音MADでしか呪術廻戦を知らない俺が禪院家にTS転生?!   作:ポ予

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タメの展開続いているのに皆様色々くださってるので、とても励みになっています!


ちょっぴり異常な入学準備?!(被害者1名)

 俺と弟の京都呪術高専への入学を目前に控え、禪院家はかつてない平和な(当社比)騒がしさに包まれていた。『炳』の正規メンバーとして戦果を挙げ、家のホワイト化をゴリ押ししてきた俺達の真の念願である「学園編」という超大型イベントがまもなくの開幕だ。ネットの転生系小説には毎回こういうのがあって、前世の俺は大体それ系のエピソードの途中で飽きて読むのをやめちゃってたんだけど、俺と菜緒葉ちゃんは純粋に高校というものに行きたくて行きたくて行きたくてしょうがない。むしろここからが本番まである。

 

 ……ここまで長かったな。

 本当に。マジで。

 

 ここ最近は扇のおじさまとか羂索とか、どう考えても関わっちゃいけない異常な連中の好感度ポイントばかりを稼ぐという、あり得ないプレイの連続だった。そんな異常者だらけの攻略チャートの中で、唯一のオアシスだったのは蘭太くんだ。しかし、自意識過剰なら本当に申し訳ないのだが……あの子、最近俺のことをちょっぴり好きになりかけてないか? 「かわいい」って言ってくれたし! このままピュアな彼からポイントを稼ぎ続けると、どこかのタイミングで思想への共鳴や憧れが初恋へと進化してしまい、 TSした元成人男性が純真なガキをたぶらかすという非常に罪深いことが起きちゃいそうな予感がする。

 

 というかここだけの話、俺だって本当はもっと早く、青春の汗と涙が弾ける呪術高専編に突入したかったのだ。でも、将来全人類を呪術師にするために頑張らなきゃじゃん? 甚爾くんが五条に殺されちゃう疑惑もあるじゃん。そのためには、俺のモラルギリギリのことでもやらなくてはいけなかった。だから、仲良くすればするほど胃が痛くなるだけの扇のおじさまを利用し続けるだけにはとどまらず──ラスボスオーラを隠そうともしない羂索ともメル友になり、裏の技術を貪欲に教わりながら家内政治をがんばるしかなかったのだ。(ちなみに現在は、世界観のバランスを崩壊させそうな『閉じない領域展開』とかいう狂った術を通信講座で履修中である。難易度ギガマックスすぎるだろ)

 そしてラスボスといえば、あの五条は現在東京の呪術高専に通学中だ。そのせいでお父様が「姉妹校交流会のときに、また菜緒葉が五条の坊主に虐められたらどうする?」と激しく狼狽し、直哉を護衛がわりに一緒に入学させるというウルトラCを決めてくれた。これは数少ないハッピーニュース。ぶっちゃけ要らん護衛だが、直哉は普通に外界の風に当てた方がいい。俺の見立てでは、直哉という男は順境でカス度が加速し、逆境で成長速度が早まるタイプだ。だから高専が直哉に、ちょうどいい感じの逆境を与えてくれますように!

 

 ──という訳で、待ちに待った高専の制服カタログと、ベースとなるデフォルトの制服見本がついに我が家に納品された。

 

「直哉、見てくださいまし!」

「どれも同じやろ。姉さんは一々大袈裟やねん、アホらしい」

「いいえ! ここの制服は、なんと生徒の要望に合わせたカスタマイズが公式に許可されているのですわ!」

 

 俺のテンションは最高潮に達していた。前世のオタク知識と審美眼をフルに生かし、せっかく手に入れたこの超絶かわいい女の子の体を、いかに最高に輝かせるか──実はそればかりを常日頃から虎視眈々と考え続けてきているにもかかわらず、禪院家での私服は基本着物。そのせいでここ1年は着物しか着ていない。「来世美少女に生まれたら絶対着てみたい!」と夢想していたファッションの方向性からはあまりにもかけ離れたディストピアだ。『炳』入りで使えるお金が増えまくったのをいいことに「こういうのが流行ってるんだー」というチェックのために買い始めたピチレモンやニコラに加え、オタク趣味ゆえに買い始めたKERAやゴスロリバイブルに俺と菜緒葉ちゃんの心はときめきまくり、その結果、俺達の洋装欲は既にピークを超えてピピピピーク(?)へと達している。そして俺達は、反転術式を使って脳の治療をしている最中についに思いついてしまったのだ! この欲望は、禪院を出て呪術高専で発散すればいいのだと!!

 

「……で、具体的にどうしたいん?」

 

 直哉が怪訝そうな顔で訊いてくる。俺は「待ってました」とばかりに、背後に大後光が差しているかのような完璧なお嬢様スマイル(鏡の前で毎日練習している)を浮かべ、菜緒葉ちゃんとタッグを組んで夜なべして描き上げたデザイン案のイラストをどん!!と突きつけた。

 

「まず、袖口と裾には三段重ねの豪奢なフリルをあしらいます。さらに胸元には視線を集める大きなリボン。スカートは当然ミニ丈で、その下にパニエを重ね履きしてキュートなシルエットを構築しますの!」

「…………」

 

 直哉は完全に絶句した。

 

「……姉さん。高専はなぁ、呪霊をブチ殺しに行く場所やぞ。魔法少女ごっこしに行くんちゃうねん。そんなヒラヒラしたもん着て現場行ってみぃ、補助監督から他家の術師に至るまで全員に指差して笑われて、禪院の面目丸潰れやわ。アホちゃうか、ほんまに」

「失礼な! 勿論、細部の耐久性は実用性を考えて設計してますわよ!」

「いや、細部とか技術面の話やなくて、ぶっちゃけ……その、制服でソレはあまりにもダサくてイタいんやって! コスプレと間違われるわ!」

 

 ダサくてイタい。コスプレと間違われる。

 それらの言葉が俺のプライドに致命傷を与えた。

 

「コスプレじゃなくてロリータファッションリスペクトですぅ〜! そう言うあなただってダサくてイタくて変な名前の銃を特注で作ってるじゃない! 禪院の恥はあなたの方ですわ!」

「あ、あれは男のロマンや! 姉さんと一緒にすな!」

 

 俺と直哉の白熱した言い合いが互いの地雷を踏み抜きヒートアップしたその時、襖が静かに開いた。

 

「……騒がしいな。何事だ」

 

 現れたのは甚壱くんと、我らが最高権力者であるお父様だった。地獄に仏。渡りに船。俺はすぐさま、涙目(演技力:SSS)でお父様の懐へと滑り込んだ。

 

「お父様! 直哉が、私の血と汗と涙の結晶である制服カスタマイズ案を馬鹿にしてきますの! 酷いですわー! 許せませんわー!」

 

 お父様は基本的に俺に激甘である。そして甚壱くんも俺のことをだいぶ気に入っている。つまりこの時点で3対1の絶対的有利が確定し、フリル裁判はこちらの勝訴で幕を閉じるはずだった。

 しかし。

 

「……却下だ、却下!!!」

 

 お父様から下されたのは、いつもの酔っ払いの戯言ではない、当主としての冷徹極まる拒絶の鉄槌だった。

 

「菜緒葉、気でもふれたか? フリルなんぞをヒラヒラさせて任務に行ってみろ。あちこちに引っかかって死ぬぞ」

「でも、モチベーションの問題というものが──」

「ダメなものはダメだ」

 

 さらに追い打ちをかけるように甚壱くんも真剣な顔で猛反対の陣を敷いてきた。

 

「……ミニスカは流石に駄目だろう。蹴りを入れた時に中が見える。破廉恥極まりない」

「そこは抜かりありませんわ! フリルでスカートの中の空間を完全に埋め尽くし、パンチラを全方位から防ぐ絶対防壁仕様にする予定ですの!」

「夏場もその、蒸れる密度で過ごすつもりか?」

「うっ……」

 

 普段は俺のわがままを何でも聞いてくれる大人達から、まさかの全力ストップ。

 え、そんなにダメ??

 

『魔法少女ってそんなにも社会的に許されませんの?? この年齢なら全然セーフでは?』

 

 俺の中の菜緒葉ちゃんまで落ち込み始める。

 

「……認めませんわ! それなら、他の皆様にも聞いてアンケートを取って、民意を味方につけてきますわ!」

 

 負け惜しみのように捨て台詞を残して部屋を飛び出そうとする俺の背中に、直哉の冷ややかな声が突き刺さった。

 

「無駄や。絶対みんな反対するに決まってるわ……」

 

 チッ、うっせーな。

 

 

 

 

 

 それから目に入った全員に手当たり次第に突撃インタビューを敢行して、30分後。俺は自室の畳に突っ伏していた。結果はまさかの全員反対、衝撃の大爆死だった。おかしいな、羂索にメールでデザイン案を送った時には「いいんじゃない?(^。^)」って褒めてもらえたんだけどな……。アレってやっぱり、俺達をガッツリ籠絡するためのお世辞?

 

『……マコくん、この家はやはりまだ腐っていますわ。私服ならともかくカスタマイズ自由の制服ですらフリルの一枚も許されないなんて、これでは江戸時代と何も変わりませんわね!』

 

 生得領域内の菜緒葉ちゃんが半泣きで憤慨している(というかこの涙がボディにも反映されて、俺自身も終盤は半泣きだった)、俺も同意見だ。

 こんなにもかわいい俺達がフリルを着ずに朽ちていくなんて、そんなの悲しすぎるよ。

 

『ですが、反対を押し切るのも悪手ですわね。とりあえずデフォルトのやつの実物を試着しながら改めて考えましょうか……』

 

 うん。そうしよう!

 

 ──実はこの日に向けて新しく手に入れたモノがある。

 

 それはうちの女の人に買ってきてもらったブラジャーだ。色は大人びた黒で、脇高設計。タグに「美谷間くっきりメイク!」「寄せて上げて逃がさない!」などの心強い文言が踊っている。

 そう、禪院家の令嬢として過ごす日常、俺の衣服は常に着物だ。和装の世界において、胸の膨らみというものは隠すべきものとされる。だから和装ブラとキツいさらしを巻き、できるだけ平坦で円筒形に近いシルエットを作るのが美徳だと教え込まれ、俺はそれに従ってきた。

 

 しかし……洋服の時は違う!

 ありったけの肉を背中や脇からかき集め、乳をいい感じに前方に盛るのが正義なのだ!

 ここ1年、この体の成長期における発育は凄まじかった。きっとこれで武装すれば、鏡の前の俺は劇的な変身を遂げるはず……!

 

「………………は!?!? え、ちょっ……」

 

 着替えを終えて全身鏡の前に立った俺の口から、思わず素っ頓狂な声が漏れる。そこに映っていたのは、想像以上の光景──いつもの和装時の慎ましやかなお嬢様ルックとは似ても似つかない、想像を超えるレベルの暴力的なまでの圧倒的な膨らみだった。

 いつもの着替えや風呂の時に上から見下ろすのとは全然違う。前方にせり出したそれは、とんでもない重力と質量を主張している。もはや足元が見えないレベルだった。

 女性の胸というのは土台となる下着ひとつで、ここまで形と存在感が変わるモノなのか……。知識としては知っていたつもりだが、我が身で体験する衝撃は計り知れない。

 

 あまりの光景に、俺も菜緒葉ちゃんもテンションがMAXになる。

 

「──というか、デフォルト制服のブラウス、胸のボタンきっっっつ!! 痛い! 弾けそうなんだけど!」

『ああもう、直哉が見たら絶対に「盛ったやろ」って1時間くらいバカにしてきますわよやだー! たしかに寄せて上げて盛ってはいますけど!!』

 

 ひとしきり大騒ぎしてみたところで、俺はふと思い出した。 まだこの体が6歳児だった頃、菜緒葉ちゃん本人から宣告された、あの驚天動地のセリフを。

 

『頑張ってくれたらお礼代わりに、将来胸くらい揉ませてあげますわ』

 

 当時は「何言ってんだこの異常幼女」としか思わなかったが……よくよく考えてみろ。滅茶苦茶頑張り続けている今の俺には、あの時の契約を履行する正当な権利があるのではないか?

 第一、この想定外の質量と形状を正確に把握しておかなければ、実戦の最中にボタンが弾け飛ぶという大事故を招きかねない!! 今こそ、呪術師としての危機管理能力が問われているのだ!

 

「……ねえねえ菜緒葉ちゃん」

『なになにマコくん?』

「ちょっと1揉みほど失礼していい? 誤解しないでほしいんだけど、これは最適な戦闘服を作るための、極めて科学的かつ合理的なアプローチだから!」

『どうぞマコくん。自分の体だと思って、1揉みとは言わず隅々まで検分なさいな! 私たちは同じ目的を抱く同志なのですから、合意の上でのセルフ・メンテナンス……いや、やっぱりちょっと恥ずかしいかも♡ 5揉みまででよろしくお願いしますわ♡♡』

 

 菜緒葉ちゃんからの乗り気な許可(?)も得たところで、俺はブラウスのボタンをいくつか外し、洋装用の下着に包まれた自分の、もとい菜緒葉ちゃんの胸の下部分に、恐る恐る手を当てた。

 

「うおっ、ブラ硬っ。ワイヤーのホールド力ありすぎて、胸っていうかほぼブラの感触なんだけど! でもメッッッッチャ乳立派やね!」

『こらマコくん! よりによって音MADの直哉の物真似しないの! 本気で気持ち悪いですわよ!』

 

 直哉本人が聞いたらガチギレするであろうやり取りを繰り広げながら、俺は真剣な表情でブツブツと分析を始める。

 

「バスト周りにはあと数センチの余裕を持たせないとな……。よし、一度しっかり掴んで、立体裁断の必要性を物理的に検証して……」

 

 俺はさらに深く、自分の胸を揉むようにして構造を把握しようとした。下心など……下心など、たぶん5%くらいしかない。

 そして己の肉体と向き合う求道者となっていた、まさにその時だった。

 

「──ごめん姉さん、さっきはちょっと言い過ぎたわ。フリル、部分的にやったら……」

 

 ノックもなしに、直哉が襖を開け放った。

 

「………………」

「………………」

 

 完全にフリーズする、禪院家の次世代を担う姉弟。

 本来なら、喧嘩のあとの弟からの素直な謝罪という、非常に微笑ましいホームドラマのワンシーンだったはずだ。

 しかし問題は、現在の俺の手の位置とはだけたブラウスだった。

 直哉の視線が俺の顔と、俺自身の手でむんずと揉みしだかれている黒レース越しの豊満な胸とを、二度、三度と往復する。

 彼の顔から、スッと血の気が引いていくのがわかった。

 

「……姉さん、姉さんとの関係は今日限りにさせてもらうわ」

「待って直哉!!! 違うの!! これには海より深い事情があって!!」

「うるさい!! 変態!! 姉さんのアホーッ!! 姉さんなんかもう大っ嫌いや!!」

 

 直哉はちょっと泣きながら、脱兎のごとく廊下を走り去っていった。その足音はいつになく乱れており、投射呪法の加速すら忘れているようだった。直哉が泣いているのを見るのは、俺達の二重人格状態の発覚時以来初めてである。2回目の涙、こんなどうでもいいシーンで流しちゃうの?!

 

 静まり返った部屋に残された俺は、虚しく空中で乳の形を作ったままの自分の両手を、ゆっくりと、ただゆっくりと下ろした。

 

『…………マコくん。完全にやっちゃいましたわね』

「どうしよう…………」

 

 直哉はこの年齢にしては異例なほど姉を慕う子で、俺には敬意、菜緒葉ちゃんには庇護欲を主に向けている。マウント取りたがり癖のある菜緒葉ちゃんは心底不満なようだが、とにかくそうなのだ。しかし今の光景は俺への敬意がゴッソリ削られ、菜緒葉ちゃんへの庇護欲が極限まで高まってしまう──そんなとんでもねー代物だった。

 完全にパニックを起こす俺に、菜緒葉ちゃんは生得領域の中から微笑みかけてきた。

 

『ふふっ。仕方のない人。明日の朝、私からちゃんと説明してあげますわ』

 

 

 

 

 

 

「よしよし、直哉。怖かったですわね。ごめんね♡ あれは本当になんでもなかったのよ。あれは合意の上での、ただの服のサイズ確認よ? それにまだほんの1揉みくらいしかしていなかったし……」

 

 ここは直哉の部屋。昨夜泣きながら自室に逃げ込み、引きこもってしまった弟を心配して、菜緒葉ちゃんは朝一番で彼の部屋の襖を開けた。そして今は未だかつてないほどの猫撫で声で、ふとんの上で膝を抱えて丸くなっている直哉を優しく、それはもうデレデレに甘やかして慰めている。

 彼女はサディストなので、弟のこの醜態には内心大興奮だ。最近は姉なんかいなくてもしっかりしてきてしまった弟が、幼かりし頃を彷彿とさせる頼りなさで自分の腕の中にいる。その事実が黒沐死をやっつけた頃からずーっと塩対応を続けていた思春期ガールの心を満たし、史上稀に見る甘やかしモードへと移行させたのだ。

 ──普段は面倒くさくなった瞬間から全ての対人対応を俺に押し付ける、直哉(改善気味)をゆうに凌ぐドブカスメンタルな菜緒葉ちゃん。そんな彼女が直哉にこんなに優しくて全肯定な状態なのって、俺がこの体に転生してくる前の、遠い昔の記憶以来じゃないだろうか。

 しかし直哉は思いっきり菜緒葉ちゃんを睨みつけた。怒っているというより、完全に深く傷ついた子供の顔だ。

 

「そんなわけあるかアホッ! 姉さん、絶対に下心あったわ! そういう目しとったもん!!」

 

 鋭い。

 さすが男、同類の汚い本能(5%の下心)を正確に察知していやがる。

 

 でもさぁ……家主の許可付きでちょっと揉んだだけだよ? 

 そもそも自分の体(仮)なんだよ?

 こちとら著しい成長を遂げた美少女の体を内側から定点観測していた訳で、並の転生オタクならもっと早い段階で理性が消し飛んで自己嫌悪に陥るか、もっと邪悪なお遊びに走っていてもおかしくない。それを高専入学直前まで神聖不可侵に保っていたこと自体、表彰されてしかるべき騎士道精神だと思うんだ。

 でもなぁ。直哉視点だとそんなの言い訳にならないだろうな〜。

 こんなしょうもないことで嫌われたらどうしよう……。

 

『私個人としては珍しく直哉に素直に心配してもらえて、今は嬉しさでいっぱいなんですけれども……正直、ノックしなかった直哉もちょっとよくありませんでしたよね? 本来キレたり落ち込んだりすべきは着替えを見られた私の方なのでは? ──というかそもそも直哉って、マコくんを批判できるほど清らかな心の持ち主なのかしら? これって、従妹の胸を母親の前で品評するようなカス行動への当然の報いの気がしますわよ』

 

 菜緒葉ちゃんは仕草の上では甘々と見せかけて、内心辛辣に語る。

 

 ……いや、たしかに「同じ顔同じ乳」発言は音MADもとい原作の直哉が刺される原因となった大きな罪状のひとつだけど、ここにいるガキの直哉の罪状じゃないんだよ。やっぱり可哀想じゃない?

 

 脳内会話をごちゃごちゃと繰り広げながら頭を撫でてやっていると、直哉はとうとう駄々をこね始めた。

 

「初犯らしいし、百万歩譲って姉さんが下心出したのはまあええけど! でも菜緒葉ちゃん、約束して!!」

「とりあえず聞いてあげますわ、何かしら?」

「これから先、姉さん側の意識がある時に、お風呂入るんも着替えるんも、いっっっさい禁止!!!」

「…………え?」

 

 直哉の未だかつてなく必死すぎる叫びに、脳内の俺も表の菜緒葉ちゃんも同時にフリーズした。直哉は畳み掛けるように怒鳴る。

 

「外やと菜緒葉ちゃんがどう言いくるめられるかわからへんから、1人でお出かけも禁止! ついでに家の中でも、俺の見える範囲から一歩も動くの禁止! というか姉さんにはもう二度と菜緒葉ちゃんの匂いを嗅いで欲しくないから、普段は息止めてろや!!!!」

 

 あの……俺達は感覚を共有してるから、それに素直に従うと、俺も菜緒葉ちゃんも揃って窒息死しちゃうことになるんだけど?!

 

『そもそもマコくんを寝かす手順って結構大変だし、直哉は気にしすぎなんですのよ……。というか、マコくんが胸を揉んだことよりも、直哉のこの要求の方がヨユーで気持ち悪くありませんこと??』

 

 そうだそうだ!

 

 ──と、脳内が大騒ぎになる中、菜緒葉ちゃんはそれでも困ったように微笑み、取り乱す直哉の頭をそっと胸元(※もちろん和装のために厳重に潰された胸なので、いやらしいことは何もありません)に抱き寄せた。

 大人しくそうされる弟の珍しい醜態に菜緒葉ちゃんのサディステックな衝動がうっすら疼いているのを感じたが、いくらなんでも今の直哉に追い打ちをかけるのは可哀想だ。

 

 菜緒葉ちゃん、これ以上この話題を続けると直哉の頭がオーバーヒートしちゃうよ。適当に別の話題で誤魔化そう!

 

 ──と、俺が説得した結果、菜緒葉ちゃんはなるべく猫撫で声で尋ね始める。

 

「……とっ、ところで直哉。呪術高専のことなんだけれど。五条悟の他に最近もう一人、新しく特級になった生徒がいるんですってね?」

「……は?」

「一般出の……なんてお名前だったかはちょっと失念してしまったんですけれども、一体どんな術式を使う人なのかしら。直哉、何か知ってる? 予習のために情報を集めておきたくて」

 

 極めて自然(?)な話題の転換。しかし直哉の反応は予想の斜め上だった。泣くのを堪えているようだった明るめの色の瞳が、突然ゾッとするほど冷たく光る。

 

「…………菜緒葉ちゃん」

 

 低く、地を這うような声。

 

「俺がこんなに菜緒葉ちゃんの心配しとるのに。なんで今、よりによってその男の術式の話聞きたがるん?」

 

 空気が凍りついた。地雷の踏み抜き方がエグい。

 菜緒葉ちゃんが怯えと困惑に笑みを引き攣らせながら答える。

 

「ええっと、純粋な好奇心ですけど……」

 

 直哉の怒りのボルテージがなぜかまた上昇した。

 

「なら好奇心も禁止! ソイツについて探り入れるんは今後一切禁止や! 菜緒葉ちゃんは頼むからもうちょっと自分を大事にして……」

「? フツーに大事にしてますわよ?」

 

 なんか知らんが、直哉は「全っ然わかっとらん!」とでも言いたげに、より一層ぎゅうぎゅうとしがみついてきた。この様子だとこれ以上話を振っても無駄そうだ。彼はすっかり情緒不安定になってしまっている。俺のたった5%の下心がもたらした代償は、あまりにも大きすぎた。

 

 えぇ……。巨乳に一瞬の癒やしを求めただけで、お風呂も外出も呼吸も好奇心も全部禁止。次は何が禁止されるんだろう。瞬きとか?

 なんつー駄々っ子だ。

 これからは直哉の目を盗んでお出かけするしかないのか……?

 

 高専で巻き起こるはずだったキラキラの青春ラブコメは、開幕前からだいぶ不穏なことになってきている。

 

 俺は直哉の信用を取り戻すことができるのだろうか。

 というか、呪術高専で直哉にいい感じの逆風を与える以前に、俺の存在が直哉にとっての悩みの種になっちゃっていないか。

 そして、直哉がなぜだか詳しく教えてくれない新進気鋭の特級呪術師の先輩というのは、一体何者なんだろうか。

 

 何はともあれ、俺と菜緒葉ちゃんの自由なスクールライフには、早々に暗雲が立ち込め始めていた。

 

 

 




ところで、禪院直哉くんのお誕生日が発覚しましたね。本作の主人公であるマコくんおよびサブ主人公であるシン菜緒葉ちゃんの誕生日も同様ということになります。

「音MADの歌詞によれば直哉は27歳で死ぬ!」と序盤でマコに推理させちゃったんだけど…享年28?? この辺りのごちゃごちゃは、百鬼夜行と渋谷事変をマコくんが地味に混同してることとセットで使えそうなんで、とりあえず修正はしません。
ただし設定の都合上、直哉の享年と前世のマコくんの享年については絶対同じでなきゃいけないので、以前ちらっと触れた前世のマコくんの享年については、27→28に修正しときました!
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