BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
時は少し遡り、練馬達のバンドのリハが終わった直後の事だ。燈の胸の中には、ずっと見知らぬ棘が刺さっていた。
最初は気が付かなかった。いつかの喫茶店で図鑑を読み合いながら、練馬が夢を語ってくれた時には、全く痛みなんか無かった。
だが、再び出会った時──―リハの直前に出会った時、その棘は胸の奥で何かが痺れるように疼いていた。『このままじゃ駄目だ』と、声にならない警告が繰り返される。
もしかすると、どこかで自惚れていたのかもしれない。燈の信じる練馬は自分なんかよりもずっと強くて、どんな事だって乗り越えられる凄い人だって思い込んでいたやも知れない。
そうして見てみぬフリで誤魔化して起こってしまったのが、あの無言のリハだった。
音が互いにぶつかり合い、言葉を押し潰す。練馬の口は動くのに、声は出ない。その顔を見た瞬間、燈は胸の棘が刺さる理由を理解した。
燈が信じていた練馬は決して強くなんかない。ただ強いように見せかけていただけだ。それなのに、どうして信じるなんて安易な選択をしてしまったのだろうと、後悔が今更ながらに過ってしまう。
それから、燈は練馬の事を探し始めた。急に降り始めた豪雨の中を傘一つで歩き回り、リハが終わった後でも、きっとこの広い公園の何処かに居ると、一人歩き回っていた。
「──―なぁ、燈ちゃん」
練馬は屋根付きのベンチに座っていた。その視線が息を切らした燈にゆっくりと傾けられる。
練馬は何も反応しない。何時もなら舞い上がりそうなほど嬉しそうな表情で笑ってくれるが、今は目元から涙一筋を零した。
「俺、間違ってたのかな」
遅かった──ーそれを自覚した時、燈は持っていた傘すらも落として、土砂降りの雨の中で膝を付いてしまった。
燈が好きだった彼は、もうそこにいなかった。助けを乞うはずの声が砕けた練馬は、ぼんやりと消えてしまっていた。
『Ring』のカフェスペースでは、不安げな顔をした四人の少女達が、一人の少女を待っていた。
「燈ちゃん……遅いね」
その内の一人、愛音が、ガラス壁越しに降りしきる雨を見つめて呟く。視線の先には、待ちわびている少女──―燈の姿は何処にも見えない。
「燈、戻って来れたらいいけど……」
「それは流石に過保護じゃない? 幾ら燈ちゃんでも帰って来れるでしょ」
心配そうに眉を顰める立希に、そよは顔を顰めた。しかし、同じく燈が帰って来ない事が落ち着かないのか、何度も視線を逸らしては、ガラス壁の外を見ている。
──―練馬達のリハ、というより事故が起きた後、突如振って来た豪雨に、全員で近くにあるRingへと避難しようという話が出た。しかし、燈だけはそれを断って、屋外ホールのある公園へと留まった。
立希や愛音が理由を聞いても、燈は教えてくれなかった。だが、まるで大きな間違いを犯してしまったかのように見開かれた瞳に、誰も止める事が出来なかった。
それで、燈以外の全員がRingで帰りを待っていた。何度も探しに行こうとはしたが、始めて見せたあの表情に、踏み入って良いのかと身体が止まり、誰も動こうとはしなかった。
ふと、各々が不安に刈られている中で、一人泰然と抹茶パフェを食べていた楽奈が、スプーンを持つ手を止めた。
「……来る」
その言葉と同時に、Ringの入り口の自動ドアが開く。そして、他のメンバー全員の視線が向く。
入り口からやって来たのは、顔を俯かせたまま、傘も差さずに濡れた燈だった。
「ともりん! 心配したんだよ! てかズブ濡れじゃん! 大丈夫!?」
「な、何か温かい物を持ってくる! あ、後! タオルも!!」
傘はどこかに落としてきたのか、ズブ濡れになっていた燈に、愛音は大慌てで駆け寄り、立希はバックヤードの方から、温かい飲み物とタオルを探しに行く。
そんな中でただ一人だけ──ーそよは冷静に詰め寄り、俯く燈の前に立った。
「……燈ちゃん。何があったの?」
燈は応えない。応えたくないのか、応えられない事情があるのか。どちらにしよ、押し黙るばかりだ。
「──―ごめん、なさい」
でも、まるでうわ言に、コレだけは返した。
「私、練馬君を、助けて、あげられなかった」
それはまるで、激しい後悔に溺れているような、どうしようもない罪を犯してしまったような、酷く重い言葉だった。