最狂の呪詛師 作:ボタン
「なー羂索。俺はな、俺の“暇”を邪魔しなければ別に良いと思ってるけどさ、俺が寝てる
「そんな事言うなよ、私と君の仲じゃ無いか?」
「だとしても、俺の周りを特級呪霊で埋めるのは違うと思う」
いつも通り、俺は河川敷で寝転んで日向ぼっこを堪能していたが、久しぶりに羂索が隣に寝そべって来た。
別にここまでは問題無い。たまに良くある事だからだ。しかし、今回は違う。
「ほら、そんなカッカしちゃダメだろ、漏瑚?」
「ええい、黙れ。ワシは認めんぞ、こんな人間が対五条悟の切り札となるなんぞ」
羂索の向こう側にいるのは、人間では無く呪霊。頭が火山のようか形になっていて、頭の上にある噴火口から煙が上がっている呪霊だ。
羂索の話を聞くに、どうやら悟と戦って、悠仁くんと言うハンデを背負った上で漏瑚をボコボコにしたそうで。
羂索の計画の上で一番障害になるのが、『最強』五条悟。これを取り除くために、羂索は長年あの手この手で、策を練っていた。
最初は傑の体を乗っ取って、【獄門疆】で封印する予定だったらしいが、悟が瀕死の傑に止めを指す寸前に、たまたま俺が通りかかって傑を治した為、計画が一時的に振り出しになったらしい。
なんかメンゴ。
「そこの人間!本当に、あの五条悟を倒す事は出来るのか?」
「出来るよ、俺の【領域】を使えば。一瞬で『最強』の五条悟を殺せる」
「ーー何?」
「そこまでだよ、漏瑚。今の君の状態で彼に挑んだら、今度こそ死ぬよ?」
俺の言葉に漏瑚が反応し、戦闘が始まる瞬間、間に入ったのは羂索だった。
おそらく、漏瑚と言う呪霊は悟との戦闘で想定以上の負傷を負っているらしい。まぁ、あの悟から生きて帰ってきたってだけで結構凄いんだけどね。
「彼の【領域】は少し特殊でね。普通の【領域】が必中必殺なのに対して、彼の【領域】は
「むぅ、そもそもだが羂索よ、何故この男が五条封印の鍵なのだ?」
「それはね、彼の術式にある」
「ほう?」
「彼の術式は『数値化呪法』と言ってね、この術式は『全呪力現象の再現』が可能の術式……まぁ、どれだけ異常かピンと来ないよね?大げさに言うなら、崇徳は
「何だと!?そんな横暴な術式をあやつが持ってるとでも言うのか!?」
「狙って『黒閃』を出す事が出来ると言っても、そこに至るまでの道のりは長い。『数値化呪法』はね、あまり使い勝手が良い術式では無いんだよ」
羂索が腕を上げて、一度引いて前に突き出す。
「例えばだよ、漏瑚。今この瞬間、『黒閃』が発生したとしよう。『黒閃』を引き起こす要因として、『自分の呪力』『相手の呪力』そして『周囲の環境』これらに左右される。『数値化呪法』はこれらの現象を、
そして次に羂索は、自身の縫い目がある頭を軽く叩く。
「当然、彼も例外では無い。最初はただの呪力放出すら苦労したそうだ、でも彼はこの膨大な情報量の術式を“縛った”んだよ。まず、術式を使用するにあたって、彼は『術式開示の縛りによる自身の強化の禁止』と『戦闘時、必ず術式を開示すること』で何とか最低限、術式を使用する事が出来た」
「何だその“縛り”は!!術式を開示しても、何一つとして自身に利益が無いではないか!」
「気持ちは分かるけどね、漏瑚。これはまだ彼が術式を使用する為だけの、
「あー、おい羂索。そっから先は俺が言うわ、面倒でしょ俺の術式の解説とか」
黙って聞いてりゃあ、ペラペラと話しやがって、別に良いけど。
ずっと隣で置物扱いの俺の気持ちも考えろ。
「俺の術式はな、さっき羂索が大体説明したけど、ちょっと補足するぞ。まず『全呪力現象の再現』とは言ったが、“術式”自体を再現する事はできない」
「どうゆう事なのだ?」
「俺の術式は、正確に言うと『
「要するに俺の術式は、『結果』の再現だ。『蒼』を例に出すなら『蒼』は無下限による空間の圧縮。で、俺は無下限と言う『蒼』を使用する上で必要な手順を
「そしてそれは、『呪物』や『呪具』にも適用される。何よりも恐ろしいのは、飛ばす手順の中に“縛り”すら入ってると言う事だ」
羂索め俺が話してるってゆうのに、割り込んできやがった。
「私が考えた第二の手段は、彼に【獄門疆】を再現させてもらって、五条悟を封印する予定だ」
「ーーつまり、【獄門疆】を“縛り”無しで使えるだとっ!!」
「でも、俺の術式にも欠点が存在する。ぶっちゃけ、羂索が言ってた“縛り”だけじゃ
「そしてここが一番重要、俺の『数値化呪法』は再現性の塊だが、『成長性』は皆無なんだ。その時の結果しか再現出来ない。結構不便なんだぜ?」
それじゃあと言って、崇徳は私の隣から去っていった。
残ったのは、私と漏瑚だけ。
「まったく、彼は一番大事な所を言って無いね」
「何?まさかまだ何かあるのか?」
「彼は“縛り”で二つだけ、永続的に再現が可能なんだ。この“二つ”に何が入ってるのか、彼は言わなかった。と言っても、私は一つ彼から言われたよ」
「そこまでして、あやつが残したものは何なのだ?」
「ーー天与の暴君【伏黒甚爾】。彼は完全なる『天与呪縛』を遺しているんだ」
久しぶりに羂索と話したなぁ。最近、例の計画のせいか全然話せなかったからなぁ。
「確か、漏瑚レベルの呪霊があと二、三体いるんだっけ?悟や乙骨くんは大丈夫そうだけど、九十九さんや七海君はどうだろうか?」
民家が前から後ろ、前から後ろと俺の視界から流れて行く。子供達や老人が笑って、“暇”を享受している。
ふと、一人の男の子……制服を着ているから高校生くらいだろう。右側の顔を前髪で隠している、根暗そうな男の子だ。
その少年に、何故か目が離せない。いや、
「ちょっと良いかな。少年?」
「へ?ぼ、僕ですか!?」
「ちょ、待て待て待て!!流れるように、警察に連絡しようとしないで!?確かに不審者だけどさ!!」
「ーー僕に、何のようなんです?」
「少年。君……今すぐ死にたいかい?」
「は?何を…言って」
「君の、名前は?少なからず、君は今イジメを受けてるのかな?それを誰にも相談出来なくて、一人で抱え込んで……“力”さえあれば、君は今にもイジメていた奴らを見返してやりたいと思っている」
「そして君はもう、その“力”を手にしている」
その一言で、目の前の少年の顔が驚愕に染まった。
「貴方は、何なんですか?」
「少年、君はもしかしてだが、
「もしかして……“真人”さんの事ですか!」
「あー“真人”って奴は知らないけど、とりあえず“黒”って事かぁ。しょうがねぇ、えっと名前は……」
「あ、すいません。僕、吉野順平って言います」
「そうかい、順平君。ちょっと、おじさんと話をしようか」
「ーーそうかい。それは辛かっただろうね」
俺の隣で、ボロボロと涙を流し続ける順平。彼は思うよりかなり辛いイジメを受け続けたようだ。
「それで、真人さんが言ってくれだんです。『君は選ばれた、他の奴とは違う』って、そう言って僕に力をくれだんです」
「ーーそうか。それで?その力を使って、何をしようとしてたんだい?」
「僕を、イジメた奴らに、僕を、いない物として扱った人達に、見せしめたい。『僕は弱く無い』って」
公園のベンチで俺と順平、二人で腰を下ろしている。ほのかに香る木の匂いが、俺は好きだ。
「ちょっと話が変わるけどさ、俺が今から言う事はな、世間一般でよく言われる事だが『復讐は何も産まない』って言うじゃない?」
「本当に話しが変わりましたね。確かに、そう言いますけど……」
「つっても。まず前提としてな『復讐』ってのは報復行動を意味してる。そこまでは分かるな?」
隣に座っている順平が、静かに首を縦に振る。
「世間様は何か勘違いをしてるけどな『復讐』は別に“悪”じゃない。
「馬鹿馬鹿しいとは思わないかな?そもそも『復讐』ってのは、本来
「じゃあ……僕に、僕は、どうすれば良いんですかッ……!!」
「正直言って、俺は順平の復讐に興味は無い。だけど、君のその一時の気の迷いで、君の大切な人がいなくなっても?君のこの先の人生では、
「そ、それは……」
「俺にはな、夢があるんだ。『呪術師』も『呪詛師』も『呪霊』も皆んないなくなって、朝は起きたく無いって言って布団にしがみついて、お昼で
欠伸をしながらご飯を食べて、沢山遊んで、家族みんなに向かって『おやすみ』って言う。当たり前が、当たり前に享受される。平等に“暇”な日々が永遠に続く。そんな夢だ」
公園の遊具で、二組の男女の小学生が、ブランコでどちらが高く出来るか競争している。
俺は思わず、口の端が綻ぶのを感じる。順平は、その光景を懐かしそうに見ていた。
「ーー順平、お前は
この時、初めて僕は目の前の男性が酷く普通の一般人に、普通の幸せで満足する。何処にでもいる人に見えてしまった。
何よりも、ずっと周りから否定されてた“僕”をお母さんと虎杖君以外で、初めて見てくれた気がした。
「順平には帰る場所が、お前の事を心配してくれる友が、産んでくれた親が、お前が思うよりもお前を大事にしてくれる人は、結構いるんだぜ?」
涙が、止まらない。いや、今は止めたく無い。ただ僕はずっと涙でくしゃくしゃになった顔で、『ありがとう』と呟き続けた。