最狂の呪詛師 作:ボタン
ーー天神崇徳は、どんな人間ですか?
「ん?崇徳のこと?この間もおんなじ質問しなかった?」
「え、直接会った感想?んー、悪い人間じゃ無いとは思うんだけどね。あいつは呪詛師認定受けてるけど、やってる事は呪術師紛いの事やってるし」
ーー天神崇徳は呪霊と談笑していると、報告がありますが?
「あぁ確かに。僕もそう言う報告はたまに聞くけど、崇徳はねちょっと考え方が面白いんだよね」
「はっきり言うとね。崇徳が目指しているのが、『呪霊と人間の完全な隔離』それを目指してるらしいよ〜」
「だから崇徳は、一方的に祓うんじゃなくて最初に“会話”を試みるんだよ。でも、人間に危害を加えた呪霊にはとことんキツいんだよね」
「さて……虎杖君、七海君。三人で
「え?えっ…と。とりあえずあんた誰?」
虎杖が突如として乱入して来た天神に、困惑の表情の目を向けている。七海がサングラスをかけ直して、口を開く。
「彼は、天神崇徳と言います。夏油さんと同じ『特級呪詛師』に認定されている危険人物です」
「え!?この人呪詛師なの!?」
「とりあえず、久しぶりだね。七海君」
「えぇ、ご無沙汰しています。崇徳さん、今日はどうしてこちらに?」
「嫌な……予感がしたんだ。また、やっちまったよ。七海君」
「ーーそうでしたか、こちらの配慮が欠けましたね。申し訳ありません」
七海の目は真っ直ぐに、真人に向けられたまま崇徳に謝罪の言葉をかける。
「良いよ。とりあえず、真人って言ったか?殺すから、二人とも合わせてくれ」
「分かりました。あの呪霊の術式は、触れた相手の魂の形を自由自在に変える事です。くれぐれも触れられないように、注意して下さい」
「オッケー。んじゃあ俺が前にいくから、七海君と虎杖君はその合間を縫って攻撃してくれ」
「えぇ、では行きましょう。虎杖君」
「おうっ!!」
三人が真人に向かって走っていく。それを見越してか、真人は自身の腕を巨大化させ先頭……崇徳に向かって振り下ろす。
視界の上のほとんどを覆うように、巨大化した真人の腕が落ちて来る。俺はそれに手を挙げて、真人の腕を止める。
「なっ!?」
「テメェは、生かしちゃいけねぇんだよ!!」
ピクリとも動かなくなった自分の腕を見て、真人が驚愕の声を上げる。
「虎杖君!!」
水色の呪力を纏った拳を、真人の腕めがけて振り切って当たるが
(手応えが無い!?)
「チッ」
(虎杖の攻撃に対して、自分の腕を切り落として避けたか)
真人の後ろに回った七海が、頭にめがけて鉈を振る。
首を飛ばすが、体は変形して七海めがけて無数の棘を生やす。
虎杖がカバーに入ろうとするが、距離的に間に合わない。飛ばした首の口が笑みで歪んでいく。
突き刺さる瞬間
「『蒼』っ!!」
七海の左後ろに発生した『蒼』に引っ張られる形で、七海は真人の攻撃を避ける。
「ありがとうございます。天神さん」
「良いよ。それより」
じっと、崇徳は七海を見つめる。七海はその意図を理解したのか、ため息を吐く。
「一度しか、言いませんからね」
「ありがと、七海くん」
「はぁ……私の術式は、『十割呪法』と言い対象を線分した時、七対三の点に強制的に弱点を作り出す術式です。これで良いですか?」
「オッケー、俺の術式は、『数値化呪法』つってな。簡単に言うと既に発生した呪力現象の再現だな。でも、これには結構手順が必要なんだよ」
「一つ目は、発生した事象を見る事。二つ目は、実際に受けること。三つ目は、覚えるまで繰り返す事。かな、ぶっちゃけ一つ目だけでも再現はできなくは無いけど、威力とか精度は落ちちゃうね」
その言葉を最後に、真人の元に七海と共に走り出して行く。
「虎杖くん!俺と七海くんが隙を作るから、そこにドデカいのかましてくれッ!!」
「分かった!!」
真人の両腕が刃に変質し、崇徳めがけて振り下ろすが、七海が間に入って十割呪法で作った弱点めがけて鉈を振り、真っ二つに両断する。
「めんどくさいなぁ!!七海ッ!!」
真人が腕を元に戻して、七海めがけて手を伸ばして、触れようとする。
「サンキュー七海!!」
「は?」
崇徳の回し蹴りが七海の土手っ腹に炸裂し、七海の体は真横に吹き飛んだ。
引き戻そうとしていた真人の手を、崇徳は逆に掴み返して自分の顔に被せる。
ーー突然の凶行に虎杖、七海は勿論。真人ですら、理解が追いつかない。
「来いッ!!真人ォ!!」
崇徳の怒声に、真人は我に戻る。
「っ!?『無為転変』!!」
ドクンッ
真人の凶手が崇徳の魂に触れる。
崇徳に何とも言えない、不快感が体を這いずり回る。
「死ねよ!狂人が!!」
崇徳の魂を歪ませようとした、その時、真人の頭が掴まれる。
(何でッ!?魂を変形させたはずだろ!?)
顔の一部は、真人の影響で右目が飛び出て、左肩が腐ったように皮膚が紫色に変色し、鼻から異常な量の血が噴き出ている。
視界が霞み、内臓を掻き回され、激痛が脳を焼く。それでも、一切として力を緩めず、真人の頭を握り続け真人から目を逸らさない。
「演算、終了……」
血で視界が馴染む。限界まで行使した術式と、無為転変の脳へのダメージのせいで、呂律が上手く回らない。
「ーー『無為転変』ッ!!」
唱えた瞬間、崇徳の頭を掴んでた真人の左腕が弾け飛んだ。
「グッ、やってくれたなぁ…天神崇徳!!」
「お互い、さまだろうがぁ……」
変形した顔で、崇徳は下手な笑みを浮かべ真人を挑発する。
「ゴハッ!?」
真人の横から、虎杖が拳を振い顔面に直撃する。
二転、三転と回転しながら吹き飛び、学校の壁に激突する。
それをチャンスと捉えて、虎杖は真人の元へ走り出す。それを追うように七海もついて行く。
それをぼんやりと見る事しか出来ない、今の自分が非常に腹立たしい。
おそらく、脳機能の何割かは既に機能していないだろう。血を流し過ぎたのかは分からないが、指先の感覚が無く、全身に力が入りはしない。
生命を感じさせる心臓の鼓動も、呼吸も、今は頼りなく小さくその存在をアピールしている。
真人の無為転変の影響か、このままでは死ぬと体が訴えている。
ーーそれがどうした。
「お前はぁ…絶対にぃ、逃がさねぇ!!」
血を撒き散らしながら、朧げな足取りで真人の方に向かう崇徳。
腐り切った自分の左腕を引きちぎり、一瞬痛みで顔を顰めるが、握っている左腕を見て
「『無為転変』」
崇徳は自分の左腕を七海の鉈のようなものに変形させ、真人に振るう。
「どけ!!虎杖くん!!七海くん!!」
壁に激突した真人を逃さぬように、その場に留めていた虎杖と七海がそれぞれ横に広がる。
「『十割、呪法』っ!!」
ーー七対、三ッ!!
真人を頭から真っ直ぐに切断した。だが、切った真人の二つの残骸がそれぞれ巨大化した。
「フン!」
虎杖がその二つを即座に殴り飛ばしたが、呆気なく破裂しほとんど手応えを感じなかった。
その感触に疑問を持った虎杖だが、視界の端に走っている物体が見えた。
「クソっ!!」
さっきの巨大化したのは囮。それを理解した時には遅く、本体であろう真人は、下水道の隙間に体を滑り込ませ、姿を消した。
それを見ていた崇徳は、悔しさと怒りで地面に拳を振り下ろす所で、うつ伏せに倒れてしまった。
「虎杖君!天神さんが危険です。我々もここを離れましょう」
「ーー分かったよ、ナナミン」
こうして、真人との戦闘は幕を閉じた。
薄暗く、匂いが充満している下水道で、真人は壁に寄りかかり座っていた。
「ははっ……噂異常だね、『最狂の呪詛師』ってのは。あと数秒、手を離すのが遅かったらこっちがやられてた」
「でも、あいつの魂は掴んだ。あと一回、触れれば殺せる」
「でも、殺せなかった。全部全部、あいつ……宿儺の器。いや、虎杖悠仁!あいつさえいなければ、天神も、七海も殺せてた!」
左腕は依然として、肩から先が無く。治癒は非常に困難で、ドロリとした液体が壁を、地面を汚していく。
止血は出来たが、腕は生えてこず、それが更に真人の苛立ちを加速させる。
「ーー次は、二人とも、必ず殺す」