BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load   作:ビンカーフランス

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第十話:偶然

 練馬が休日に燈ちゃんと出会ったのは、本当の意味で奇跡であった。

 

「燈ちゃん!?」

「あっ! 練馬君っ!?」

 

 ショッピングモール内の書店エリアに足を運ぶと、入り口のレジで買い物終わりの燈ちゃんと偶然出会ってしまった。まさかこんな所で出会うとは露も思わなかった練馬は、途端に頭の中全部がブッ飛んでしまう。

 

「ど、どうして燈ちゃんが此処に!? 夢か? 夢なんか!?」

「え、えと、その。ほ、本を買ってて……」

 

 大混乱している練馬に、燈ちゃんがレジ袋の中から、今しがた買った大きめの本を見せてくれる。『最新版 海の生き物図鑑』と書かれており、燈ちゃんらしいチョイスに、何かホンワカしてしまう。

 

「ね、練馬君は?」

「俺!? 俺はぁ、えぇっと……そ、そう! 燈ちゃんと一緒の本を買いに!!」

 

 嘘だ、図鑑を買う予定なんて全く無い。最近ハマっている漫画の最新刊が発売されたので買いに来ただけだが、そんなしょうもない理由を燈ちゃんに言いたくない。

 

「そうなんだぁ……練馬君も、こういうの、興味あるの?」

「も、勿論! オフコース! 俺と言えば海! 海と言えば俺だからよ!」

「そうなんだ……凄い」

 

 我ながらバレバレな嘘だと言うのに、全く疑う様子すらも見せない燈ちゃん。これには練馬も、まるで針の筵に立たされたように心がズキズキ痛んでしまう。寧ろドン引かれた方がマシなまであるだろう。

 

 だがそんな痛みに耐えたからなのか、神は練馬に慈悲と言う名のボーナスチャンスを与えたのだった。

 

 おずおずと気恥ずかしかげに染まった頬を隠すように、燈ちゃんが図鑑で顔を隠しながら、未だ興奮が収まらない練馬へ視線を向ける。

 

「じゃ、じゃあ、一緒に、読むのは……どう、かな?」

 

 燈ちゃんからの、読書デートのお誘い──ーコレを断る選択肢など、練馬には微塵も存在しなかった。


「こ、これがアデリーペンギンで、コッチがコウテイペンギン。似てるけど、住んでいる場所とか、身体の模様が違うの」

「へぇー。こんなに種類あんだな。水族館とかじゃ纏めてペンギンって紹介されてっから、一種類しかいねぇと思ってたわ」

 

 適当に入ったチェーンの喫茶店の中、買ったばかりの図鑑を開きながら、燈はページをゆっくりとめくり、小さな声で説明する。それを練馬は相槌を打ちつつ静かに耳を傾けていた。

 

 最初、練馬は「燈ちゃんと休日デートだぁ! やったぜぇぇぇ!!」と読書所ではなかったが、こうやって燈ちゃんが豆知識交じりに説明してくれるお陰か、今では純粋に読書の楽しさに没入している。

 

 だが、ふと視線を横に逸らすと。

 

「それでね。この写真みたいに、ペンギンは自分の赤ちゃんをお腹の下で温めて──」

 

 小さな仕草で指の先をページに押し当てながら、燈ちゃんが嬉しそうに笑う。並んで席に座っているせいか、長い睫毛の揺らめき一つまで確認出来てしまう。

 

 ハッキリ言って、こんな急接近をされてしまったら、読書など出来る筈が無い。本人的には無意識なのだろうが、そういう所が逆に練馬の胸を苦しめて来る。

 

 これでは幾ら邪念を捨てて読書に集中しようとも、読み切るよりも前に身体が持たない……! それでも悟られまいと、図鑑に書かれたペンギン親子を凝視して、どうにか心を和ませようとしていると、燈ちゃんがまた別の話題を振って来た。

 

「……ねぇ、練馬君。バンドの方は、どう?」

「ば、バンド?」

 

 急な話題転換だが、寧ろ気を紛らわす分には丁度良い。練馬はここ最近のバンド活動の記憶を思い返してみる。すると、気分が高揚するのを自分の中で感じた。

 

「そりゃもう絶好調! 最近は音も合うようになってきて、いよいよバンドって感じがするようになってきてさぁ。そろそろどっかのライブでもって考えてんだよ!」

「へぇ……やっぱり、練馬君は凄いね」

 

 燈ちゃんの顔が少し俯く。何か自分が不味い事を言ってしまったのかと練馬は考えだしてしまうが、やがてその口からポツリと言葉が零れた。

 

「さ、最近思う事があって……自分が、一緒に居て良いのかなって」

「エッ?」

 

 その言葉を聞いた時、練馬は言葉の意味を本気で理解できなかった。

 

「練馬君がもう一度バンド始めたのは、凄く……本当に凄く嬉しい。でも、練馬君は凄くキラキラで……ずっと前を向いてて、私とは違うから……だ、だから一緒に居たら」

「そんな事ねぇって!!」

 

 ──思わず、練馬は話の途中で口を挟んでしまった。それは普段では想像もつかない大声で、喫茶店中の視線が一斉にこちらに集中する程、強く否定してしまった。

 

「ね、練馬君……?」

「あっ、いや、そのぉ……うん、ごめん。ちょい熱くなり過ぎた」

 

 目を丸くする燈ちゃんの視線も相まって、いよいよ肩身が狭くなった練馬は、勢いのままに立ち上がった腰を落とし、縮こまる様に席に戻る。

 

「ん……プハァ」

 

 テーブルの上に置いたグラスの水を、一息で飲み干す。喉に冷たい感覚がドッと押し寄せると、幾分か気持ちが落ち着いた。

 

 そして今度は、練馬から話し始めた。

 

「……燈ちゃんさ、俺と一緒に居て良いのかっていうけどさ、そんなの良いに決まってんじゃん?」

「でも……」

「つぅかさ」

 

 不意に出掛けた燈ちゃんの言葉を遮り、練馬は言葉を吐き出す。

 

「俺がもう一度バンド始められたのも、夢を追いかけようって気持ちになれたのも。全部、Mygo!!!!! の音楽と、燈ちゃんの詩があったからなんだぜ」

 

 練馬がもう一度バンドを始められたのも、夢に向かってもう一度突き進められたのもMygo!!!!! ──ひいては燈ちゃんの詩に出会ったからこそだ。

 

 あの音楽と詩が無ければ、きっと今頃は何物にもなれず、止まったまま腐っていたに違いない。そんな再び始めるキッカケをくれた燈ちゃんだからこそ──

 

「だから、これからもずっとMygo!!!!! のファンだし、これからドンダケ遠くに行ったとしても、こうして変わらず近くに居て欲しいと思ってる……って、アレ?」

 

 そこまで言い終えると、正気にでも戻ったかのように、急に顔から火が出そうなほどに羞恥心が沸き上がって来た。

 

 今更ながら、これってプロポーズかなんかじゃね? つい最近フラれたばっかなのに、マジか? と、後悔やら恥ずかしさが入り混じって、何か死にたくなっていると、燈ちゃんが確かめるように口を開いた。

 

「本当に……良いの?」

「そ、そりゃ当然! というか何でもするんで、マジお願いします!!」

 

 土下座でもしてやるという勢いで練馬は頼み込むと、下げた頭の上から、燈ちゃんの小さな震え声が耳に入った。

 

「ありがとう……練馬君」

 

 練馬は頭を上げて、フッと苦笑いを口元に滲ませる。どうしてこっちの方が感謝されているのやら。

 

 もう一度夢に向かって走るキッカケをくれた大恩人──―そして、大好きな片思い相手と一緒に居たいのなんて、当たり前のことだと言うのに。

 

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