サモン・ベイビー! グランドマザコン女子高生と異世界召喚された赤ちゃん   作:大根ハツカ

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 みんな大好き異世界召喚です。
 私が好きな近未来世界観と百合ラブコメを混ぜました。



1話目! むかーしむかし。

 

 

 むかーしむかし。

 ある所にお婆さんと少女がいましたとさ。

 

 

「綺麗でしょ?」

 

 

 そう告げた祖母の声を覚えている。

 黒いヴェールで顔を隠した祖母は、ヴェールの上からでも分かるほど嬉しそうに笑った。

 

 眼下に広がるのは太陽の光を乱反射して輝く大海原と、そこに浮かぶ巨大な亀のような形の人工浮島(メガフロート)蓬莱(ほうらい)』。

 地面から生えた無数の摩天楼(ビル)の間を縫うように、亀の甲羅模様のようなコンクリートの道路が走っている。

 

 人々の手には小さな電子機器が握られていて、頭上には電線が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。

 ビルの壁面に掛かった大きなモニターでは明日の天気が予報され、日が沈み始めた街並みを電灯が眩くライトアップする。

 

 現代のニホン。そう見紛うような光景。だが、その実態はまるで逆。

 ニホンに暮らす人々は信じるだろうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「剣と魔法で殺し合うしか能がない野蛮な大地に、千年かけて作り上げた海上都市。……ま、文明の基盤はぜーんぶ借り物だけど」

「あっ、おとめ知ってるよ! ()()()()()!」

 

 

 この大地(せかい)に残された唯一の神秘。

 異世界から人間を拉致し、知識や技術を掠め取る女神の御業。

 

 学校で習ったばかりの、よく理解していない言葉を述べた私に対し、祖母は優しく頭を撫ででくれた。

 細く、痩せ細って、シワだらけで、今にも折れそうな枯れ木のような指先が私の髪をさらった。

 

 

「よく勉強してるね。将来は立派な魔女かなあ」

「うんっ! おとめはね、おばあちゃんみたいな魔女さまになるの!」

 

 

 十年以上前の記憶。

 それを今でも夢に見る。

 きっと、この光景を忘れる事はない。

 

 ああ。でも。

 時折、こんな風に思う事もある。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っ、()()()()()()!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「……しま……め」

 

 でも、今更何だってこんな古い夢を見たのか。

 ……そうか、()()()が迫っているから──

 

 

万亀島(まきしま)乙女(おとめ)!」

 

 

 ドン! と机を叩いた音が響く。

 微睡んでいた意識が現在に浮上する。

 目蓋を開けた先には、少しイラついた表情(かお)のクラスメイト。

 

 あまり回らない思考で記憶を探る。

 さて、目の前の少女の名前は何だったか。

 

「何かしら、金髪縦ロール」

恩返村(おかむら)鶴子(つるこ)ですわ! アナタ同級生の名前も覚えていませんの⁉︎」

 

 怒鳴り声を撒き散らす金髪縦ロール。

 明らかに教師に叱られる声量だったが、金髪縦ロールは周りの目を気にする様子もない。

 ちらり、と視線を逸らすと視界に映った時計は昼休みを示していた。

 

 なるほど。

 女子高生の昼時など騒がしいモノなので、教師もいちいち注意する気はないということか。

 

「一体どういう神経をしているのかしら。午前中の授業を眠り続けるなど……『陞神戦(アセンション)』も近いといいますのに」

 

 プンスカ、とでも擬音がつきそうな溜息を吐く金髪縦ロールのお嬢様。

 遠巻きに感じるクラスメイトの視線を一身に受ける。……はあ、自業自得とはいえ嫌な視線だ。

 

「そう。思い出したわ。あなた、この学級(クラス)の委員長だったわね。それで眠りこける私を心配して声をかけたと言うこと?」

「しっ、心配など! わたくしはただっ、アナタの怠惰な態度が目に余っただけですわ! 宿敵(ライバル)たるアナタが無様な姿を見せないように──」

「────でも、余計なお世話ね」

 

 バッサリと言い捨てる。

 続けようとした言葉の先も、少し赤く染まった少女の耳にも興味はない。

 申し訳ないけれど、そんなものに気を遣っている余裕は私にはない。

 

 

「授業を寝ていても、毎日を怠惰に過ごしていても、私の成績は学年一位から揺らいだ事はないわ。だから、教師だって私を起こす事はない。あなたもよく知っているでしょう? 万年二位の金髪縦ロールさん」

「────っっっ」

 

 

 国数理社、体育、美術、音楽。

 そして、()()()さえも。

 あらゆる授業で眠りこけながら、全てのテストで満点を叩き出す理不尽な天才美少女。

 

 それがこの私、万亀島(まきしま)乙女(おとめ)というキャラクター。

 

 金髪縦ロールは悔しそうに唇を噛んだ。

 親切心か対抗心かは知らないが、声をかけた相手にバカにされたのだ。

 少女にはクラスメイトの同情が集まり、対する私にはクラスメイトの蔑みの目が集まる。

 

 大した努力もしていない癖に学年一位の座から動かない女など、思春期の女子高生が嫌わないはずがないのだ。

 ……無論、クラスメイトは悪くない。一番悪いのは、それを自覚しながら振る舞いを変えない私なのだから。

 

「っ、『陞神戦(アセンション)』ではせいぜい万亀島(まきしま)の名を汚さない事ですわね!」

 

 言い捨てるように金髪縦ロールは去っていく。

 見えないように、私は拳を握りしめた。

 

(……私が万亀島(まきしま)の汚点だなんて。そんなの、私自身が一番よく分かっているわよ)

 

 

 

 

 

「そりゃあ乙女が悪いでしょ」

「知ってるわよ。あと乙女って呼ぶな」

 

 お昼休み。封鎖された学校の屋上。

 そこに忍び込んだ不良生徒が二人。

 

 一人は勿論、私。

 そして、もう一人は私の幼馴染、光竹(みたけ)羽織(はおり)

 友人が大勢いる癖に、昼食だけは私と一緒に食べてくれる唯一の大親友である。

 

 羽織はくるくるとした銀の癖っ毛を指で遊ばせながら、私を咎めるように口を尖らせる。

 

鶴子(つるこ)ちゃんもさー、言い方はキツイけど言ってる事はド正論なんだから。乙女の努力してない系天才クール美少女の()()()()()()も大概にしないと」

「……分かってるでしょ。私はこの振る舞いを変えるわけにはいかないの。あと乙女って呼ぶな」

 

 ロールプレイ。言い得て妙だ。

 周囲に知らしめている万亀島(まきしま)乙女(おとめ)というキャラクターの大半は偽りに過ぎない。

 私だって努力はしているし、そもそも私は天才なんかじゃない。恵まれた環境にいるだけの凡人。むしろ、生まれのアドバンテージを除けば落ちこぼれだろう。

 

 でも、素の自分を見せるわけにはいかない。

 私は天才スーパー女子高生でなくてはならない。

 こんな情けない本当の私が、万亀島(まきしま)の名を汚す事などあってはならないのだ。

 

「私はあの万亀島(まきしま)千歳(ちとせ)の孫、海上浮遊都市『蓬莱』を築き上げた偉大なる魔女の後継者。努力しているから凄いだなんて、常識の範囲に収まる秀才じゃあダメなのよ」

「……グランドマザコン」

「せめて、おばあちゃんっ子って言いなさいよ」

 

 私は約束したんだ。

 祖母のような、万亀島(まきしま)の名に相応しい立派な魔女になると。

 

 ただの秀才では相応しくない。

 もっと他人には理解ができない、理不尽な天才として振る舞わなくてはならないのだ。

 

「そのために不眠不休で自習して、学校では怠惰な天才美少女ロールプレイ? それ、学校来てる意味あんのって感じだけど」

「……それでも、努力していない天才なら、きっと他人は伸び代を見出してくれるわ。他人が私に過度な期待をかける分、私という人間の価値は釣り上がる。恵まれた環境で努力してるのにこの程度の実力しかない私では、万亀島(まきしま)の名を背負うには足りないのよ」

「期待に応えられている時点で過度な期待でもないと思うけど。乙女に足りないのは実力じゃなくて自尊心じゃないの?」

 

 幼少期から付き合いのある羽織は私の事情にズケズケと踏み込んでくる。

 というか、この話も何回目だ。何度同じ話を蒸し返すつもりなのか。

 

「文武両道、才色兼備、学年一位の黒髪クール美少女。努力してようがしてまいが、その結果は変わらないじゃん。それに、召喚術の実力だって」

「………………、」

「確かに、千年生きる最強のお婆ちゃんには届かないかもしれないけどさあ。この前は異世界から金銀財宝を召喚したんでしょ? 魔女としては十分立派じゃん。何が足りないのさ」

 

 この流れはまずい。口をつぐむ。

 私は周囲に自分の努力を隠しているが、私の秘密はそれだけじゃない。

 そして、もう一つの秘密は羽織にだって教えていない──!

 

 私は話を逸らすため、何か口にしようとする。

 しかし、その前に、女子高生二人の場に低い声が割って入った。

 

『羽織様。時間です』

「おっ、もう五限目かあ。時間が経つのは早いねえ」

 

 女子高生二人、というのは嘘ではない。

 だって、それは人間じゃなかった。

 

 黄金に光る霧、あるいは雲のような何か。

 人間ではないという以前に、生き物にも見えない不気味な何かが声を発していた。

 

 黄金の雲はふよふよと器用に羽織が食べていた惣菜パンのビニール袋を回収すると、羽織を乗せて屋上から飛び降りる。

 しかし、羽織はなぜか空中で留まると、私に向けて笑いかけた。

 

「あっ、そうだ乙女。『陞神戦(アセンション)』でとうとう使い魔のお披露目をするんだってー? 楽しみにしてるよん」

「……乙女って呼ぶな」

 

 

 

 

 

 一人、広い豪邸に帰宅する。

 『蓬莱』でも唯一無二の豪邸。

 しかし、屋敷には気配がなく静まっている。

 

 当然だ。ここの住人は私一人だけ。

 お手伝いさんなんかもいない。

 それでも部屋が綺麗に保たれているのは、祖母が購入した家政婦ロボットのお陰だろうか。

 

 しかし、肝心の祖母の姿も何処にもない。

 祖母は二度とこの家には帰らない。

 

(……魔女としては十分立派、か)

 

 幼馴染、光竹(みたけ)羽織(はおり)の言葉を反芻する。

 彼女がそう語るのも無理はない。だって、私はもう一つの秘密──万亀島(まきしま)乙女(おとめ)の欠陥をひた隠しにしている。

 

 立派な魔女になる。それが私の約束。

 では、そもそもの話、魔女とは何なのか。

 

「魔女とは、世界に空いた(あな)である」

 

 昔々、それこそ千年よりもずっと前からこの世界と異世界は繋がっている。

 世界には穴が空いていて、そこを通ってヒトやモノが流入していた。

 一説によると、この世界での人間の起源は異世界にあるのだとか。

 

 そして、魔女は世界の穴を体に宿した存在。

 意図的に、異世界から物質を召喚する事ができる。

 

 それこそが召喚術。異世界召喚。

 この世界は文化や技術を異世界から取り入れる事で発展してきた。

 電気を使った文明の基盤や、話す言語から名前の付け方のような文化面だって、ぜんぶ異世界のニホンから導入した模倣品に過ぎない。

 

 私だってそれくらいはできる。

 異世界から物質を召喚するくらいは、魔女の端くれとして実行できる。

 ……でも、異世界召喚の本質とは、やはり()()()()()だ。

 

 異世界で死した魂をこの世界に呼び出し、仮初の肉体を与えて使い魔として使役する。

 魔女にとっては初歩中の初歩。使い魔がいない魔女などこの世界の何処にも存在しない。召喚術で一番初めに習うのが使い魔の召喚なのだから。

 

 

 ──()()()()()使()()()()()()()()()()()()

 

 

「誰よりも偉大な魔女の孫が、誰よりも落ちこぼれだなんて。ほんと、笑える話よね」

 

 大親友の幼馴染にだって言えなかった。

 私が万亀島(まきしま)を名乗るに値しない欠陥品だなんて、言える訳がなかった。

 

 何だって試した。

 祖母から教わった世界最先端の召喚術から、詐欺のようなエセ召喚術だって。

 それでも、私の元に使い魔が現れる事はなかった。私は召喚術に愛されなかった。

 

(きっと、今日が最後のチャンスね)

 

 今までは何とか誤魔化せた。

 『陞神戦(アセンション)』に向けて使い魔の情報を伏せる学生は少なくない。

 既に家で召喚していて、隠しているというように振る舞えば誰もが勘違いしてくれた。

 

 だが、『陞神戦(アセンション)』はとうとう来週に迫る。

 土日で調整する事も考えると、金曜日の今日には使い魔を召喚できなければ終わりだ。

 

 この瞬間に全てがかかっている。

 私が万亀島(まきしま)の名を背負うに足るか否か。

 私が幼い頃に祖母と交わした約束を守れるか否か。

 

 豪邸の地下室。

 至る所に魔法陣が描かれた部屋で、私は魔女の杖を強く握りしめた。

 

 手の甲には赤い紋章。

 世界に空いた(あな)の破片。

 異世界と繋がっている『門』。

 

 

「──届け、海の果て。空の彼方。蓬莱の主、その孫が異世界へと(こいねが)う」

 

 

 眼前に魔法陣が浮かぶ。

 光の粒子が複雑な紋様を描く。

 

 魔法陣は『門』。

 握った杖は『鍵』。

 今、異世界へ続く道を開く。

 

 

「死せる魂よ、未練ある命よ。今一度、仮初の肉を欲するならば──異郷に骨を埋める覚悟があるならば、我が声に応えよ。生ある限り、我に仕えよ。代わりに我が、汝を死から呼び覚ます」

 

 

 繋がった。

 異世界との経路(パス)は開いた。

 手の甲の紋章が輝き出す。

 世界が少女の祈りに応える。

 

 

「我が名は万亀島(まきしま)乙女(おとめ)。偉大なる魔女、『永遠の女神』の孫。我が声に応えし者には、我が生の全てを授けん。死が我らを別つまで、我は汝の貢献に報いよう! (きた)れ、運命の導きに従って我の手を取れ────開杖(アンロック)!」

 

 

 瞬間、魔法陣から光が吹き出す。

 視界を白に染め上げる眩い閃光。

 手の甲の紋章が熱を持って主張する。

 

 そして。

 そして。

 そして。

 そして。

 

 

 

 ()()()()()()

 

 

 

「──────、はは」

 

 私の目に映るのは何一つ変わらない光景。

 何も召喚されなかった。

 誰も召喚されなかった。

 私の声に応えてくれる使い魔なんていなかった。

 

「あは、あはははははっ、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっ‼︎‼︎‼︎」

 

 膝から崩れ落ちる。

 全身から力が抜ける。

 

 だって、もう、笑うしかない。

 やっぱり私に才能なんてなかった。

 私は天才なんかじゃなかった。

 

 万亀島(まきしま)に相応しくない。

 おばあちゃんの孫に相応しくない。

 立派な魔女になんてなれない。

 約束なんて守れっこない!

 

「ごめん、なさい。死ぬ前に、私の立派な姿を見せられなくて、ごめんなさい……」

 

 折れる。

 意地で保っていた心がへし折れる。

 

 おばあちゃんに合わせる顔がない。

 万亀島(まきしま)乙女(おとめ)に生きる価値なんてない。

 

 

 

 ────()()()

 

 

 

「──────、え?」

 

 ()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「な、にが……ッ⁉︎」

 

 世界に孔が空く。

 異世界との『門』が開く。

 

 違う。何かが違う。

 今までの異世界召喚とは手応えがまるで違う。

 使い魔の召喚が簡単だと言われるのも当然の話だ。

 

 だって、召喚される前から使い魔と召喚者には繋がりがある。

 『門』を開けば、使い魔が勝手に呼び出されるのなんて本当に当たり前のコト。

 

「来る、の? 私の所に来てくれるのっ⁉︎」

 

 魔法陣は虹色に光って回転する。

 ソシャゲのSSRみたいだ、なんて。

 バカみたいな感想を抱く。

 

 呆然と伸ばした手。

 それを、誰かが掴んだ。

 光の中から、誰かが現れた。

 

 

 ──()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 手を掴む、というよりも。

 むしろ誰かは私の指だけを掴む。

 本当に、ほんっっっとうに小さな掌。

 

 え、まさか本気で?

 本気で()()()が私の使い魔???

 

 意識が動転するのも無理はない。

 だって、光が晴れた魔法陣の中から現れたのは、誰がどう見たって────

 

 

 

「────赤ちゃん?」

「あぇう」

 

 

 

 万亀島(まきしま)乙女(おとめ)、十八歳。

 私の使い魔は生後間もない赤ん坊でした。

 ……マジで?????

 

 

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