BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
翌日、放課後の旧音楽室はいつも以上に騒がしかった。
「やっぱさぁ! ギターは二人いた方が良いと思うんだよな! ほらツインギターって奴? そっちの方が格好良くねぇか?」
「そんでそんで! 初ライブは俺らのワンマンライブ! いや、
ノートの上に落書きのような文字で、まだ出来てもいないバンドの構想を次々と書き込む練馬。端の方に何度も描かれたサインの練習跡が、その浮かれっぷりが見て取れる。
そんな独り騒がしく練馬を、頬杖付きながら流し聞いていた黒崎は、喋りの合間を縫って冷静に尋ねた。
「……ツインでもワンマンでも良いけどな、その当てはあんのかよ」
「ゔっ!?」
「居ねぇんだな」
気まずそうな顔で喉を詰らせる練馬に、やっぱりかと黒崎は溜息を吐く。
そう、当てなど一切ない。
過去のトラウマもようやく癒えて、もう一度バンドを始めようと決意した練馬だが、バンドメンバーはボーカルの自分を含めて、ドラムの黒崎のみ。全く少数精鋭とも言えない状態で始めようと言うのだから、考え無しも良い所だろう。
そんな行き当たりばったりな練馬とは違い、黒崎は椅子から立ち上がると、ズボンのポケットから徐にスマホを取り出した。
「ちょっと待ってろ。一人心当たりがあるから、連絡してみる」
「マジで!? さっすが黒崎! こういう時こそ頼りになるぜ!!」
「お前が考え無しなだけだろう……あー、もしもし」
黒崎が未来のメンバー候補と通話したまま、旧音楽室の外へと出て行く。そして、そのまま迎えに行ったらしく、「分かった、そこで待ってろ」という声と共に、足音が遠ざかっていく。
「アイツが連れてくる奴ってどんな奴だろうなぁ。もしかしたら、超スゲェ奴だとか?」
待っている間、黒崎が連れて来る新メンバーに妄想を膨らませる練馬。
不愛想で口がメタクソ悪い黒崎だが、根は真面目なのを知っている。なので、連れてくる奴もきっとそんな感じの奴だろうか? そんな風に、頭の中で眼鏡を掛けた七三分けを思い描いた所で、今度は二人分の足跡が聞こえて来た。
「来たっ!!」
近づいて来る足音に胸を弾ませ、思わず椅子から飛び出して自分の方から、練馬は扉の前に立って出迎えようとしてしまう。
「さぁて、どんな奴だ……七三か? 眼鏡か? それともまさかのオールバックか!」
コレからやって来るであろう新メンバーを前に、練馬は自然と肩が強張ってしまう。何せ黒崎以外の初めてのバンドメンバーだ、緊張しない筈が無い。
──―そして、建付けの悪い木造扉が軋みを上げて開かれた時。
「ちわーっす先輩! 天才ギタリストの菊池 楓ッス! 面白そうなんで、やらせてもらいまーす!」
跳ね上がった金髪のアホ毛が目立つ、如何にもチャラそうな後輩が元気よく挨拶して来た。
「ワリィ、待たせたな。コイツが……」
「ちょい黒崎ぃ! コッチ来いって!?」
その瞬間、遅れて顔を出した黒崎を強引に引き込み、練馬が冷や汗ビッショリの顔を近づけた。
「大丈夫かアイツ! 中学生じゃねぇか!? しかもスッゲェ軽そうじゃねぇか!?」
都立 蒼華男子高校は中高一貫──―なので、高校一年生の練馬よりも下の中学生が来ること自体は問題ではない。だが、それよりも先ず、如何にも中身が詰まってなさそうなその頭の方が心配だった。
「安心しろ。見た目の通りに中身は馬鹿だが、腕は保証する」
「お前が!?」
驚きの余り、練馬の声が上ずる。
黒崎のドラムの腕は知っているが、その演奏技術はプロレベルと言っても過言じゃない。そんな黒崎を以てして“腕は保証する”と言わしめているとなれば、相当の実力者だという事だ。
「せんぱーい! 何こそこそ話してるんスか? あっ、もしかして俺の天才オーラにおじけづいちゃってる感じッスか! いやぁバレちゃうもんスよね! でもそんなビビらなくても良いッスよぉ!!」
「……黒崎、本当に腕は保証するんだよな? 本当だよな!?」
「気持ちは分かる……気持ちは分かるが、残念ながらマジだ……」
悔しそうに唇を噛み締めて言っている辺り、いよいよ黒崎の言葉に真実味を帯びて来る。練馬はもう一度確認しようと、得も言わぬ天才? オーラを放つ菊池におずおずと近づいた。
「な、なぁ。楓君? そのぉ、楽器は……」
「ギターッスよ! あっ、もしかして自分の腕を信じてない感じッスかぁ~?」
「い、いやぁ? ……まぁ、そうだけど……」
「だったら今弾いて見せますよ! 腰抜かさないでくださいッスよね!!」
「エッ!?」
そう意気揚々に菊池が宣言すると、練馬が止める間もなく、背負っていた楽器ケースからレモンイエローの光沢が眩しいギターを徐に取り出し始めた。
ギターのシールド口に携帯型アンプをはめ込み、そのままストラップを肩に掛ける。そして、首にぶら下がっていた赤いピックを引き抜くと、二、三度弦の音を確かめる。
「見ててくださいねぇ! やるッスよぉ!!」
そして、得意げな表情と共に、菊池のピックが一気に弦を掻き鳴らした。
次の瞬間、ド派手な爆音が旧音楽室と練馬の疑念を、激しく震わせた。
「ッ……!?」
心臓の鼓動が、ギターの音で掻き消されたかのようだった。それ程までの激しい音が練馬の胸をはたいた。
耳を震わせる爆音の後に始まるのは、まるで稲妻が弦を迸るかのような高速のリフ捌き。高音と低音が縦横無尽に入り乱れ、スライドする指先はまるで火花が散るように弾く。
それは粗削りなようにも聞こえてしまうかも知れない。だが、絶対的な自信に裏打ちされた激しい熱を帯びた音の奔流は、鼓膜を離して止まない。
「天才……かよ!!」
激しく入り乱れる音の中で、練馬は菊池の言っていた『天才』の意味を理解した。
それは正に、ギター一本で誰もの注目を集める“天才”的なスター性。それが今も尚掻き鳴らす音楽の旋律に宿っている。
そして確信せざるを得ない。紛れもなく、菊池と言うギタリストが、『天才』という部類である事を。
「よっと!!」
──―数十秒に渡る菊池のギターソロが終わり、最後は満足気に音をビタリと止める。
「……スゲェ」
まだ音の余韻が空気を震わせる中、練馬の口から勝手に言葉が零れ落ちる。
埃っぽく静かな旧音楽室を、まるでライブステージへと一変させる圧倒的な演奏と熱量。それを目の当たりにして、黙っている事など出来なかった。
その時、隣に居た黒崎が思い出すかのような口ぶりで喋り始める。
「お前は知らねぇだろうけどよ。アイツ、軽音じゃあ有名だったんだぜ」
「軽音で!? あんな奴聞いた事ねぇんだけど!?」
「そりゃお前が辞めた後の話だからな」
練馬と黒崎は、かつて同じ軽音楽部に所属していたが、それぞれが退部した時期にはズレがある。その間に噂になっていれば、知らないのも当たり前だ。
「何でも中三で、インディーズバンドを幾つも掛け持ちしてる天才ギタリストが入って来たって噂になってたんでな。そん時だ、コイツと知り合ったのは」
中学生ながらにインディーズバンドを掛け持ちしているなんて、そりゃ有名にもなるだろ、と突っ込む気すらも起きない。練馬は親友が連れて来た天才を前にして、ただ茫然と口を開くばかりだった。
「や、ヤベェ奴を誘って来たな、黒崎……」
「だろ? でも、俺達のバンドには、これぐらいトンデモナイ奴が居た方が良いだろ?」
トンデモナイ、なんてモンじゃない。最初にやって来たのが、まさかの天才ギタリストだ。まだ始まったばかりのバンドには、荷が重すぎる人材が入って来たのだから。
「で! どうッスか? やっぱ俺天才でしょ! これで入れてくれるッスよね!!」
そんな事も露知らず、何処までも軽い超大型ルーキーは軽薄な笑顔で笑ってみせた。