二階堂ヒロノ共鳴者 作:エアプメルル
話とは、なんだ?
……ああ、彼女の話か。
そういえば、約束していたな、私とあいつの話をすると。
もちろん話してもいいが……君も知らないわけじゃ……私からちゃんと聞きたい?
そうだな……飲み物……ココアを取って来よう。
長くなるからな、あいつとの話は。
……さて、彼女の話をしよう。
シオンと私、関係性を言うのであれば……
【相棒】、だな。
さて、どこから話そうか……
時間の余裕はある、気持ちのいいものではないが……振り返りも兼ねて最初から話そう。
私は死んだ。
……詳しく説明するなら、死に戻った。
…………もっと詳しく説明しよう。
知っての通り、私は高校に上がろうとした春、何者か(謎のフクロウが言うには政府らしい)によって、
理由は……いや、それは知っているだろうから飛ばそう。
そこで、私はとある少女に出会った。
連れてこられた少女達の中で最も背が高く、全体的に暗い星空のような……
腰まで伸ばされたダークブルーのストレートヘアーと、同じ色の少し鋭い目つき。
それに合わせたようなカラーリングの、内側に流れ星の刺繍が見えるのが特徴的なコートと、高いヒール型のブーツ、胸にかかった黒縁の眼鏡。
中々に目立つ格好だが、それ以上に奇抜な見た目や雰囲気が多かったからか、相対的に大人しめの少女だった。
今思えば、印象を残さないように立ち回っていたのかもしれない。
「……私、ですか?星越、
自己紹介の流れでそう名乗ったシオンに対しても、それ以外に正しくない行動をしている者達が多かったものだから、その時の私はあまり注視していなかった。
……にしては、細やかに覚えている、か。
まあ、長く共にする時間が多かったんだ、無意識に覚えられたんだろう。
それはともかく。
実際その後もその前も、不安か何か少々離れたところで、見定めるように私達を見つめていただけだった。
それから、私はなれはてを殺そうとし、殺された。
……今思えば、他の魔女候補よりも殺意に身を飲まれやすい私が、【死に戻り】を持っていたのは幸運だったのかもしれない。
もちろん死なない方がいいし、魔法というものも私達には過ぎたものだ。
釈迦に説法だが軽く私の魔法についても話そう。
私の魔法は【死に戻り】。
死ぬと最も近い時間の、意識が目覚めた瞬間に戻るというもの。
私は死に、この牢屋敷に来たばかりの時間へと戻った。
当たり前……と言っていいかは分からないが、その力はもちろん自身だけ適応されるものだった。
私が死ぬたびに他の人間も死んでいるとなると、それは傍迷惑な存在でしかない、正しくない。
そう、正しくないんだ。
「……えっ?」
彼女と出会うまでは、その思考まではたどり着かなかったが。
二週目。
ラウンジに集められた時のこと。
手っ取り早く情報を得るため、お互いの名を知った方がいいという思考の元、カッコつけの目立ちたがり屋であるレイアの前に私が「自己紹介をしていこう」という発言を私は行った。
面倒だとは思ったが疑問や反発されるのは予測していたし、実際された。
それでも、無理矢理押し進めて行くつもりだった。
「……なんで、どうして、だって……さっきは……」
私は目に入った。
あからさまに狼狽している人物が一人、いることに。
最初は他と同じように、突然の私に困惑していただけだと思っていた。
だが、どう見ても
だからつい、声をかけてしまった。
「自己紹介は手っ取り早い方がいい、正しいからそうした、それで理解できたか?星越シオン」
「……それは、構いませんが……」
「なら続けるぞ。次は……」
「さっきは、不服そうに黙ってたのに」
「……な」
「おい、さっきから聞いてりゃ偉そうに……なんなんだお前?」
なんだと?
そう問おうとしたが、タイミング悪く目つきと素行と口が悪い少女、アリサが噛みついてきた。
「あっ……人がいっぱい……」
――私の死の場面へと近づいた。
妙にムカつく言い回しをするフクロウ、ゴクチョーと。
私を一度殺した存在、なれはてが現れた。
その時は大変だったな、同じ出来事を繰り返しかけたんだ。
正しくないなれはてを見て、殺意が止まらなかった。
だが、それでは
必死に耐えたが、力み過ぎて口の中は切るし、動悸はそれはもう激しすぎて、破裂しそうだった。
それでも少しずつ収めつつ、情報を得るためゴクチョーの話に耳を澄ましていた。
……ああ、君の言う通り、熱い視線を受けていたな。
後ろからの降り注いでいた視線には、気づいていたが……今聞き逃すのはまずいと思っていたから無視するしかなかった。
初日の12時過ぎ、昼食の時間だったな。
あの頃は今の私が思うほど、気合が入っていた。
点呼を取ったり、ルールを伝えたり……後々はしなくなったな。
それはともかく。
初日の昼食では、彼女は現れなかった。
その時は知らなかったが、絵を描くのが大好きなノアは食事を取りに来なかったし、アリサは懲罰房に連れていかれていた。
自己紹介の時に、自由奔放と不良娘なのは感じ取っていたから、その二人が来ないのは正しくないと思いながらも納得していた。
だが、目つきが少々鋭い程度の、大人しそうなシオンが現れないのは意外だった。
もしくは、第一印象とは違って、自由奔放人だったのかとも考えた。
しかし、食事を取らないのは正しくない。
食事を取っていなかったノアに持っていくついでに、シオンを道すがら探すことにした。
ノアは部屋に籠っているという情報があったが、残念ながら無い。
同室の儚げ少女、メルルすらも
「ご、ごめんなさい……同じように監房を出たんですが、いつの間にか消えていて……」
などと言うから、持っていくにもいけない。
声をかけるだけにしようとしたんだ。
残念ながら、その時には見つからなかったが。
そして、ノアのところまで持って行ったのはいいが……
そうだな、部屋がカラースプレーで真っ赤になっていた。
あれは驚いたし、正しくないとも憤りを感じたさ。
だが今思えば……カラースプレーはどこで手に入れていたんだろうな。
当たり前に持っていて気づかなかった。
レイアのレイピアのように持たされていたのだろうか。
そもそも……服装もそうだが、誰がどのようにして決めていたんだろうな?
……悪い、話がズレたな。
確かに気になりはするが、その余白を埋めるのはまた今度にしよう。
ノアのところまでだったか。
……今更だが、彼女と関係が薄いところは飛ばそう、とても全ては語り切れなくなる。
いろいろあって、彼女のために絵を描く部屋を探すことを約束したことだけは伝えておこう。
そして私は隣の監房、私とエマの部屋へと戻ろうとした時だ。
「……どうも」
シオンがいた。
真顔でもなく、うろたえてもなく、妙に薄気味悪い微笑みで。
レイアとは違うタイプの、ころころと顔が変わる奴だった。
その微笑みに嫌な胸騒ぎを感じながら、私は声をかけた。
「まったく、どこに行っていたんだ?時間は有限だ、昼食が取れなくなって困るのは君だぞ。まだ間に合う、早く食堂へ……」
「まあなんとも凛とした態度ですね、二階堂さん。ご職業は学級委員で?」
「生憎今は休業中だが、その癖は抜けないらしい。職業病というやつかな。……気は済んだか?さあ、さっさと向かうといい」
一言交わしただけで長く話すのは面倒そうだと理解した私は、早くいけと言葉と空気で促す。
だが彼女はなんのそのという態度で受け流していた。
いや、反撃してきたというべきか。
「私が思うより、真面目な方らしい。
悪はお前だ……なんて勇猛果敢に返り討ちにあった人とは思えませんね」
私は目を見開き、そしてシオンのことを睨んだ。
「……どういうことだ」
「どういうこともこうもありませんよ。あなたは……おっと、ここではまずそうですね」
シオンは私の後方、ノアの方へと一瞥する。
そして私の方へと早歩きで向かってきた。
私は警戒心を隠しもせず、一歩ずつ下がろうとしたが駄目だった。
後ろ向きというハンデはあったが、足は長い方がスポーツで有利、ということを体感させられたよ。
これでも文武両道のつもりだったんだが。
そして彼女は私の腕を掴み、引っ張った。
同時に口を私の耳に近づけ、静かに呟いた。
「魔法、隠しているんでしょう?二人きりで話しましょうよ」
ばっと手を振り、距離を取るが、余裕そうな笑みは絶えず私を見つめていた。
何故だ、どこで知った?こいつの魔法か?どうする。
……殺そうとも一瞬考えたが、殺したところで謎の魔女裁判始まってしまうし、隠し通した結果のリターンも少ない。
何より殺人は正しくない。
渋々私は頷き、それを見たシオンが満足そうな顔になりながら、歩き出した。
そうして、連れてこられた場所はシャワールームだった。
「……なぜここなんだ」
「話をするんです、お互いを知るには裸の付き合いが一番ですからね」
「正気か?」
「冗談ですとも。ここ、中から外は聞こえないそうで」
「……防音になっているということか……ならさっさと本題に入れ」
昼食時いなかったのは、話す場を探していたんだろうと気づく。
そうまでして話したかったのか、と私は怪訝な顔になるが、そんな彼女はカラカラ楽しそうに笑う。
だがすぐに、真面目な顔になった。
「あなたの言う通り、本題に入りましょう。あなたは、時間を巻き戻す能力を持っている……そうですね?」
「……ああ、正確には【死に戻り】。死んだ時に、最も近い時間の目覚めた瞬間に戻る」
「……へぇ、気分は良くないですが、能動的に時間が戻せますね」
やはり正確な魔法までは知らなかったのだろうと、その発言で私は確認する。
だが魔法を持っているという情報自体が私を苦しめていたため、言おうが言うまいが変わらないと判断したんだ。
昼食の時に魔法を持っていないと発言したのはまずかったか、しかし【死に戻り】という能力を知られたらろくなことにはならなそうだ……などと、考えを巡らしていたが、今となっては分からないな。
そうして私は、態度だけでも対等であろうと腕を組み、睨みつけた。
「それで?その情報で私を奴隷にでもする気か?殺人が起こるかもしれないこの場所なら、いい手駒だろうな」
「それも面白そうですが……私が望む関係はまた別なんです」
「別だと?それは一体……」
シオンはまた怪しげは笑みを浮かべ、手を差し伸べてきて、こう言った。
「
彼女の顔を見て、彼女の伸びてきた手を見て、彼女の顔を見て。
そして、一言。
「は?」
目の端に映った割れた鏡からは、あっけにとられたもう一人の私がもう一人のシオンを見ていた。
相棒、二人一組、コンビ、パートナー。
国民的ドラマの名前にすらなりそうな、二文字の漢字。
それを今目の前の少女が、私に向かって投げた。
疑問符が尽きなかったが、無理くりどうにかして、私は言葉を返した。
「相棒、と言ったが……具体的にはどういうことだ?」
「この牢屋敷で協力しましょう、というものですよ。情報は共有するし、困っていれば助け合う。対等にね。簡単でしょう?」
「……君は、何が目的だ?」
「簡単なことですよ。殺人事件が起こると言われた場所で仲間もいない……それって怖くないですか?」
そう言ってはいるが、顔は微笑んだまま。
その顔は、胡散臭い代表のマーゴの次くらいには怪しさは満点だった。
あれだな、よく漫画やアニメで出てくる……裏切る顔って感じだったな。
「そうだな、実に合理的だ。だが、君や……万が一にもあり得ないが、私がその殺人をした場合どうする?私はもちろん君を告発するが」
「その時はご自由に。私も心置きなく疑いを向けますので」
「……それはまあ、いいが……対等と言うには、一方的に魔法を知っているのは正しくないんじゃないかな?」
「もちろん、この手を握っていただければすぐに伝えます」
思ったんだ。
ここまで妙に協力的だと逆に怪しいと。
正直握りたくなかった。
胡散臭いすぎる、こっちまで臭いが付きそうだ……なんて、思ったものだ。
言い過ぎ?
……ふふっ、そうだな、言い過ぎた。
だが、その時に立ち会えば間違いなく君も同じ感想を持っただろう。
「……分かった、手を握ろう」
しかし、私はそれを受け入れた。
情報が増えるのは望んでいたことだし、この狭い社会で上辺だけでも協力者がいるのは心強い。
私を利用して悪巧みをしようとしても、簡単には使われないという謎の自信……今思えば慢心だな、それもあった。
手を握って、手綱を握ってやると。
シオンはそれに気づいてか、そうでないかは分からないが……目を細めて、呟いた。
「交渉成立、ですね」
そうして、私達は協力関係……相棒同士になったんだ。
これがある意味、一番最初の出会い……邂逅、だな。
少し休憩しよう、ココアを入れ直してくる。