五十嵐遥のVtuber活動録   作:バンバ

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14話「食べた!」

 

「あーらおはよぉ遥ちゃん」

「おはようございます」

 

 早朝、歩いているご婦人に声をかけられて立ち止まる。

 吉本さん。今年で85歳になるけど、毎日肉料理は欠かさず食べるし、運動も欠かさないという、超元気なお婆さんである。

 

「今はもう、働いてるのかい?」

「…………はい。ネット関係の仕事を」

 

 嘘は言ってない。けど、どこで身バレが起こるかなんてわからないし、多少の誤魔化しは必要だろうから。

 

 ちょっとだけ、心苦しいけど。

 

「ネットねえ。あたしらの世代にゃとんと、縁遠い世界だわぁ。凄いわねえ」

「…………いえ、全然ですよ。それじゃ、この辺りで」

「気を付けてねー」

 

 タッタカタッタカ走るけど、ちょっとだけ。本当にちょっとだけ、変な警戒をしてしまった自分が嫌だった。

 吉本さんは悪い人じゃない。昔から付き合いがあったし、愛想のないボク相手に親身になってくれた頼れる大人だ。

 そんな人に、仕事の都合とはいえ誤魔化してしまったのが、嫌だった。それだけ。

 

「はあ」

 

 走り終える頃には、この蟠りも消えていたけど。

 

 

Haruka:小鷺さん、織原さん、2人のこと、配信で話題にあげても大丈夫?

 

 

 家に着いて、すぐにLANEを送った。

 

 昨日のRtoV体力テストから一夜明け、流石に筋肉痛か何かしらの不調はあるだろうな、という予想を裏切って全く問題ない自分の体に少し引いた。

 

 起きてすぐ、小鷺さんと織原さんに『体は大丈夫?』と送ったけど、まだ返事がない。

 今日は親戚の農家の手伝いとかも入っていないので、絶好の配信タイミングではあるのだ。

 

 とりあえずダメ元でコンソメに近づく。

 

「コンソメー。今日こそ頼むよー」

 

 ガラスケージを開けて、スプーンに取ったゲルフードをコンソメの顔の前に差し出した。

 

 まあ、今すぐ食べてっていうのも、ボク個人の私情でしかないから、そのうち食べてくれればいいかなあ、くらいのものなんだけどね。ちゃんと織原さんにもどのくらいには行けそうとか返事をしないのは、不義理だし。

 

 すると。

 

「……あ」

 

 パクリ。咥え込んで、そのまま飲み込んでくれた。……夢じゃないよなと、またチューブから少し出して、スプーンで顔の前に近づければ、これまたパクリ、と。咥えて、飲み込んでくれた。

 

 願いが通じたような、小躍りしたい気分とは、これだろう。

 

「しゃ!」

 

 その場でガッツポーズをとって、意気揚々と自室のパソコンに向き合った。

 

…………

……

 

【雑談】朝からやっていこう【RtoV:A 藤原澄】

 

「おはよう、君ら。RtoV:Aの青色担当、藤原澄。朝から良いことがあってね…………ちょっとモナにとルキアに連絡しとこ」

 

【おはよう】

【おはよう】

【7時過ぎから配信早えなあ】

【おはようございます】

【おはー】

【お、なんやなんや】

 

「君ら。先に謝っておく。ボクは結構事前に調べたりとかしない。だから、教えてほしい」

 

【おい待てい。だいぶ端折ったな?】

【何を】

【何を教えてほしいんだい野生児】

【折りスギィ!!】

 

「…………あ、ごめん。…………モナと、ルキアが、普段の配信でボクのことを話してたりするか、とか。……………切り抜きとかは時たま見てるけど、同期愛がどうのってタイトルに見えたら、避けちゃうから」

 

 結構切実というか、あんまりコラボしないことを公言しているというのもあるんだけど。

 

 だってさあ。なんかこう、嫌じゃない? 配信している以上、それは人目につくのは当たり前なんだけど、それを態々切り抜いてそこだけ見る、っていうのは。

 好かれてるとは、思うんだけど。

 

 ならちゃんと2人の配信を見ろって? ハイ。

 

【モナトとルッキャネキの?】

【モナち、ルッキャネキの事もそうだけど澄ちゃんのことも大好きっぽい】

【モナ「初めて会った時、すげーキレーなオネーサンいるー!?ってビビってたよ。初手コッコーで全部吹き飛んだけど」】

【ルッキャ「澄っちはねえ。末っ子属性よ、末っ子属性。本人は無自覚に愛嬌振り撒いてるタイプ。言動はたまに終わってるけど」】

【基本的に肯定的というか、コラボしてよーみたいなのが多い印象やな】

【ルキアネキ、少し前の配信でも3人コラボしてえしてえって鳴いてたからな】

【モナトも澄ちゃんとルッキャの話するときは声が溶けてること多いわ】

 

「そうなんだ…………んー、コラボした方が良いのかなあ」

 

【お、コラボするんか】

【ぶっちゃけ、あの2人は澄ちゃんの問題気にしないしな】

【これ以上2人を放置するのは酷やで】

 

「そこまで言う?」

 

 コメント欄から【そこまで言うレベル】とか【釣った魚に餌をやらん所業】とか羅列されて、本格的に頭を抱え始めているボクである。

 ボクは、ボクが思っているよりも2人に愛情を向けられているらしい。

 

「…………よし、一回歌ってからまた話そうか。アカペラで」

 

…………

……

 

【あいも変わらずくそうめえ】

【もうお昼前だけど喉枯れる様子すらなくて草】

【どんな喉してるんw】

 

「そういうものだから……ん? ちょっと、待ってね」

 

 ディスコードからメッセージ。RtoV:Aのグループチャットからだ。

 ……え、マジ?

 

「…………え、え? マジ? ……ちょっと、通話を」

 

【困惑してて草】

【野生児大困惑してらあwww】

【草】

【草】

 

「…………もしもし」

『やほー。おはようすーちゃん! あ、私の声は配信に載せても良いよー!』

『アタシは、満身創痍、だよぉ……這いながら椅子に座ったもん……アタシも載せていいよー』

「…………君ら。ごめん。配信のタイトル、後で変えておくね」

 

【なんやなんや】

【何だ?】

【誰かから通話きてこれ?】

【RtoV:Aか?】

【先輩かもしれん】

 

「……よし、そうしたら、2人とも、自己紹介を」

「それじゃー、私から。ハロー、ニューワールド! エルフの隠れ里からやってきた! 煌めくエルフの一番星、RtoV所属RtoV:Aの黄色担当、モナ・トナトでーす!」

「アタシの番だね! RtoV所属の歌のママ! 楽曲制作はアタシに任せろ! 作曲家キラキラアイドルVtuber、RtoV:Aの赤色担当、伊鶴城ルキアでーす! ……いってて」

「腰?」

「張っ倒すよ澄っちぃいてて……」

「んへへははははっ!!! まあ私も足にキててヤバいんだけどね!」

 

 この様子だと、2人ともダメっぽい。特に小鷺さん、ルキアの方は結構本気でダメらしい。

 

 まあ、あの体格だしなあ。体力も相応に少ないのは妥当か。

 

【うおおおお!!!】

【突発コラボ!!!】

【平日真っ昼間のなんてタイミングでwww】

【とんでもねえ、待ってたんだ】

【うおおお!】

【ルッキャネキwwww】

【モナちの珍しい爆笑シーン】

 

「…………まあ、うん。昨日、運動する機会があって」

「野生児が本当に野生児やってて、アタシは頭抱えたわよ」

「私も自信があったけど、粉々にされちゃったなあー」

「ごめん」

「や、謝るようなことじゃないでしょ」

「んへへ。そんな感じで私とルーちゃんはダウン中なんだけど……すーちゃん、いつもの日課はやったの?」

「やったけど」

「…………ヤセイジガヨォ」

 

【メチャクチャ仲良いやんけ】

【野生児呼ばわりしとるwww】

【どんだけガッチガチで動き回ったんや】

【やっぱ一番デカいはずの澄ちゃんが一番末っ子やってるわ】

【日課(早朝から2h25km爆走)】

【ルッキャネキwwwwww】

【バケモンだバケモン!?】

【実際やべーことやってる】

 

「あ、そうだそうだ。RtoVから正式に、あの事、ぶっちゃけても良いってOKもらったから!」

「………………試供品?」

「ちーがーいーまーすー! それは忘れて! 同棲の件!!!」

 

【モナちキレてて草】

【草】

【試供品?】

【草】

【草】

【何かあったんやろなあ】

【同棲!?】

 

 あ、話して良いんだそれ。てっきりなるべく隠してとか言われるかもしれないと思っていたのに。

 そんなボクの予想を軽々超えていくRtoVの運営って、結構フットワーク軽いのかな。いやフットワークの問題かこれは?

 

「実は、もう既に私とルーちゃんは同棲していまーす!」

「……まあ、そう。モナっちのお家で配信中なのよね」

「ボクはそのうち。あ、そうだ。いつ食べる?」

「…………待って? 何を圧縮したの? どの辺をキンクリしたの今?」

「んへへ、ごめんすーちゃん、マジで意味わかんない」

 

【草】

【ど直球に意味不明扱いされてて草】

【草】

【やはり言葉足らずが過ぎるw】

 

「ごめん。…………コンソメが、ちゃんと、人工のエサを食べてくれるようになったんだ」

「おおー! おめでとう! そういう事ね! なら無事にアタシらに合流、で、き…………ッスゥー」

「ルーちゃん?」

「だから、前に話していた、デュビアの事を」

「……あ゛あ゛っ!!?」

 

 モナから聞いたことのないような汚い可愛い声が聞こえた。今の何処から出たんだ。喉か。それ以外ないし。

 

【デュビア?】

【コンソメくんのエサ?】

【閲覧注意や!!?】

【生き餌の事やな。外国のゴキブリや】

【oh】

【草】

【ファー!!!?】

【ヤバいヤバいヤバい】

【草ァ!!】

 

「待って、待って。考え直そう澄っち。別に人は、デュビアを食べなくても、生きていける」

「そ、そうだよー! それに、ほ、ほら! 美味しいものだっていくらでもあるんだし! 私も結構そういうの詳しいし!」

「…………モナ。例えばだよ。………………自分の家の冷凍庫に、デュビアが入りっぱなしでも、許してくれる?」

「…………専用の冷凍庫を用意するよー?」

「それはボクが嫌だ。迷惑だし」

「そういう善意は今はいらないかなぁ!?」

「……あー、置いてけぼりなリスナーたちに言っておくと、澄っち的にはコンソメくんが人工のエサを食べてくれるようになったから、アタシたちと同棲できる条件が整ったのよね。流石にモナの家で増やすのはちょっと……って。それで、エサのデュビア……まあ、ゴキブリを、増やす理由が無くなっちゃったの。処分方法は、本人が前から言ってたんだけど、食べるって……」

「美味しいよ?」

「…………知ってるだけにムカつくなぁ!」

 

【2人とも必死で草】

【草】

【草】

【wwwwww】

【逃がさないから倫理観は○】

【食べてる時点でダメやろがい!】

【てかそこまで手間かけてコンソメくん育ててたんやな……】

【その都度買うとそこそこ高いしなやっぱ】

【良識あるのになんでこんな大暴投するんww】

【冷凍庫にGはテロやww】

【あ、なるほどね】

【人様の家でGを増やしたがらないのはそらそう】

【知ってる!?】

【こーれ表に出てないだけで何かあったろwwww】

 

「………………命を頂く以上いつ使うかわからなくなるより、なるべく早く使える方が、ボクは気分がいいからね」

「うーん、マジで言ってるなぁ……」

「ねえルーちゃん。今からでも聞かなかったフリとかできるかな?」

「無理じゃないかな」

「無慈悲いー」

 

 そんなこんなで6時間ちょっとの配信に幕を閉じた後、ボクをスカウトしてきたカンダタさんに電話をした。

 

「カンダタさん。デュビア、食べませんか?」

『……ちなみに拒否権は……』

「ありますけど、ボクを引っ張り込んできた責任もあるかと」

『………五十嵐の血かなぁ』

「淳さんには負けます」

 

 そんなこんなで、安藤さんを含めて5人のグループチャットを作ったボクは、細かい日程の調整を始めた。

 楽しみだなあ。




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