サモン・ベイビー! グランドマザコン女子高生と異世界召喚された赤ちゃん 作:大根ハツカ
見切り発車で投稿しているので、序盤の時点で話数が想定の倍になっていてビビる。
「これがスマホ⁉︎ わあー!」
パシャパシャパシャ! と。
携帯端末の写真機能を使って連写するちづる。
私が小学生の時に使っていたお古だが、特に性能にも不備がないようで助かった。
別に新品を買えないほどお金に困っている訳でもないのだが、この雑多な家に仕舞われたガラクタを活用する良い機会だ。
物持ちの良さとは、一歩間違えればゴミ屋敷に繋がる。千年生きる魔女の豪邸は、そのギリギリの境界線を行ったり来たりしていた。
はしゃぐちづるを視界に収めつつ、私は私でスマホを活用して対戦相手の情報を収集していた。
「
使い魔の扱う魔法というのは何でもありだ。
基本的に、『
分からない、というのはそれだけで脅威なのだ。
邪魔するわけにはいかない。昼食後、私達は互いに何の詮索もする事なく別れた。午後三時、早い帰宅である。
というか邪魔とか以前に……いくら親友とはいえ、友達の情報を売らせるというのは気分が良くないだろうため、自重したという面もある。
「おとめおとめ!」
「ん、何よ」
「いっしょにパシャパシャやってー!」
「今忙しいから無理」
ちづるの呼びかけを半ば無意識に断りつつ、思考の海に深く潜水する。
本人から使い魔の情報を探るというのは難しいだろう。しかし、別の手段もある。使い魔は分からずとも、魔法を知る手段はある。
使い魔は魔法を有する。
しかし、実の所、
召喚前の使い魔──異世界に漂う魂の前世において、彼ら彼女らは魔法を持たなかった。
本来、魔法を持たない魂が異世界召喚の際に魔法を付与される。
「はーいパシャパシャ!」
「ちょっ、バカ、危ない!」
スマホを片手に飛びかかるちづるを支えきれず、椅子ごと倒れそうになる。
ブレブレのレンズは私の怒った
「むむむー。おとめ、スマホ見てばっかでつまんない。ちづるとも遊んで!」
「……テッペン目指すって言ったのはちづるでしょう。私はその準備をしているの」
「じゅんびー? おとめもやる! 見せて!」
「はいはい」
スマホの画面を見せる。
私が調べていたWikiのページ。
ぐぐぐ、とちづるは頭を寄せる。
桃色の髪が遠慮なく私の視界を覆う。
……赤ちゃんみたいな花の匂いがする。
「なんか見たことある……? あっ、おとめとケンカしてたキンパツに似てる! 分かった。未来の姿!」
「ま、老けたら似たような顔にはなりそうだけれど。普通に
画面に映るのは
しかし、その名は二十年ほど前に一晩にして落ちぶれた。
その原因が、
一族で初めて女神へと至ったにも
「キンパツのおかあさん?」
「そ。与えられた名は『
「どゆこと?」
「……魔法っていうのはね、使い魔のモノではなくて召喚者との契約によって発生するモノ。
事実、Wikiを信じるならば
(魔法戦のセオリーは超短期決戦。相手に魔法を使わせる暇もなく仕留める。だけど、相手が防御系の魔法ならそれも難しい、か。……セオリーには反するけれど持久戦ね。魔法を使えば使うほど相手は自滅するのだから)
持久戦はこちらとしても都合が良い。
……なにせ、私の
「ねーえ、おとめ」
「……何よ。遊びはおあずけよ」
「そーじゃなくって。ちづるの魔法は?」
「は?」
「
「……………………、」
それ、は。
「……調べてみましょうか。ちづるの魔法が何なのか」
一瞬、喉が引き攣った。
それを誤魔化すように笑みを浮かべる。
上手く笑えているだろうか。おかしくはないだろうか。
(おばあちゃんと同じ魔法が発現するなんてあるワケがないのに)
だって。
私は今も。
────
「まっほう! まっほう!」
至る所に魔法陣が描かれた、ちづるを召喚した部屋。
使い魔の覗き見さえ防ぐこの部屋は、秘密の特訓をするのに最適な場所だった。
「良い? 絶対に無茶はしないコト。魔法が使えないくらいはまだマシ。魔法を制御できずに暴発するのが最悪よ」
「オッケー! ちづるに任せんしゃい!」
「……不安ね」
何はともあれ、やるしかない。
どんなに不安でも、
「…………」
「…………」
「…………」
「…………え、何この時間?」
「え、じゃないわよ。魔法の発動は?」
「えー、いや……どうやるの? 教えてえ……?」
「………………………………、」
頭痛を堪える。
そうか、それも分からないのか。
「魔法の使い方なんて私が知る訳ないでしょう。ちづるの魔法なんだから、ちづるが何とかしなさい」
「ええー⁉︎ さっき魔法はちづるとおとめの間に生まれる子供みたいなものだって言ってたのに! いくじほうきー!」
「ばっ、馬鹿な言い方しないでちょうだい。確かに魔法は召喚者と使い魔の契約によって生まれるモノだけれど、それを扱うのは使い魔。いわば召喚者が弾倉で、使い魔が引き金のようなモノよ。扱い方なんて知る訳がないでしょう」
そして、そもそも。
この少女が魔法の扱い方を知らないなんて馬鹿な話がある訳がない。
「ちづる。思い出しなさい。あなたは一度、無意識のうちに魔法を使っているわ」
赤ちゃんだった少女はスクスクと成長した。
明らかに尋常ではない速度で大きくなった。
アレが魔法でなくて何だと言うのか。
「そんな昔のコト覚えてない!」
「あなたがデカくなってから一日も経ってないわよ。……ほら、ちづるは何を思って成長したの?」
「そ、それは……うう、はずかしい」
「?」
珍しいことに少女は顔を赤く染める。
羞恥心なんて言葉がちづるの頭にあった事が驚きだった。
「ち、ちづるは……その、」
「その?」
「…………おとめが、育児大変そーだったから……大きくなったら、ちづるも役に立てるかなって」
「………………、」
ふい、と目を逸らす。
ちづるが眩しすぎて直視できない。
ワガママで、バカで、私の時間を溶かして……でも、ちづるは良い子なのだ。
……頬が熱い。
聞いてるこちらが恥ずかしくなってきた。
「そ、それじゃあ、その時の気持ちを再現してみれば?」
「……おとめはちづるが魔法を使えた方が嬉しい? 魔法があったら、おとめと一緒にいても良い?」
「そりゃあ──」
──そうよ、と。
答えようとして、半端に開いた口が閉じる。
少女の瞳の奥には怯えがあった。
ほんの一瞬。
無邪気な少女の仮面に隠れた、本当の顔が見えた。
無邪気な赤ちゃんは、いつの間にか成長していたのだ。
彼女は理解しているのだ。
自分が一人では生きていけない事と、自分の生活の全てが私に握られている事を。
役に立ちという気持ちは嘘ではないのだろう。でも、それは捨てられたくないという媚びが混ざっていて、甘えた行動にも何処までが許されるのか試したいという裏があった。
(……私と、一緒だ)
私には祖母がいた。
でも、祖母しかいなかった。
そして、ちづるにとっての祖母が私だ。
少女には私しかいない。
ふと、親友の言葉が頭によぎる。
私達は
……ように見えるだけじゃ、ダメなのだ。
私にはちづるを召喚した責任がある。
偶然であれ何であれ、私には赤ちゃんを拾った責任がある。
だから、私は言わねばならない。家族とは何なのかを教えなければならない。
「魔法なんてどうでもいいわよ。私はちづるとずっと側にいる」
「っっっ!」
損得なんて関係ない。
無償の愛だなんて私にはまだ早いけど。
でも、祖母がそうしてくれたように、私もまたちづると共に生きる覚悟をしなければならない。
「約束、してくれる……?」
「ええ。約束よ。私達はずっと一緒。使い魔と召喚者ってそういうものでしょう」
「うんっ、うん! ちづるもおとめとずっと側にいる!」
「いける! いけるよ、おとめ! 今のちづるなら魔法だって使える!」
「こ、れは──!」
ズビュン‼︎ と青い光は線を描く。
それはちづるの軌跡。
文字通り目にも止まらぬ速さでちづるは地下室を駆け巡る。
「……『成長』の魔法じゃない。『加速』の魔法!」
超速で動き回る。
単純だが強力な魔法だ。
防御を貫く高火力ではないが、速いというのはそれだけで脅威だ。
(
「お、とめ……」
勝ち筋が見えた! という私の喜びを遮るように、ぜえはあと息切れしたちづるの声が私を呼ぶ。
たった数十秒走っただけのちづるは、どうしてか汗だくで息も絶え絶えになっていた。
「は、走りすぎて、しんどい……」
「…………え? そんなに、なるほどかしら」
「う、うん。……運動不足かなあ。十分も走ってないと思うけどさあー」
「十分? そんな長い時間は経ってな……、あ」
そうか。そういう事か。
『加速』の魔法。
それは例えば十倍の速度で動ける魔法。
でも、逆に言えば────
「……持久戦、無理じゃないのよ」
一歩進んで二歩下がる。
作戦会議は振り出しに戻った。