(どーーーしよーーー……)
染めた金髪を両手でワシワシしながら、ぐるぐるお目目で半泣きになっている抜群のスタイルを誇る女は、忙しなく顔色をかえな変えながら混乱していた。
(遥ちゃんとのちゃんとしたコラボがまさかこんな特大地雷になるなんてぇえええ……)
ゲーミングチェアでぐるぐる回りながら、どうにかして回避できないかを考える。いや、回避自体は容易なのだ。参加しない。ただその選択肢を取ればいい。
(そりゃあ、それが一番早いし楽なんだけどー……同期コラボもやりたいのも本当だしいー……)
女もとい、織原飛鳥は参加しなかった場合の後が怖いと思ってしまった。
なにせ、参加しているメンバーが問題も問題、大問題だ。
召集された“デュビアを食べる配信”と銘打たれたそのグループに、燦然と存在感を放つアカウントがあった。
“KND-T1Low”と。最初は女も『誰コレ?』となった。ただ、RtoV:Aのマネージャー、安藤女史の反応で、全てわかってしまったのだ。
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安藤mn
副社長!? え、副社長ですか!?
“KND-T1Low”@けっこー偉い人
私も正直頭を抱えたいところだけど、まあ、藤原澄を引っ張り込んできたのは私だからねえ(苦笑)これも責任の取り方かなって。
“KND-T1Low”@けっこー偉い人
それに、気になりはしていたんだよ。いわゆる、ゲテモノ料理というやつ。何事も知る前から否定しては、それだけでつまらないから。
“KND-T1Low”@けっこー偉い人
ああ、あと安藤くん。いつも通りカンダタでいいよ?
安藤mn
あ、カンダタさん本人ですねコレ…
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(とんでもねーーーことになっちゃってるぅう……)
Q.自分のところの企業の超偉い人が乗っかるつもり満々のところ、その下に付いている従業員が回避できるのか。
A.無⭐︎理。
つまりは、そういう事である。なんだか両親の会社のあれこれでも似たようなこと見たことあるなあとかそんな現実逃避めいたことを考えながら、飛鳥は頭を巡らす。
回避は諦めつつ、せめてどうにか自分が食べる量を減らす方向性に舵を切り始めた。
尚、忘れてはいけない。結局は食べることには変わりないのだ。だから、せめて配信をしても“バライティ性を持って対応できそうな先輩”に標的を絞らないといけない。
(こ、こんな時に頼れる先輩は……!?)
前日の収録で絡みのあった、ローラ先輩とレイサ先輩は除外した。
流石に急に呼ばれて、Gを食べましょう、はちょっと……。
「あ、廻木先輩!!」
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モナ・トナト@RtoV:A
すみません、確認したいのですが、コレって参加者増やしたりしてもいいですか?
@藤原澄@RtoV:A
@“KND-T1Low”@副社長
“KND-T1Low”@けっこー偉い人
わたしは一向にかまわんッッ
藤原澄@RtoV:A
問題ありません。楽しそうですから。
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モナ・トナト@RtoV:A
廻木先輩、突然のDM失礼します。
一緒に地獄まで付き合ってください!
廻木ゼツ
ファ!!!?????
何何何!?
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かくして、配信のネタに飢えていた退魔師Vは、同期の言葉足らずが移ったような発言で巻き込まれることが確定した。
「遥さぁあああん……」
全身に走る痛みに辟易しながら、見た目だけ幼い女はのたうち回りたい思いだった。
それをやると全身の筋肉という筋肉がより激しく痛みを主張する為、結局嘆きを漏らすだけに留まるのだが。
(そりゃあ、食べて美味しかったのは否定しませんよ? でも、ビジュアルがどう足掻いてもすっごく大きいGとダンゴムシを足したような形なのは変わらないし……)
なお、女、小鷺陽糸は足の多い生き物は嫌いである。虫特有の六本足ならギリギリ許容出来るとしても、見た目的にダンゴムシを想起させるそれを、そのままお出しされた場合。
(…………うっ)
内心でえづいた。
しかも逃げられないのである。副社長の参戦が確定しているし、先日の収録や、先程の突発コラボを除けば初のRtoV:A3人揃ってのコラボなのである。
せめて、そのままお出しされることがないことを願いながら現場に向かうしかないが、ここで光明が差す。
ディスコード上に表示された、モナ、飛鳥のチャットを見て、腹を括った。
(か、片っ端から道連れを増やすしかない……)
しかし、誰を巻き込むというのか。
陽糸は自らを陰キャコミュ障だと信じているし、実際そうだと自認している。
RtoV所属の、まだ直接会ったことのない先輩を、言い方は悪いがこんなアレな企画に巻き込むのは、気が引けた。
そうなると、関わったことのある中で、抵抗なく食べてくれそうな人。
(…………廻木先輩、かな)
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伊鶴城ルキア@RtoV:A
突然のDM、申し訳ありません。
廻木先輩、澄ちゃん主催のコラボに参加しませんか?
廻木ゼツ
お前もか伊鶴城ィ!?
伊鶴城ルキア@RtoV:A
!?
(ロリママ説明中……)
廻木ゼツ
そーいうことね……藤原ァ……
伊鶴城ルキア@RtoV:A
同期が本当にすみません…。
廻木ゼツ
いーよいーよ。乗っかってやるよ!
あ、あとせっかくだしもう1人か2人巻き込んでみるわ。
伊鶴城ルキア@RtoV:A
本当ですか!?
2人?
廻木ゼツ
ああ、片方はハジメちゃん。もう片方はフランケン。時期的に無人島ロケから帰ってきてるだろうし。てかあいつなら気にせず食うだろうし。
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(…………フランケン……賦乱拳!? え、マジですか!?)
こちらもこちらで意図しない形での、RtoVのR側の筋肉代表と、サバイバル生活ガチ勢の野人が参戦する事が確定した。
(さあて、どうしたものか。続々と参加メンバーが増えてきているけど……俺の方からは人は増やせないな)
ある意味全ての元凶、神田太一郎ことカンダタは、ちょっと焦っていた。
別に食べることは嫌ではない。嫌ではあるけど、好奇心には負けた。せっかくだしの心持ちである。あと見つけてきた人の責任感というか、そういうものがあったのも否定しずらい。
ただ、RtoV:Aの新人たちが精力的に……或いは命懸けで、廻木ゼツを筆頭に、RtoVのR側男性売れっ子二大巨頭を巻き込む形で動いているのを見て、何も出来ないのは少し寂しいなと思ってしまった。
カンダタは、偉い社畜である。端的に、上から2番目に偉い立ち位置にいるのだ。
権力や立場にモノを言わせて従えるように行動することは出来るだろうが、無理矢理何かをやらせるくらいなら、ノリノリでやってくれる人の方が良いよな、と思えるくらいの良識はあった。
あと、この手のことで下手を打つと大惨事になるのは、この業界の嫌な“あるある”ではあるのだ。
それにより、中高生時代のカンダタに癒えないトラウマレベルの傷が残り続けているというのもあるが。
(そうなると、俺からは下手に呼び込まずに、一緒に提供できるような飲料関係の提供、それから場所を抑えておく、くらいにしておいた方が無難か。五十嵐宅か、織原宅でやろうものならそれこそ炎上案件になる)
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“KND-T1Low”@けっこう偉い人
とりあえず、当日はLive2Dでやろう。私の方で飲み物の手配とか、厨房と配信機材は押さえておくから。現場の方は司会経験豊富な廻木くん主体で。
藤原さんは、基本料理しながらたまに混ざる感じかな。というかデュビアの調理経験なんて、藤原さんしか無いしね(笑)
廻木ゼツ
了解しました:(;゙゚'ω゚'):
藤原澄@RtoV:A
頑張ります。
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「さ、後はなるようになーれ、だ!」
賽は投げられた。後のことは後の自分にお任せだ。カンダタは残っている仕事に着手し始めた。
尚、毎回のように『なんであの時の俺はもうちょっと手心加えてくれなかったかなぁ!?』と発狂するのだが、自業自得である。
一方、事の発端たる配信から三日後。
RtoV:Aの青色担当、野生児問題児藤原澄、もとい五十嵐遥はと言えば。
「……今まで、ありがとうございました」
キチンと二日程絶食させたデュビアを、まとめて袋に入れて冷凍庫に放り込んで、頭を下げた。
最後の分である。
そして、入れ替わるように、前日冷凍庫に放り込んだデュビアの袋を取り出す。
(それにしても、500匹ちょっと居るのは予想してなかったな……色々作れそうだ)
凍りついたデュビアを10匹取り出して、流水に晒しつつ、一度も使っていなかった柔らかい毛の歯ブラシで体表の細かい汚れを流した後、棘の生えた脚を根本からむしり取る。
その際、脚は再利用するので摺鉢にそのまま落とし込んでいく。
冷凍されたデュビアを事前に沸騰させていた小ぶりな鍋に10匹程投入して、キッチリ3分。
火を通したらすぐに引き上げて、一口。
(んー、やっぱり揚げだね。ヘルシーな利点が消えちゃうけど、姿そのままの方がやっぱり良いよね。それに、茹では火が通って食べやすい食感にはなってるけど、人によっては嫌がりそうだ。天ぷらはサクサクが競合しそうだし。いやそうか。姿焼きもアリだな)
『そもそも人が食べる事自体想定してないんですよ!?』と見る人が見ればツッコミそうな事を思いながら、黙々と作業を続ける遥。
手際よく唐揚げ粉を塗して、用意していた油が温まれば準備完了である。
「おー」
じゅわあああ!! と大きな音を立ててカラリと揚がっていくデュビアたち。
食事中の人たちには見せ難い絵面になったそれらを手際よく引き上げ、油切りを済ませると、皿に並べた。
「……いただきます」
カリ、サク。サクサク。
海老とナッツの混ざったような確かな香ばしさと、淡白な味。カリカリに揚がった衣のシンプルな塩味と合わさって、シンプルに美味しい。
…………姿に目を瞑れれば、だが。
しかし悲しい事に、そんな事を気にする女の子らしい女ではないのである。五十嵐遥は。
「……よし」
(もうちょっと色々出来そうだし、50匹までなら使っても平気かな。アヒージョとかも面白いかな? あー、コラボ楽しみだ)
尚、本人は楽しむ気満々であるし、堪能する気も満々である。ある意味無敵と化していた。