音MADでしか呪術廻戦を知らない俺が禪院家にTS転生?!   作:ポ予

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世界中を魔法少女にするためのオルグ記録② 絶好調???!!

「今日は非術師の世界でも超有名な『鵺ヶ原一家4人惨殺事件』の事例をもとに、1級呪霊との実戦での生存戦略についてをビシバシやっていきますわよ!」

 

 ホワイトボードを指示棒でばしーん!と叩き、満面のお嬢様スマイルを浮かべていると、菜緒葉ちゃんがオタク丸出しなことを言い出した。

 

『このシチュエーション、伊達眼鏡があったら完璧ですわね。女教師ごっこで若人達をメロメロにしまくるTSお嬢様……うん、アリですわ! この調子でぶちかましてらっしゃいな、マコくん♡』

 

 ぶっちゃけメロメロになってるのは菜緒葉ちゃん本人だけですよ……。というかさぁ、この家で清純派お嬢様をやるためには男性陣とのお行儀のいい距離感が必須だから、周りをメロメロにしちゃうと逆に困るんだよ。好感は持たれるけどワンチャンは感じられなさそうな博愛ムーブを、俺なりに一生懸命設計してんの。わかってる??

 菜緒葉ちゃんはアレだ。この体のメイン持ち主が自分であることをすっかり忘却し、謎に俺に萌えているよね??

 

 ──勉強会の参加者は13歳から15歳前後の、禪院の次代を担う有望株達。年齢を絞っている理由は簡単で、同年代より上の人を呼ぶのは危険なうえに旨味も薄いからだ。「多感な時期の若手が何か楽しそうにやってんな〜」と遠巻きに思ってもらえるくらいが、政治的にはちょうどいい。

 俺がやりたいのは種蒔きだ。いずれ計画を成就させるため、仲間を育てて行かなくてはいけない。そして早速そのうちの1人、真面目でかわいい蘭太くんがピシッと手を上げる。

 

「あの……非術師の間でも有名ってことは、隠蔽に失敗してるんですか? 僕、そんな不祥事は親からは聞いたこともないんですけど……」

 

 純真だなぁ。そりゃ言わんよ親は。

 人は誰しもたまには失敗する。

 俺も姉としての威厳を守るため、直哉に内緒にしてる失敗が一体いくつあるか……。

 でもアレだ。

 蘭太くんはちょっぴり世間知らずすぎだな!

 

「知らないんですの?? これ、ネットのまとめサイトにある闇深事件・未解決事件系の話題だと、絶対に打順三番あたりで出てくる超メジャー案件ですわよ!」

 

 熱弁していると、ホワイトボードの脇の特等席で長い足を堂々と机の上に放り出した直哉がけだるげに口を開いた。

 

「……姉さんはアレやね。インターネットの見過ぎやね」

 

 コイツぅ、生意気な〜!

 

『全くですわ! 私はインターネットのおかげで2度目の産声を上げたというのに!!』

 

 「直哉に直接言ってやりなよ」と思うが、内弁慶な彼女は禪院の人間との応対の大部分を俺に投げている。とはいえこの勉強会のために色々してくれている辺り、ときメモのプレイ中しか浮上してこなかった初期に比べれば圧倒的な進歩ではある。

 なのでここはクールに応対しておこうか。

 

「もう、揶揄わないで」

 

 直哉は呆れたように目を細めた。

 

「ぶっちゃけ事実やない? 姉さん……いいや菜緒葉ちゃん、あんな便所の落書きばっか見とらんでもっとお外で遊んできた方がええで。インターネットなんかにかまけてたら脳腐るわ」

 

『……』

 

 おい直哉!

 言わんとすること自体はわかるし、口が悪いなりに精一杯言葉を選んだつもりでもあるんだろうけど、今のひとことで菜緒葉ちゃんの人格が怒りの完全シャットダウン状態になっちゃったんだけど、どうすんの?

 

 とはいえここで怒りをぶつける訳にはいかない。

 

「……そう言うあなたも、みんなの前でその姿勢はお行儀が悪いからやめなさいな。いつも言っているでしょ。一応これでも講義の形を取っているんですから」

「はぁ、急に何なん。この場では家の身分とか上下関係とか気にせず、ざっくばらんに呪術の話をしよう言うたんは、他ならぬ姉さんやなかったっけ?」

 

 普通にしているだけでどこか冷たく見える顔に微かに笑みを浮かべて、揶揄うように言ってくる。そんな弟にムカついて軽く袖を引っ張ってやると、周囲からは笑いが起きた。

 「禪院菜緒葉」は基本的には完璧(?)なお嬢様でありかわいい女の子なので、人前で派手に怒ったり声を荒げたりはできない。そのせいで今のやり取りも、傍目には姉弟のいつものじゃれ合いにしか見えないのだ。

 

 しかしこんな生意気な態度をとりつつも、直哉が基本的には滅茶苦茶よくやってくれているのも事実である。

 始める前は俺と菜緒葉ちゃんが影から必死にサポートする必要があるのではないかと不安だったが、蓋を開けてみると想定の倍は凄かった。

 第1回の勉強会で本来なら本家の男子以外は一生お目にかかれない最高機密を惜しげもなくぶちかますことで少年たちの連帯感を爆発させると同時に、口外禁止の縛りへの精神的な抵抗感を一発でぶっ飛ばす……という悪魔的かつ大胆な戦略を提案したのも、実は直哉だ。

 前世の音MADでは知的キャラの片鱗すらなかった彼だが、お勉強を教えるたびに真男佳を恐喝して教わったカリスマ講師スキルを駆使していたのが功を奏したのだろうか。あるいは、賢い姉(俺ではなく菜緒葉ちゃん)への対抗心で色々考えているのかもしれない。

 最近シュッとしてきてしまったせいでちっちゃい頃みたいな絡み方がしづらくて、最近は正直距離感を模索中ではあるんだけれども、いくつになってもかわいい弟だ。成長が誇らしい。

 

「……お喋りはそこまで。とりあえず、『鵺ヶ原一家4人惨殺事件』についての当時の警察の現場資料と、まとめサイトの記事の印刷版を配りますわ。現場資料はいつも通り、前半のうちに頭に入れて処分すること!」

 

 とりあえずそう言い切って、本日の講義に移るとしよう。

 

 そして菜緒葉ちゃん。

 君はご機嫌を直してくれ、お願いだから。

 

 

 

 

 

 

【闇深】1992年に起きた「鵺ヶ原一家4人惨殺事件」について語ろうぜ

 

1:名無しさん@お腹いっぱい。:2004/05/12(水) 21:00:15 ID:oR3k9mZ0

当時13歳だった中1の長男(父の連れ子)が全国指名手配されてもう12年

警察は今でも長男の単独犯行で追ってるけど、この事件の不可解な点をまとめたから、お前ら情弱にも分かりやすく教えてやる

 

【事件概要】

1992年X月、某県鵺ヶ原市の住宅街で発生。

父・母・小学生の妹2人の計4人が惨殺された状態で自宅内で発見

中1の長男(当時13歳、父の連れ子)が失踪、現在も全国指名手配中

 

【発見時の現場状況】

・玄関は内側から施錠された密室状態。

・食卓には作りかけの夕食、味噌汁はまだ温かかった

・テレビ、ストーブはつけっぱなし

・電話線は外側から切断されていた

・家の中にある全室の家族写真がすべて裏返されていた

 

【遺体の状態】

・父:リビングのソファに、なぜかスーツとネクタイに着替えさせられた状態で座らされていた。

・母:手に包丁を握った状態でキッチンの床に倒れていた。

・長女(9)・次女(7):子供部屋の二段ベッドの上段と下段で、それぞれ眠るような姿勢で死亡。

・全員の共通点:生前に12時間以上拘束されていた形跡あり。胸部に細い針による刺し傷が複数(※致命傷ではない)。

・全員、頭部の頭皮のみが剥ぎ取られていた

 

3:名無しさん@お腹いっぱい。:2004/05/12(水) 21:04:22 ID:7Xy7Z1pA

これリアルタイムでニュース見てたけど不自然なレベルですぐに報道しなくなったよな

グロすぎたからか

 

味噌汁がまだ温かかったってことは犯行直後(あるいは犯人がまだ中にいる状態)でサツが踏み込んだってことか?

なのに長男はどこから逃げたんだよ。香具師の足跡でも残ってりゃ別だけど、玄関は内側から鍵かかってたんだろ?

厨房の単独犯とか、警察の脳みそハッピーセットかよwwwww

 

7:名無しさん@お腹いっぱい。:2004/05/12(水) 21:12:05 ID:K8mNq120

> 3

漏れが聞いた話だと窓は全部内側からクレセント錠が閉まってたらしい

つーかこの事件で一番ヤバいのは3週間後に山の中で見つかったアレだろ

 

14:名無しさん@お腹いっぱい。:2004/05/12(水) 21:30:55 ID:vE8mK9w2

>自宅から数キロ離れた山林で、被害者4人分の靴がサイズ順にきれいに並べられていた。

>その近くに、剥ぎ取られた頭皮4枚が被害者の靴と同じ位置関係で並べられていた。

 

犯人キチガイすぎ

 

22:名無しさん@お腹いっぱい。:2004/05/12(水) 21:45:12 ID:U1jRk8s0

厨房が母親と妹2人だけならまだしも成人男性を12時間以上も拘束できるか?

 

28:名無しさん@お腹いっぱい:2004/05/12(水) 22:01:03 ID:Zq9vB5m1

公式発表じゃ長男の単独犯ってこでスピード解決(笑)にしようとしてたけど、現場の血痕の量が異常だったらしいよ

 

35:名無しさん@お腹いっぱい。:2004/05/12(水) 22:15:44 ID:oR3k9mZ0

> 28

長男の血もあったってことか?

鵺ヶ原署の無能警察が証拠隠滅したんじゃねーの?

長男の実母は自殺したのにな

 

41:名無しさん@お腹いっぱい。:2004/05/12(水) 22:30:12 ID:6mK9p0p0

犯人は死体をわざわざリビングやベッドに配置し直して、味噌汁も温め直したのか

どんだけ余裕あるんだよ

 

50:名無しさん@お腹いっぱい。:2004/05/12(水) 22:48:33 ID:T5kR2w10

・12時間以上の拘束と針の穿刺(別室でじわじわ拷問)

・その後殺害、頭皮をペロリと剥離。

・父親にスーツを着せ、妹たちをベッドに寝かせ、母親に包丁を持たせて配置。

・仕上げに味噌汁を温め直し、テレビとストーブをつけて、家族写真を全部裏返す。

・外から電話線を切って、内側から鍵をかけて失踪。

 

絶対にバックにヤクザかカルト宗教がいる

 

57:名無しさん@お腹いっぱい。:2004/05/12(水) 23:02:11 ID:vE8mK9w2

今年で事件から12年。長男が生きていれば25歳か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、簡易領域持ちの呪霊やね。犯人扱いされてた子はとっくに死んどる。……事件自体の揉み消しに失敗したのはええとしても、カバーストーリーが雑やったわ」

 

 資料を読み終えた少年たちの間で不気味な沈黙が流れる中、直哉が退屈そうにそう言い放った。

 

「こら直哉、ネタバレが早すぎですわ! 今からみんなで推理してもらうところだったのに!」

「はぁ? この程度、見た瞬間に理解できひんアホはそもそもこの場におらんやろ?」

 

 今のちょっぴりときめく台詞は何??

 

 最近の直哉はこういうテクニックを覚え始めた。時折事故ることもあるが、その時はすかさず俺が後から個別でフォローに回る。「直哉、陰であなたのことを滅茶苦茶褒めてましたわよ♡ 恥ずかしくて言えないだけなの♡」とな!

 何年か前なら「絶対嘘だ……」となって終わりだっただろうが、今の直哉はだいぶ穏やかになっているので、みんなもギリギリ信じてくれる。2人で相談して有望な子を選んで誘ったこと自体は、一応本当だしさ。

 

 でもごめん直哉、勝手にツンデレキャラってことにして。

 

「ともあれ今日はこのケースをもとに、簡易領域や特殊な結界など、ルールを押し付けてくる呪霊に対し、どうやって条件を推測しながら祓うか——その実戦戦略を考えていきましょうね!」

 

 

 ——元々は俺と直哉が何年も前から姉弟ふたりで仲良くやっていた過去の事例研究。それを、扇のおじさまを味方につけられたのをいいことに、若手を集めた一大プロジェクトへと規模を拡大したのが今回の経緯だ。

 外見は美少女の俺が可憐な笑顔で勉強会に誘ってくるだけで、一般的な男子からすると「文化祭で他校の可愛い女子に逆ナンされる」レベルの高揚感だろう。

 さらにそこに、直哉という次期当主候補と、地位のある実力者であるおじさまの2人の名前をチラつかせることで、次代の禪院の幹部候補への野心を刺激する両面作戦。

 これでもう、俺達に陥落しない子は誰もいない。

 

 今回の題材である、呪霊が使う結界や簡易領域。これは本体が大したことない呪霊である時こそ厄介で、腹立たしい。等級的には実力が十分足りていたとしても、適切な事前仮説を立てなければ死ぬリスクがある大変な任務になることが常だ。

 で、オタクの俺と菜緒葉ちゃんは折角なのでインターネットで有名な事例を無邪気に選んでみた。

 

 ……という訳では、断じてない。

 俺は自分の思想に基づいてこの事例を選び、菜緒葉ちゃんはその思想に笑って賛同し、更に直哉もこちらの意志を完全に理解している。もっと露骨な事例を選択しなくていいのかとさえ、半笑いで仄めかしてきた程だ。

 

 俺達が毎度選定している事例。

 それは、非術師の世界の苦しみを明らかにするか、現行の呪術規定への疑義を呈するものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 女の言うことをどれだけ真剣に聞いてもらえるかは、正直未知数だった。だから最初のうちは直哉にフォローを入れてもらっていた。でも、最近はその心配もあまりない。専門分野とはいえ単独で教壇に立った回もあったが、とても上手く行った。

 今日も前半での戦術研究が終わったら、後半は最新技術とインターネットによる呪術秘匿の困難化について喋る予定だ。

 鵺ヶ原一家4人惨殺事件のカバーストーリーがクソガバだったのは、匿名掲示板の住人がここまで語り継ぐなんて想定外だったからだ……という背景説明から入れば、きっといい感じに話を展開できるはず! そしてそれまでには菜緒葉ちゃんにも機嫌を直して欲しい。ネット関連は彼女のASMR付きの方が、有用な情報をみんなに提供できる気がする。

  

 女が講義できるなんて、禪院家も無事にジェンダーフリーな場になったのかって?

 うーん、それは微妙かな。

 

 実のところ、合間の休憩時間には、俺は毎回手作りのお茶請けを持って行き、紅茶を注いで回っている。禪院の男子というのは基本のノリが完全に昭和だから、逆に「女の子の手作りお菓子」みたいな、古典的でベタベタなアプローチが面白いくらいによく効くのだ。

 彼らの脳内における一般的な女性のイメージは「男の後ろに控え、男が戦うために美味しいメシを作り、時折手作りのお菓子とかを照れながら焼いてくれるふわふわした存在」で概ね固定されている。「いる訳ねーだろそんな女」と言うのは簡単だが、戦略としては賢くない。

 俺はお菓子作りの腕前にもかなりの自信があるから、彼らの好みのツボを突くなんて朝飯前もいいところだ。これが令和の現代社会だったら手作りのお菓子なんてぶっちゃけ警戒対象だろうけれど、ここはホワイト化しつつあるとはいえ禪院家だ。あざといくらいが丁度いい。

 

『私の体の手柄でもありますけど、マコくんってやっぱり天才ですわね。男の方が〈女〉を上手く演れるって、前に私が言った通り』

 

 型抜き中に菜緒葉ちゃんは笑いながらそう言ってきた。嘲笑するような高慢さを宿した、鑑賞者の上から目線。菜緒葉ちゃんから見たら滑稽なのだろうけれど、俺の心はこういうことでは削れない。元はといえば、男だし。

 

 

 

 さて、今日の休憩用に用意したのは3種類。

 バターの香りが引き立つプレーン。

 ココアパウダーをこれでもかと練り込んだ大人のほろ苦いやつ。

 そして、ナッツとドライベリーを贅沢に刻んで混ぜ込んだ豪華版。

 

 ——豪華版のクッキーを片手に蘭太くんがぽつりと言い出した。

 

「鵺ヶ原の事件で犯人扱いにされた長男の子、あまりにも可哀想ですよね。せめてお母さんだけでも真実を知っていれば、自殺せずに済んだんじゃないかって思うんですよ。8条に例外規定とかってつけられないんですかね?」

「……」

 

 部屋が一瞬静まり返る。以前の彼らなら「可哀想だけどルールだから仕方ない」の一言で終わっていた内容だ。

 

 でも今は違う。

 彼らはもう知っているのだ。総監部の定める呪術規定は現状矛盾だらけかつ不完全で、呪術師はおろか本来規定の保護対象であるはずの非術師すら守りきれていないこと。そして、加茂や五条といった他家を政治的に黙らせさえすれば、禪院の意志と力でそのルールは書き換え可能だということを。

 

 これに、彼ら自身に気づいてもらうのが狙いのひとつだった。呪術史を体系的に教わる機会というのはあまりない。まっさらな彼らに向けてなるべく直接的な言葉は使わず——それでも大人なら一発で気づくだろうが、一定の批判的解釈をしやすいような史実を順に提示してゆく。捏造や歪曲は全く必要なかった。元々総監部は腐っている。

 

 別の少年がプレーンを美味しそうに齧りながら首を傾げる。

 

「そうは言っても、被害者と一緒に暮らしてる訳でもない非術師に打ち明けるのは難しいよ。担当の術師だってそのお母さんの存在すら知らなかっただろうしさ。……そういう人を救済するために例外規定を作るとか言うのは、非術師に全面的に呪いの存在をオープンにするみたいなもんだし、非現実的じゃないか?」

 

 すかさず蘭太くんが反論した。

 

「現場の術師の裁量で、故人の友達とかに情報が小出しに伝えられるケースだってあるじゃないですか? 教えてもらえる人とそうじゃない人がいるのって、不公平じゃないですか?」

「あ、それはそうだな。建前と実際の運用がズレまくってるのを、上が放置してるのが悪いわ」

 

 よし、いいぞ。まさにそこにこそ法改正の起点が転がっている。

 

 建前と実際の運用の乖離を放置すればするほど、誰にどこまで情報を開示するかが現場の術師の恣意的な判断になってしまう。同じ呪霊事件なのにある遺族には真相が仄めかされ、別の遺族は何も知らされず犯人扱いされて絶望する。これでは公平な運用とは言えない。

 

「例えばですけれど……」

 

 俺は紅茶のカップを傾けながら会話に混ざった。

 

「呪術師の一族以外、つまり一般家庭から突然変異で生まれた呪術師を呪専が勧誘するときも、親御さんにはある程度、呪術界について説明する場合が実務としてありますわよね?」

「そやね」

 

 ここでホワイトボードの横から、何故かクッキーに一切手をつける気配のない直哉が決定的な一歩を踏み込んだ。

 

「ルールを完璧に標準化するためには、最終的には根拠規定そのものを根本から作り直す必要が出てくるんやない?」

 

 直哉がこの場でここまではっきりしたことを言うのは初めてだった。常識的に考えれば、とんでもなく急進的な発言だ。

 けれども他の参加者は気にしもしない。それどころか「賢い」という理由で誘った『灯』の子が感銘を受けての大演説を始めた。

 

「直哉さんの言う通りですよ! ……普通、法っていうのは保護対象が立法に関与する形で制定されるだろ? 労働者を守るための労働法は、労働者の代表が議会に参加して議論して作られる。消費者を守る法も同じだ。だが! 呪術規定の最大の保護対象であるはずの『非術師』は、その法の制定にも改正にも一切関与できない。それどころか、規定8条のせいで呪術界の存在自体が秘匿されているから、非術師は自分が法の保護対象であることすら知らないんだ! これが異常じゃなくて何なんだよ! いわば植民地主義的な発想と言えるんじゃないのか? みんなだってそう思うよなあ?」

 

 ……お、おう。

 

 いや、そうとしか反応できないよね?

 

 突っ込み所は多々ある。

 たとえば現行の8条が実際に果たしている機能を考えると、複数の正当な役割がある。呪霊や呪術の存在が公開されれば社会的混乱は計り知れず、見えない脅威への恐怖は人々を圧倒するだろう。

 さらに、日本にだけ呪術師がいると知られたら、海外による軍事利用のための拉致が発生する可能性も高い。

 この辺りの大・大・大前提を無視して、理想を語るのはいかがなものか。

 

 悪い部分があるから即時撤廃しようとか、そういう単純な話ではないのだ。

 社会に混乱を齎しすぎずにどのように変えていけるか……みたいな問題意識をみんなには手始めに持って欲しかったつもりで……。

 

 でも、初期段階で冷や水を浴びせるのも逆効果かな?

 というか、そもそも周りの子はこの発言についてどの程度行けているのか。真っ当な指摘らしい部分も少しあるし、こんな大演説をかまされたら普通の中学生なら圧倒されてしまうのではないか。

 

 そう思っていると、一人の少年が、少し冷めた刺々しい顔で呟いた。

 

「俺は別に非術師が多少嫌な目に遭ってもいいけどな」

 

 ……うーん。

 これは反論としてはちょっと幼稚だ。

 

 何も出ないよりは断然健全だと思うので、別に構わないけれど。

 

 この子は非術師を明確に見下し軽蔑する部類の子だった。

 最近は俺たちの前で露骨に「猿」とは言わなくなったけれど、根底にある嫌悪感は消えていないのだろう。彼の家系や過去に、非術師絡みで何か嫌な事件でもあったのかもしれない。ただの知り合いには言えないような、深い心の傷が。

 でも、別にそれでいい。

 俺の好きな人をそのように呼ばず、俺のやりたいことの邪魔をしなければ、彼の思想に介入する気はない。

 

 ただし、彼のような子を納得させるだけの現実的な恐怖を教えるのも、俺の役目だ。

 

「じゃあ、非術師ではなく、私たち呪術師の視点ならどうでしょう?」

 

 優しく笑って話しかける。

 

「地方の田舎で、突然変異の呪術師の子供がポツンと生まれたとき、その子が周囲からどういう扱いを受けているか知っていて? ……あなた達は、どうして普通の小学校や中学校へ行かないのかしら。それは禪院の英才教育を受けるためでもあるけれど、もし普通の学校へ行ったら、『化け物』『嘘つき』と虐められ、迫害される可能性が極めて高いからですわよ。今この瞬間も私たちの同胞が、呪術の楽しさを知らず、自分が呪術師だということすら自覚できないまま、闇堕ちして呪詛師になるカウントダウンを刻んでいるの」

「あ……」

「それにね、これからの時代はもっと大変なことになりますわ。……いい? 呪霊そのものはカメラのレンズには写らない。けれど、呪霊に捕まって貪り食われている最中の非術師の姿は、ばっちり写真や動画に写ってしまうんじゃないかしら?」

 

 これは現実的な懸念で、今日の後半にでも言及するつもりだった。

 今は2004年だから、総監部が裏から手を回して隠蔽できている。けれど、これからがSNSがさらに浸透して、情報が秒単位で世界中に拡散されるようになったらどうだ?

 もっと未来ならAI生成によるフェイクと言い張れそうだけど、2020年以降の数年は厳しいぞ。

 

「『非術師はどうでもいい』では、10年後、20年後の未来で苦労しますわ。あなたは優秀なのだから、その程度のことで隙を作るべきではありません」

 

 そう諭しておく。

 まあ、俺の貧弱きわまりない原作知識によれば、その問題が深刻化する前に東京が壊滅するっぽいんだが……この未来についてどう防ぐかは、もう少し情報が出揃ってから考えよう。

 

 ——そこで、続けておとなしいタイプの後輩が手を挙げた。

 

「あのぉ……皆さんが言ってるのは、将来的には呪術についてガンガン公開していった方がいいということですか? でも、呪霊って非術師の負の感情から生まれるんですよね? 非術師に呪術の存在を教えたら、それ自体が新しい不安と恐怖を生んで、呪霊の発生源になりませんか?」

 

 よし、やっとマトモな反論が来たぞ。

 

 ……ぶっちゃけ言うと、それを解決するのが人類総術師計画なのだ。

 とはいえ、勉強会が始まって1年も経たないうちに開示するのはあまりにも時期尚早。

 

 菜緒葉ちゃんが真男佳を解体しながらかつて語ったプランの中には「食品会社をフロント企業として設立し、給食やレトルト食品に高度に加工した呪霊の肉を混入させる」というものがあった。

 仮にこれが成功すれば呪術師が増え、なし崩し的に呪術の秘匿は不可能化していくだろう。

 水道水へのフッ素添加、食塩へのヨウ素添加、ビタミン強化食品。これらは個人の同意なしに公衆全体に配布される介入だけれど、便益のほうが大きいと判断されたから、近代国家は標準的に採用してきた。

 菜緒葉ちゃんの考えでは、呪力の配布というのはそれに近い行動なのだ。呪霊さえ見えるなら、呪具を配布すればみんなある程度の自衛ができるようになる。

 俺もその思考自体は一理あると考えている。だが、呪術界はそうは思ってくれていない。常識的に考えれば、これは過激思想だ。

 早期にバレたら「幻覚剤か何かが入っていました」ということで商品が回収され、関係者は総監部に拘束されるか殺されるかして終わり。あまりにもハイリスクだ。

 

 けれどもこれをぬるくした改善案を、残念ながら俺の方では今でもまだ思いついていなかった。

 ここでは彼の意見を受け入れ、植民地主義がどうこうみたいな話を一旦冷却し、表面的にはより穏健な案に戻るのがいいかもしれない。

 

 軽く笑って、口を開きかける。

 だが、そこで直哉が珍しく柔らかな微笑みを見せた。

 見たことのないような笑みだった。

 

「珍しく鋭い指摘やね。まさにその通り。『世界に呪霊がいる』と知った非術師は、最初の一定期間は不安に呑まれるはずや。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 直哉はとんでもない爆弾発言を繰り出した。

 

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