サモン・ベイビー! グランドマザコン女子高生と異世界召喚された赤ちゃん   作:大根ハツカ

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なぜかジャンルを恋愛にしていたので修正しました。
いや、恋愛要素も主軸なので間違いではないのですが。



5話目! 楽勝よ、私を誰だと思っているの?

 

 

「ほほーう。ここが、おとめが通うガッコーかあ。この中でテッペンになればいいってコト?」

 

 きょろきょろ、と幼い少女は教室を見渡す。

 クラスメイトの視線を一身に受けながらも、ちづるがそれを気にする様子はない。

 

(なぜ、ここにいるの……⁉︎)

 

 私の頭は真っ白になった。

 留守番するように言い付けていたはずの使い魔(ちづる)が脱走した。

 まずい。これはマズイ。私の致命的な弱点が晒される。少女が何か一つでも失言すれば、万亀島(まきしま)の名と祖母の名誉に傷がつく……‼︎

 

「在校生……ではありませんね。そもそも魔女ですらない。部外者が何の要件でしょう」

 

 全校生徒の顔を覚えているのだろうか。丸メガネの担任は制服という記号に惑わされず、ちづるの顔を見ただけで部外者だと判断した。

 その上で手の甲に紋章がないことを確認したのだろう。魔女は例外なく手の甲に紋章がある。

 

 ゆっくりと担任は杖を構える。

 戦闘態勢。数十人の魔女を一人で統治できるレベルの教師が、その全力を振おうとする。

 

 ……仕方がない。

 ここでしらばっくれるのは無理があるし。

 それに、無邪気なちづるを傷つけるのは忍びないし。

 

「先生」

 

 視線が集まる中の挙手。

 周囲から感じるプレッシャーに吐きそうになるが、そんな様子をおくびにも出さず飄々とした表情(かお)を作る。

 

 

「彼女は私の使い魔です。無断で召喚待機を解いてしまって申し訳ありませんが、排除の必要はありませんよ」

 

 

 ぴくり、と担任の眉が動いた。

 歴戦の教師でさえわずかに動揺した。

 ならば当然、生徒達はその比ではないくらいに衝撃を受ける。

 

「完全人型の使い魔⁉︎」「へえ、アレが」「あんな珍しいモンをよく隠せたねえ」「入念に隠蔽していた情報を初手で開示するとか。宣戦布告のつもり?」「さっすが万亀島(まきしま)のオジョーサマ。やる事がちげーわ」「……気に入りませんわね」

 

 まずい。まずい。まずい!

 外堀が埋められていくのを感じる。

 とてもじゃないが、私は『陞神戦(アセンション)』に参加しませーん! だなんて言えない空気になっている……‼︎

 

「おとめ、一緒にテッペン目指そ?」

 

 焦りを感じる私を無視して、ちづるは堂々と話しかける。

 おい、普通に授業中だぞ。周囲が騒がしいから話しかけても良いと思ったのか? あ、いや、この子はそもそも授業を知らないのか……。

 

 頭がこんがらがって思考が纏まらない。

 と、兎に角。なんとか軌道修正を図らないと……‼︎

 

「……いやよ。わざわざ戦うまでもない。分かりきった勝負をするだなんて面倒だわ」

 

 ピキ、と空気が張り詰める。

 舐めた発言をした私に教室(クラス)中の怒りが集まる。

 

 怒って当然だ。

 ここは魔女の中で最も女神に近い特級クラス。恵まれた環境に頼ってハリボテの天才を演じる私とは違い、本物の天才が蠢く人外魔境。

 私と彼女達が戦ったらどうなるかなんて決まっている。彼女達のストレート勝ちだ。使い魔との連携もおぼつかない私では本物の天才に太刀打ちできない。

 

 でも、頼む!

 このまま私をハリボテの天才のまま逃してくれ!

 

「おーとーめー! 美味しいごはん食べたあーいっ! 優勝してよお」

「……美味しいご飯くらい、この世界にもいっぱいあるわよ。わざわざ異世界召喚しなくたって、」

 

 拗ねるちづるの頭を抑える。

 なんとか言い訳を重ねて逃げようとする。

 しかし、ちづるは致命的な一言を告げた。

 

 

「優勝できないの?」

 

 

 それは、マズイ。

 そんな事を訊かれてしまっては。

 真正面から舐めた質問をされてしまえば。

 万亀島(まきしま)に相応しい天才を演じる私はこう答えるしかない。

 

 

「できるに決まっているわ。楽勝よ、私を誰だと思っているの? 万亀島(まきしま)の魔女が凡百の劣等生に敗北する訳がないでしょう」

 

 

 傲慢に。不遜に。

 恥ずかしげもなく言い切る。

 

 万亀島(まきしま)千歳(ちとせ)の孫として、優勝できないとは口が裂けても言えなかった。

 だが、当然、こんな舐めた発言をしたら頭に血が昇る者は多い。

 

「聞き捨てなりませんわね!」

 

 ……やっぱりこうなるかあ。

 自業自得だけど、頭を抱えたくなる。

 案の定、椅子を倒す勢いで立ち上がる少女が現れた。

 

「アナタ、巫山戯(ふざけ)るのも大概にしなさい! どれだけの侮辱を重ねれば気が済みますの⁉︎ 誇りなき魔女に女神になる資格などありませんわ!」

「女神になる資格なんて強さ以外に何が必要なのかしら。教えて欲しいわ、万年二位の金髪縦ロール」

 

 学級委員長、恩返村(おかむら)鶴子(つるこ)

 正論を放つ少女に冷たい侮辱を突き返す。

 私の痛む良心とは裏腹に、怠惰な天才を演じるロールプレイは止まらない。

 

「私は不動の一位で、アナタは不動の二位。戦うまでもなく結果は分かりきっていると思うけれど。ああ、もしかして……数字の大小が分からないのかしら? ふふふ、不等号って授業で習わなかったのね」

「っ、順位は関係ありませんわ! 確かに、アナタの召喚術の腕前は素晴らしい。技術と人格に関係はないのだとよく分かりますわね。ですが、『陞神戦(アセンション)』はただの召喚術戦ではありません。使()()()()()()()()()()()()()。他者に寄り添う事もできないアナタに勝ち目はありませんわ!」

 

 それはそうだろう。

 使い魔(ちづる)の魔法も性格もよく分かっていないのに、急に連携が取れる訳がない。

 私は彼女達に勝てない。分かっている。分かっているけど……ロールプレイ的にここで退けない! ごめん!

 

「群れなければ私に勝てないと言っているも同然ね。恥ずかしくないのかしら」

「あいにく、他者と協力する事を恥ずかしいと思う教育は受けていませんわ! おほほほ! 宣言してあげましょう! わたくしがアナタに負ける事などあり得ません!」

「そう。せいぜい(さえず)ると良いわ。……ふふ。なら、私も宣言しましょうか」

 

 後で絶対に後悔する。

 分かっているのに、私の口は止まらなかった。

 

「ただの勝利じゃあ味気ない。無傷で完封勝ちして、実力差を分からせてあげるわ」

 

 

 

 

 

「どう考えても乙女(おとめ)が悪いでしょ」

「…………あい」

 

 『陞神戦(アセンション)』の説明とエントリーは午前で終了した。

 本日の午後は休みとなる。私は別クラスにいる幼馴染──光竹(みたけ)羽織(はおり)と合流して昼食をお洒落なカフェで食べていた。

 

 無論、ちづるも側にいる。

 となると聞かれる訳だ。その子は誰? と。

 そこで使い魔が学校へ勝手に来た事と委員長と口論した事を話すと、当たり前だが叱られた。

 

「口がワルすぎ。別にさあ、天才ロールプレイは好きにやりゃあいいけど、他人様に迷惑かけるのは違うとあーし思うわけよ」

「……その通りね」

「ま、お昼が不味くなるからこれ以上は言わないけどさ。どうせ後悔するのは乙女なんだから気をつけなね」

 

 一から十まで全部自業自得とはいえ、今になって罪悪感が湧き上がる。

 委員長には悪い事をした。あとで謝る……のは無理だけど、何とかフォローできないものか。

 

(キャラじゃないから無理ね……)

 

 ほんっと自分でも思う。

 何をやっているんだ、私は。

 

 もやもやとした感情を晴らすため、隣に座るちづるのピンク頭を撫でた。

 ちづるは嬉しそうに頭を振る。この子、ご飯食べる時だけ静かになるな……。

 

「乙女、使い魔ちゃんの前ではそんな感じなんだ」

「…………え?」

 

 ……いや。いやいやいや。

 今、私は何をやった?

 無意識にちづるを撫でた。

 まだ赤ちゃんの感覚でスキンシップを取っていた。

 

 顔が赤く染まる。耳が熱い。

 これはアレだ。

 家族といる時のテンションを友人に見られた時の恥ずかしさだ。

 

「へえ。グランドマザコンの乙女は枯れ専だと思ってたけど、実はちょっと年下の方が好みだったわけねえ。周囲から隠すのも納得の可愛さだわ」

「ち、違う。違うわ。そんなんじゃないわよ。私は別に、」

「へいへーい、焦ってるう〜。図星かい、乙女ちゃん」

「乙女って呼ぶな」

 

 自分が話題になっている事に気が付いたのか、ちづるはお昼ご飯に夢中になっていた顔を上げる。

 

「ん。ちづるの話?」

「そうそう。……ちづるちゃんって言うんだ?」

「うん、ちづるはちづる! おとめが名付けてくれたの!」

「……へえ、珍しい」

 

 使い魔は元より名前があるものだ。

 だから、召喚者が名付けるのは珍しい。

 しかし、羽織(はおり)は大して掘り下げる事もなく流してくれた。

 

「ちづるって珍しいの?」

「うーん、今のはそっちじゃなくて……いや、まあ、そだね。ちづるちゃんはスーパーレアだねえ。使い魔って生き物の形をしてる方が珍しいまであるからさあ。た・と・え・ばー」

 

 パチン、と。

 羽織の指が音を鳴らす。

 空中に魔法陣が広がり、その内側から黄金に光る霧や雲のようなモノが湧き出した、

 

「ほい。コイツがあーしの使い魔ね」

『ご紹介に預かりました。羽織様の使い魔、ハロと申します』

 

 気体状の使い魔、ハロ。

 雲の中で輝く光の玉が、お辞儀をするように動いた。

 

「煙じゃん! おもしろー!」

『ハロからしてみれば、人じゃんオモシロでございます』

「ええー? ま、ちづるはオモロだからなあ。おとめも爆笑間違いなしのネタとかあるよ。聞きたい?」

『乙女様が爆笑? 興味ありますね』

 

 ないよ。爆笑した事なんかないよ。

 テキトーな事を言うな。

 使い魔同士で積もる話でもあるのか、ちづるとハロの会話は意外と盛り上がっていた。

 

「……ちづる。変な事は言わないように」

「言わないってば。もー、おとめって注意ばっかりで口うるさい。お母さんみたい」

「おかっ、……せめてお婆ちゃんと言いなさい」

「それ逆じゃね?」

 

 羽織(はおり)の茶々に首を傾げる。

 何が逆だろう。母より祖母の方が偉いのだから、そう呼ばれたいに決まっている。

 なにせグランドマザー。マザーのグランドだぞ。

 

 頭の中で反論していると、ニヤニヤと笑う羽織の表情(かお)が目に入った。

 

「使い魔との関係って十人十色だけどさあ。乙女(おとめ)とちづるちゃんは母娘(おやこ)みたいで面白いねえ」

羽織(はおり)達の執事とお嬢様みたいな関係性の方が憧れるけれど」

 

 私の身近な人で使い魔がいたのは羽織だけ。

 昔からずっと、二人の関係性には憧れていた。

 

 そう言葉を続けようとした。

 その、瞬間。

 

 ヴヴヴッ、とスマホが振動する。

 私だけではない。

 羽織のスマホも同時に震えた。

 

「これは……」

「ま、多分そうだね」

 

 二人して頷く。

 ハロの表情は分からないが、彼もきっと分かっている。

 唯一、何も知らないちづるだけが首を傾げた。

 

「何それ?」

「スマホ。……アナタ、知識の偏りが激しいわね」

「ちーづーるーもー、ほーしーいー!」

「……後でお古をあげるから今は我慢して」

 

 スマホのロックを解除して、学院から送られた通知を開く。

 添付されたPDFを迷わず見る……前にスマホを覗き込むちづるのピンク頭で視界が覆われた。

 

「おーしーえーてー!」

「頭邪魔……はあ。説明してあげるからどいてちょうだい。全生徒のエントリーが完了して、トーナメント表が決まったのよ」

 

 画面に映るのは無数の名前が記されたトーナメント表。

 参加人数は百二十八人。ほとんど全校生徒が参加を表明している。

 

「むむむ、漢字読めない……。おとめの名前ってどれ?」

「私のは一番、右……端……」

「ん? どったの?」

 

 トーナメント表を見て、声が段々小さくなる。

 頭を抱えたい。

 やばい。これ、終わったかも。

 

「わお。乙女、よりにもよってじゃん」

「……因果応報かしら」

 

 一回戦。

 記念すべき、その対戦相手の名前は。

 

 

恩返村(おかむら)鶴子(つるこ)……」

 

 

 学年二位の実力者。

 金髪縦ロールの学級委員長であった。

 

 

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