BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
今日の立希は少し──いや、かなり不機嫌だった。休日の朝からシフトが入ってるのもあるし、つい最近にそよと愛音から「彼氏と上手く行ってるの?」と弄られたからもある。
だが、一番の原因は。
「お前、何で此処に居座ってんの」
「良いだろ別に。お客様は神様なんだからよ」
朝からカウンター席で、顔見知りの
「店側としては邪魔なんだけど、サッサと出てってくれる?」
「うるせぇ。つかそんな接客態度良いのかよ、円香さんに言いつけんぞ」
どうやら向こうも不機嫌らしい。いつもなら、こういう自分に非がある時には素直に謝っている。
「……なんかあったの」
「何もねぇ。本当に何もねぇよ……」
「……ハァ」
素直に面倒くさいと溜息を付いた。プライドが邪魔しているのか、それとも言い出せない事情があるのか知らないが、何か抱えている癖に言い出せない天邪鬼っぷりは、見ていて腹が立つ。
「バイト」
「あ?」
「バイト。12時に終わるから、それまで待ってて」
「いや、俺は何も」
「良いから。何か言いたい事あんでしょ」
やや不満そうに眉を顰める黒崎を押し切り、立希はバックヤードへと戻る。こうでもしないと、下手したら閉店まで居座られるやも知れない。それならいっそ話を聞いてやった方が、店に迷惑が掛からないだろう。
それに、だ。
「……それに、世話にもなったし」
以前、二人で燈達のデートを監視していた時、黒崎には色々と世話になっている。
借りを作りっぱなしと言うのは、立希の肌には合わなかった。
黒崎と約束した通り、12時にカフェのバイトが終わった後、立希が連れて行ったのは、近場に在る、有名チェーンのファストフード店だった。
「そんで、何があったの?」
昼ご飯代わりのポテトを一摘まみしつつ、頬杖を突きながら立希は尋ねる。すると、黒崎は途端に視線を逸らした。
「……別に、何もねぇよ」
「そう言うの良いから、サッサと答えて」
一方的に口を閉ざす黒崎を睨み付けてやると、重い溜息を吐いた後、やがて観念したように口を開いた。
「お前……バンドに新しいメンバーが入って来た時、どう思った?」
「新しいメンバー、か」
立希が自然と思い出すのは、
「もしかして、新しいバンドメンバーとなんかあったの?」
「別に何もねぇよ。ねぇんだけど……」
否定しつつも言い淀む様子に、やはりと立希は息を吐く。認めたくは無いが、根っこの部分では黒崎と似通っている。だから、自分が経験したような悩みがあれば、直ぐに分かってしまう。
そして、敢えて続きの言葉を待っていると、黒崎は重い口を開き、まるで独り言のように呟いた。
「……不安なんだよ」
「不安って、楽器の実力とか?」
「いや、アイツらの実力は悪くねぇ。寧ろスゲェと思ってる」
あんまり言いたくないかのように口をモゴモゴとさせる黒崎。そんなしどろもどろな態度に少し怒りが沸き上がる。それを察知したのか、やや早口になって捲し立て始めた。
「菊池は見た目のまんまチャラいが、ギターの腕と熱量は本物だ。八神も、リードギターとしては完璧に近い。朝日奈に関しちゃ、リズムの基礎からシッカリ出来てる……まぁ、楽器の腕だけに言えば、これ以上ねぇくらいに信用してるよ」
「だったら、何が不満だっていうの」
「……アイツらが、練馬の夢に付いていけるかって事だよ」
夢、その言葉が出た時に、立希はいつの日かの水族館で聞いた話を思い出した。
「アイツは一度、自分の夢に周りが付いて来れなかった──そのせいで腐ったような毎日を送っていたって聞いてる。だからもし、また同じような事になったら、練馬はもう立ち上がれないかも知れねぇ」
練馬と──そして、黒崎の夢は、『一生音楽で生きて行く事』。まるで子供のように曖昧な夢を、二人が本気で目指しているのを知っている。だが、その夢に周りが付いていけるのかはまた別だと言う事も、立希は思い知っている。
「少なくとも、練馬はアイツらとなら本気で出来るって信じてる。だけど、俺はそう簡単に信じられねぇよ……特に、何か隠してる奴らにはな」
「……」
似ている、本当に似ていてしょうがない。まるで昔の自分を見ているかのようで、頭が痛くなる。
立希だって、そうだ。燈の為だと言いながら、自分以外に他のメンバーを信じられなくて──その末に、Mygo!!!!! から離れてしまった時期もあった。
だからと言って、何かアドバイスを出来るという事は無い。結局、立希は自分では乗り越えてなんかいない。あの時に、燈が自分の手を引いてくれなければ、今此処には立ててなどいなかった。
「いや、すまねぇな。こんな話をしてよ……コイツは、俺達の問題だ。だからそっちに話す事じゃないってのは、自分でも分かってる」
何も言えず押し黙る立希に、気を悪くさせてしまったと思ったのか、露骨に黒崎が平謝りをする。
確かに、それは間違いではない。今もこうして何も言えない自分に歯噛みをしている。誰かに助けてもらった分際で、上から何かを言える資格など無いのは分かっている。
──それでも、放ってはおけない自分が、心底恨めしい。
「……コレ」
「ん?」
「私の連絡先」
差し出したスマホの画面には、招待用のQRコードが表示されている。黒崎がそれを見開いた眼でマジマジと観察すると。
「……どういうつもりだよ? 俺に気でもあんのか」
「ハッ? 勘違いすんな」
どんな思考回路をしていやがるのか……いや、いきなり異性に連絡先を教えた時点で、自分にも非があると、立希は言葉を飲み込んだ。
「別にアンタに気がある訳じゃないし……ただ、放っておけないだけ」
「放っておけないって……だから、これは」
「うるさい! サッサと交換しろ!」
何故か恥ずかしくなってきて、半ば強引に連絡先を交換させる。そして連絡先に『黒崎』の名前が追加されている事を確認すると、ドッと肩に疲れが伸し掛かった。
「……ハァ」
「なぁ、椎名」
「……何、くだらない事だったら許さないけど」
「ありがとな」
──普段は真正面から礼を言わない癖に、こういう時だけは素直に礼を言ってくる。そういう所がまた、腹立たしくてしょうがない。
「べ、別にアンタの為じゃないし! 私がスッキリする為だから!」
「はいはい、そう言う事にしてやるよ。世話焼きでお優しいリッキー様」
「リッキー言うなし!」
調子を取り戻したのか、また何時ものように揶揄い始める黒崎。塩らしさが無くなって普段通りの態度になったのは良いが、コレはコレで腹が立つ。
「つか、腹減ったな。飯買いに行くけど、折角だから何か奢ってやるよ」
「いや、別にアタシは……」
「……お前、今ハッ〇ーセットのパンダ見てたけど、欲しいのか?」
「ほ、欲しくないし!」
「マジかぁ……俺、この歳になってハッ〇ーセット頼まなきゃいけねぇのかよ」
「だから要らないって言ってるでしょ!」
頬を膨らませる立希を他所に、そそくさとカウンターへ注文しに行ってしまう。そんな黒崎を席で見送りながら、ふと自分の口元が緩んでいる事に気が付いた。
「全く……」
──―アンタが元気ないと、コッチの調子が狂うっていうの。その言葉を胸の内に飲み込んで、立希はポテトをもう一口摘まみ上げた。
「待たせたな……ほらよ」
「何コレ……ってパンダ!? アンタ、本当に注文したの?」
「このハッ〇―セットを見て、マジで言ってんのか?」
「……ありがとう」
「そりゃどうも」
最近22時投稿になってないですか?
という訳で、明日からはちゃんと21時投稿を目指したいと思います。