BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load   作:ビンカーフランス

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第二十話:回顧

『オススメのお店を発見、また今度行ってみようかな?』とSNSにツイートしたあと、八神は倒れるように自室のベッドに寝転んだ。

 

「……退屈だなぁ」

 

 嫌なわけではない。スイーツや美容系は好きだし、SNSで大勢に反応されるのは嬉しい。それでも、籠に閉じ込められた鳥のような息苦しさが消えない。

 

 いつからこう感じるようになったのかは分からない。ただ、きっかけだけははっきり覚えている。目を閉じれば、あの瞬間が瞼の裏に浮かぶ。

 

 初めてSNSに投稿した日──大勢の前で初めてギターを握ったときのことだ。

 

 昔からギターは好きだった。祖父が若いころミュージシャンとして活動していたらしく、よくギターの弾き方や、レコードにしかない古い曲を教えてもらった。

 

 正直、満足に弾けず諦めかけたこともある。しかし、少しずつ上手くなるたびに祖父がにっこり笑うのを見て、また頑張ろうという気持ちが湧いた。その甲斐あって、中学生になるころには、だいたいの曲が弾けるようになっていた。

 

 そんな折、祖父の昔のバンド仲間に「一度、SNSってやつに投稿してみたらどうだ?」と勧められた。

 

 最初は断ろうとしたが、祖父に「ええんじゃねぇかのぉ。人前で弾くってどれだけ気持ちええか、味わってみればいい」と背中を押され、やるしかなくなった。

 

 それで新しいアカウント『YAGAMI』を作り、祖父に最初に教わった古い洋曲をただ演奏するだけの動画を投稿した。

 

 こんな投稿が流行るとは思わなかった。誰も知らないアカウントで、誰も知らない洋曲を弾いているだけの動画を、誰が見るのかとさえ思っていた。

 

 だが予想に反して反応は上々だった。「雰囲気がすごく良い! 何回もリピートしちゃいました」「中学生でここまで弾けるなんてすごい」──見たことのない数のリプが届き、八神は戸惑いながらもうれしかった。

 

 それ以上に嬉しかったのは、「自分の音楽で誰かの心を震わせられた」という事実だった。無数のリプを眺めていると、心臓の巡りが速くなり、心が躍った。

 

 祖父はきっとそれを伝えたかったのだろう。独りで弾くだけでは味わえない境地。誰かの心を震わせる感動は、八神にとって最高の瞬間だった。

 

 その感動をもっと求めて、八神は音楽だけでなく好きなスイーツや流行の美容系の投稿も始め、フォロワーを順調に増やしていった。だが、それがまずかったのかもしれない。

 

 音楽系の投稿への反応は徐々に減る一方で、美容やスイーツの投稿の反応は大きく伸びた。SNS上では「カリスマインフルエンサー」と呼ばれるようにもなった。

 

 まるで、自分に似た虚像が崇められているようだった。求められているのは「カリスマYAGAMI」であって、本当の自分には誰も注目しない。

 

 それでもSNSはやめられなかった。増え続けるフォロワーや、あちこちから向けられる期待を裏切ることが怖かったからだ。

 

 そこで八神は虚像になることを決めた。みんなが求める「カリスマ」として振る舞い、理想の王子様を演じる。仮面のように、人当たりのいい笑顔を常に作るようになった。

 

 最初は違和感のあったその仮面も、慣れれば案外楽だった。演じていれば、会うファンも喜ぶし、有名人とも顔が利く。順風満帆に見える日々だ。

 

 だが、なぜか退屈だった。どれだけチヤホヤされ、みんなが羨むような人脈を得ても、心には波ひとつ立たない。

 

 みんなが望んだものを手に入れたはずなのに、仮面の内側はいつも空っぽのままだ

 

「あ……」

 

 寝転がったままスマホで先ほど投稿した反応を眺めると、無数のリプの中に一人の少女のアカウントが目に留まった。

 

「愛音ちゃん……かな?」

 

『ANON_TOKYO』という素顔のままのアカウント名が愛音らしく、すぐにピンときた。

 

 愛音とのデートの記憶が蘇り、八神の顔が歪む。

 

 彼女の瞳は、まるで仮面の裏側を覗こうとするように見えた。もし中身を知られたら、喉が締め付けられるように恐ろしい。

 

 見られてはいけない。中身を知られたら仮面は維持できない。だから八神は完璧さを追い求め、演じる自分をさらに固めた。

 

 演奏も同じだ。流暢なメロディもアドリブも必要ない。ただ周りが求める完璧に沿ってミスなく弾けばいい。そうすれば誰にも内側は見られない。

 

 ふと棚の上に置かれた古びたレコードプレーヤーが目に入った。埃をかぶり、久しく使われていないのが分かる。

 

 昔はいつも、あのプレーヤーで歌詞の分からない洋曲を一緒に聴いていた──だが、いつの間にか使われなくなり、埃をかぶった置物のようになっている。

 

「いつかは使おう」と思いながら、結局忘れたままにしてしまうのだろう。今日もまた、針を落とすことはないだろう。

 




毎日投稿って思ったよりもキツイッスね……
それでもめげない、しょげない、途絶えさせない気持ちで頑張ります!
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