「ポーションより、とりあえず一杯」   作:高校ジャージ10年目

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十九話目です。よろしくお願いします


第十九話:禁杯のアルマゲドン。凍結醸造と勇者の渇き

 魔王城の最深部、玉座の間。

 そこは、重力さえもが絶望に押し潰されたような、漆黒の空間だった。

「……来たか。麦の香りを撒き散らす不遜な者たちよ」

 玉座に鎮座する魔王ディアヴォロ。その姿は、影そのものが凝固したかのように禍々しく、放たれるプレッシャーだけで城全体が軋んでいる。

 勇者アレクは、聖剣を握り直し、一歩前に出た。

「おい、魔王! あんたの顔、まるで一週間寝かせて酸っぱくなった麦汁みたいに不機嫌だぜ。そんなツラして世界を支配して、何が楽しいんだよ!」

「楽しみなど不要。世界は静寂と秩序、そして『無』に帰すべきなのだ……。貴様らのように、酒を煽って騒ぎ立てるような無秩序な存在こそ、この世のバグに他ならぬ」

 魔王が指先を微かに動かした。

 刹那、空間そのものが牙を剥き、漆黒の魔力の奔流が一行を襲う!

「ガレスさん!!」

「おうっ!! 聖鉄の盾よ、全ての負を撥ね退けろ!!」

 ガレスが盾を構える。しかし、魔王の放つ魔力は、かつてのどの敵よりも重く、鋭かった。

 ズドォォォォンッ!! という衝撃と共に、ガレスの巨体が後退する。盾の表面には、まるで強酸を浴びたような腐食の跡が刻まれていた。

「……くっ、なんて威力だ! 私の『全自動栓抜き機能』が、恐怖で震えているぞ……!」

「ガレスさん、弱音を吐かないで! セラフィナさん、アレクさんの身体能力を、冷気で限界まで研ぎ澄ましてください!」

 ユウマが叫ぶ。

「演算開始……! アレクの全筋肉に定温結界を展開。アレク、今よ! 私の冷気を推進力に変えて、その無愛想な魔王の喉をかっ捌いてきなさい!」

「任せろ!!」

 アレクが地を蹴った。セラフィナの冷気が、アレクの足元で爆発的な膨張を起こし、彼を光の弾丸へと変える。

「アレクさん!これを!」

 アレクは空中で、ユウマから投げ渡されたジョッキをキャッチした。

「まずは小手調べだ!! ユウマ特製、『神速のピルスナー』!!」

 アレクが空中でビールを飲み干す。その喉越しが、セラフィナの冷気バフと共鳴し、アレクの速度をさらに一段階引き上げた。

 

 ガキンッ!!

 聖剣と、魔王が即座に生成した闇の鎌が激突する。火花が散り、衝撃波が玉座の間を揺らす。

「……無駄だ。一時的な高揚感で、我が虚無を貫けると思うな」

 魔王の鎌がアレクを弾き飛ばす。

「次はこれだ! 『重厚なスタウト』!!」

 弾き飛ばされた勢いを利用し、アレクは二杯目を飲み干す。どっしりとしたコクが、アレクの筋力を一時的に増強し、魔王の重力魔法を力技で撥ね退けた。

 しかし、魔王は冷笑を浮かべるだけだった。

「……貴様らの戦いは、砂上の楼閣に過ぎん。飲むたびに身体は蝕まれ、そのバフが切れた瞬間に、貴様は立ち上がることもできなくなる」

「……その通りだ。だが、魔王……! 俺たちには、バフが切れる前に『トドメ』を刺す準備があるんだよ!!」

 アレクは、次々とユウマが提供する「季節のエール」「ハチミツの酒(ミード)」「苦味百倍のIPA」を飲み干し、千変万化の剣技を繰り出す。

 リリィの浄化魔法が、アレクの体内に溜まる毒素(アルコール)を聖なる光で中和し、強制的に「一番美味しい状態」の意識を維持し続ける。

 だが。

 戦いが一時間を超えた頃、アレクの動きに明らかな「陰り」が見え始めた。

「……はぁ、はぁ……。クソっ、どんだけ飲んでも、こいつの『底』が見えねぇ……!」

 魔王は傷一つ負っていなかった。それどころか、魔王の周囲の空気はさらに冷え込み、一行の魔力を吸い取り続けている。

「……終わりだ。勇者よ。貴様の肝臓も、そのビールへの情熱も、我が虚無の前には無に等しい」

 魔王の背後に、巨大な『終焉の門』が出現する。そこから溢れ出す絶望の魔力が、ガレスの盾を砕き、リリィの杖を凍らせ、セラフィナの演算を停止させた。

「……あ、あだだ……。なんだ、なんだよ……急に足の先が……」

 アレクが顔をしかめて膝をつく。

並のビールでは勝てない。

 喉越しやキレといった「爽やかさ」の延長線上に、この魔王を討つ答えはない。

「……セラフィナさん。あれを使います」

その瞳には、社畜時代に極限の締め切りを何度も乗り越えてきた男の、昏い狂気が宿っていた。

「……本気なのね、ユウマ。あれは……理論上、それはもう『ビール』の定義を逸脱しているわ。液体の熱収支を完全に無視し、エタノールの純度を極限まで高める……。不潔だわ。不潔なほどに破壊的な飲み物になるけれど、いいの?」

「ええ。アレクさんの命を燃やす燃料にするには、あれしかありません。アレクさん!!」

 ユウマが駆け寄る。その手には、これまで一度も開封してこなかった、真っ黒な漆黒の瓶握られていた。

「……アレクさん。本来なら、これは人間に渡していいものじゃありません」

 ユウマの声は、冷徹なまでに静かだった。

 その瓶からは、周囲の空間を物理的に歪ませるほどの、圧倒的な「酒精」の気配が漏れ出している。

「これこそが、史上最悪の欠陥品……。アルコール度数 65%、凍結醸造ビール『アルマゲドン』です」

「……あ、アルマゲドン……? さすがに、そいつは名前が物騒すぎねぇか?」

「ええ。これを飲めば、あなたの身体は一瞬で魔力の炉心へと変わります。……魔王を倒すには、これしかありません。ですが、アレクさん」

 ユウマがアレクの目を、射抜くように見つめる。

「……これは、あなたの命を削るかもしれません。いや、削るどころか、あなたの今後の人生を変えてしまうかもしれない。……それでも、行きますか?」

 アレクは、脂汗を流しながら、ニヤリと笑った。

 その目は、まだ死んでいなかった。

「……ユウマ。俺を、ただの酔っ払いだと思ってんなよ」

 アレクは、震える手で『アルマゲドン』を受け取った。

「……俺は勇者だ。そして、世界で一番、あんたのビールを美味そうに飲む男だ!! 命の一つや二つ、最高の一杯の代償に比べりゃ、安いもんだぜ!!」

「……分かりました。セラフィナさん、リリィさん。…最後のバフをお願いします!!」

「演算……完了!! アレクの命を、一滴の雫へと収束させる!! 不潔なほど……熱い一撃を!!」

「聖なる泡よ……! 彼の魂を包み込み、死の淵から引き戻してください!!」

 アレクは、漆黒の瓶の栓を、歯で引き抜いた。

 その瞬間、玉座の間が黄金の光に包まれた。




今回の登場ビール設定メモ
• 特製ピルスナー『神速』 / 剛力スタウト / 変幻IPA
• 特徴: ユウマがこれまでの旅で得た知識を全て注ぎ込んだ、アレク専用の戦闘支援ビール。
• 効果: 飲んだ瞬間、特定のステータスを爆発的に上昇させるが、連続で飲むと体内の尿酸値が右肩上がりに上昇する。
• 凍結醸造ビール『アルマゲドン』
• アルコール度数: 65%
• 特徴: 水分を凍らせて排除し、成分を極限まで凝縮。もはや「液体」というより「エネルギーの結晶」。
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