音MADでしか呪術廻戦を知らない俺が禪院家にTS転生?!   作:ポ予

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わからせと後日談、あるいは真のダイナミック・ビフォーアフター

 かつてマコくんは、断片的な前世の記憶から、この先の「詰みポイント」を三つに整理した。

 

 ① 禪院家滅亡

 自業自得。これ以上に適した四字熟語を私は他に知らない

 

 ② 東京崩壊

 一番重要なのに情報が少ない。宿儺と袈裟を着たロン毛の男が主犯。火山の呪霊が宿儺と五条悟にいじめられ、どこかの女子高生が死ぬ。季節はクリスマス*1。だが、それが何年後かは不明。ハッピーホリデーに渋谷を更地にするセンスのなさは救いようがない。

 

 ③直哉、刺される

 自分の娘があんなことを言われてたら、私がおばさまでも刺す。仕方ないを超えた仕方ない。

 

 でも、①②③だけじゃ、問題のすべてを網羅できているとは言い難い。

 

 ④ お父様がキチゲを解放し、直哉以外の別の子を当主に据える。

 

 これが私、禪院菜緒葉にとっての最大かつ最凶の問題だ。

 

 マコくんは一般家庭の出身なので「親戚みんなに喧嘩を売ってるから自業自得だよね」と、音MADを見ながら思考を放棄していた。けれど私は禪院の女だ。物の見方が根本から違うのだ。そもそも禪院本家に性格のマトモな男なんてハナから存在しないのだから、人格なんて評価基準にすら入らないのだということを、重々承知している。おまけにこの家においては「相伝の術式」が最優先の絶対法だ。直哉が多少未熟だとしても、男相手なら比較的人望のある甚壱くんあたりをお目付け役に従えておけば、組織としてはそれで事足りる。

 

 それなのに、あのお父様が直哉以外を候補に据えたのだとしたら──。

 それは、お父様が当主としてのストレスゆえに禪院を道連れに滅ぼしたくなったか。

 あるいは、マコくんの音MAD以外の知識があまりに乏しいせいで名前すら判然としないが──禪院家の至宝『十種影法術』の使い手が、この世のどこかに現れたということだろう。

 十種さえ持っていれば、あのお父様のことだ、たとえ女であっても、あるいは一族に迎え入れられていない隠し子であっても、迷わず当主に据えるだろう。あの人はそういう選択ができてしまう人だ。

 

 お父様の気持ちは本当によくわかる。禪院はクソな家だし、存続の価値はない。でも存続させるならさせるで、最も優れた術式を持つ者をトップに据えねば、これまでそのクソさを耐え忍んできた意味がない。

 理屈はわかる。痛いほどわかる。だが──どっちに転んでも、私だけは絶対に許さない。このクソみたいな家で「禪院」という呪いに忠実に頑張っている直哉が報われない結末など、あってはならないのだ。

 

 だから私は、まだ生まれてもいない愛の結晶を禪院から永久に放逐するための、薄汚い予防線を張る。この作戦にマコくんは付き合わせられない。というか、無理やり付き合わせようとしたところで、あの善良な魂は「なんの罪もない子に相続放棄させるのはちょっと……」とか「直哉が当主になるより禪院の改革が早く進みそう……」とか抜かして、自分から首を差し出しかねない。

 

 ──呪力がない人と縛りを結べるかという問題はある。私の読んだ書物には載っていなかった。というか、甚爾くんレベルで呪力ゼロという人の存在自体が、あり得ないと書かれていた。

 いや現にいますわよね?????と思うが、それを書き残した人は甚爾くんが生まれる何十年も前に死んでいる。

 そういう訳で効果は判然としないのだが、縛りというのは私から見たら基本的に「やり得」だ。大人を見ていると、もっと賢く縛りを使いまくればいいのに、と思うことがよくある。

 まずはやってみる。結局不成立に終わったとしても、甚爾くんが「まあダチの菜緒葉とあんな約束したしな」と躊躇すればめっけもん。

 未来の直哉が大好きな甚爾くんの子供と血みどろの殺し合いにならないための手なら、私は悪魔に魂を売ってでも打つ。

(よその子ならともかく、甚爾くんの子を直哉に殺させるのは嫌だ。)

 

 だが、甚爾くんは私を見下ろした。

 深淵から響くような、この世のものではない恐ろしさを孕んだ声で言った。

 

「断る。……つーか前からちょくちょく思ってたけど、誰だよお前」

 

  一瞬で血の気が引いた。

 

「……何を、おっしゃっているんですの?」

 

 いつもの愛想笑いを浮かべる。けれども全然通用しない。通用する訳がない。甚爾くんは他の男の人達とは全然違った。違うから嬉しいだなんて馬鹿なことを考えていたのは、ほかならぬ私だった。

 

「術式効果かと当たりをつけていたが、どっちが本体だ? ……さっきまでの蘊蓄はまだしも、今の態度は流石に邪悪すぎる」

「……」

「あっちの菜緒葉は、こういう駆け引きは絶対しない。しかもいくら禪院とはいえ7歳児が『やることやりゃ子供ができる』なんて、吐き気のするようなセリフを言う訳ないだろ」

「……いや、私はそんなつもりじゃ……」

 

 色々と決めていたはずの覚悟が吹っ飛びそうなほどの恐ろしさに、声が掠れる。私は本当に7歳児なのだ。一応。そして悪意はない。悪いことをしている自覚はあるが、呪霊や呪詛師と比べればマシというか、巨悪を犯しているつもりはなかった。けれども甚爾くんは構わずに畳みかけてきた。

 

「このガキを乗っ取る気か?」

 

 彼の手がわずかに動く。首筋に指を当てられる。

 それだけで、自分の命が次の瞬間には蝋燭の炎みたいにかき消えているかもしれないことを予感する。彼は私のことを愛すべき教え子を内側から蝕む寄生虫か何かだと疑い始めているらしい。最初からいたのは私の方なのに。

 

「違いますわ──」

「じゃあ何だ」

 

 体の震えを抑えながら誤解を解こうとしたが、甚爾くんの切り返しはあまりに早かった。甚爾くんの口調は怒っているのですらない。確認しているのだ。私が排除すべき対象かどうかを。

 

 あ、無理。これ、詰んでますわ。

 想定外のクソやば状況。

 怖い。この人の前で呼吸をすることさえもう怖い。

 マコくんがこの人の好感度をここまで稼いでいるというのは想定外だった。甚爾くんはもっと、自分も他人も完全にどうでもよくなっている人だと踏んでいた。この人が、お母様と弟しか違和感を持っていなかった私の人格問題に気づくなんていう発想がなかった。

 ダメ、私じゃ対応不能。

 一刻も早く逃げよう。

 

 

 

 バトンを投げるように、私は意識の奥底へダイブした。

 

 

 

 

 気づいたら、俺は忌庫の冷たい床に座り込んでいた。酷い睡魔で視界がぼんやりしているが、目の前では甚爾くんが至近距離で俺を凝視している。どうやらしばらく意識が飛んでいたようだ。多分、呪力切れによる強制シャットダウンみたいな状態になっていたんだと思う。

 

 まさか菜緒葉ちゃん、俺が寝てる間に何かマズいことをやらかしたのか? 甚爾くんの目つきが普段より3倍くらい鋭い……というか、今にも俺の首を刎ねそうな抜き身の刃みたいな殺気を放ってるんだけど。

 あの子、物言いがキツい割には、都合が悪くなった瞬間すぐ逃げる悪癖があるんだよな。調子に乗って煽りムーブをかました挙句に事故ったのか?

 とんでもない局面からリカバリーを要求してきたな。

 

「……ごめんなさい()()()、今ちょっと意識が朦朧としてて。私は何か……変なこと言いました?」

 

 呪力切れによる眠気を堪えながら、恐る恐る、様子を窺うように尋ねる。

 甚爾くんの顔がマジで怖い。返り血が乾き始めて、余計に凄みが増している。けれども甚爾くんは、しばらく刺すような視線を俺に向けてから、憑き物が落ちたようにふっと溜め息をついた。

 

「……もう甚爾くんって呼んでくれねぇのか、菜緒葉?」

 

 その言葉に一瞬ポカンとしてから、思わずニコっとしてしまった。

 

 あわや命の危機かと思ったが、案外大したことはなかったらしい。

 なんだ、菜緒葉ちゃんのやつ、本人相手にナチュラルに「甚爾くん」なんて呼んでたのか。あの子、俺が知らない間にどれだけ距離を詰めてたんだよ。肝が座ってるどころの話じゃない。

 でも、本人公認ならこれからは俺もそう呼ばせてもらおう。

 心の中ではずっとそう呼びたかったんだ。

 

「甚爾くん」

 

 そう呼んで、緊張を誤魔化すように大欠伸をした。

 殺気が消える。

 それに安堵すると同時に、俺は再び泥のような眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、俺の華々しいサボタージュもとい卓球台を含む各種家財道具の破壊工作は、見事にうやむやになった。

 理由は簡単だ。家のどこもかしこもが悲劇的ビフォーアフターの匠(甚爾くん)によって粉砕されていたからである。俺の小規模な破壊なんて、巨大台風の後の水たまりみたいなものだ。

 

 死者はゼロ、重軽傷者多数。

 しかし財産的な被害は甚大。

 ──とりあえず、人は死んでなくて良かった。

 

 結局一番問題になったのは、忌庫での一件だった。

 

 菜緒葉ちゃんから強引にバトンタッチされたあとすぐに、呪力枯渇と精神的疲労が限界突破し、俺はあろうことか忌庫の冷たい床でそのまま爆睡してしまったのだ。そして目が覚めたら甚爾くんはもういなくなっており、そこは懐中電灯を持った大人たちに囲まれた事件現場と化していた。

 

「菜緒葉……説明しろ。なぜオマエがここにいて、そして──特級呪具を含む十数点が紛失している?」

 

 お父様の声は深夜の墓場のごとく冷ややかだった。

 隣では扇のおじさまが壊れた南京錠を片手に今にも血管が弾けそうな顔で俺を睨みつけている。俺じゃなくて菜緒葉ちゃんの犯行だし、記憶は一切ない。でも、俺もその気だったしなぁ。

 で、見せられた錠の切り口を見ると……なるほど、封印系の術式を『美味しく』するのはこうやるのね。ラーニングしたぜ。

 とりあえず俺は前世で見た「あざとい系女子」のアーカイブを脳内で全検索した。そして、まだ乾ききっていない服の袖をギュッと握りしめ、瞳をウルウルさせて顔を上げた。

 

「……私、怖くて……っ。甚爾様に、『大人しくついてこい、さもないとミンチにするぞ』と脅されて……鍵を開けさせられて……っ。そのあと、怖くて、動けなくなって……」

 

 必死の演技である。

 というか、実際甚爾くんの殺気はマジで怖かったという点は真実だ。その他の情報を大幅歪曲しただけである。

 

「白々しい! この鍵の切断面は明らかにお前の術式だろうが! 共謀してあいつを逃がしたのではないか!?」

 

 扇のおじさまが激昂して一歩踏み出した。その顔面はもはや憤死寸前の茹でダコだ。だがそこで、一人の巨漢が俺の前に立ちはだかった。

 甚壱くんだ。

 

「……扇。いい加減にしろ。相手は子供だぞ」

 

 甚壱くんの低く、静かな声が忌庫に響く。

 

「甚爾が本気で脅せば、並の術師でも蛇に睨まれた蛙になる。それをまだ幼い菜緒葉が拒めるはずがないだろう。大の男達が目の前で気絶させられたのを見てしまった恐怖のあまり従い、ここで意識を失うのも無理はない。それにこのままでは風邪をひいてしまう。早く休ませてあげないと」

 

 甚壱くん、マジ天使。

 

「……甚壱おじさま……っ」

 

 嘘泣きしながら抱きついた。

 ごめん、ごめんね甚壱くん。この世に悪党は数多くいるが、今、世界で一番君を騙しているのは、目の前で「……甚壱おじさま……っ」とか言って縋りついているこの幼女なんだ。

 

 お父様はといえば、しらーっとした目で俺をじっと見ていた。絶対に信じていない。テレビはともかく厨房と卓球場の真犯人が俺なのだって、お父様は完全に気づいているはずだ。

 でも、お父様は溜め息をついて首を振った。

 

「……甚爾が菜緒葉を人質にとり、無理矢理に鍵を開けさせた──ということにしよう。扇、不服か? 第一オマエを池から引っ張り上げて救ったのは菜緒葉だぞ」

「……ぐ、ぬぬぬ……ッ!!」

 

 これ以上追及すれば「お前だって甚爾に負けてるのにこれ以上恩人を追い詰めるのか」という話に繋がる。扇のおじさまは退散していった。

 勝利である。

 

 

 ということで忌庫の一件すら即興の対応であっさり片付いてしまい、一番きつかったのはむしろ直哉の相手だった。

 あんなに甚爾くんに懐いていたから、絶対ギャン泣きして「甚爾くん連れてこい!」と暴れると思ったのに、あいつは全然泣かなかった。

 それどころか、驚くほど静かで、どこか冷めた態度だった。

 弟が大人の態度をとっているというのが、なんとも言えずしんどかった。

 やっぱり起こしに行けばよかったと思いながら、住所を教えてもらう約束をしたことを、お祈りみたいに話した。

 泣けよ、と思った。俺の前では泣いてもいいのに。でもこの子は、母親の死に際ですら泣かなかった。

 

 

 

 

 

 そして数日後。

 

 混乱が落ち着き始めた頃、俺はお父様の部屋に乗り込んだ。事後処理で胃に穴が開いていそうなお父様を前に、俺は女中達や軀倶留隊中心に集めた署名リストを叩きつけた。

 やらかしたことの効果は最大化しなくてはいけない。

 

「お父様。今回の騒動で厨房が粉砕されました」

「したんだろ」

「……そこはまあ、些細な違いでしょう。それよりも、これは『菜切り包丁』という我が術式の、さらなる高度な運用のための天与の機会だと私は考えておりますの」

「……何が言いたい、菜緒葉」

「最新式のシステムキッチン一式を導入してください。あわせて、アスリート向けの栄養学を今後の仕事に組み込むための予算も。……これからは力任せの鍛錬だけでなく、食事による内側からの強化が不可欠ですわ。署名はこれだけ集まっています。……あ、卓球台の買い替えについてのリストもありますわよ」

 

 お父様は署名を見る。かなりの大人数。直哉も「ええキッチン入ったら美味いもん食えるんやろ?」と(半ばヤケクソで)協力してくれた。

 

「……もし、改築後も以前のような前時代的な厨房のままであれば、私は再び絶望し、今度は何をするか自分でも分かりませんわ」

 

 お父様はこめかみを押さえた。

 

「随分お転婆になったな」

「お転婆ではなく、大人になったのですわ」

「どこからどう見てもガキの癖に」

「お父様だって大概子供でしょうが」

 

 こんな反抗的なことを言ったのは生まれて始めてだった。

 お父様はしばらく沈黙した後、笑って手を振った。

 

「……好きにしろ。ただし、予算の範囲内な」

「うふふ、ありがとうございます。大好きですわ、お父様!」

 

 部屋を出て、俺は廊下で人知れずガッツポーズを作った。

 

 ──甚爾くん、見てるか。君が壊した跡地に、最高にハイテクな俺たちの城が建つぞ。

 

 俺はまだ弱いけれども、それでも甚爾くんのできなかったことをやる。跡地に何を作るのかを決められるのは、ここに残った人間だ。

 こうして、禪院家の「ダイナミック・ビフォーアフター」は、甚爾くんの破壊と俺の強欲によって、歪な結末を迎えたのだった。

 

 

 

*1
劇場版とごっちゃにしていると思われる




いつも本作をお読みいただき本当にありがとうございます!
皆様からの感想、そして無限に湧き出てくる誤字脱字への迅速な修正(非常に助かっております……!)、温かい評価の数々に支えられ、ようやくここまで辿り着くことができました。

次回、「禪院菜緒葉について② Side:透明人間」をもちまして
第一部:雑魚よわよわ幼少期編(仮題)
は完結となります。

第二部:音MAD領域展開編(仮題)
からはバトルとTSの醍醐味的描写が増える予定です。今後3人称視点増やした方が書きやすいかもなどうかな…と迷い中だったりもしますが、ともあれこれからもよろしくお願いします!
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