五十嵐遥のVtuber活動録   作:バンバ

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第2話「「「うおっ同期のクセが強い」」」

 

 年が明けて二ヶ月。世間はもう年始を乗り越えて、バレンタインを通り過ぎ、卒業式シーズンへと突入しようとしている。

 

 色々なことがあった。

 

 親戚のカンダタさん……ロトビーの所属になるし、下っ端も下っ端になる私が叔父に倣う呼び方はよろしくないと思ったのだが、本人に「五十嵐……敦の姪っ子にそんな他人行儀に呼ばれたら、俺は悲しいよ……」としょぼくれた顔をされては、折れるしかなかった……に突然スカウトされ、箱推ししていたロトビーのVtuberの一員になれること。

 

 家に帰ってから、改めて大混乱し、そこからは目まぐるしく時が流れた。

 

 この二ヶ月は、Vtuberとして活動するにあたっての準備期間にしていたと言っても過言じゃない。

 私のVtuberとしてのアバターを描いてくれるイラストレーター……ママ、或いはパパと呼ぶべき人……へ挨拶しに行ったり。

 

 配信を行うにあたってのネットリテラシーまわりの教育を受けたり。

 

 サムネや配信画面の設定、初配信で何をやるかの企画準備なんかもそう。

 

 それから、カンダタさんから事前に多少聞いていた、『五期生……いや、RtoV:Aは、RtoV初の、Vtuberのアイドルグループ路線で売り出してみたい』という話から、普段のランニングに加えてトレーニングも増やしたりと、まあ本当に色々やった。

 

 ただ、ママへ会いに行く時、アバターのデザインが決まっていることを知らずに、『こんな感じのVtuberになりたいです!』とコスプレして会いに行ったのは、ちょっと良くなかったなと反省している。……いやアレはコスプレと呼ぶには別に普通の格好だったかな。

 

 流石に髪を染めたり、カラコン入れたりは怖くてやってないけど。特に髪の方は頭皮のダメージが怖くてやってない。

 

 まあ、それはそれとして力作だった帽子を落とすくらいには、かなり狼狽えてしまった。

 

 そこからママが目の色を変えて「ちょっとDreamPlanetに直談判してみますね!」とノリノリになってくれたのは、良かったのか悪かったのか。

 

 そして、準備の最後の最後までボクのしこりとしてずっと残り続けていたもの。

 他の人たちは自ら応募して、そこから勝ち上がっていく選ばれた精鋭たちだ。そこからわざわざ、親の……親ではないけど、コネで入ってきたような形で、良かったのだろうか。母さんの言葉はこうだ。

 

『これも縁よ。巡り合わせよ。その運を、たまたま掴み取れた。それだけの話』

『……』

『それに遥。あんた、神田さんに自分で言った事、忘れたの?』

『わ、忘れてない』

 

 ボクは。その、かなり、だいぶ……言葉選びが致命的にダメなタイプのコミュ障だ。

 高圧的か、攻撃的にも思えるような言葉がポンと飛び出してしまうの、本当によくない。しかも発言してから「あっ」ってなるタイプの。

 

 そのせいで小学校中学高校と、人間の友達ゼロだったからね! ハハハハ……。

 外見は整っているとは思う。だから、高嶺の花みたいな扱いだったのかなあ、と。

 いやあ、我が事ながら、よくイジメに遭わずに生きていられたよ。

 

『Vtuberになったら、友達って、できますか?』

『ええ、勿論。わたくしも、お手伝いします』

 

 そんな言葉を言ってもらったならさ。

 

 や る し か な い よ ね 。

 

 そうなると今度はこんな素晴らしい機会を設けてくれたカンダタさんへ感謝の万歳三唱だ。バンッザアァイ!! バンザアアアア────

 

「遥ー、うるさいわよー」

 

 あ、はい。ごめんない……。

 

「コンソメ、ボク、やっと君以外の話せる友達ができるかもしれない……」

 

 レッドデビルのレオパ、親愛なるコンソメをケースから出して、頬擦りするように声をかける。

 しかしコンソメはボクの指を甘噛みするばかりで視線すら合わせてくれない。

 

 ……ご飯マダー? のサインである。すかさずコンソメをケースに一度戻して、増やしているデュビアのケースを開けた。

 

「コンソメの塩対応が沁みる……ほら」

 

 Lサイズのデュビアを3匹掴んで、粉を塗してコンソメの前に。待ってましたと言わんばかりにガツガツ噛み付く姿にホッコリしながら、この様子ならあと2匹は食べそうだと用意を進めた。

 

 別に虫だから嫌悪感、なんてのは感じた事ない。生き物は可愛いからね。毒を持っているような子は別だけど。

 それにほら、命をいただく以上、嫌がって触るような真似は、そのいただく命に失礼だし。

 あと実際食べても美味しい。嫌がる理由特にないよね。

 

「よし」

 

 忘れ物なし。鞄は持った。資料もある。財布もスマホも持っている。予備のバッテリーもよし。

 いざ行かん東京、もとい本丸。

 

 

 

「危なかった」

 

 バスと電車を乗り継いで3時間半。

 

 やっとの思いで到着だ。辿り着くまでに道を間違えたり、降りる駅を二度間違えたりと散々やらかしたが、どうにか集合予定時間の30分前に到着できた。

 

 2回目なのにこれではちょっと我が事ながら不安だなと、遥ちゃんは思うわけですよ。

 

 これ、次は2時間で来れるなとルートを再確認しながら、ビルの中に入る。受付の方に資料と事前に渡されていたカードを渡して会議室らしき場所に向かうと、誰もいなかった。

 

「…………」

 

 ま、まあ。別に寂しくないし。ボアコートを脱ぎ、カバンから事前に受け取っていた資料に、改めて目を通しておくことにする。

 

 資料に目を通す。読み終わったので時計を見る。まだ時間があったので資料に目を通す。読み終わったのでまた確認不足がないか資料に目を通す。そうやって時間を潰しているうちに、初対面ではない女性と、初対面の2人の女性が現れた。

 

 ……え、ちっちゃ。1人JKどころかJC?

 てかもう1人も胸デッッッカ!? ギャルってかヤンキーっぽいけど!

 

「あら、遥ちゃん、お疲れ様」

「安藤さん…………そちらが?」

「そうよー」

 

 安藤未来さん。カンダタさんに紹介されていた、RtoV:A(ロトビア)プロジェクトの3人全員を受け持ってくれる、気のいいお姉さんなマネージャーさんだ。

 

 何というか、気のいい姉貴分みたいな人である。私より背は小さいけど。……同性でボクと同じくらいの身長の人と会った事もそんなに無いけど。

 

「それじゃ、顔合わせの挨拶と行きましょうか! トップバッターは私から! 安藤未来! 24歳のバツイチ! 彼氏募集中よ!」

 

 安藤さん、ありがとう。貴方がいるおかげで切り出しやすい。ていうかバツイチマジで?

 そうして切り出そうとした矢先、メチャクチャ震える声で2番手が。

 

「こ、こここここここ」

「コケコッコー」

「コケ!?」

「はい遥ちゃん変な事しないの。小鷺さん、吸って、吐いてー」

 

 失礼しました。空気を和ませたかったんです。けどそこそこ似てたと思います。

 だからその、胸のでっかい同期の方。バケモノか何かを見るような目で見ないで。

 

「すー、はー」

「はいテイク2! アクション!」

「こ、小鷺陽糸(こさぎひより)です! 25歳の、が、楽曲の製作が得意で、好きなものはゲームにアニメ、それから、楽曲の、作詞作曲です! 苦手なものは、足の多い生き物と、ナマモノと……運動です、ね。じ、実は既にRtoVの方の何名かに楽曲を提供したりしています」

 

 バケモンは実はこっちなのでは? 実績というか。てか猫背もヤバすぎない?

 

「特に、ボカロ曲とか好きでヴァン○イヤとか○音○クの消失、パン○○ーローとかカゲロ○デイ○とか最高ですよね! それから馬○骨です! 平○進さんはいいですよ! 今はまだ効果はありませんけどそのうち癌や心筋梗塞にも効くようになります!」

「おお早口。私は直近だと○の惑○とか、ラビ○ト○ールとか好きかなあ」

「………………○前線○常ナシ、ラグ○○イン、いいですよね」

「!!!! ふ、ふへへへ! 2人とは仲良くできそうです!」

「えー、私も入れてよ小鷺さーん……」

「あ、安藤さんはその、陽キャのオーラが強くて……」

「ほんとかなぁ」

 

 小鷺さん、歳上なのか。あの外見で。25歳……ロリだ……合法ロリ……そして作曲家……実在したのか……こんなバケモノが……。

 

「んじゃ、次は私で。んへへ……んん、織原飛鳥(おりはらあすか)でーす。22歳の元声優志望生でーす。趣味と好きなものは……競馬にアパレル巡り、お菓子作りあとフェンシング。あ、あとお寿司も好き。良ければみんなで何か食べに行こう」

 

 おっとこの場で私が最年少なことが確定したぞ? いやていうかやはり胸デカくない? デカいっていうか、厚いだよもう。全身ボンキュッボンじゃん。質量兵器だよ、兵器。

 

「ひ、日向の人の……いやでも、ボカロ曲を好きな……」

「陽糸さんも一緒に服見に行こうよー。可愛いし似合う服とか絶対あるよ!」

「か、かわい……えへへ」

「なんだー陽キャ差別かー?」

「…………寿司は、海老。お菓子は……生チョコとか」

「お、海老に生チョコね。覚えておくよオネーサン」

 

 ……気まずい。お姉さんってメチャクチャ良い声で呼ばれて揺さぶられちゃったけど、ボクが最年少なんだよなぁ……。

 てかそれを聞いて安藤さんも可愛く吹き出している。それを聞いていた2人も「「?」」と頭にハテナが浮いていた。

 

「はい、それじゃあ、お、ふふっ……おねーさん、自己紹介お願いしまーす」

「……………………五十嵐、遥」

 

 ……何か、何かを言わないと……いや待て咄嗟に喋り出すとこの口は絶対問題発言をする! 鈍くていい、だから、しっかりと。

 

 五十嵐遥、友達をつくるんだろ。最初の一歩目だ。

 

「………………その、言葉を圧縮して、しかも、言葉選びが、終わってるタイプのコミュ障…………なので…………言葉選びに時間がかかって、テンポが悪い。…………RtoVで働いている、親戚の方に……歌が上手いと、スカウトされました。…………と、友達、募集中」

 

 なんとか、言い切れた。別にボソボソとした言い方ではない。ハッキリとした声を出せる。

 ……たぶんこれ考えずに話してたらヤバかったんだろうなぁとしみじみ思う。

 

「え、遥オネーサンスカウトされたの!? マジ!? 凄いじゃん歌うま勢……カラオケ行こうよカラオケ! あ、その前にLANE交換しよ」

「五十嵐さん、その……わ、私と話す時は、気にしないでいいですよ!」

 

 小鷺さんも織原さんも、メチャクチャこっちに親しげに話しかけてくれる。どうしよう、既に泣きそうなくらい嬉しい。

 「ちょっとちょっとー、遥ちゃん、色々抜けてるわよー」と安藤さんが笑いかけてくる。

 

「好きなものとか趣味とかもそうだけど、あと、年齢。でしょ、おねーさん?」

「あぁ……ハタチです」

「うっそ歳下ぁ!!?」

「わ、私が最年長……!!」




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