BanG Dream! It's MyGO!!!!!×Re・Load 作:ビンカーフランス
帰り道の途中で、粗大ごみとして捨てられたギターを朝日奈は見かけた。
結構使い込んでいたらしい。所々塗装がハゲており、弦は手垢塗れで錆びついている。売りには出せないだろうから、こうして捨てられているのだろう。
こんなに使い込むまで努力したのに、なんてのは妄想だ。人はキッカケ一つで簡単に夢を捨ててしまう。
かつての朝日奈の仲間達がそうだったように。
「……」
昔の事なんて思い出したくもない。だけど、どうしてもあの光景がフラッシュバックしてしまう。
自分以外の仲間の楽器が、ボロボロに壊されて粗大ゴミとして捨てられていた時の光景を。
──―昔の事だ。朝日奈は一度だけ、本気でバンドを組んでいた時期がある。
あの時は輝いていた、なんて言葉は使いたくは無いが、きっとそうなのだろう。朝日奈を含めたメンバーの誰もが、プロになる夢を目指して、必死に音楽と向き合っていて、まるで青春の一ページのように煌めいていた。
その甲斐もあってか、朝日奈が組んでいたバンドは、中学生ながらに、インディーズとしてはそこそこ名の売れたバンドにまで成り上がり、プロからの注目を浴びているなんて言われていたくらいだ。
此処までくれば、きっとプロにだってなれる。メンバーの全員がそう信じており、朝日奈もまた、このメンバーとならプロにだって──ーいや、それ以上になれるとだって信じていた。
そして、転機が訪れた。ある時、ライブ終わりを待っていたかのように、芸能事務所のスカウトマンを名乗る男が、裏口で待ち構えていた。
何でも、所属する大物ミュージシャンが、朝日奈達のバンドに興味を持ったらしく、是非一度オーディションを受けてみないかと。今にして思えば、胡散臭い誘いだったが、中学生だった故に、遂にチャンスが舞い降りたと大はしゃぎしたのを覚えている。
そこからの流れは速かった。名刺を渡され、日取りや場所、課題曲までトントン拍子で決まり、遂に当日までやって来た。
指定されたオーディション部屋に入ると、そこに居たのは誰もが憧れるミュージシャンただ一人、まるで朝日奈達を見定めるかのように、机に肘を置いてジッと座っていた。
「それじゃあ、演奏してみてよ」
挨拶も無く、その一言のみが発せられる。それだけで部屋中の空気に棘が含まれたかのように、緊張感で肌が居たくなる実感を今でも覚えている。
だが、それでも朝日奈も、他のメンバー達も耐えきってみせた。憧れのミュージシャンの前で生演奏する緊迫の中で、自分達が出来る最大の音楽をぶつけて、やり切って見せた。
そして──―曲が終わると同時に、演奏の最中でも微動だにしていなかった憧れのミュージシャンが立ち上がる。
「どうやら、勘違いだったようだ」
冷たい言葉とは裏腹に、待ちわびていたかのような笑顔をした憧れのミュージシャンが歩み寄って来る。
「君達のバンドに僕は惹かれたんじゃない──ー朝日奈君、君のベースに惹かれたんだ」
──―そして、朝日奈の肩を叩いた。
「君なら、プロになれる。僕のバックバンドに入ってもらいたいくらいだよ」
感激よりも動揺が走る。その言葉は、光だった。だが同時に、棘でもあった。
憧れのミュージシャンが朝日奈の肩を叩いた瞬間、メンバーたちの顔色が変わったのを、朝日奈は確かに見てしまった。
最初は驚き、次に一瞬の狼狽──そして、吐き出すような冷たい視線。今まで一緒に笑い合ってきたはずの顔が、見た事も無い悍ましい顔になっていた。
「す、すみません! ちょ、ちょっと考えさせてください!!」
突然の勧誘に加え、メンバーからの視線。二つの出来事に頭の中がグチャグチャになって、その時の朝日奈は逃げ出すように部屋を飛び出した。
だが、メンバーの横を通り過ぎる様に、朝日奈は聞こえてしまった。
「なんで……朝日奈だけかよ」
「俺たちだって頑張ってきたのに……」
──―それからだ。それからバンドはおかしくなってしまった。
スカウト後の周囲の態度変化が少しずつ噂になり、朝日奈はプロにも認められた有名ベーシストとして、周りから注目を集める事となった。
だがそれに反して、日に日にバンドの練習回数が少なくなり、アレだけ夢を語り合っていた仲だったバンドメンバーも、次第に言葉を交わさなくなっていく。一度演奏すれば、音楽未満の雑音しか鳴り響かなくなった。
そんな中で、朝日奈は何度も藻掻いた。稀に全員が集まる練習後に残っては、彼らの前で何度も何度も宣言した。
自分は一人でプロになる気はない。あのミュージシャンからの誘いは断るつもりだ。プロになるなら全員でって言ったじゃないかと。
うんざりする程、何度だってメンバーに頭を下げ、もう一度やり直そうと懇願した。またあの時みたいにひたすら夢を追いかけていた瞬間に戻りたくて、見っともなくても出来る事は全部やった。
だが──ーそれでも足りなかった。
ある日、メンバーが突然来なくなった。今日は全員での練習日だと決めていたにも拘らず、誰一人としてだ。
その時、窓の外から見せる狼煙のような黒い煙に、朝日奈は嫌な予感がして、身体が凍り付いた。
「まさ、か……」
直ぐに音楽室を飛び出し、煙が上がる校舎裏へと走り出す。辿り着いた先にあったのは、練習に来る筈だった他のメンバーと。
焼却炉に無理やり放り込まれ、火と灰に包まれている楽器の残骸だった。焦げる匂いが空気を満たし、金属が弾ける音が耳に刺さる。
「なん、で……なんで、だよ」
「全部……お前のせいだ……!」
バンドのリーダーだった男が、火焔のパチパチと跳ねる音の中で言う。
「お前が居なければ……俺達はまだ夢を見れた! なのに! お前ひとりだけが認められて、俺達じゃ全く届かない場所に居る癖に! 一緒になんて言いやがって!!」
リーダーが灰と熱気の間から、震えた顔を俯かせる。お前のせいだという割には、目から後悔にも似た涙を流しながら叫ぶ。
「これ以上……俺達を惨めな思いにさせるなよ……!!」
誰も、その言葉に異論をはさむ事は無かった。リーダーも、他のバンドメンバーも、そして朝日奈自身でさえも。
それからは当然、バンドは解散した。その後、他のメンバーがどうなったのか、父親の都合で転校した為、朝日奈は未だに知らないし、知りたくもない。
──―という事で、こんなトラウマを抱えてしまった訳だが、そう悪い事ばかりじゃない。なにせ、大事な事を覚えたのだから。
「真面目に抱える意味なんて無いよねぇ……」
大層な夢や理想を目指しても、結局何処かで壊れてしまう。それならいっそ、何も抱えず、何も希望を持たずに生きていた方がマシだという事を。
だけど仮に、そんな物を大事に抱えている奴が居るとしたら。
きっと朝日奈はぶっ壊したくてしょうがないだろう。