音MADでしか呪術廻戦を知らない俺が禪院家にTS転生?!   作:ポ予

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守護霊? 本人?? あるいは悪霊???

 呪霊10匹の調理を終え、俺はふうと息をついた。最近は「生きた人間を斬らない」という縛りのおかげで、逆に調理の効率が上がっている。おまけに昼餉の支度の当番からも外された。日中は呪霊料理に専念しろとのことだ。

 

 女の子として生きるというのはどういうことなのか。近頃よく考える。

 

 禪院菜緒葉という少女の中に俺が宿って数ヶ月。俺は彼女が望むことを自分なりに考えて頑張ってきたつもりだ。

 前世の動かない体とは対照的に日に日に鋭くなるこの肉体を動かすのは、正直最高にハイな気分だった。悲惨な境遇の菜緒葉ちゃんの立場をよくする手伝いもできるのだと思えば、なおさら。たとえるなら、偶然彼女に宿った守護霊か何かの気分だった。──俺はあくまで「代わりに動いている誰か」であって、ここが自分の居場所だとは思っていなかった。

 だが最近、その感覚が少しずつ狂ってきた気がする。

 

 お父様に認めてもらって術師になり、呪術高専へ行くという目標は座礁気味だ。しかしその一方──

 

「菜緒葉ちゃん、いつまでやっとんの。早う来て」

 

 不意に背後から声をかけられ、俺は肩を跳ねさせた。振り返れば、そこには最近やけに俺にベッタリな弟がいる。

 

「……どこに連れて行く気ですの。今、残穢まみれのまな板を洗っているところなんですけど」

「パパの部屋。テレビ見よ」

「テレビ……?」

 

 その単語に、もはや画面のない生活に慣れ始めていた俺の心臓がドクンと跳ねた。

 電話は黒電話、厨房に至っては大正時代からろくに改装が入っていないこの家にそんなものがあったのか。

 

「ほら、行くで」

 

 有無を言わさず腕を引かれる。この直哉の優しさが、俺にはまだ飲み込みきれていない。

 

 ──俺が菜緒葉ちゃんの記憶を参照したところによれば、菜緒葉ちゃんはブラコンなのに対し、直哉の方は菜緒葉ちゃんを見下している態度だった。けれども今や、俺が提示した「躯倶留隊いじめ禁止」なんていう縛りも安請け合いし、こうして俺を娯楽へと誘ってくる。まるで直哉の術式がわかる前みたいだ。

 菜緒葉ちゃんの願いは半分叶った。けれども彼女が前面に出てくることはあれ以来ない。

 

 俺は守護霊のつもりだったのに、いつの間にか本人になりかけている。

 どうしよう。

 

「菜緒葉ちゃん、一緒に行こ」

「はぁ? どこへです?」

「パパの部屋」

 

 案内されたお父様の部屋は、築何百年かわからない古色蒼然とした本邸の中で、そこだけ異質だった。部屋の隅には、時代を数十年分飛び越えたようなブラウン管テレビとビデオデッキが鎮座している。いにしえのダンジョンのボス部屋にだけWi-Fiが通っているみたいな違和感があった。

 

「菜緒葉か」

 

 ちゃぶ台の前に座るお父様が、こちらを見て笑った。その双眸はいつもよりわずかに柔らかい。今日は珍しく素面らしい。

 お父様は俺にリモコンを差し出してきた。

 

「テレビ、まだ点けたことがないだろう。……ここを押すんだ」

「……左様でございますのね。……失礼いたします」

 

 知ってる。そんな本音を飲み込んで、おぼつかない手つきで電源を入れた。デッキにビデオテープが吸い込まれていく。タイトルをちらりと見た直哉が、露骨につまらなそうな顔で立ち上がった。

 

「げ、この録画魔法少女やん。こんなん見たくない。……俺、ちょっと甚爾くんのとこ行ってくるわ」

 

 直哉は去り際、俺の耳元で「パパとゆっくり話し」と小さく囁いた。

 ──気を利かせたつもりか。

 直哉は返事も待たずに襖を開けて出ていった。足音が廊下を遠ざかっていく。走っている。走るなっていつも言っているのに。

 部屋には魔法少女の賑やかなBGMと、俺とお父様の二人きりの沈黙が残された。

 ドブカスなりにカラッと明るい直哉がいなくなった途端、一気に空気が重くなる。染み付いた習性で気まずさを払拭しようと思った。

 

「…………お酌をしましょうか?」

 

 宴席で男衆に酒を注ぐのは俺の仕事の一つだ。おばさまにきっちり仕込まれているから、酒好きのお父様は喜んでくれると思った。

 けれどもお父様は何故か首を横に振った。

 

「いいや、いい」

 

 どうして嫌がるんだろう。禪院の男なら娘に酌をさせて喜ぶものじゃないのか。

 

 「それより菓子はどうだ。朝顔の練り切りだ。お前は、こういうのが好きだろう」

 

 差し出された黒木の菓子器には、淡い紫が美しい練り切りが並んでいた。

 わざわざ用意しておいてくれたのだろう、とわかった瞬間、酌を断られた意味が少しだけ違う形に見えた。この人にはこの人なりの考えがある。それが余計に居心地悪かった。

 

「アニメ、直哉とはよくご覧になるのですか?」

「ああ。あいつの術式──『投射呪法』の訓練には、24コマに固定された映像が一番の教材になる。……お前も、来たいなら時々来ていいぞ」

 

 一瞬、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

「……来たい、ですわ」

 

 来たいに決まっている。

 親に構ってほしくない訳がない。

 でも、この温度を信用していいのかがわからない。お父様が優しくしてくれるのは、俺に利用価値があるからではないのか。才能のない七人の兄たちに父が碌に話しかけてこなかったように。これまでの禪院菜緒葉に対してそうだったように。

 それを思うとどうにもモヤモヤして、困った。

 

 アニメが始まった。魔法少女が変身して、悪を倒して、友達と笑う。キラキラして、かわいくて、誰も死なない話だ。お父様の横顔を盗み見る。真剣な顔で画面を見ている。これで本当に術式の訓練になるのだろうか。それとももしかして、一緒に見ようと思ってくれたのだろうか。

 どちらとも取れなくて、俺はそのまま黙っていた。

 そしてエンディングテーマが流れ始めると、父は仕事の顔に切り替わった。

 

「で、五条の件だが」

 

 来た。本題だ。

 

「お前の相手は五条悟。六眼持ちで無下限呪術の使い手だ」

「六眼?」

「呪力の流れや生得術式を視る目だ。持って生まれる者はこの世に同時に一人しか存在しない」

 

 初めて聞いた。音MADには微塵も出てこないが、とんでもないチート能力だ。というかこれ、もしかして超重要設定だったり?

 

「……引く手数多なのでは?」

 

 菜緒葉ちゃんは俺の好みの顔をしている。だからフられる想定は一切していなかった。けれどもそんな情報を聞くと、いくら菜緒葉ちゃんの顔がかわいくても、ちょっと自信がなくなってきた。

 

「だが、それで傲慢になっていて、友達もいないらしい。五条家の大人はそれを心配して友達作りをさせようと、色々な家の子供と引き合わせているようだ。縁談を受けまくってるのもその一環だな。……現状全滅状態だが」

 

 ──ああ、そういうことか。

 

 お父様はそこに俺(菜緒葉ちゃん)を差し込もうとしているのだ。たとえ即座に婚約者になれなくても、仲良くなれるだけで十分な価値がある。 

 そしてさらに思ったのは、五条家は我が家より真っ当かもしれないということだ。俺も直哉の性格を矯正した方がいいかと最近思うが、女の子の俺だけではどうにもならない部分もある。そしてお父様もなぜだか放置。それに比べれば──

 

「いいご両親なんでしょうね。……息子に友達を作ってあげようとなさるなんて」

 

 つい、皮肉のような響きになった。お父様の表情が一気に硬くなる。

 

「……五条のガキは実の親とは離れて暮らしている。襲撃の際に親を人質に取る輩がいるからだ」

 

 答えるお父様の声は平坦だった。事実を述べているだけ。怒っているのかいないのかすら読めない。

 呪術界のトップクラスの家の子供は、親と一緒に暮らすこと自体がリスクなのか。

 なら、この人が我が子と距離を保ってきたのも、全部が全部、冷淡だからという訳ではないのかもしれない。

 

「菜緒葉、呪術師はアニメの魔法少女とは違う」

 

 お父様の目はエンディングテーマの流れるテレビ画面に視線を向けたまま言った。

 

「原型すら保っていない死体で返ってくるのは当たり前。女ともなればもっと悲惨な目に遭うこともあるだろう。だが俺は直哉が死んでも他の息子が死んでも『弱かったのが悪い』と酒を飲んで笑って終わりだ。毎日他の奴の息子を死地に送り出しているのだから、特別扱いは出来んよなぁ?」

「……」

「呪術師はイカレていないと務まらん職業だぞ、菜緒葉」

 

 この人は最初からきっとそのつもりだったのだ。

 アニメを見せて、菓子を出して、少しだけ距離を縮めてから──一番伝えたいことを言う。

 俺は男なので、この人の気持ちもわかる。

 もし俺に娘がいたらこの人と同じ気持ちを抱くだろう。菜緒葉ちゃんに悲惨な目にはあって欲しくない。

 でも、それは菜緒葉ちゃんの望みではない。

 あの子は間違いなく戦いたがっているのだ。この体には戦闘の歓びが刻まれている。直哉に追いついた瞬間の、あの高揚。弟の頬を両手で挟んで覗き込んだ時の、あのときめき。あれを狂気と呼ぶのなら、菜緒葉ちゃんだって──

 

「私はあなたの思うような娘ではありません。だって……」

 

 ──狂っている。

 

 そう言いたかった。菜緒葉ちゃんはただの大人しい良い子なんかじゃない。直哉に追いついた瞬間の高揚、弟の頬を両手で挟んで覗き込んだときのあのときめき、呪霊を斬るたびにこの体の奥で滾る何か。あれを狂気と呼ぶなら、菜緒葉ちゃんはとっくにそうだ。それが禪院の血なのか菜緒葉ちゃん個人のものなのかはわからないが、それを全部ひっくるめて、あなたの娘は戦場に向いている、と言いたかった。

 だが声が出なかった。言葉は口の中で何度か形を変えて、結局どこにも着地しないまま消えた。

 

「話は終わりだ」

 

 と、お父様は言った。

 テレビの画面に視線を戻す。次回予告が流れている。魔法少女が笑っている。

 今日のお父様は何故だか最後まで素面だった。

 

 

 もうわかっている。

 父親も弟も決して善良ではないが、最初に思っていた程の悪人でもなかった。一切の愛がない訳ではなかった。なのに何故か上手くいかない。

 これは禪院の家で女として生きるということそのもの、TS転生それ自体の困難さなのだろうか。それとも俺が何かを、まだわかっていないだけなのだろうか。

 

 俺にはまだわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言おう。

 見合いは一瞬で終わり、しかも大失敗だった。

 

 まず、

 

「お見合いもうヤダ。飽きた。帰りたい。帰ってゲームする!」

 

 と廊下から聞こえるレベルの声量で大騒ぎしている五条悟のクソガキっぷりにお父様の機嫌が悪化した。

 これについてはまあいい。俺も7歳の時は多分こんなもんだったと思う。

 俺のイメージしてた菜緒葉ちゃんにピッタリの聖人君子? あの話は忘れてくれ。俺もあの時は余裕がなくて、五条悟を神聖化していたかもしれない。五条悟に対する俺の態度も、菜緒葉ちゃんへのお父様のやり方も、大して変わらなかったかもしれない。どちらも、相手をちゃんと見ていなかった。一緒に魔法少女アニメを観た後だと、お父様も見かけほどには冷酷じゃないのもわかってきたし。

 でも問題は、五条の蒼い瞳が俺を見た瞬間、開口一番に言った言葉だ。

 

「キモっっっ。こわっっ」

 

 キモい訳はない。

 こっちは最高にかわいい着物を着ている。

 けれども五条は「おえー」と吐きそうな顔で続けた。

 

「その術式どうなってんの?色々切って、切ったものをなんでも美味しくする?? ……いやいや絶対()()だろ。嘘ついてない?」

 

 ついてねーよとしか答えられない。

 

 そのせいでお父様がブチキレ、相手方の大人は終始戸惑いっぱなし。この後子供二人で別室で遊ぶ……みたいな本来の流れは全部キャンセルになった。お父様は五条家は本当に最悪だと言い出した。元々五条は嫌いだったとか、世の中にはもっといい男が星の数ほどいるとかなんとか。

 

 でも、俺は帰路でずっと考えていた。

 あの蒼い瞳が俺を見た時の、あの顔。

 彼はいったい、何を気持ち悪がったのだろうか。彼の六眼には、俺の存在が見えていたのだろうか。俺はもしかして、悪霊だと思われてしまったんだろうか。

 

 

 

 

 そしてその夜、俺は夢の中で再び菜緒葉ちゃんと出会った。

 




六眼くんってなんでも見抜いちゃうイメージですが、ぶっちゃけどこまでやれるんでしょうか?ざっと思い出してみました。
 ①分身マンの術式→見えた
 ②虎杖の中のすく〜な→見える
 ③つみきちゃんのなかの万→見えなかった?
 ④乗っ取られた友達の死体→もうびっくりするくらい滅茶苦茶本人(五条の魂の方が有能???)
…戦績、思ったほど良くないですね…

この辺りからとりあえず「使用中の呪力の流れから、肉体の持ち主の術式のおおまかな仕様をはかれる」くらいの感覚で本作では解釈してますが、お手柔らかにお願いします…

ぶっちゃけ六眼くんの一番すごいとこって呪力ロスほぼないとこなのでは???
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