ、見直してあげてもいいわ」
「私の浄化魔法も、アレクさんの勇気の光と混ざって、最高の『泡』になりました! 凄いですよ、アレクさん!」
「へへっ、よせやい。俺はただ、あいつが羨ましかっただけさ。あんな美味そうな一撃、自分でも喰らいたいからな!」
ガレスも、ようやく回転が止まった盾を抱えて歩み寄る。
「……アレク殿、見事だ。私の盾がボロボロになった甲斐があったというものだ」
ユウマは、満足げに笑い合う四人を見て、静かに樽のコックを開いた。
「さあ、門番も眠りました。魔王城の扉は開いています。……でもその前に。魔王に会う前の『決起会』、始めましょうか」
「「「「おー!!!!」」」」
と、いうわけで勇者一行は魔王城前で宴会を開催することになった。
今回の登場ビール(奥義)設定メモ
• 勇者奥義:『とりあえず、グイッといけ』
• 発動条件: 聖女の泡、魔女の冷気、騎士の回転を、勇者の剣に一点集中させる。
• 効果: 敵を倒すのではなく、敵の胃袋と精神を「完璧な幸福感」で満たして無効化する。
• アレクの感想: 「剣を振った瞬間の手応えが、ビールサーバーのレバーを引いた時と同じ感触だったぜ」