BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load   作:ビンカーフランス

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第十六話:リハーサル

 合同ストリートライブの最初のリハは、出演決定からちょうど一週間後だった。

 

「まだ俺達のバンド呼ばれねぇかなぁ」

 

 練馬は屋外ホール前に並べられた即席ベンチに座りながら、ステージ上でリハーサルをしている別バンドをボンヤリと眺めていた。

 

「ゲッ! もう三十分も待ってんスか!? 長すぎッスよぉ」

「……ふぁぁ~、しょうがないんじゃねぇの~? なんせこの人数だしさぁ~」

 

 隣に座ってスマホを弄っていた菊池が時刻を確認すると、気だるそうに溜息を零す。その横で半ば居眠りをしていた朝日奈が、しょうがないとばかりに吐き捨てて周囲を見渡す。

 

 屋外ホール前は補助椅子が隙間なく並び、別グループの若者、立ち見の野次馬、スタッフの呼び声が渾然一体となっていた。本番の熱気が既にステージ外まで漏れている。

 

「気長に待つしかないよ。それに後二グループで僕達の番が回ってくるからさ」

「おっ、本当だ。もう直ぐ俺らの番じゃねぇか!」

 

 菊池とは逆隣りに座っている八神が、事前に配られていたリハーサルのセットリストを眺める。練馬が覗き込んで確認すると、予定時刻では確かに後十分で始まる予定になっている。

 

 後十分で、あそこのステージの上に──そう思うと、夏の影が残る残暑も相まってなのか、自然と喉が干上がって行くのを練馬は感じた。

 

「ワリィ! 本番前にちょっと飲み物買って来る!」

 

 緊張で胸がざわつき、練馬はベンチの背をまたいで立ち上がると、通路側へと向かう。

 

 自販機は此処へ来る途中にあったのを覚えている。そこまで距離も無かったし、今から行けばリハーサルまでには

 

「なぁ」

 

 通路を歩く途中、黒崎の背中を通り過ぎざまに声を掛けられた。

 

「お前は、本当にやれると思うか?」

 

 黒崎は顔を上げず、スティックで膝を軽く叩いた。こもった音が細く震え、問いだけが練馬の背に残った。

 

 緊張しているんだろうか──いつも冷静ぶっている黒崎も、こんな大舞台を前にしていれば当たり前だ。練馬は励まそうと肩を叩いてみせた。

 

「やれるに決まってんだろ。俺らならよ!」

「……そうか」

 

 その後はもう喋る事は無かった。ただ押し黙って、止めていたスティックをもう一度叩き始める。

 

 これで少しは緊張がほぐれたに違いない。僅かながらの満足感を胸に抱き、練馬は乾いた喉を潤す為に、メンバーが座る席をそそくさと離れた。


「プハァ! 喉に染みるなぁ!!」

 

 買ったばかりのスポーツドリンクを、練馬は自販機の前で豪快に飲み干す。残暑と喉の渇きに爽やかな塩味が染み渡る。思わず声が出てしまうも、ステージの音に掻き消されて誰も気にしたりなどしない。

 

「あっ……ね、練馬、君?」

「はえっ!? 今の声は!?」

 

 と思っていたのに、背後から掛けられた良く見知った声に、練馬はハッとして振り向いた。

 

「燈ちゃん!? ど、ど、どうして此処に居んの!?」

「ご、合同ライブのリハーサルで……もしかして、練馬君も?」

「ま、まぁ……」

 

 本当は合同ライブに浮かれすぎて知らなかったが、練馬は知ったかぶりで誤魔化そうとして、いつもより高く声がうわずる。

 

「前に言ってただろ? デカい所でライブしたいって。だから今回出ようと思ってよ」

「そうなんだ……凄いね。こんな大きい所でなんて」

「燈ちゃんの所もだろ? つか燈ちゃん達と同じライブに出られるなんてスゲェ嬉しいんだけど!!」

 

 屋外ホールのデカいステージ上で2人揃って歌っている所を想像すると、練馬は鼻息が荒くなってしまう。実際はセトリが決まっているので、一緒になる事は無いが、心持ちとしてはそのぐらい興奮していた。

 

「そうだ! 俺らのバンドのリハ、もうすぐ始まっから見ててくれよ! 絶対に良いバンドになるからさ!!」

「う、うん……」

 

 燈が一歩引いたように少しだけ頷く。もしかしてガッツき過ぎたのか!? と練馬は後悔が頭に過る。

 

 しかし、燈の気持ちは違っていたらしい。

 

「練馬君……大丈夫?」

「大丈夫……って、何が?」

 

 声色から心配されていると言う事は分かった。だが、何故心配されているのか、練馬にはその理由が分からない。

 

 だって、一度は挫折したけど、もう一度バンドだって組むことが出来て、メンバーだって同じ、同じ……同じ夢を──

 

『待ち番号10番ー! 待ち番号10番のバンド様ー! もうすぐリハ始まるんでステージ上にお願いしまーす!!」

 

 そこまで考え始めた時、会場側から自分達バンドの待ち番号を叫ぶスタッフの声が聞こえた。

「やべっ! ごめん燈ちゃん! もうすぐ俺らの番だから!!」

「あっ……うん」

 

 サッサと飲み干したペットボトルをゴミ箱に放り込み、会場に向かって走り出す。途中、燈が名残惜しそうに手を伸ばし賭けていたが、練馬が背を向けると同時に引っ込んでしまう。

 

 そうして練馬は会場に向かって走り出す。それがまるで何かから逃げているように感じるのは気のせいだろうか。


 急いで屋外ホールのステージへと戻ると、既に練馬以外の他メンバーは準備が済んでいた。

 

 開口一番に文句を言ってきたのは、生意気にもギターを暇そうに試し弾きしていた菊池だった。

 

「遅いッスよ練馬先輩! もうみんな準備出来てるッスよぉ!!」

「わりぃ! さっきそこで燈ちゃん達と会ってさ!! MyGO!!!!! も参加するらしいぜ!!」

「MyGO!!!!! ……愛音ちゃんが、ねぇ……」

 

 八神が何処か気がかりな事でもあるのか、ボロンと鳴らすギターの音に紛れて独り言が聞こえてくる。

 

「なんか千早ちゃんとあった感じ? 人気インフルエンサーさぁん?」

「別に何もないよ? 寧ろそっちが何かあった感じじゃないのかな」

 

 朝日奈が茶化そうとするも、何時もの完璧な笑顔にはぐらされる。逆に八神の方からカウンターが飛んできた。

 

「こっちは何もない感じぃ。菊池はぁ」

「……俺も別に、何もないッスよ」

 

 朝日奈はどうだか分からないが、菊池の方は何かあったらしい。リハが終わった後にでも聞いてみるかと思いつつ、練馬はマイクスタンドよりドラムの前に座る黒崎の前に向かう。

「黒崎もワリィな! 遅れちまって!!」

「……次からは気をつけろよ」

 

 いつもなら、もう二、三言は皮肉が飛んできそうなのに、今日はヤケに歯切れが悪い。不可思議に思いつつも、一応は赦されたわけだし、練馬はようやくマイクスタンドの前に立つ。

 

 そこから見える景色は、一段高い自分達を見上げる無数の観客。その突き刺さるような視線を浴びて尚、練馬は微笑んだ。

 

 練馬はこんな舞台を望んでいた。未だ夢にまで見た景色には程遠くても、大勢の観客の前で自分達の音楽を、腹の底から響かせる事を願っていた。

 

 だからこそ、夢の第一歩を踏み出した今を思って、練馬は全力の声を張り上げる。

 

「それじゃあ、行きまぁぁす!!」

 

 そして、練馬の宣言を合図にして、仲間達の演奏が響く。

 

 

 

 

 その瞬間、練馬は喉から声が出なかった。

 

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