BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
それは、いつもと変わらないはずの放課後だった。
チャイムが鳴り終わり、遠くの方で生徒達の喧騒が遠ざかっていく。新校舎の廊下はまだ賑やかなのに、ここだけはまるで時間に取り残されたみたいに静かだ。
新校舎へ機材が移されてから、誰も寄りつかなくなった旧音楽室。埃を被った譜面台、端に寄せられた椅子、窓際で色褪せたカーテンが夕風に揺れている。
そんな侘し気な世界に差し込む西日を浴びながら、机の上に寝転んでいた練馬は天井をぼんやりと見つめていた。
「──―そろそろ、かなぁ」
それは誰に向けた訳でもない呟き──だが、少しだけ練馬なりの決意が混ざっている。
「何か言ったか?」
ドラムスティックを振る手を止め、黒崎が練馬の方を向く。
古いドラムセットから響いていた乾いた音が途切れ、旧音楽室は一瞬で静寂に包まれた。さっきまで確かに鳴っていたリズムの余韻だけが、耳の奥に残っている。
「なぁ、黒崎」
「んだよ」
ぶっきらぼうな返事。けれど、黒崎はちゃんとこちらを見ている。
練馬はゆっくりと体を起こすと、机から足を下ろし、床の上に立つ。
窓から差し込む夕日が、練馬の横顔を照らす。きっと今の自分は、迷いを振り払ったような、どこか吹っ切れた表情が映っている事だろう。
──―今まで、何度も喉まで出かかって、飲み込んできた言葉がある。
それはまた失敗するのが怖くて、壊れるのが怖くて、言い出せなかった言葉。
けれど、もうそろそろ良いだろう。心の奥で、ずっと燻っていた何かが、ようやく形になった気がしたのだから。
「バンド、そろそろ本気でやろうぜ」
空気が、止まった。
黒崎の口から、長いため息がこぼれる。
「……やっとかよ。遅ぇんだよ」
そう言いながら、スティックをくるりと回す。
その声音には呆れが混じっているはずなのに、不思議と温度があった。
「お前が言い出すの、ずっと待ってたぜ」
その一言に、練馬は目を瞬かせる。
「え? マジで!? 俺だけチキってたみたいじゃん!」
「実際そうだろ」
即レスで返されて悔しいが、否定できない。
過去の失敗、途中で投げ出した音、離れていった仲間──―今でも、思い出す度に胸の奥が軋む。
だが、それでも。
「今度こそ、失敗しない……またやってみせるぜ」
練馬は小さく笑う。薄れた痛みと恐怖を思い出しても尚、諦め慣れない夢があるから。
黒崎はしばらく黙っていた。
それから、ゆっくりとドラムの椅子に座り直す。
「じゃあ証明してみろよ。今度こそ、な」
鼻で笑うように息を吐き、殊勝な態度で物を言う黒崎。だけど、それが親友なりの励ましの言葉だと知っている。
「あぁ、だからお前も付いて来いよ、黒崎!」
「お前こそ、諦めんじゃねぇぞ」
誰も居ない旧音楽室の中、二人の言葉だけが赤く染まった世界に響く。
まだ何も始まってはいないし、これから何が始まるのかも分からない。
でも、確実に何かは変わる。練馬自身がもう一度前を向けたのなら、きっとそれだけは絶対だ。
練馬はそれを象徴するべく、黒崎に向けて拳を向ける」
「よろしくな、親友」
「しょうがねぇな……よろしく、悪友」
ぶつかる拳に堅い約束が生まれる。
今はまだ小さな約束。スタート地点に立ったばかりだ。
だが今度こそ──決して諦めたりなんかしない。
あの日、燈が背中を押してくれた日から始まったように、もう一度練馬は走り始める決意をした。
だから二度と足を止めたりなんてしない。まだ果ては見えなく遠くとも、最後まで走り切る覚悟が出来たのだから。
久しぶりの投稿で、めっちゃドキドキしています。
毎日21頃に投稿をする予定なので、何卒練馬達の物語にお付き合いお願いします。