BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
「そろそろかな……」
駅前広場の大時計を見ると、短針はもう直ぐ12時を回ろうとしていた。八神はスマホで昨日の会話を確認し、待ち合わせの時刻を確認すると、そろそろ来る頃だとタカを括る。
そうして少しの間、広場のベンチで待っていると、向こう側にある原宿駅の出口階段の方から、勢いよく駆け上がるピンク髪の少女が目についた。
「愛音ちゃん、おはよう」
「ご、ごめんなさい! 寝坊しちゃって!」
「ううん。僕も今来た所だから大丈夫だよ」
自分から出向いて迎えると、開口一番にその少女から頭を下げられる。だが別に大して待ってもないので、八神は軽く作り笑顔で流す。
少女の名前は千早 愛音。この前、同じバンドメンバーの練馬との伝手で知り合った、ややミーハーで好奇心旺盛な女の子だ。
そんな少女と知り合ったばかりの少女と、どうして休日デートなんてしているかと言えば、八神の方からナンパしたからだ。
何でも、インフルエンサーである自分のファンだと言うので、試しに誘ってみたのだが、こんな簡単に釣れるとは思いもしなかったが、そのお陰でこうして可愛い女の子とデートが出来ると言うのなら、利用しない手は無いだろう。
「それよりもさ、早くお店に行かない? お腹空いてるでしょ?」
「嘘っ!? 何で分かるんですか?」
「そんな顔してたから、かな」
「も、もしかしてエスパーだったりします!?」と、あんぐり口を開いて愛音は驚いているが、そんな訳が無い。ただ、寝坊した事と急いで走って来た様子から、朝ごはんを食べてないんだろうなと推測したに過ぎない。
そんな簡単な事でも、女の子からすれば「自分の事を分かってくれている!」と勝手に勘違いしてくれる。だったら、やらないだけ損だと言う物だろう。
「先にお昼ごはんにしようか、行先は僕が決めても良いよね?」
「はい! あ、でも出来ればSNS映えがする所が良いです!」
「オッケー、僕に任せてよ」
愛音が気に入りそうな店は予めピックアップしている。八神はスマホのマップアプリを開くと、幾つかピン止めをした候補の中から、良さそうな場所を見作ろう。
「それじゃあ、行こうか愛音ちゃん」
「わぁ~! 甘くて美味しぃ~!!」
愛音は手にしたクレープの先端に付いたクリームを気にせず頬張る。その幸せそうな表情に、八神はつい笑みがこぼれた。
「ふふっ、でしょ? 此処のクレープって、結構穴場なんだけど美味しいんだよね」
「はい! しかも凄く隠れ家? みたいな感じで良い感じに映えそぉ~!」
竹下通りから一本脇に逸れた人気が少ない路地裏、そこにヒッソリと建っている少しレトロな外観のクレープ屋──―そして、店内は純喫茶風の落ち着いたインテリアで、原宿の派手さとは対照的な居心地の良さがある。
確かに愛音の言う通り、此処の事をSNSで上げれば、大層映えはするだろう。SNSで知り合った女性フォロワーからの紹介され他の店だが、どうやら当たりのようだったらしい。
「やっぱりインフルエンサーって、こういうお店いっぱい知ってるんですか?」
「まぁね、SNSで情報集めたり、フォロワーさんに紹介してもらったり、色々あったりするかな」
「へぇ~、凄いですね! やっぱり憧れちゃうな~」
キラキラとした羨望の眼差しを愛音から向けられる。だが、表面上は柔和な笑みを作っても、八神としては特に何も感じない。
インフルエンサーをやっていると、賞賛には慣れてくる。投稿をする度に送られる無数のリプライや良いねの山を見ていると、一つ当たりの重みが酷く軽く感じてしまうのだ。
だからと言って、嫌いな訳じゃない。寧ろ都合が良いとさえ思ってもいる。
そういう意味では、目の前にいるミーハーなファンを八神は手放したくない。これまで出会った女の子達の中でも、一際個性的なこの少女なら、きっと踏み込んでくれないと淡い期待を持ってしまう。
「私もSNSやってるんですけど、あんまりフォロワー付かなくて……」
「ん~、そうだね。投稿内容は悪くは無いと思うんだけどね……今度ライブしてる映像とか出してみるのはどうかな?」
「あっ! それ良いかも! MyGO!!!!! の宣伝にもなるし、今度円香さんに頼んで撮ってもらおうかな!」
「それは楽しみだね。その時は僕もリプライさせてもらうよ。良いかな?」
「ありがとうございます! あっ、そう言えば」
そうして、愛音との辺り触りの無い会話で暫しのランチタイムを楽しんでいると──ふと終わりの時間がやって来た。
「どうして八神さんはインフルエンサーになったんですか?」
──―やっぱり、聞いて来るんだね。若干の失望を笑顔の仮面裏に隠し、八神はいつも通りのフレーズを頭に思い浮かべる。
「最初は趣味で投稿してたんだけどね。いつの間にかインフルエンサーって呼ばれるようになっちゃって、そのまま流れで活動してた感じかな」
「凄―い!
「そういう愛音ちゃんは、どうしてバンドをやってるの?」
「えっ!? 私ですか?」
話題を逸らそうとして、八神が逆に質問し返すと、途端に愛音が気恥ずかしそうに声を上げた。
「実は……そんなに良い話じゃないんですけど……最初はただ周りから『すごーい!』とか、チヤホヤされたくて、バンド始めただけだったんです」
歯切れの悪い口調から出て来たのは、何処にでもあるような薄っぺらい理由。だが、愛音は一度言葉を切ると、手にしていたクレープを少し下げて、真剣な表情で八神を見つめた。
「でも、実際は全然上手くいかなくて、他のメンバーとも気まずくなったりして……正直、辞めちゃった時期もありました」
──―どうしてそんな眼が出来る。目を逸らしたくても離れる事が出来ない、真っ直ぐな瞳をしている。
「でも……今は違います。今はMyGO!!!!! の為に頑張りたいと思ってるんです。こんな見栄っ張りな私でも良いって、私じゃなきゃ嫌だって言ってくれるともりんやリッキー、そよりんにらーなちゃんが居る」
きっと愛音は気が付いていないだろう。微笑みながら語るその瞳には、裏表もない剥き出しの透明さ、そして本当に大事な物を見つけられたとばかりに輝く瞳をしている事を。
あぁ──ーどうやら、今まで多くの人間と接して来たとしても、勘という物は外れる時もあるらしい。八神は今更ながらに後悔してしまう。
この少女となら、きっと上手くやっているなんて大外れだ。愛音の瞳から溢れ出る本音の輝きは。
「この居場所を守りたいんです」
八神には、余りにも眩しすぎる。
「──―眩しいね」
「あれ、今何か言いました?」
「いや、何も言ってないよ」
八神は席を立つと、まるで今しがた連絡がきたようにスマホを取り出し、画面を見た瞬間に驚いたような顔をする。
「あっ、ごめんね。ちょっと大事な用事が入っちゃった。本当に申し訳ないんだけど、今日は此処まででも良いかな?」
「えぇ! そうなんですかぁ!? 残念だなぁ……で、でも! また誘ってくださいね!」
八神からの突然の申し出に、愛音は一瞬残念そうな表情をするが、また直ぐ元の明るい表情へと早変わる。
その無邪気な返事に、八神は何も感じていない癖に、心を痛めた様に眉を潜ませる。
「……うん、またね」
「はい! また宜しくお願いします!」
そうして急ぐように踵を返した時、八神は自分の顔から仮面が剥がれる音がした。
今の自分の顔は、一体どんな顔をしているのだろうか──もしかすると、とても醜いのではないのだろうか。だが、それも仕方がない。
あの透明な瞳は、それ程までに毒だから。
すみません……約束、守れなかったです。
昨日のマイムジライブが最高過ぎて、体力使い果たしたので、一日中寝てたらこの時間になっていました。
それと、マイムジライブ。最高でした。