サモン・ベイビー! グランドマザコン女子高生と異世界召喚された赤ちゃん   作:大根ハツカ

4 / 6

世界観を捏ねるのが好きなので、異世界召喚が一般化された世界の歴史を考えるのか楽しいです。



4話目! ここまでが、前座です

 

 

「うわあ……っ!」

 

 ちづるは扉を開けて飛び出す。

 そこには、異世界が広がっていた。

 

 天を突く無数の摩天楼。

 キラキラと太陽光を反射するコンクリート。

 そして、一際目を引くのは都市の中心部に(そび)える()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 前世では産まれることも出来なかったため、この光景と現代日本の違いを述べることができないちづるだが、それでも目に映るモノがとても綺麗な事だけは分かった。

 

「あっ、ダメダメ! ちづるはおとめを探さないと!」

 

 煩悩を振り払った首を振る。

 しかし、手がかりはない。

 万亀島(まきしま)乙女(おとめ)が向かったガッコーの場所を探す術などちづるは知らない。

 

 声をかけられたのは、そんな時だった。

 

「お嬢ちゃん。こんな時間にどうしたんだい」

 

 ベンチに座って日向ぼっこしているお爺さんが、ちづるを心配そうに眺める。

 彼の視線は、ちづるの胸元──正確には制服についた校章にあった。

 

「おとめを探してるの!」

「お友達かい? でも、急いだ方がいいんじゃないのかなあ。お友達だってもう学校に向かっているかもしれないよ?」

「?」

「その制服、箒魔女学院(ほうきまじょがくいん)とこの子だろう? 『陞神戦(アセンション)』の出場(エントリー)は今日じゃなかったかい?」

 

 ほうきまじょがくいん。

 ちづるの脳が少し遅れて、言葉を文字列に変換する。

 

「ガッコー! それってどこ⁉︎」

「ば、場所かい……?」

 

 お爺さんは不思議そうに首を傾げた。

 場所も知らない学校の制服を着ているなんて、怪しいにも程がある。

 しかし、親切にもお爺さんは道を示してくれた。複雑な地図を描く必要なんてない。ただ指差すだけで道案内は完了する。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 

 

 

 

「では、大まかな召喚史を振り返りましょう」

 

 遅刻ギリギリの万亀島(まきしま)乙女(おとめ)を注意する事もなく、丸メガネをかけた担任は教室の前に立って告げる。

 午後九時、一限目。退屈な授業はもう始まっていた。

 

「異世界召喚の始まりは分かっていません。一体いつから異世界のヒトやモノがこの世界に流入したかは判明していないのです。一説によると、人類の始まり自体が異世界からやって来たのだとか、あるいは元々一つの世界が二つに別れたとも言われていますが、仮説の域を出る事はありませんね」

 

 黒板にプロジェクターの映像が重なる。

 如何にして異世界召喚が生まれたのか。

 ……手作り感あふれるパワポに、真面目に授業を受ける気が削がれていく。

 

「異世界召喚が初めて文献に登場するのは、神殿書庫に保管されていた二千年前の神話。曰く、世界に暗雲が立ち込めし時、女神は異邦の彼方より勇敢なる英雄を呼び寄せる。現代で伝わりやすく言うならば、魔王退治のための勇者こそが異世界召喚の原点と呼べるでしょう」

 

 勇者と魔王。

 千年前から何度も擦られ続けている題材こそが、異世界召喚の始まり。

 

 ……こんなこと、イマドキ小学生でも知っている。わざわざ聞く価値のある授業ではない。

 いつものように寝てしまおうか、と万亀島(まきしま)乙女(おとめ)は考えるが……眠気は一向にやってこない。

 昨晩、育児疲れもあって早くに気絶し、十分に睡眠をとってしまったからだろう。

 

(仕方がないわね)

 

 ぼんやりと、焦点の合わない目でプロジェクターを見つめる。

 

「異世界召喚は二千年前から存在しました。ですが、それは女神の権能の発露。召喚術の発展としての異世界召喚は、おおよそ千年前に誕生したのです」

 

 千年前。

 聞き覚えのあるワードに、ぴくりと無意識に反応する。

 

 

「つまり、それが『永遠の女神』────千年生きる魔女、万亀島(まきしま)千歳(ちとせ)の最も偉大なる功績です」

 

 

 ………………。

 教室(クラス)全ての視線を一身に受ける。

 万亀島(まきしま)。その偉大なる名を背負うに足る人間なのか、と同級生の目が問うている。

 

「我々の頭上、『蓬莱(ほうらい)』の天蓋にある(あな)。あの御方が異世界との物理的な道を開いた事で、異世界召喚とは魔女ならば誰でもできる程度の技術へと変貌しました。そして、異世界召喚の簡易化は文明レベルを底上げする事に繋がります」

 

 ありとあらゆるインフラは異世界召喚によって齎された。

 この世界は、異世界からの啓蒙で成り立っていると言っても過言ではない。

 

「千年前の世界は剣と魔法で殺し合う野蛮な場所でした。大地には魔物が蔓延り、明日の食事も神頼みするしかないような発展途上の文明です。──しかし、異世界から召喚したテクノロジーはこの世界の当たり前を変えました。コンクリート、電子機器、農薬、あるいは倫理だって。我々の文明とは全て借り物です。技術も、文化も、歴史も、全てが異世界にあるニホンの後追いです。……今使っている公用語だってニホン語ですからね」

 

 文明も、文化も、歴史も、ヒトも。何もかもがニホンの後追い。コンクリートの道路も、天を突くビルの群れも、電子機器や電線だって全ては異世界のニホンから取り入れた代物。

 この世界の人間が発明したモノなど何一つとして存在しない。

 

 分かりやすい例で言えば、私達の名前。

 万亀島(まきしま)乙女(おとめ)という漢字で綴られた名前は、異世界の言語体系を取り入れた事で発生した文化だ。

 

 

「異世界召喚は今やこの世界全ての前提となる技術です。──()()()()()()()()()

 

 

 カツン、と。

 丸メガネをかけた担任の爪が、教卓を叩く。

 その音に反応するように、クラスメイト達の背筋がピンと伸びた。

 

「異世界とは、金鉱のようなもの。魅了的で、誰もが手を伸ばし──しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 異世界召喚なんて大層な言葉を使ってはいるが、結局はただの盗難と誘拐。

 異世界のニホンからしてみれば、気付かぬうちにモノが盗まれているのに等しい。

 

 過度な召喚は異世界の資源を枯渇させ、文明を滅ぼす。

 そうなれば、異世界からの借り物で成り立っている『蓬莱(ほうらい)』もまた共倒れだ。

 

「使い魔の召喚を除き、魔女の異世界召喚には制限がかけられています。召喚回数、質量、物品の希少性など、定められた法律(ルール)に逸脱しない程度の召喚しか許されません」

 

 漁獲量が増えすぎると、魚の生息数そのものに影響が出て、最終的には漁業自体の存続が危ぶまれる。それと同じ。

 異世界召喚は、異世界の存続が前提。制度が未発達だった千年前ならば兎も角、現代では持続可能な異世界召喚こそが求められる。

 

 望むものを何でも召喚できるような時代じゃない。

 未開拓なフロンティアが異世界に求められた時代はとっくに終わっている。

 

「────()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「ただ一点、法律(ルール)を無視する方法があります。君達もよくご存知でしょう。魔女の頂点、たった十三人の逸脱者。彼女らに限っては、ありとあらゆる召喚が許される」

 

 つまり。

 長い前座はただ一言を発するためにあった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 女神。

 ありとあらゆる異世界召喚が許された存在。

 それはつまり、異世界のテクノロジーで実現できる範囲ならば、どんな願いでも叶えられると言うのと同義である。

 

箒魔女学院(ほうきまじょがくいん)の伝統、『陞神戦(アセンション)』のルール説明をしましょう。と言っても、知っての通りやる事は簡単。召喚術を使って戦い、対戦相手を倒す。トーナメント戦で優勝した者に、女神へ挑む資格が与えられます」

 

 高校三年の夏。

 箒魔女学院(ほうきまじょがくいん)三年間の集大成。

 魔女が女神に至る事のできる、最初で最後のチャンス。

 

 それが『陞神戦(アセンション)』。

 トーナメントに勝利し、召喚術の腕前を見せる事で、魔女は女神に至る道が開かれる。

 

「無論、優勝した所で得られるのは挑む権利でしかありません。学院内での勝利に価値などない。十三人の女神の一人を指名し、戦いに勝利して初めて、女神へ到達する事ができる。──()()()()()()

 

 学院内のトーナメントに優勝して、その上で女神にも勝利する。そうしてようやく、女神に至る事ができる。

 女神は常に十三人。入れ替わる形でしか、その地位につく事はできない。

 

 ……だが、今年は例年とは違う。

 女神は常に十三人。

 ()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「幸運ですね、君達は。自分も十年以上はこの学院に勤めていますが、こんな例外は初めてです。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ざわ……‼︎ と。

 教室(クラス)の中に騒めきが走る。

 しかし、それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。

 

 

()()、『()()()()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ──────。

 耳鳴りがするほどの、沈黙。

 誰も、何も、声を発する事さえできない。

 

 だって、考えた事などなかった。

 あの万亀島(まききま)千歳(ちとせ)が。

 『蓬莱』を築き上げ、千年生きる魔女に寿命があるなどと誰も考えた事がなかったのだ。

 

 ……そうだ。私だって、そうだ。

 考えた事がなかった。

 祖母が死ぬだなんて、そんな事。

 

(……これが、最後のチャンスね。私が立派な魔女だって、おばあちゃんに安心してもらうための……最期の、)

 

 平静を装い、動揺を飲み込む。

 私にできるだろうか。

 『陞神戦(アセンション)』に勝ち抜き、女神となる事が私にできるだろうか。

 

「では、ルール説明は以上です。細かい規則につきましては、学院内ホームページをご覧ください。トーナメントへの参加申請も同じ所にリンクを貼っています」

 

 ……無理だ。無理に決まっている。

 魔女としての才能は凡人。

 召喚した使い魔も赤子。

 こんな私に、女神になる実力なんてあるわけがない。

 

 スマホを持つ指先が震える。

 画面をタップする事ができない。

 トーナメントの申請画面に進めない。

 

(いっそ、負けて万亀島(まきしま)の名前に泥を塗るくらいなら──)

 

 最初から出場しないのも手ではないか。

 きっと誰もが私を責めるだろうが、万亀島(まきしま)の名前自体は汚されない。

 万亀島の一族としての実力を持ちながら、それに見合わない怠惰な私。それが世間での評価となるだろう。

 

 きっと、私が怖気付いたなんて誰も思わない。

 幼馴染の光竹(みたけ)羽織(はおり)は気づくだろうが、あの子なら黙っていてくれる。

 努力のしない怠惰な天才という印象は、きっとこの時のためにあったのだ。

 

 ……ああ、そうか。

 理解できる努力家じゃなくて理解できない天才が万亀島(まきしま)に相応しいなんて、そんなの後付けの理由だった。

 私は結局、予防線を張りたかっただけだ。努力してないから期待しないでね、なんて。テスト前に勉強をしていないと嘯くような幼稚な考えだったのだ。

 

 ふう、と息を吐く。

 気付くと、クラスの視線は私に集まっていた。

 それはそうか。万亀島(まきしま)千歳(ちとせ)が空けた女神の座を、その孫である万亀島(まきしま)乙女(おとめ)が座るというのが最も綺麗なストーリーだ。

 私の動向が気になるのは当然の心理だろう。……でも、安心して欲しい。私にはもう、戦う意欲なんて────

 

 

 

「なんでも召喚できるの〜? ねーえ、おとめ。ちづるは美味しいもの食べたい!」

 

 

 

 ────は?

 

 違う。違った。

 視線は私に集まっていたのではない。

 私の背後。このピンク頭のバカに集まっていた。

 

「……ちづる?」

「おとめ! ちづるはちゃんと、大きくなったよ!」

 

 何の話?????

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。