BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load   作:ビンカーフランス

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第十九話:回春/逡巡

 曇り空は、しばらく続くらしい。天気予報どおりの色をした放課後の空を、旧音楽室の窓から、練馬は見上げていた。

 

「──―誰も、来ないよな」

 

 旧音楽室には、練馬以外、誰もいない。いつもなら、放課後になれば、此処にもう四人がいるはずだった。

 

『八神せんぱーい! 見てくださいッスよ! 今のリフ、超カッコ良くなかったッスか!』

『うーん、ちょっと動きが激しすぎてブレちゃうかもね。もう少し抑えめの方がいいかな』

『若いっていいねぇ~。あんなに動き回ってさぁ。俺なんか疲れすぎて眠いくらいなんだけどなぁ』

『お前のは、ただダルいだけだろ。さっさともう一回合わせんぞ』

 

 振り向けば、五人でいた頃の幻想が、確かにそこにあった。だが、瞬きをすると、それは旧音楽室に舞い上がる埃と一緒に、静かに消えていく。

 

「どうすれば、良かったんだろうな」

 

 いつものように放り出されている古い机の上に寝転がり、練馬は日焼けした木造の天井を、じっと見つめる。

 

 一体、どこで間違えたのだろうか。それとも、最初から間違っていたのだろうか。

 

 もし、あの景色を見ていなければ、こんな風にはならなかったのだろうか。

 

 息をするのも忘れるほど眩しくて、目がくらむような、あれは確かに──最高の光だった。

 

 けれど、その光はあまりにも強すぎて、その足元に広がる影に、目を向けることができなかった。

 

 親友である黒崎が抱えていた不安。

 バンドメンバーである三人が抱えていた本当の気持ち。

 

 そんな当たり前の事にも目もくれず、誰もいない道を、自分ひとりで走っていたことに、気づこうともしなかったのは、間違いなく自分のせいに違いない。

 

 もし、あのとき誰か一人の心に踏み込めていたなら。

 もし、本気でぶつかり合えていたなら。

 

 きっと、こんな結末にはならなかったのだろうか。

 

「……でも」

 

 ──―時間は戻らない。

 

 窓の向こうの曇り空は微動だにせず、旧音楽室では、舞い上がる埃だけが現実のように光っている。

 

「……」

 

 静寂が、どうしようもなく耐えがたくなって、練馬はイヤホンを耳に差し込み、スマホのプレイリストを開く。

 

 選んだのは、何度も繰り返し聴いた曲──―MyGO!!!!! の曲だ。

 

 練馬が初めてライブステージで聴いて、もう一度前を向くきっかけになった音楽。今まで何度もこの曲に救われてきた。

 

 この曲を聴く度に燈ちゃんの歌声と、まっすぐな音楽を思い出す度に、心の奥に溜まった暗闇が吹き飛んで、世界が少しずつ晴れていくような気がしていた。

 

 だが、今はそう感じられない。

 

 耳の奥で薄く引きのばされた雑音が、鼓動の隙間を波打つように流れているだけだった。


 後悔、でもしているのだろうか──ーリズミカルに叩いていたドラムの音が、昨日の事を思い出すと、途端に崩れてしまう。

 

「クソッ……!!」

 

 何回やっても合わないリズムに、黒崎はスティックを投げ捨てる。だが直ぐ冷静になると、地面に転がったそれを拾い上げる。

 

「……何やってんだ、俺は……」

 

 誰も居ない練習スタジオの中、スティックを拾い上げたまま、孤独に座り込む。

 

「アイツは、裏切ったんだぞ……俺の……俺達の夢を」

 

 眼を閉じて思い出すのは、一人でプロになる夢を追い掛けていた、孤独で無味な日々──そこに突然現れた、自分と同じ夢を語る馬鹿。

 

 プロになって、一生音楽やり続けようぜと、自分を誘う手を取った日から、黒崎の退屈な日常は慌ただしい物となった。

 

 何かしら夢に向かっては思い付きで動く練馬に振り回されては、尻ぬぐいの為に駆けずり回る日々。それがいつの間にか煩わしくも楽しくて、いつしか二人の夢は重なっていた。

 

 ──―だが、黒崎は練馬のように夢だけを真っ直ぐ見る程、馬鹿にはなれない。

 

 あの三人とじゃプロになれないと、リハで歌えなかった練馬と、その原因となったバンドの不協和音に、ハッキリと確信した。きっと少なからず、練馬も同じような感情を抱いていた筈だ。

 

 それなのに──ーそれなのに。練馬は菊池達を選んだ。

 

 自分達で掲げた、果てしなく遠くて、先なんて見えないような場所にある夢を見捨てて、安易な今に縋りついていった。

 

 だから黒崎の選択は間違っていない。例え菊池や、八神、朝日奈──―そして、練馬を切り捨てたとしても、また昔のように一人で夢を追いかけ続ければいい。

 

 しかし、どうしてだろう。

 

 どうしてこんなに胸が痛むのだろうか。

 

「誰か、教えてくれよ」

 

 そう呟いた所で、誰かが教えて呉れる訳でも無い。そう分かっていたとしても、黒崎は言葉を零さずにはいられなかった。

 

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