BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
「その、今日はありがとう……練馬君、黒崎君」
「いやぁ、いいって! これくらいなら全然お茶の子さいさいってもんよ」
すっかり元以上に片付いたステージ裏を見渡し、練馬は満足そうに鼻を鳴らした。本当はちょっと片付けるくらいのつもりだったが、十人がかりの手際よさで気づけば大掃除になっていた。
「く、黒崎君もありがとう! すごく、助かった……」
「気にすんな。流れで手伝っただけだからな」
「そういう割には結構、乗り気で手伝ってたように見えたけど?」
「なっ!」
黒崎は照れ隠しにぶっきらぼうな態度を見せるが、たまたま横を通り過ぎた立希にあっさり見破られる。それに釣られて、練馬は素直に笑ってしまった。
「まぁ、それによ。燈ちゃんのためってのもあるけど……」
練馬は燈の方をちらりと見遣り、廊下へと歩き出した。そこでは既に撤収の準備を終えた他のメンバーが待っている。
「ねぇ、愛音ちゃん。今度どっかお出かけしない? いい感じのお店、知ってるんだけど」
「えっ! いいんですか!? やったぁー!!」
「ようやく終わったなあ〜、そよりん? 俺らもどっか飯行くぅ?」
「すみません、ちょっと用事があって……ていうか、そよりんって呼び方、やめてくれません? どこで覚えたんですか、それ」
「猫女! 俺の何が“ツマンネェ男”だって言うんスか! 俺、超天才なんスけど!」
「ん……お腹空いた。抹茶、食べたい」
軽口と笑い声が交差する。どうやら八神たちもMyGO!!!!! の面々と、思ったより距離を縮めたようだ。予定外の掃除はあったが、顔合わせは上々に終わったらしい。
「なんかアイツら、良い感じじゃね? やっぱ連れてきて正解だったわ!」
「良い感じかはさておき、面合わせとしては良かったんじゃねぇか?」
黒崎が苦笑交じりに頷く。練馬も頷き返し、胸に秘めた安堵を噛みしめる。
燈に惚れ込んでいる練馬としては、新しいバンドメンバーがMyGO!!!!! と良好な関係を築いてくれたのが何より嬉しい。ホッとした顔で肩の力を抜くと、練馬は黒崎と燈に向き直り、手を差し伸べた。
「そんじゃ、そろそろ撤収すっか。行こうぜ、黒崎、燈ちゃん」
「おう、行くか」
「う、うん」
皆がそれぞれ機材や差し入れを抱え、笑い声を交わしながらステージ裏を後にする。廊下の窓から差す夕陽が、今日一日の小さな成功を柔らかく照らしてくれていた。
「なぁ、黒崎」
ステージ裏から撤収した後、それぞれが現地解散したその道中、練馬は一緒に帰る黒崎に尋ねた。
「どうした」
「俺ってさ、ツイてると思うんだよな」
「何今更言ってんだよ、バンドメンバー3人も揃えられた時点で分かり切ってんだろ」
「いや、それもあるけどよ。そうじゃなくてさ──」
練馬は空を見上げる。既に20時を超えた空には、夕方の紅に、夜の青さが入り混じっている。そこに浮かぶ星の一つを眺めながら、練馬は口を開いた。
「もう一度──―夢を追い掛けられるなんてさ」
「……」
練馬の夢──―音楽を一生続けて行く事は、本来なら前のバンドが解散したあの時から、終わっていた筈だった。
だけど、その夢は再び動き出した。
「燈ちゃんとMygo!!!!! の詩に出会って、そっから色々あってよ。今はまたこうしてバンドが出来るようになった」
頭の中であの日の詩が鮮明に流れる──思えば、燈ちゃん達Mygo!!!!! の詩から、練馬の夢は再び始まった。
Mygo!!!!! 全員で奏でる透明ながらも心を揺さぶる音楽と、燈ちゃんの真っ直ぐな思いを込めた詩を前にした時、練馬は光を見た。
その光はとても眩しくて、音楽に初めて胸を撃たれた時のような、眼を焼く輝かしさを放っていた。一度は練馬の前から消えてしまっていた筈なのに、そこには燦然と輝いて再び胸の中に灯り始めた。
そこから、練馬はもう一度始まった。光に導かれるままに、ただひたすら走って、走って──そうしていたら、いつの間にか練馬はこんな所にまで来てしまっていた。そんな自分の道中を思い返すと、まさしく奇跡のように感じてしまう。
「一度終わった筈なのに、また目指せるなんてさ。昔の俺じゃあ考えらんなかったよ。だからさ、これ以上なんか望むのって烏滸がましいかもなぁ、って」
「奇跡なんかじゃねぇよ」
その時、黒崎が力強く否定した。
「奇跡なんかじゃねぇ。お前が必死に足掻いて、それで掴み取った今だ。お前が走り出してなきゃ──俺もお前も始まりすらしなかった」
──―そう言えば、黒崎もまた、自分と同じ夢を持っていた事を思い出す。
軽音楽部に所属していた時の黒崎は、本気でプロを目指す自分とは違い、お遊び程度の緩い部内の雰囲気に馴染めず、一際孤立していた。それでも一人で目指そうとしていたらしいが、そんな時に練馬と出会ってしまった。
本人としては否定するだろうが──ーあの時、自分と同じ夢を語る練馬に共感したからこそ、こうして一緒の夢を追いかけている。きっと燈の詩に救われたのと同じように、練馬の夢で黒崎もまた、救われたんだろう。
「だから奇跡なんかで片づけんじゃねぇぞ。お前自身が掴み取った今があるからこそ──ーこの先も出来るって、俺は信じてんだからよ」
「……そうだ。そうだよな」
練馬は深く頷き返す。黒崎が言う通り、練馬の夢はまだ先にある。だが、その夢への道の始まりを作り出したのは、きっと自分がガムシャラに走ったお陰なのだろう。
だからこれは、一度っきりの奇跡なんかじゃない。今を作ったように、走り続けた末に掴み取った産物──―足を止めない限り何度だって起こしてみせる。
「よっしゃ! 明日からも頑張ろうぜ! 先ずはプロデビュー! そんで武道館ライブ! そっからグラミー賞受賞だぁ!」
「ステップアップの階段デカすぎんだろ。もっと細かく刻めよな」
「えぇー? どうせならデッカイ方が良いだろ! ほらお前も何かデッカイ夢とかねぇの?」
「お前みたいな馬鹿な夢は持ってねぇよ」
「マジで? 例えばさ──」
そして二人、本気の夢やバカげた夢を語りながら、帰り道を歩いていく。これもまた自分達が積み重ねる一歩となるに違いない。
夕空に輝いていた星のように、今はまだ小さい点としても、何時か時が過ぎれば、夜の中で燦然と輝く一等星になるかの如く。
きっといつかは、辿りつけると練馬はそう信じている。